星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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えー、作者です。すみません、ダクソ3とFGOの二次創作にふけっててめっちゃ開きました。お詫び申し上げます。

シュウジ「よーっす、シュウジだ。作者やっとファラン装備手に入れてカーサスまで進んだらしいな。俺は現在迷宮を下へまいりまーすしてるけど」

ハジメ「地味にネタバレしてんじゃねえ。というか骨にやられまくってんな作者。盾使えよ盾」

シュウジ「作者基本、防御力と体力そこそこあげてあとは回避で振り回してっからなー。あ、ちなみに俺は防御力紙です。暗殺者に防御力とかいらないしネ!」

ハジメ「の割に以外と真正面から殺るじゃんお前。で、前回は色々とやられてたな。つうか天之河、勇者のくせにほんと役に立たねえ」

エボルト「今更感」

シュウジ「言ってやるなよ、あいつだってあいつなりに頑張って………たけど別にどうでもいいや。つか負けてるから意味ねえし」

ユエ「ん、フォローする気ゼロ」

ウサギ「みんな、勇者嫌い?」

エボルト「というよりあいつが嫌いだな。現実見ねえし。ナルシストだし。キラキラオーラうざいし。ていうか押し付けがましいし。で、今回は後編だ。それじゃあせーの…」

五人「「「「「さてさてどうなる再会編!」」」」」


敗北 後編

「シッ!」

「ギニャッ……」

 

 触手を伸ばして攻撃きてきた黒猫を、袈裟斬りで斬り捨てる。

 

 その後に続く二匹目、三匹目も触手を冷静に目で捉えて躱し、まとめて胴体を二つに両断した。

 

 しかし、たかが三匹倒したところで到底魔物の群れは減らない。だがそれがどうした、全部切り捨てるまでのことだ。

 

「邪魔、よっ!」

 

 棍棒を振り上げたブルタールの首を飛ばし、それをサッカーボールのように全力で蹴ってキメラの顔面を吹っ飛ばす。

 

 動きの止まったキメラに接近して、刀を逆手に持ち変えると頭部を下から切断。そのまま刀を振り、背後から来た黒猫を潰す。

 

「ガァアアアァ!」

「はぁあっ!」

「グガッ!?」

 

 その場で旋回してブルタールモドキの腕を落とし、股間を蹴って動きを止め頭頂部から股下にかけて刀を振り下ろした。

 

「これで、十匹……!」

 

 まだ足りない。あの女の下まで、無限にも等しい距離がある。

 

 視界をせばめようとするドス黒い怒りを頬についた返り血とともに拭い、私はあの女を目指し前へ駆け出した。

 

 心の中には、抑えようがないほどの激怒が溢れている。明鏡止水の心得がなければ、今にも叫びをあげそうだ。

 

「フッ、ハッ……!」

 

 御堂さんは、本当に大切な友人だった。元はクラスメイトの一人だったけど、いつのまにか香織たちと同じくらい大事に思っていた。

 

 だから。御堂さんを無残に殺したあの女だけは……

 

「この手で制裁を与える……!」

「お前たち、あの女を止めな!」

 

 女の指示を受けた魔物が、一斉に飛びかかってくる。

 

 通常の斬撃では処理が間に合わないと判断し、後ろ腰のホルダーからアーティファクトを外して鞘に取り付けた。

 

 引き金(トリガー)と弾倉が合体したようなアーティファクトがピピ、と電子音を立てて固定されたところで、刀を納刀する。

 

「ふぅ……」

 

 刹那の瞬間、無我の境地へと至った。

 

 そうすると自分へ向けられる無数の殺意を感じ取り、引き金に指をかけ……

 

 

 バシュンッ!!!

 

 

「はぁっ!」

 

 トリガーを引くのと同時に、弾丸のごとき速度で鞘から弾き出された刀を握って斬撃波を飛ばした。

 

 音速を超え、通常の数倍の速度で飛翔した斬撃波は第一陣の魔物を見事に切り裂き、余波で第二陣の動きをも押しとどめる。

 

 すぐさま刀を鞘に戻して、空になった薬莢を排出。再びトリガーを引いて抜刀術で止まっている魔物たちを両断した。

 

 ものの数秒で、目の前に血の海が広がる。

 

「グ、グァ……」

「ガァ……」

 

 一歩踏み出せば同じになると分かっているのか、ブルタールモドキたちが立ち往生した。

 

「さあ、かかってきなさい。いくらでも相手してあげる」

 

 三度トリガーに指をかけて、私は魔物たちに挑発的に言った。

 

 それに乗ったか、あるいは後ろの魔人族の女が怖いか。魔物たちは再び目に殺意を灯して攻撃を始めた。

 

 この身を引き裂かんと迫る魔物たちの手や触手に、私はそれ以上の鋭い剣閃をもって命を断ち切る。

 

 

 

 一回目。九振りで三体の魔物を斬った。一撃が弱い。

 

 

 

 三回目。五振りで十体斬った。鈍い。

 

 

 

 五回目。三振りで十五体斬った。遅い。

 

 

「もっと強く、鋭く、速く……」

 

 一撃繰り出すごとに、自分の技を修正していく。完成したと思っていた剣技を昇華させ、研ぎ澄ましていく。

 

 一体一撃などでは到底足りない。そんな()()()()()()()()()()()やり方ではあの女まで到達することなど夢だ。

 

 眼に映るものはあまねく死を招くもの、ならばこそ私もまた人をやめ、いかなる敵をも一撃のもと無へと還す修羅へ。

 

「ハザードレベル4.1、4.2……まさか!?」

「はぁあああああああああああっ!!!」

 

 喉の奥から声を張り上げ、空になった弾倉を投げつけてキメラの視界を潰し、鞘の先端で目玉ごと頭蓋の中を貫く。

 

 そして技の研磨を始めた瞬間から燃え上がるように溢れ出る力に任せ、ブルタールモドキの群れに投げるとまとめて一撃で斬った。

 

 予備の弾倉を装填し、再度剣を鞘へ。残る敵は最初の半分程度、これならばあの女に到達できる!

 

「■■■■■■■■!!!」

 

 一種のトランス状態に入っていた私に冷や水を浴びせるように、あの巨人が咆哮した。

 

 すると、それまで押していた魔物たちの身体に刻印が浮かび、目が漆黒に染まる。嫌な予感が脳裏によぎった。

 

「グルォォォォオオ!!!」

「くっ……!?」

 

 ブルタールモドキの拳を、鞘でいなす。しかしそのパワーは先ほどの数倍に跳ね上がっており、受け損ねた。

 

 腕から嫌な痛みが発せられて、咄嗟にその場で1回転すると腕の下に潜り込む。刀を切り上げて腕を飛ばして……

 

 

 グンッ!

 

 

「硬……!?」

「ガァアアアァ!」

「づぁっ……!?」

 

 本能的に頭をそらすと、頬に鋭い痛みを覚えた。思わず顔をしかめて、〝無拍子〟で後退する。

 

「くっ……」

 

 頬を指でなぞれば、べったりと赤い血が付いていた。どうやらかなり深く切られたらしい。

 

 最後の回復薬を飲み、瓶を投げ捨てて立ち上がる。魔物たちは先ほどまでの様子はどこへやら、黒い瞳で私を睨みつけてきた。

 

 巨人を見れば、黒いオーラを放ちそれは魔物たちへ繋がっている。あれがパワーアップの原因か。

 

「さしずめ強化魔法ってとこね……面倒なことしてくれるじゃない」

「あんたこそ、凄いスピードだね。どうだい、その重い荷物を降ろしたらもっと速くなるんじゃないか?」

 

 巨人の肩に乗った魔人族の女は、余裕綽々の笑みでそう言った。

 

 荷物……言わずもがな、御堂さんの首のことだろう。たしかに私はスピードアタッカーだ、身軽であればあるほど都合が良い。

 

「冗談」

 

 けど、手放さない。絶対に持ち帰って、私が丁寧に埋葬する。

 

「そんなことより、いいのかしら?あなたの魔物随分と減ってるけど」

「別に後で補充できるし、何よりこいつがいる限りもう負けない。それに……」

 

 魔人族の女が、ちらりと横に視線をよこす。警戒しながらそちらを見れば、そこには別の魔物がいた。

 

 牛の頭に四本の腕、筋骨隆々の肉体。 明らかに他の魔物とは違うそいつの腕の中には……ぐったりとした光輝がいた。

 

「光輝!」

 

 それを見た瞬間、すっと高ぶっていた気持ちが収まり、ようやくいつもの私に戻る。

 

 しまった、私としたことが柄にもなく頭に血が上って、光輝のことをすっかり忘れていた。致命的な判断ミスだ。

 

 見たところ、〝限界突破〟の魔力が消えている。おそらく効果が切れたところを、あの魔物にやられたのだろう。

 

「すま、ない、雫……」

「大事な勇者様は預からせてもらったよ」

「くっ……!」

 

 まずい。この多数の魔物に囲まれている状況で、相手に人質を取られた。

 

 下手に動けば、光輝を殺される。それは人類側の敗北を意味するものだ。迂闊な動きをすることはできない。

 

「まったく、簡単に引っかかったもんさ。これを見せるだけで動きを止めたんだから。まあ、この一人しか捕まえられなかったけど」

 

 光輝を捕らえる魔物のさらに隣には、ブルタールモドキが見覚えのある兵士を持っていた。アランさんだ。

 

 ……察するに、女は先の戦いで光輝の直情的な性格を把握し、顔見知りを見せることで油断を誘ったのだろう。

 

 そこに技能の消失が重なり、いともたやすく捕まったわけだ。すべて、私が冷静でなかったせいで。

 

「光輝!雫!」

 

 どうすればいいのかわからずににらみ合いをしていると、背後から大勢の足音が聞こえてくる。

 

 ちらりと見れば、隠し部屋の中の魔物を倒し切った龍太郎たちが部屋に入ってきた。やる気満々な彼らを手で制した。

 

 なぜ、という顔をした龍太郎たちは前を見て……そして、囚われた光輝を見て驚愕と絶望に顔を染める。

 

「光輝!」

「そんな、嘘だろ……」

「天之河が、負けた……?」

 

 立ち尽くすもの、武器を取り落すもの。反応は様々だが、勇者である光輝が負けたことに戦意を喪失するクラスメイトたち。

 

「ようやく役者も集まってきたね」

「……!」

 

 魔人族の女の言葉に、私はこの状況が仕組まれたものだとようやく気がついた。あいつは、全員揃うのを待っていたのだ。

 

 誰もが動けない中、私は比較的無事な龍太郎に目配せすると一歩前に出る。気がついた女がこちらに目を向けた。

 

「……何が望みなの?わざわざ全員集まるまで待ったんだから、何かあるんでしょう?」

「ほお、強い上に頭も切れるときた。そう、その通りさ。まずはそこのあんた、ドライバーをこっちに手放しな。勇者君の命が惜しいならね」

 

 これ見よがしに光輝を魔物に掲げさせる女。龍太郎は眉を釣り上げ、怒気を発した。

 

 だが、ここで激昂しても良いことにはならない。それをわかっているのだろう、ドライバーとスクラッシュゼリーを投げ捨てる。

 

「よし。さて、本題だが……どうせだから、もう一度勧誘しとこうと思ってね。ほら、さっきは取りつく島もなかったろう?」

 

 たしかに、光輝が相談する暇もなく即座に拒否したので話すも何もなかった。

 

 だからこうして、自分が圧倒的優位に立つことで私たちが話を聞くしかない状況を作ったのね。

 

「……光輝はどうするつもり?」

「もちろん、こいつはここで処分する。引き入れることもできないだろうし、こんな全て自己完結で動くような危険人物は生かしておけない」

「俺たちはおとなしくしてるとでも?」

「無論、思わないね。だから首輪でもつけさせてもらうよ。まあ人形になられても困るから、あくまで反逆しないために最低限だけど」

 

 迎合するふりをして、あとで裏切るのも予想済み……か。これは困ったわね。

 

 皆の様子を確認すれば、光輝という最も重要な人質がとられているため半ば諦観した雰囲気でヒソヒソと話し合っている。

 

 耳をすませば、魔人族の提案に乗ろうという意見が大半だった。それをダメだとは言えない、生きるには賢明な判断だ。

 

「わ、私は提案に乗るべきだと思う!」

 

 最初に声をあげたのは、なんと恵里だった。

 

 隣にいた鈴が理解できない、という顔で恵里を見上げていた。それはクラスメイトたちも同じで、まじまじと彼女を見る。

 

「……理由を聞こうじゃねえか」

「ひっ!?」

「龍太郎、抑えて」

 

 ドスの効いた声を出した龍太郎を、一旦なだめる。怯えた恵里をひと睨みして、龍太郎はチッと舌打ちして目線を外した。

 

「恵里、どうしてそう思ったの?」

「わ、私は、ただ……みんなに死んで欲しくなくて……光輝君のことは、私には……どうしたらいいか……うぅ、ぐすっ……」

 

 ポロポロと涙を零しながらも一生懸命言葉を紡ぐ恵里。それにほかのものたちの顔に迷いが生まれる。

 

「俺も、中村と同意見だ。もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

 

 それを助長するように、さらに檜山くんが賛同の声をあげた。

 

「檜山、てめぇ……」

「なんだよ、それじゃあお前のあのとんでもない力で今すぐ天之河を助けられるってのか?失敗したら俺たち全員死ぬのに?」

「くっ……!」

 

 流石に一瞬で光輝を助け出す自信はないのだろう、龍太郎は悔しげに歯噛みする。

 

 檜山くんの発言で、更に誘いに乗るべきだという雰囲気になった。事実、提案を飲まなければ待つのは死だ。

 

 しかし、光輝を差し出すようにして自分たちは生き残って良いのか。人間として当然の思考が、一歩足踏みさせる。

 

 そうしている間にも私は高いの策を考えるが、どうにもうまく思いつかない。こんなとき、シューがいてくれれば……

 

「ふむ、勇者君のことだけが気がかりというなら……生かしてあげようか? 

 

 そんなときだ、絶妙なタイミングで魔人族の女から提案がなされたのは。

 

「もちろん、あんた達のよりはるかに強力な首輪を付けさせてもらうけどね。その代わり、全員魔人族側についてもらうけど」

 

 ……ああ、ようやくわかった。これが最初から、この女の狙いだったのか。

 

 殺すと言いつつ光輝を未だ生かし、従えば殺さないという餌を与え、食いつくのを迷う所にさらに特上の餌を出す。

 

 そうすることで思考をさらに狭めて、〝それならいいか〟と思わせるのだ。最初に光輝を奪われた時点で、詰みだったわけね。

 

 

 

「み、みんな……ダメだ……従うな……」

 

 

 

 そう私も諦めかけたとき……小さく苦しげな声が聞こえてた。

 

「光輝……?」

「光輝!」

「光輝くん!」

「……騙されてる……アランさん達を……こんなにしたんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……奴隷にされるぞ……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」

 

 息も絶え絶えに、逃走を訴える光輝。それにまたクラスメイトたちがざわざわと揺れ、私は無力感に唇をかんだ。

 

「……こんな状況で、一体何人が生き残れると思ってんだ?いい加減現実をみろよ! 俺達は、もう負けたんだ!騎士達のことは……殺し合いなんだ!仕方ないだろ!一人でも多く生き残りたいなら、従うしかないだろうが!」

 

 檜山くんの怒声が響く。この期に及んで、まだ引こうとしない光輝に怒りを含んだ眼差しを向けていた。

 

「……た……とは……」

 

 いよいよ魔人族に従うかというとき……また、別の声が聞こえてくる。

 

「……私たちのことは……気にするな……君たちは……逃げるんだ……」

「アランさん!」

「巻き込んで……すまなかった……君たちにはなんの関係もないのに……これは我々の、この世界の問題だ……だから……逃げろ……逃げて、生きて故郷に帰れ……団長もそう言っていた……」

 

 メルド騎士団長が……?

 

「ふん、死に体のくせにそこまで喋るか。そもそも、()()()()()までつけられてるのかい?」

「黙れ……私は、私の責務を全うするのみ……!」

 

 いうや否や、突然光りだしたアランさんは強引にブルタールモドキの腕を振り払うと魔人族の女に抱きついた。

 

「へえ、〝最後の忠誠〟かい?ご立派じゃないか」

「我が命……創造主の御心のままに……!」

 

 女の言葉に瞠目する。確か〝最後の忠誠〟って、どうしようもない状況の時に自爆するためのアーティファクトじゃ……!

 

 アランさんの輝きはどんどん増していき、いよいよ最高潮に達して魔人族の女もろとも吹き飛ぶ──

 

 

 

「■■■■■!」

 

 

 

 ──ことは、なかった。

 

 巨人が軽く叫ぶと、パンッと乾いた音とともに光が霧散する。何が起きたのかわからず、呆然とした。

 

「な……」

「邪魔だよ!」

 

 驚愕するアランさんの背中から、砂の刃が生えた。魔人族の女は腕を振り、アランさんを地面に放り投げる。

 

 無残に地面に叩きつけられたアランさんを、剣を地面に突き立てた巨人はむんずと掴み上げた。

 

「ま、まて……やめ……」

「■■■■■」

 

 そうすると、ペキンッという乾いた……まるでシャーペンの芯を折るような音で、アランさんの首をへし折る。

 

 だらり、とアランさんの体から力が抜けた。それを確認した巨人は、他の腕で自分の顔にかけられた布を持ち上げる。

 

「ひっ……!?」

 

 悲鳴をあげたのは香織か、鈴か……あるいは私か。

 

 巨人の顔は、とても顔とは呼べないものだった。四つに分かれた口膣と、無数に入った亀裂からこぼれ落ちる腐臭の漂う液体。

 

 バケモノ。そう呼んで差し支えない巨人は異形の口を開け、アランさんを頭から放り込んで……そのまま食べ始めた。

 

 

 

 ベキョッ、ゴリッ、グチャ、グチャ…………

 

 

 

 まだ神経が生きているのか、ビクンビクンと口に収まりきらない足が痙攣する。地面に体液が滴り落ち、いやに大きな音を立てた。

 

「ふん、あっけないね。それにしてもいい拾い物をしたよ、アブソドを使う手間が省けた」

「な、あ……」

「さて、どうする?あんたらも、こうなりたいかい?」

 

 未だにわずかに震えるアランさんの足を見て、皆もう精神的に限界なのか完全に従おうという雰囲気になった。

 

 私も、あのようなバケモノには勝てない。どこかで生きてるシューの顔も見ないままあんな無残な殺され方をするなんて、嫌だ。

 

 私たちの気持ちを代弁するように、檜山くんが一歩前に出る。

 

 ごめんなさいシュー。私にはもう、どうにもできない……

 

「…………るな」

 

 そんな時、光輝の声がかすかに聞こえた。

 

「ふ……ざ……な……」

「あん?なんだって死に損ない」

 

 女の問いかけに、光輝はゆっくりと顔を上げ──そして、白銀に輝く目で女を睨みつける。

 

「っ!アハトド、やれ!」

「ルゥオオオ!」

 

 

 女が馬頭の魔物に命令を発し──

 

 

 

「──ふざけるなぁっ!」

 

 

 

 ──光が弾けた。

 

 光輝が激しく全身を白銀の魔力で輝かせ、アハトドと呼ばれた魔物の腕の中から力づくで脱走する。

 

 すぐに捕まえようとするアハトドだが、光輝が拳を一振りすると両腕が砕けた。規格外の力に思わず息を呑む。

 

 動きの止まったアハトドを光輝は蹴り飛ばし、足元に落ちていた聖剣を手に取ると魔人族の女向けて突撃した。

 

「お前、よくもぉ────!」

「チィッ!」

 

 魔人族の女は手をかざすが、アランさんを食べることに夢中な巨人は気がつかない。

 

 その隙に光輝は立ちふさがる魔物たちをことごとく斬り伏せ、瞬く間に巨人の前に突き進んでいく。

 

「変身!」

《ロボットイィイングリスゥ!ブゥウウラァッ!》

 

 光輝が抜け出すのと同時にドライバーを取った龍太郎がグリスに変身し、ツインブレイカーを女に向けた。

 

 咄嗟に私は刀の柄を握り、ツインブレイカーからビームが射出されるのと同時に斬撃波をお見舞いする。

 

「っ!?」

 

 光輝を注視していた魔人族の女は、直前で気付いて身をよじったが、攻撃の余波で巨人の肩から転がり落ちた。

 

「よし!」

『今だ光輝、いけぇっ!』

「うぉおおおおお!」

 

 魔物を全て斬り伏せて、光の奔流を纏った光輝は魔人族の女へ一閃する。

 

 砂塵の盾で防ぐ魔人族の女。だがそれすらも光輝の一撃は切り裂き、パッと空中に魔人族の女の血が舞った。

 

 そのまま魔人族の女は壁まで吹き飛んでいき、背中をしたたかに打ち付ける。

 

「かはっ……くっ、まさか土壇場で逆転とは……とんだ三文芝居だよ……」

「終わりだ!」

 

 光輝は止まることなく、魔人族の女にとどめを刺すべく聖剣を振り上げた。

 

 全ての魔物たちが慌てて魔人族の女のもとへ行こうとするが、もう遅い。私は光輝が魔人族の女を切るのを見届けて──

 

 

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

 

 

 ──けれど、その言葉にピタリと光輝の動きが止まった。

 

 光輝は目を見開いたまま、魔人族の女を見下ろしている。それは知らなかった衝撃の事実を知った時のようで。

 

 やはり、光輝は……

 

「……呆れたね……まさか、今になって漸く気がついたのかい?〝人〟を殺そうとしていることに」

「ッ!?」

 

 私の予想を肯定するように、魔人族の女は光輝に向けてそういった。光輝の顔に、明らかな動揺が浮かぶ。

 

 そう。私が懸念していたのは、事ここに至ってまだ光輝が、()()()()()()()()()()()()()という自覚がないということ。

 

 それはどうやら、見事に的中してしまったようで。

 

「まさか、あたし達を〝人〟とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

「ハッ、“知ろうとしなかった”の間違いだろ?」

「お、俺は……」

「ほら? どうした? 所詮は戦いですらなく唯の“狩り”なのだろ? 目の前に死に体の()()がいるぞ? さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように……」

「……は、話し合おう……は、話せば、きっと……」

 

 この状況において、まだそんなことを言い聖剣を下ろす光輝。

 

 それはあまりに愚かな行いだ。全員の命がかかっている中で、敵の目の前で武器を下ろすなど自殺行為でしかない。

 

 流石に、心の中に呆れを通り越して失望が浮かんだ。同時にこれまでで最大の警鐘が頭の中で響く。

 

「全隊攻撃!アハトド、剣士の女を狙え!」

 

 その予想もまた、当たってしまった。

 

 アハトドが猛突進してきて、まずいと構えた時にはすでに二本の腕がふりかぶられていた。

 

 なんとか間に刀を滑り込ませたが、暖簾に腕押しというように容易く衝撃が体を打ち地面に叩きつけられる。

 

「うぁ……!?」

「ルォオオオオオ!」

『雫!』

 

 あわやそのままとどめを刺されるかと思ったが、グリスがアハトドの拳を受け止めてなんとか事なきを得た。

 

『こいつは俺が受け持つ!お前は光輝を!』

「っ、ええ!」

「ルァアアアア!」

『テメェは俺とタイマンだコラ!』

 

 グリスがアハトドを連れて行き、視界が開ける。すぐさま立ち上がって、光輝の方を確認した。

 

 すると、今まさに光の奔流が消えて光輝が崩れ落ちるところだった。どうやらあの力の限界を迎えたらしい。

 

 そこにようやくアランさんを食べ終えた巨人が、魔人族の女の命令を受けて地面に突き刺さっていた剣を引き抜いて振り上げた。

 

「まずい!」

 

 〝無拍子〟で魔物の間を駆け抜け、巨人の剣で叩き潰されようとしていた光輝をすんでのところで確保した。

 

「雫……」

「光輝、投げるわよ!」

「え、ちょ……」

 

 体を一回転させて、遠心力をつけて光輝を投げ飛ばす。魔物たちの頭上を抜け、狙い通りクラスメイトたちの方に落ちた。

 

 ひとまず光輝の安全も確認できたところで、改めて魔人族の女に向き直る。手を刀の柄にかけ、目に殺意を宿らせた。

 

「へえ……さっきから思ってたけど、あんたは〝殺す〟ことがわかっているみたいだね」

「あいにくと、師匠が厳しくてね」

 

 この世界に来てから最初の頃、シューに訓練をしてもらっていたときのことを思い返す。

 

 シューは私たちを鍛えるにあたって、まず最初にあることをやらせた。

 

 

 

『さてさて、それじゃあお前ら…………一人一回ずつ俺を殺せ』

 

 

 

 それは、自分を殺させること。そうすることで〝命を奪う〟ことがいかに重いかを私たちに自覚させたのだ。

 

 いくら再生できるとはいえ、あの時シューの心臓を貫いた時の感触は、未だ手に残っている。

 

 もとより剣術を習うにあたって、師範である父から教わってはいたが……シューの訓練は、より私にその恐ろしさを教えてくれた。

 

「それに、光輝の自覚が足りなかったのは私たちのせいでもあるわ」

「へえ、義理堅いことで」

 

 あの時エボルトがクラス全員に対していったことを、光輝は何一つ理解していなかった。

 

 それどころか、後で私にやれあんな危険な奴は放っておけないだの、魔人族に寝返るかもしれないだの散々言ってきた。

 

「だから、そのツケを今ここで私が払う」

「そういうあんたも、少し手が震えているようだけどね?」

「……私だって何も思わないわけじゃない。けど……皆を助けるために、あなたを殺す」

「……く、くくっ。いいね、それくらいの覚悟があってこそだ。あんたの方が勇者に向いてるんじゃない?」

「言ってなさい!」

 

 トリガーを引いて、女めかげて〝無拍子〟で強襲をしかける。

 

 巨人が機敏に反応し、大声をあげて剣を振り下ろしてきた。ギリギリでかわして、女に接近を試みる。

 

 だが巨人は巧みに4本の巨剣を操り、魔人族の女まで後一歩のところでことごとく邪魔してきた。

 

 巨体に似合わぬスピードで暴れまわる巨剣は、さながら動く壁のよう。おまけに赤熱しているため、体のそばを通るたびにヒヤリとする。

 

 それでもなんとか間をかいくぐって、少しずつ近づいていたのだが……連戦に次ぐ連戦で、いよいよ持って体力が底をついた。

 

「■■■!」

「くっ!?」

 

 両側から挟み込むようななぎ払いをかわし、さらに真上からの振り下ろしをいなして……そこで一瞬、足から力が抜けた。

 

 しまった、そう思った時にはもう視界いっぱいに巨人の握られた拳が映り込んでいた。反射的に鞘を差し込む。

 

 

 ズドンッ!!!

 

 

 だが、そんなものは意味がなかった。

 

「あ、が……!?」

 

 容易く粉砕した鞘を越えて、クロスした腕に拳が当たる。ほんの一瞬で、ネビュラガスで強化されたはずの私の両腕は砕け散った。

 

 アハトドの時の繰り返しのごとく、まっすぐ後ろに飛んで行った私が次に感じたのは激しい痛みだった。

 

「ごはッ…………!」

 

 無気力に地面に落ちる。御堂さんを潰さないように身をよじったのが災いして、右腕が肩から指先まで盛大に砕けていた。

 

 口の中に溜まった血を吐き出し、二の腕に突き刺さった石の破片を引き抜いて、なんとか刀を支えに立ち上がる。

 

「まだ、まだよ……!」

 

 香織や龍太郎が、私を呼ぶ声が聞こえる。みんなまだ戦っている。

 

 私一人、ここで諦めるわけには……

 

 

 

 パキンッ ……

 

 

「あ……」

 

 刀が、砕けた。

 

 支えを失い、半ばから折れた刀を片手に倒れる。すでに限界を超えた体はうんともすんとも言わず、足に力が入らない。

 

 そんな無様な私を、魔物たちが見逃そうはずもなかった。無数の殺気を、解けた髪の向こうに感じる。

 

「《覇壁》!」

 

 しかし、私が魔物たちの餌食なることはなかった。聞き覚えのある声とともに、激しい衝突音が聞こえる。

 

「くっ、いかせる、ものかぁ……!」

「いす、るぎ、さん……?」

「雫ちゃん!」

 

 緩慢な動きで顔を上げれば、そこには壁を張っている石動さんと、泣きはらした香織がいる。

 

 香織の手によって壁に背中を預け、治癒魔法をかけられる。ほとんど傷が治った感覚はなく、代わりに少し意識がはっきりした。

 

「雫ちゃん、雫ちゃん!」

「……聞こえてる、わよ」

「雫ちゃん!よかった……ごめんね、もうほとんど魔力が残ってないの」

「いいのよ……それより二人とも……はやくみんなのところに戻って……」

「何馬鹿なこと言ってんの、雫」

 

 石動さんに名前を呼ばれる。ゆっくりとそちらを見たら……今にも泣きそうな顔で、石動さんは笑っていた。

 

「大事な友達が死にかけてんのに、ほっとけるわけないでしょ。まだダブルデートした時のボウリングの勝負、ついてないし」

「石動さん……」

「もう、どこにいても一緒なら……私たちは、雫ちゃんのそばに居たい」

 

 ああ、まったく……なんで馬鹿な友人達。

 

 でも、ちょっぴり嬉しいわ。

 

「……ごめんなさい、何もできなかった」

 

 二人と、御堂さんに謝る。剣とともに、心が折れた。あの女に一太刀も浴びせてやることができなかった。

 

「ルァアアアア!」

『雫!香織!みーたん!くそ、てめえらどきやがれ!』

 

 グリスの攻撃から抜け出してきたアハトドが、石動さんの張った結界に拳を叩き込む。ピシリ、と嫌な音を立ててひびが入った。

 

 険しい顔で石動さんが手を振りかざし、結界を修復する。アハトドはなおも拳を振り続け、石動さんの結界を破壊していった。

 

 それをなんだかぼんやりした気分で見ながら、頭の中に浮かぶ無数の記憶を追いかける。ああ、これが走馬灯ってやつね。

 

 浮かぶのはどれも、シューとの記憶ばかり。楽しくて、愛おしくて……もう二度と手に入らないもの。

 

「■■■■■!」

「きゃああああっ!?」

「美空ッ!」

 

 飛んできた巨剣が、限界寸前だった結界にとどめを刺した。目の前に巨剣が突き刺さり、石動さんが転倒する。

 

 香織が駆け寄るのを見て、私はふと震えは手を胸元に伸ばした。そして、あのネックレスを取り出す。

 

 あの日からずっと肌身離さずつけていたネックレスには……大きな亀裂が入っていた。まるで今の私みたいに。

 

「ごめんなさい、シュー」

 

 あの夜、ずっとそばにいると誓ったのに。こんなところで死んでしまって、本当にごめんなさい。

 

 でもね。私、頑張ったのよ。

 

 あなたは、褒めてくれるかしら。きっと、いつもみたいに笑って頭を撫でてくれるわよね。

 

 だってあなたは……どんな時だって私を守ってくれた、私のたった一人の王子様なのだから。

 

「ルゥウウアアアア!」

 

 目の前に迫ったアハトドが、拳を振り下ろしてくる。その後ろでは、香織たちが泣いて手を伸ばしていた。

 

 

 

 

「…………さようなら」

 

 

 

 

 そして私は……そっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、お嬢さん?お眠りになるには、ちょいとここは殺風景じゃないかい?」

 

 ──その暗闇が、紫色の閃光によって切り裂かれるとも知らずに。




うん、無駄に長い。
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