星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、テストわりと散々だった作者です

エボルト「エボルトだ。先に言っておく、今回俺のセリフはない」

ハジメ「わりかし気にしてんのなお前。てか自分で言ってて悲しくならねえ?」

シュウジ「ま、どっちにしろお留守番だから関係ないけどにゃ」

エボルト「いいもーん、リベルとミュウとイチャイチャするもーん」

ハジメ「おまわりさんこっちです」

ウサギ「承った」

エボルト「くっ、もう来やがった!今回は前回からの逆転だ、それじゃあせーの!」


四人「「「「さてさてどうなる再会編!」」」」


怒り

「グガァアアアァアアア!?」

 

 

 

 自分の頭が潰れる感触の代わりに聞こえたのは、アハトドが絶叫する声だった。

 

 〝死〟を意識させていた重圧が消え、前髪をやわらかい風が揺らす。

 

「……?」

 

 恐る恐る、目を開ける。

 

 そこにはもうアハトドの大きな拳はなく、自分の命が繋がったことを知った。

 

「こんな麗しいレディを汚い地面に寝かせるとは、まったくナンセンスだ。淑女の扱いがなってねえな」

 

 代わりにそこにあったのは──とても見慣れた、心強い背中。

 

「あ……」

 

 喉の奥から、声が漏れる。自然と涙が頬を伝う。

 

 どれだけ、その姿を見たいと願ったか。

 

 あなたは、いつだって私が困った時に来てくれる。まるでおとぎ話のヒーローのように、軽口を叩きながら颯爽と。

 

「まあ、獣にそんなことを求めても仕方がないか。てか、俺以外に触れさせないし」

 

 いたずらげに笑って、心を緩めるような声音で、決して不安にさせないように。

 

 

 だから、私は──

 

 

 

「とまあ、それはさておき……迎えに来たぜ、雫?」

 

 

 

 ──あなたのことが、誰よりも愛しいの。

 

「……遅いわよ……バカ」

「いいタイミングだろ? 悪役(ヴィラン)は一番盛り上がる時に現れるってね」

 

 不敵な笑みを見せるシューに、そこはヒーローじゃないのね、なんていつも通りのツッコミをこぼす。

 

 唖然としてる美空たちも、両腕を失ってもがくアハトドも……周りを取り囲む魔物だっているのに、不思議ともう安心していた。

 

「ほれ、これ飲め。いい気分になれるぞー」

「変な言い方しないでよ……ん」

 

 そんな私の前にしゃがんで、シューは黒い穴から回復薬と思しきものを取り出すと飲ませてくれる。

 

 瞬く間に全身の傷が治っていき、倦怠感がさっぱりと消えた。正直意識を手放す寸前だったから、ほっと安堵の息を吐く。

 

「どうだ?」

「ええ、おかげさまで」

「そいつは良かった。雫にゃ笑顔の方が似合うからな」

「もう、またそんなこと……」

「うむ、照れ顔もいいねぇ」

 

 赤面している間に腰に手を回され、シューの腕の中へ誘われる。

 

 ぽすんと軽い音を立てて寄りかかった胸の中は、とても心地よかった。思わず頬を擦りつけてしまいたくなる。

 

「シューくん、相変わらずだね……」

「ったく、砂糖吐きそうなこっちの身にもなってほしいし」

「お、二人とも元気だな。話にゃ聞いてだけど……ふむふむ、ほほうほう」

「あっ……」

「ちょ、何見てんのよ変態!」

「久しぶりの再会なのにドイヒー」

 

 全然気にしてなさそうな顔でケラケラと笑うシュー。

 

 さっきまでの空気は何処へやら、シューを中心に数メートルの範囲内の空気が緩くなっていた。

 

「ガァアアアア!」

 

 そんな空気を、怒りの叫びとともに立ち上がったアハトドが打ち砕く。

 

 ふわふわとした気分が現実に引き戻され、私は顔を強張らせた。そうだ、シューに甘えてる場合じゃない!

 

「フゥー、フゥー……!」

 

 4本の腕のうち、二本が半ばから綺麗に切り飛ばされているアハトドは絶大な殺気をシューに向けていた。あまりに濃密なそれにゾッとする。

 

「おっと、オスにそんな熱視線で見られて喜ぶ趣味はないよん。それともそっち系の方?」

「ルァアアアアッッッ!!!!!」

 

 侮辱されているとわかったのだろう、アハトドは残った二本の拳を握ってこちらに突撃してきた。

 

「あ、そういや知ってるか雫?今日って曇りのち雨なんだぜ?」

「え?」

 

 もともと硬直していた体に加えて、思考までカチンと固まってしまう。今にもアハトドに殺されそうなのに、どうして天気の話?

 

 シューは面白そうに笑い、手に持っていたステッキの上方をひねると逆さに持った。すると先端から黒い魔力が傘の形に広がる。

 

「ルオァアアア!」

 

 そうしている間に、アハトドは拳を振りかぶって私たちを殺さんと迫り──

 

 

 

 

 

 ドッガァアアアン!!!!!

 

 

 

 

 

 ──しかし、黒い何かが上から降ってきた。

 

 気がついたら目の前にあったのは、黒い鉄杭。凡そただの杭と思えないそれは私の背丈以上で、地面に突き刺さっている。

 

 煙をあげる杭を唖然とした気分で見ていると、ポタポタという音がする。

 

 視線を下に落とせば、アハトドと思われるものが無残なミンチに変わっていた。

 

 そんな、あの化け物が一撃で?

 

「ただし、死の雨だけどな」

「──おいシュウジ、いきなり瞬間移動するんじゃねえ」

 

 呆然としていると、新たな声が聞こえた。

 

 つられて上を見ると、鉄杭が開けたであろう大穴から誰かが飛び降りてくる。

 

「お前ならいいタイミングで来てくれるかな、って思ってさー」

「嘘こけ、八重樫の座標捉えた途端何も言わずに移動しただろ」

「あ、ネタバレしちゃう?通じ合ってるバディ感出したかったんだけど」

「今更何言ってんだ。まあ読めてたから良かったけどな」

 

 傘についた肉片を払うシューと軽やかなテンポで語り合うのは、白髪眼帯、黒コートといった出で立ちの男。

 

 男は陽気に笑うシューに腰に手を当て、呆れた目を向けてしょうがないとため息を吐く。

 

 その姿に、ひどく既視感を覚えた。話のテンポにも覚えがある。毎日シューの側にいるのを見ていたのだ、知っているに決まってる。

 

「あなた、もしかしてなぐ……」

「ハジメっ!!!」

「南雲くんっ!!!」

「おわっ!?」

 

 私が言う前に、香織と石動さんが名前を叫んで彼に……南雲くん(多分)に、勢いよく抱きついた。

 

 南雲くん(多分)は一瞬よろけたが二人を受け止め、軽く目を見開く。だがそれも一瞬で、すぐにふっと隻眼の目元を緩めた。

 

「おう、息ぴったりだなお前ら。ったく、あの話は本当だってわけか」

「ハジメ、ハジメ、ハジメぇ…………っ!」

「南雲くぅん……!」

 

 泣きじゃくりながら、南雲くんを抱きしめる二人。南雲くんは馴染みのある柔らかい声で、背中をさすっていた。

 

「……随分と様変わりしたわね、彼」

「色々あったのさ」

 

 あれ、色々で済ませていいのかしら。口調から雰囲気から、色々変わっているのだけど。

 

 なんとも言えない顔で見ていれば、ふと南雲くんは何かに気づいてそっと二人の拘束を外し、両手を下に構えた。

 

 次の瞬間、大穴から人影が二つ落ちてくる。

 

「んっ」

「ひぁうぃーごー」

「おっと」

 

 南雲くんが危なげなくキャッチしたのは、金髪の美幼女と、兎耳の美少女だった。

 

 謎の美少女たちの、ビスクドールのような容姿に瞠目してしまう。こんなに可愛い女の子はそういない。

 

 続けて別の兎耳の美少女が降りてきて、更に燃えるような赤髪の美女が自ら着地した。

 

「マスター、正妻殿は?」

「おう、見ての通りだ」

「そうか……よかった」

 

 美女はシューのそばに寄ってきて、私を見てホッと豊かな胸をなでおろす。な、なにあれ、私よりちょっと大きい……

 

「おい南雲!いきなり地面ぶち抜くとか何してくれてんだ!余波で吹っ飛んだだろ!」

「「浩介!」」

「おうお前ら、助けを呼んで来たぜ……ってうわっ、何この状況!?」

 

 最後に、地上に向かったはずの遠藤くんが来た。彼と仲の良い二人にサムズアップして、すぐに周りの魔物を見て怯む。

 

「おら遠藤、お前はあっち行ってろ。ユエ、ウサギ、シア。あそこで固まってる奴らの守りを頼む」

「ん」

「りょーかい」

「はいなのですぅ!」

「ってえ!?おい、いきなり背中張り飛ばすことねえだろ!」

「うるせえ、はよ行け」

「お、横暴だなぁ……マジでなんであの南雲がこんなんなるんだよ……」

「ルイネ、お前も頼む」

「了解した」

 

 ぶつくさ文句を言いつつ、遠藤くんは永山くんたちのところへシューたちの連れの美少女軍団とともに行った。

 

 南雲くんも香織と石動さんをそれぞれ肩に担ぎ上げて、「じゃ、頑張れよ」とその場を立ち去る。

 

 後に残ったのは私とシュー。魔人族の女を見てみると、訝しげに眉を潜めていた。

 

「■、■■■■■■■■■■■■!!!!!」

「なっ!?」

 

 すると突然、女の隣にいた巨人が怯えるような声音で叫んで跳躍した。思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

 その巨体に似合わぬ軽やかさで魔物たちの頭上を越え、私たちの目の前に着地するとシューに向けて剣を振り下ろす。

 

「シュー!危ない!」

「ああ、ダイジョブダイジョブ……………………おい」

 

 ドスの効いた声にピタリ、と剣が止まる。

 

 あと数センチ下ろせば、シューの頭が帽子ごと真っ二つになりそうだ。

 

 けど、そんなものよりもっと恐ろしいのは……能面のようなシューの横顔と、その体から発せられる鋭い殺気。

 

 直接向けられているわけでもないのに、全身に剣の切っ先を向けられている気分だ。

 

「何を寝ぼけている。造り主の顔すら忘れたか?」

「■■、■■■■■■■……」

 

 巨人が、剣を全て取り落とした。

 

「■■■■■■」

 

 そして巨躯を折り曲げ、シューに跪く。

 

 南雲くんたちを除いて私を含む全員が、その光景に息を呑んだ。あの化け物が、たった一人の人間に跪いたのだ。

 

 小刻みに体を震わせる巨人をシューは虚ろな目で眺め、おもむろに右手を振る。

 

 

 ゴト……

 

 

 一瞬の後、巨人の首が落ちた。

 

 数秒すると体も崩れ落ちて、地面が揺れる。あまりにあっけない終わり方に、開いた口が塞がらない。

 

「しばらく死の淵で反省してろ……さて」

 

 血のついたステッキを振りながら、シューは私の後ろに目線を向ける。

 

「いつまで寝てんだ、いい加減起きろ」

「えっ?」

 

 振り返れば、そこにあるのは御堂さんの首。どうやら、先ほどの杭の衝撃で落ちたらしい。

 

「あの、シュー。その、御堂さんは私たちを逃して死んで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──フフフ。もう少し微睡んでいたかったのですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………は?」

 

 御堂さんの首が、喋った?

 

 錆びた蛇口のような動きで見ると、御堂さんの首のそれまで虚ろだった瞳に光が戻り、ほんの少し前まで見ていた微笑みを浮かべる。

 

「ですが、そうおっしゃるのなら目覚めましょう」

 

 ホラー映画さながらの光景は、それで終わらなかった。御堂さんの首はひとりでに浮き上がって巨人の死体に飛んでいく。

 

 無くなった首から広がる血の池の上まで飛んでいくと、そのまま落ちた。

 

 

 ボコッ……

 

 

 暫しの後に、血溜まりに気泡が浮かぶ。

 

 

 ボコッ、ボココッ、ボコココココッ!

 

 

 まるで沸騰した熱湯のように、次々と気泡が浮かんでは消えていき……

 

 

 

 バッシャァアン!!!!

 

 

 

 最後には、弾けた。

 

 血溜まりから4本の触手が飛び出して、地面に突き刺さる。うち一本は光輝の股の間に刺さって悲鳴が聞こえた。

 

 共に、ズルリと何かが浮き上がる。赤子のようにうずくまるそれは、まるで人のような……

 

「ぁぁ…………」

 

 ぴくり、と震えたそれは、少しずつ身を起こす。動きに伴ってまとわりついた血が流れ落ちていき、おぞましい赤の中から輝くような白が徐々に姿を現して……

 

「ああ……良い眠りでした」

 

 やがて完全に立ち上がった時──そこにはこの世全ての美を集合したような、完璧な〝人に似た何か〟がいた。

 

「ですが、いつか夢は覚めるもの。そして目覚める時こそが、最も甘美な瞬間」

 

 裸にあるのにも関わらず、〝彼女〟は恥じるでもなく両手を天に向けて広げる。

 

 興奮しているようにほんのりと赤い頬が、瞳が、淫靡な唇から溢れる声が、その全てが、見るもの全てを魅了した。

 

 金色の髪に、流れるような曲線を描く成熟した肢体。腰から伸びる触手は、彼女を眉から解き放つ翅のようで。

 

「ああ、いいですその蕩けた表情……食べてしまいたくなりそう」

 

 

 

 そう、なにもかもより美しく生まれ変わった御堂さんは……心底楽しそうに笑った。

 

 

 

「その食欲は変わらず健在、か」

「あら、誰かと思えば我が師ではないですか。私の美に唯一平然とした、つれない御方」

 

 ゆらゆらと触手を揺らし、御堂さんはこちらに歩み寄ってくるとシューの頬に指を這わせる。

 

 シューはそれを優雅な動きで取ると、軽く腰を落として手の甲に軽く口づけした。クスリ、と笑う御堂さん。

 

「これでいいかい、お寝坊な我が弟子?」

「ええ、その敬意に免じて突然いなくなったことへの罰はなしとしましょう。ところで雫さん、ごきげんよう」

「え、あ、ええ」

 

 いきなり話しかけられて、変な声が出る。その顔がこちらに向けられただけで胸が高鳴った。

 

 そして悟る。人は本当に美しいものを見たとき、同性でも異性でも関係なく胸が高鳴ってしまうのだと。

 

「って、雫さん?」

「あら、お嫌?私を最後まで手放さなかったので、感謝を込めてお呼びしたのですけれど」

「別にそれはいいけど、その……」

 

 彼女の顔から下を見下ろして、思わず口ごもる。色々と見えてはいけないところまで見えているのだけど……

 

 チラッと見てみれば、男女問わず赤い顔で股間のあたりをモジモジとさせている。特に男子は全力で下半身を隠していた。

 

「ふふ。私に見惚れてしまいました?」

「あ、えっと……」

「こらこら、ひとの彼女をからかわない。それにお父さんそんな破廉恥な格好許しませんよ」

「では、少し趣向を変えましょう」

 

 ゆるりとお辞儀した御堂さんの全身に巨人の死体から大量の血が飛んできて、真っ赤なドレスを形作る。

 

 触手をベルトのように巻き、髪型を整え、貴婦人といった風体になった御堂さんはニコリと微笑む。

 

「これでよろしくて?」

「ああ。んじゃ、雫のこと頼むわ」

「我が師の御心のままに」

 

 シューが私の腰から手を放し、離れていく。

 

 途端に不安になって手を伸ばすと、御堂さんがするりと自分の手を這わせてきた。

 

「っ!」

「一人前の淑女は、愛する男をそっと見守るものでしてよ?」

「あ……」

 

 なんだかその言葉に妙な説得力を感じてしまい、手を下ろす。よろしい、と御堂さんは微笑んだ。

 

「まずは……」

 

 シューが鉄杭の下にあるミンチに手を向ける。手のひらに黒い魔法陣が浮かび、ミンチに魔力が放射された。

 

「《反転(リバース)》、《循環(ループ)》」

 

 魔法と思われる言葉を呟いた瞬間──いつのまにか、無傷のアハトドがそこに立っていた。

 

 なぜ復活させたのか、シューの行動に困惑する。アハトド自身もどうして生きているのかわからないのか、オロオロとしていた。

 

「カーネイジ、食え」

「ギュリァアァァァアアァァァァアアァァァァアアァァァァアアッ!!!」

「ルォ!?」

 

 突如シューの体から赤黒い塊が飛び出して、棒立ちになっていたアハトドに食らいつく。

 

 暴れるアハトドだが、つり上がった目と黒い牙を持つ赤黒い塊はたやすくアハトドの腕を引き抜いて食らう。

 

 その次はアハトドの腹を裂いて、顔を突っ込んで直接臓物を食べ始めた。

 

「死ぬたびに延々反転して生き返る魔法をかけた。そこでずっと喰われてろ」

「あんた……」

「待たせたな」

「……色々とぶっ飛んだものを見せてくれたね。もう頭がパンク寸前だよ」

 

 妙に冷たい声のシューに、魔人族の女が答える。アハトドをやられ、巨人もとられて、顔には焦りが浮かんでいた。

 

「へえ、そのまま弾け飛べば一端の見世物になったのにな」

 

 対するシューは……とても冷たい空気を纏っている。これまで一度だって見たことない、酷く凍えるような殺意を。

 

「……そういえば」

 

 その殺気にふと、先ほどまで自分を殺そうとしていた魔物たちが静かなことに気づいた。

 

 気になって、一番近くの魔物を見ると……

 

「……死んでる?」

 

 固有魔法が解除されたキメラは、穴という穴から汚物を出して立ったまま絶命していた。

 

 その一匹だけではない。近くにいた魔物は全部同じように死んでいる。

 

 もしかして、殺気だけで死んだの?

 

 だとしたら私や香織たちが無事なのは……殺意が向けられていないから?意図的に魔物たちに向けていた?

 

「お前にゃかなり言いたいことあるけどよ……一言で済ませるわ」

 

 

 ガ、ガガガガ……

 

 

 シューの周りの空中に、無数の黒い穴が空いた。その瞬間、ぞわりと首筋に悪寒が走る。

 

 穴から出てきたのは、浮遊しながら回転する目のついたナイフの輪。何十とあるそれは、変色した血で汚れていた。

 

 続けて毒々しい色のカマキリや蜘蛛、ケタケタと笑う口の裂けた瓜二つの日本人形、腐った頭だけの番犬……

 

 これでもかというほどに不気味な者たちが、次々と穴から現れる。どれも巨人と同じか、それ以上の力を感じた。

 

 一つだけわかるのは……あれは決して、この世に存在してはいけない化け物ということだ。

 

 

 

「カシャカシャカシャ……」

 

 

 

 

「キィキィキィキィ……」

 

 

 

 

「グルルルルルルル……」

 

 

 

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 

 

 

「「遊戯(殺し)だ♪遊戯(殺し)だ♪楽しいおままごと(虐殺)の時間だ♪」」

 

 

 

 

「Arrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!」

 

 

 

 

 最終的に、何十もの種類の異形が洞窟の中を埋め尽くし、魔人族の女と配下の魔物たちを睥睨した。

 

「な、なんだそいつらは……!」

「お前は雫を傷つけた。美空や、ネルファのことも。その罪は万死に値する」

 

 たじろぐ魔人族の女。あまりに異常な怪物の大群に未だ生きている魔物たちも恐れをなし、すぐにでも逃げ出しそうで。

 

 それを見ていたシューが、おもむろに手を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「故に──死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてシューが手を振り下ろした瞬間──全ての異形が歓喜の声をあげて魔物たちに襲いかかった。

 

「グゥゥアアアアアア!?」

「「「「バウッ!バウッ!」」」」

「グギャァアアアァアア!?」

「「みてみて、お目目だよ、お目目だよ!あはは、綺麗だね♪」」

 

 腐れ犬頭がキメラの全身を喰いちぎり、遊戯だ遊戯だと姉妹人形がブルタールモドキの目を手でえぐって脳みそを引きずり出す。

 

「キャハハハハハハハハハハ!くルみだ、クるミダ!」

「二"ャッ!?」

 

 狂った笑いをあげて走り回るボロボロのくるみ割り人形たちが、逃げる黒猫に追いつくと頭を丸ごと齧って食い千切る。

 

 

 スパンッ! スパンッ!

 

 

「ヴォォオオオオオオッ!!?」

「IHVAJJAAaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 ナイフの輪が魔力を吸収する六足亀を指の先から少しずつ切り刻んでいき、全身に目玉のついた灰色の人型が頭を引っこ抜いて甲羅の中身をぶちまける。

 

「ヂュー!」

「キリキリキリキリ!」

「グ、グガァアアア!」

 

 悲鳴を上げて逃げ回るキメラに紫緑色の体液を散らばして顔に穴の空いたネズミが群がり、カマキリたちが歯を一本一本抜いていく。

 

「「「キャンディー、キャンディー!」」」

「キャンッ!キャヴンッ!」

 

 下半身が全て手の化け物が四つ目狼を捕まえて、ボールのように固まったいくつもの顔で舐め回して溶かしていく。

 

「……何よこれ」

 

 あまりに一方的な虐殺。形容できない阿鼻叫喚の地獄絵図。

 

 見ていてこちらが可哀想になるほどに、異形たちは魔物をそれはそれは楽しそうに殺していた。

 

 一切容赦のない蹂躙は、シューが指揮者のごとく指を振ることで終わりなく続けられる。

 

「すごいって言っていいのか……それともひどいっていうべきなのかしら」

「ああ、なんておいたわしい。あれほどまでお怒りになさるのはいつぶりかしら」

「……怒ってる?」

 

 あれが、ただ怒っているからやっているというの?

 

 どこか遠い気分で蹂躙を眺めていると、やれやれと視界の端で御堂さんがかぶりを振る。

 

「何を他人事のように惚けていらっしゃるの?あれはあなたのためにお怒りになっているのよ」

「……私?」

 

 私のために、怒ってるってこと……?

 

「そう。先ほどは私たちの名も口にしていたけど……紛れもなく、他の誰でもなく。あの御方が誰より愛しなさる貴方を傷つけたからこそ、心の底から怒りに染まっている」

「……本当に?」

「あら、私が嘘をつくと?」

 

 その言葉に、もう一度シューを見る。

 

 異形たちを操るシューの横顔は──なるほど、たしかに怒っている時とそっくりだ。

 

 でも、私が知ってるよりもっと怖くて、冷徹で。

 

「殺せ。徹底的に殺し尽くせ。血肉の一欠片も残さず食い尽くしてしまえ」

 

 なにより、悲しそうだった。

 

 

 ドクン。

 

 

 あれが全て、私のため?

 

 

 ドクン、ドクン。

 

 

 私が傷つけられたから、怒ってくれている?

 

 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 

 

 なら。それなら、私は──

 

「嬉しい、と思ったでしょう」

「っ!」

「でも同時に狂っているとも思った。違って?」

「…………」

 

 正直なところ、その通りだ。

 

 私はこの光景を見て……恐ろしさ以上に、大きな喜びを感じていた。

 

 嬉しい。こんなに、私はシューに愛されてるんだって。

 

 その感覚は狂っているかもしれない。いいや、おそらく香織や光輝に聞けば間違いなく狂っていると言われるだろう。

 

 でもこれほどまでに強く愛されて、胸の奥が熱く疼いてしまったのだ。

 

 自分では、どうしようもないほどに。

 

「貴方はこれを見て、あの御方を恐れなさる?」

「……まさか」

 

 私があの人を恐れる?

 

()()()()()()()()

 

 そんなの──

 

「──ありえない。私はシューを愛してる」

 

 だからどんなに強大な力を持ってても、異形の怪物を操っても……そこに誰かへの思いがある限り、恐れるはずがない。

 

「あらあら……本当に罪な方、いたいけな少女をこんなに壊すなんて」

「上等よ」

 

 それでシューのそばに居られるのなら、あの背中に寄り添えるのなら、多少は狂っていても良い。

 

「こいつで最後だ」

 

 そんなことを考えている間に、時折抜けてきた魔物の最後の一体がシューが指を鳴らした途端破裂した。

 

 気がつけば、魔物はもう一匹も残っていなかった。あるのは肉片と、血の海と、死の気配の残滓だけ。

 

 各々の戦果を手に異形たちは黒い穴の中へ消えていき、膝をついた魔人族の女だけがポツンと残った。

 

「そんな……あの魔物の集団が一瞬で…………」

「すげえ……」

 

 クラスメイトたちの呟く声が聞こえる。それはそうだ、本人が手を下すまでもなく全て終わったんだから。

 

「ここまでやるとはな」

「南雲くん」

 

 両手に銃器を持った南雲くんが、シューを見て肩をすくめた。

 

 彼の周りには某ファ◯ネルみたいな十字架が浮かんでおり、銃口からはわずかに硝煙の匂いがする。

 

 ふとクラスメイトたちの方を見ると、皆の一歩手前でことごとく殺されていた。どうやら南雲くんや、連れの子達がやってくれたらしい。

 

「ったく、相当キレてんのはわかってたがあそこまでか」

「南雲くんも予想外だったの?」

「ああ、ありゃ〝百鬼夜行シリーズ〟っていうシュウジが作った魔物なんだが……俺の知らないやつ半分くらいいたぞ。派手好きで見せたがりのあいつが、未公開のやつを出すなんて珍しい」

 

 どうやらあれは、シューが作ったみたい。いよいよもって恋人の規格外さに苦笑いが溢れる。

 

「呆気ないなぁ。もう少し食わせてやりたかったのに」

「っ……この、化け物め……!」

「化け物ですけどなにか?」

 

 シューはスタスタと魔人族の女に歩み寄っていく。目の前まで来ると、首を掴んで宙に釣り上げた。

 

「が、ぁ……」

「お前には死んでもらう」

 

 ……やっぱり殺すのね。暗殺者だったシューが、敵対した相手を殺さない理由はないもの。

 

「だが、タダでは殺さん」

「な、なに……?」

「言ったろ? 万死に値するって」

 

 その言葉に、今も赤黒い塊に食べられているアハトドのことが思い浮かんだ。

 

 まさかと思うと、その予想は当たっているみたいで。

 

「も、もしかして、あんた……」

「そう、お前には()()()死んでもらう。喜べ、こんな大盤振る舞いはそうないぜ?」

「ま、まて──」

 

 女が制止をかけるが──すでに遅かった。

 

「1回目」

 

 

 グキッ。

 

 

 魔人族の女の首があらぬ方向へ曲がる。だらん、とシューの手を解こうとしていた両手が落ちた。

 

「はいはい、寝てないで起きようなー」

「──っ!?」

 

 しかし、アハトドに使っていたのと同じ魔法ですぐに息を吹き返した。そうするとシューを恐怖のこもった目で見る。

 

「さて、次はどうする?首を捻る?それとも心臓を抉り出す?あ、カーネイジに体の中から食わせんのもいいな」

「あ、あ……」

「さあ、選べよ。好きなのからやってやる」

「も、もう許し──」

 

 

 

 

 

「許すわけねぇだろッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 首から手を離された魔人族の女に大槌が振り下ろされ、潰れて死んだ。血が槌の下から広がる。

 

 その際の怒りに満ちた声に、クラスメイト全員が身をすくませた。私ですら聞いたことのないそれは、あまりに異様だったのだ。

 

「──っ!? わ、私は死んだはずじゃ」

 

 槌を持ち上げた瞬間、女は復活する。すでに目は恐怖一色に染まっていて、二回も死んだのだから当たり前だった。

 

「そうさ、〝僕〟は化け物だ。どこにも居場所のなかった、殺すことしかできない怪物だ」

 

 錯乱する女に、シューが冷たい声音で語りかける。

 

「だがそんな〝ワシ〟から、お前は唯一の拠り所を奪おうとした」

「な、なにを……」

「だから〝私〟たちは貴方を許さない。貴方の魂が摩耗しきるまで何度でも殺します。それが〝俺〟の望みだから」

「……?」

 

 なんだか、様子がおかしい。シューの言葉に違和感を感じる。

 

 けどその疑問を確かめる前に、魔人族の女は魔法で炎に焼かれて消し炭になった。

 

「ほら、たったの3回だ。まだまだ終わらないぞ」

 

 それから目にも留まらぬスピードで、女は何度も殺されて、復活してを繰り返した。

 

 あるときは心臓を手刀で貫かれ、またある時は魔法で圧死し、そしてある時は全身磔にされる。

 

 考え付く限りの拷問が、ほとんど見えない速度で何度も何度も繰り返された。

 

 最初は聞こえていた女の悲鳴も懇願も、やがて小さくなって消えていく。まるでロウソクの火が消えていくみたいに。

 

「九千九百九十九回……と」

 

 始まってから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 

 女の首から鎖が外され、死骸が地面に倒れる。

 

 それも数秒で、またビクンッと痙攣して覚醒した。

 

「くっ、かは……!

「どうだ?心が死んだか?」

「き、貴様……」

「おー、所々で再生させてるとはいえよくもつな。こんだけの回数死んだら普通壊れるんだけど」

 

 シューはしゃがんで魔人族の女の胸元を掴み上げると、右手の指を空中で何かをつかむように曲げる。

 

 

 パキ、パキ……

 

 

 どこからともなく光が収束して、輝くような純白のナイフが現れた。

 

 無骨な作りの、柄頭に濁った宝石の嵌ったもの。一見なんの変哲も無い、少し珍しいだけのナイフだ。

 

 けれどそれを見た途端──これまで見たどんなものよりも、心の底から恐怖を感じた。

 

「あれはまさか……?」

「御堂さん?」

 

 それまで平然とシューを見ていた御堂さんが、何か呟いた。名前を呼ぶが、返事がない。

 

「んじゃ、これで最後だ……永遠に消えてなくなれ」

「……いつか。私の恋人が、あんたを殺すよ」

「そうか。ならそいつも殺してそっちに送ってやる」

 

 それだけ言って、シューは目を閉じた魔人族の女に向けてナイフを構えて。

 

「死ね」

 

 なんの躊躇もなく、女の首めがけて振った。

 

 

 

 ──だめ。あれをシューに使わせちゃいけない!

 

 

 

「シュー、ダメッ!」

「──っ」

 

 無意識に叫んだ。それに反応して、シューは動きを止める。

 

 こちらを向いて、空っぽの瞳で私を見てきた。震える足をぐっと押さえて、真正面から見つめ返す。

 

 数秒間見つめ合っていると、徐々にシューの目に光が戻った。そうすると自分の手の中を見て、白いナイフに目を見張る。

 

「そ、そうだ北野!もうやめろ!これ以上殺す必要はない!」

 

 動きが止まったのを好機と見たか、多少回復して立ち上がった光輝が抗議を始めた。自然と皆が光輝を見る。

 

「捕虜、そうだ、捕虜にしよう。無抵抗の人を殺すなんてダメだ。俺は勇者だ、そんなことは許せない。北野も仲間なんだ、俺に免じて引いてくれ」

「バカじゃありませんの、あのグズ勇者」

 

 隣で容赦ない言葉を吐く御堂さん。これには私も同意せざるを得なかった。あまりにツッコミどころが多すぎる。

 

「……そうだな」

「わかってくれたか!ならっ!」

 

 その時。

 

 私はシューの左手に、黒いナイフが握られるのをはっきりと見た。

 

「抵抗しないうちに、敵は殺さなくちゃな」

 

 

 スパッ。

 

 

 乾いた音が洞窟に響く。

 

 魔人族の女の首が宙を舞い、弧を描いてやけに重々しい音を伴って落ちた。

 

 体から噴水のように血が吹き出て、力を失って倒れる。今度は復活することなく、血だまりが広がる。

 

 そして返り血を浴びたシューは……黒ナイフを握る左手を、最後まで振り切っていた。

 

「な、なぜ……もう戦意を喪失していたのに……なぜ殺したんだ……」

 

 シン、と静寂が場を支配した。光輝は崩れ落ち、クラスメイトたちは初めて見た人殺しに吐いたり気絶したりする。

 

「…………………………」

 

 その一切を気にすることなく、シューはゆっくりと手を下ろすと魔人族の女の死体を見つめた。

 

 シューの無の表情からは何も読み取れない。初めて何を考えてるのかわからなくなって、私は足踏みした。

 

 でも、そのままにはしておけない気がして……

 

「行ってらっしゃいな」

「あっ」

 

 背中を押されて、私は一歩踏み出した。

 

 振り返ると、御堂さんは鷹揚に頷く。

 

 頷き返して、私はシューをまっすぐ見据えた。

 

 

「シュー!」

 

 名前を呼ぶ。緩慢な動きで彼はこちらを見て、私は同時に走り出し──

 

 

 

 

 

「しずっ──!?」

「ん──」

 

 

 

 

 

 ──すっかり冷たくなった、シューの唇にキスをした。

 

 シューが目を見開く。背後からも驚く雰囲気が伝わってくるが、どうでもいい。

 

 ただ今は、お願い。

 

 少しでも、私の熱を分けてあげたい。

 

 この冷え切った体に、またあの熱を灯してあげたい。

 

 強く、強くそう願う。

 

 

「……ん」

「……!」

 

 そんな私の思いが、功を奏したのだろうか。シューの片手が腰に回る感覚がした。

 

 それが嬉しくて、もっと強く唇を押し付ける。すると彼は私の頬に手を添えて、とても強く抱きしめてくれた。

 

 それが決して離さないと、そう言ってくれているみたいで。

 

 

 

 

 私は……ずっと、ずっとキスをし続けた。

 

 

 




うん、また長い上にできが心配すぎる。
御堂さんの外観は十代→二十代前半くらいに変わりました。
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