シュウジ「半月以上ぶりだな。シュウジだ、前回は雫たちを助けたぜ」
シア「ものすごい剣幕だったですぅ、うさ耳がブルブル震えたですぅ」
ルイネ「あれほどの怒りを見るのはほとんど初めてだ…やはり、私では一歩足りないのか」
御堂「何をくだらないことで悩んでるんですの。さ、今回は前回の後の話ですわ。それではせーの」
四人「「「「さてさてどうなる再会編!」」」」
始めてから、五分くらい経っただろうか。
シュウジが八重樫の肩に手を置いて、ゆっくりと離れる。八重樫は閉じていた目を開けて、シュウジを見上げた。
そして公衆の面前でキスをしたことをようやく自覚したのだろう。みるみるうちに頬が赤くなっていき、シュウジの胸に埋める。
「ありがとな、雫。お陰で正気に戻れた」
「うぅ……!」
お礼を言うシュウジに、ポカポカと子供みたいに握りこぶしで胸を叩く八重樫。シュウジは優しく微笑んで頭を撫でた。
その光景に、さっきまで悲惨だった空気が甘くなっていく。周囲は血みどろの死体だらけだというのに、あそこだけピンクになってた。
いかん、ついさっきまでシリアスな雰囲気だったのに砂糖を吐きそうだ。それもこれも切り替え早いあいつが悪い(暴論)
「…………」ジー
「………………やらないからな」
「へぇ……久しぶりの再会なのにハジメはしてくれないんだ。久しぶりの再会なのに」
なんで二回言うんですかね美空さん。あれか、大事なことだから二回言いましたってか。まあそうだけど。
というか、美空の顔を見るのが怖くて振り返れない。こう、振り返った瞬間無限の果物ナイフが飛んでくる気がする。
「ちょっと、なんでこっち見ないし。彼女の顔見たくない理由でもあんの?」
「いや、それはだな……」
「ほら、言ってみなさいよ。ほら、ほらほら」
「痛い、痛いです美空さん」
グリグリと頬に突き刺さる鋭い爪。ヒュドラなんか目じゃないおっそろしいオーラを醸し出す美空に、思わず昔の口調が出てしまった。
というか白崎、なんだそのちょっと羨ましいなーみたいな顔は。それは美空が俺に絡んでるからか? それとも……いや、こっちはねえな。
とりあえず助けてくれと仲間たちを見るが、全員ことごとくダメだった。
「あれが美空……あっさりとハジメを劣勢に……やっぱり侮れない」
「むぅ……あのハジメさんがあんな態度を取るなんて。少しジェラシーですぅ」
「ん、これはミュウと三人で撮ったやつ。うん、良い」
「マスター…………」
ユエは何かに戦慄してるし、シアはちょっと頬を膨らませてるし、ウサギはすでにアルバム鑑賞に入ってる。
こういうとき頼りになるルイネは、思うところがあるのだろう。シュウジの方をなんとも言えない目で見ていた。
あ、ちなみに余談だが、シュウジが作ってるあの分厚いアルバムは最近は俺の写真……言ってて恥ずかしいなこれ……だけじゃない。
皆で一緒に撮った写真とか、リベルと二人で街を散策した時の写真とか、そういうのが増えていた。思わずほっこりしたのは内緒だ。
「ハジメ? 私質問してるんですけど。何か答えて欲しいんですけどぉ?」
俺の方は全然ほっこりじゃないけど。どんどん指圧が増している。ついでにプレッシャーも増している。
「だぁーもう!」
流石にいつまでも無視するわけにもいかないので、やけくそになって美空の指を手ごと取った。
そのままこちらに引っ張って、ええいままよと胸の中に入れる。そうすると一瞬だけ抱きしめてすぐに放した。
「……ふぇ?」
「すまんが、俺にはこれが限界だ。あんなクソ甘いのは期待すんな」
美空はしばらくぽかんとしていたが、やがて「……ヘタレだし」と言いながらそっぽを向いた。全くもってその通りです、はい。
だがその行動が功を奏して、凄まじいプレッシャーは緩んだ。代わりに背後からシアの羨ましそうな視線が追加されたがスルー。
え? さっきまで履いてたりビビったりしてたのにこっちを砂糖吐きそうな目で見てるクラスメイトたち? 見えない聞こえない。
そうこうしているうちに、シュウジたちがこちらに戻ってくる。八重樫は今だに顔を赤くしたままシュウジの腕にひっついていた。
「シュウジ、ド派手にやったな」
「おうハジメ、そっちもお疲れさん。主に美空の相手」
「見えてたんかい」
「いやー、いいツンデレっぷりでしたなぁ」
「テメェはイチャつきすぎだ」
「っ!」
そう言うと、八重樫がさらに赤面してシュウジの腕に顔を埋めてしまった。やべえミスった、そっちにダメージがいったか。
「おい、南雲!」
「ん?」
不意に名前を呼ばれ、そちらを見る。すると黄金色のライダーに変身してた坂上が近づいてくるところだった。
ズンズンとこちらに歩み寄る坂上の後ろで谷口がアワアワしてんのを首を傾げつつ、目の前まで来た坂上を見上げた。
「…………」
俺を見下ろす坂上の目には、様々な感情が浮かんでいるように見えた。
それは喜びだったり、かと思えば後ろめたそうだったり……いや、別に男にこんな目で見られても嬉しくないんだが。
「おい、なんか用があるなら早く言えよ」
「っ、あ、ああ。南雲、あん時は助けてくれて……その、なんだ。サンキューな」
「なんだ、そんなことかよ。別に今更礼なんて言われても……」
「いや、言わせてくれ。お前が助けておかげで、俺は今ここにいる。本当に、ありがとう。そして助けられなくてすまねぇ!」
いいと言ってるのに、坂上は暑苦しく熱弁すると勢いよく頭を下げてきた。流石に面食らってしまう。
坂上の声には、深い後悔と自責の念が混じっていた。よほど俺に助けられ、そして見殺しにしたことが気になるのか。
以前のこいつなら、俺に頭下げるなんて死んでもしなかっただろう。ライダーになってることといい、いろいろと経験したのか?
まあそれはともかく……〝やめろ、どうでもいい〟。そんな言葉が真っ先に頭の中に浮かんできた。
「本当に、すまなかった……」
が……坂上の握られた拳を見て、なんだかその気は失せてしまった。
「……ま、なんだ。おかげでいろいろ手に入れるもんもあったし、いつまでも気に病むな。むしろ迷惑だ」
「でも俺はっ!」
「あーうるせえ、至近距離で叫ぶな。そんなことより、せっかく生き残ったんだ。どうせなら地球に帰るまでは生き抜けよ」
「南雲、お前……」
おい、なんだそのキラキラした目は。当たり前のこと言っただけなのになんでこんな鬱陶しい目をされなきゃいかん。
「ったく、この街に来てから美空の顔見たくらいで一つもいいことねえな……」
「尊敬されてるねぇ」
「じゃかあしいこの砂糖製造機」
「誰がリアル鬼ごっこの優勝者だ」
「それは佐藤さんな」
「ふふっ」
突然白崎が笑う。
シュウジと二人で振り返ると、美空と手を繋いで……いや今更だけど何堂々と繋いでんだ……いる白崎は慌てて首を振る。
「その、ごめんね? なんていうか、やっぱり変わらないなぁって、そう思っちゃって」
「こいつらがちょっとやそっとで変わるわけないでしょ。バカは死んでも治らないんだから」
「美空さん酷くないっすかね」
「バカはバカでも(以下略」
どうだか、とそっぽを向く美空にため息を吐く俺、ケラケラと笑うシュウジにひっついてる八重樫、微笑む白崎。
そのやり取りに、なぜかいつもの教室での光景を思い出した。これと少し違った、しかしとても似通った遠い過去のそれを。
「北野!」
で、似てるもんなら、この感慨を邪魔をする奴も同じってわけで。
さっきまで崩れ落ちてたのに、何やら怒気を纏った天之河が坂上よりさらに荒い足取りでシュウジの背後から近寄った。
「なぜ、彼女を殺したんだ! もう戦う意思は──」
「そういやメルさんのこと言ってなかったわ。道中で負傷してたのを見つけたから、適当に回復させて地上に返しといたよん」
「あ、本当? 良かった……シュー君、ありがとう」
「いやいや、お安い御用よ。エボルトが飲み仲間減るって悲しみそうだし」
案の定、軽やかにスルーするシュウジ。ガン無視された天之河は顔を赤くして、シュウジに向かってぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。
しかしその背後から、紫色の触手が伸びてきて天之河の両手と両足を絡め取った。驚いて後ろを見る天之河。
「無粋な真似はよしなさい、愚種。あまり騒ぎ立てると埋めますわよ」
「俺はただ、北野に話が──」
「意見は求めてないですわ」
問答無用で回収される天之河。そのままペイっと適当な感じに捨てられた。今更だけど扱い雑だな。
というか、改めて見ると御堂のやつすげえ変わりようだ。人のこと言えないが、全くと言っていいほど面影がない。
シュウジからそうかもしれないとは聞いていたが、こうして直に見るとなんとも言えない気分だ。側から見たら俺もそう見えるのか……?
「さ、続きをどうぞ」
「んな強引な……」
「まあ、別にいいんじゃない」
「……美空?」
突然の肯定に、美空の方を向く。するとこれまでにないほど、真剣な目で俺のことを見上げていた。自然と気が引き締まる。
「ホントはさ、もっと色々言おうと思ってたんだ。なに勝手にいなくなってんのとか、女作って帰ってくるとかいい度胸じゃんとか」
「ぬぐっ」
思わず息を詰まらせる。確かにあっちの常識で言えば、俺は行方不明になったかと思ったら別の女作ってたクソ野郎だ。
いや別にユエたちへの気持ちをごまかす気はないけど、また修羅が再誕するかと身構えるが……しかし、そうはならなかった。
「でもさ……やっぱ、ハジメの顔見たら全部どうでもよくなった」
「美空……」
「それにほら、私も香織と……まあちょっとそういう関係だし? そんなに言えない立場っていうか、おあいこっていうか」
「み、美空っ!」
赤面する白崎。改めて本人の口から聞かされて、マジでそういうことになってたのだと分かって微妙な心境になった。
その片隅で「百合……いいっすね!」とサムズアップする小さな俺を叩き潰して、まだ話を続ける雰囲気の美空に意識を戻す。
「だから、要するになにが言いたいかっていうと……」
白崎の手を離した美空は、こちらに歩み寄ってきて……ポスッ、と軽い音を立てて胸の中に収まった。
「生きててくれて、ありがと。ずっと会いたかった」
そう言う美空の手は、小刻みに震えていた。それととともに顔を押し付けられている部分が濡れていく感触。
ずっと、心配していてくれたのだろう。改めて、自分がこれほど愛してくれる相手を放ったらかしていたことを自覚した。
……あー、これに関しちゃ完全に俺がバカだ。地球にいた頃は、こいつと一緒にいるため、悲しい思いをさせないため頑張ってたのに。
「……ああ、俺もだ」
だから今度こそ恥ずかしがることなく、ちゃんと抱きしめる。美空は一瞬震えて、すぐに抱きかえしてきた。
「うぐっ、ぇぐっ、ハジメ、ハジ、メぇ……!」
「随分待たせたな」
嗚咽を漏らす美空の頭を、右手で撫でる。するとさらに美空は泣いた。俺はテンパった。
「むー、羨ましい」
「……どっちの意味だ」
「えっと、どっちも?」
「なんだそりゃ……あんだけいがみ合ってたのに、随分だな白崎」
「将を射んと欲すればまず馬を射よ?」
「美空は馬かよ」
ていうかそれだと俺も射られる予定なんだが。まさかそっちはあるまいな?
「でも……私からも、ありがとう。あの時は守れ、なくて、ごめん、ねっ……!」
今度は白崎も泣き出して、美空にかぶさる形で抱きついてきた。流石にこっちはどうしようもないので、引き続き美空を撫でる。
途中から「うぇへへ、南雲くんと美空と同時にハグ……」とか言い出した白崎に苦笑しながら撫でることしばらく、美空が自分から離れる。
「ん、もう平気。情けないとこ見せてごめんね」
「いや、俺が全面的に悪いしな」
「ほんとだしっ、もう二度としないでよね! したら……刻むよ?」
「イエスマム」
無意識に敬礼する。ああ、クラスメイトたちの生暖かい目線がうざい。つーか坂上はなんで泣いてんだ。お前変わりすぎだろ。
それにあれだ、ユエたちからの視線もチクチクと痛い。最初から美空のことは折り合いがついてるので悪いことはしてないはずだけど……
ともかく、居心地が悪い。シュウジは八重樫とイチャついてて話にならんし、誰かこの空気を変えて……
「……ふぅ、香織も雫も本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、北野は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。雫もいくら恋人でも、それくらいにして、北野から離れた方がいい」
お前じゃないんだよなぁ(諦め)
「いや、何言ってんのお前? お前の出る幕ねえだろ」
明らかにズレた発言に、思わず突っ込んでしまう。あんだけ当たりが強かったクラスメイトたちでさえウンウンと頷いた。
「南雲は黙っててくれ。俺は北野と話がしたいんだ」
「いや、それ以前に助けてもらって礼の言葉もなしかよ。今の俺でもそのくらいは常識わきまえてるぞ?」
「た、確かにそれは助かった。でも北野は無抵抗の人間を殺したんだ、許されることじゃない!」
「そもそもなんでお前が許す許さない決めてんだ。そんなの本人の倫理の問題だろうが」
ド正論を言ったはずなのに、天之河はまるでわかってない、みたいにため息を吐いて肩をすくめた。こいつぶん殴ってやろうか。
「そんなの、南雲たちが俺の仲間だからに決まってるだろ?」
「…………………………はっ?」
……やべえ、こいつの言葉を理解するのに[+瞬光]が発動しかけた。もしかしなくても今の俺はあっけにとられてるだろう。
仲間? 俺と天之河たちが? 頭沸いてんじゃねえのかこいつ。どこをどう見たら俺たちが仲間なんて発想が出てくんだ。
「おー、いつもキリッとしてるハジメの頬がぷにぷに」
あんまりにもアレな発言に言葉が出ないでいると、いつの間にやらウサギがそばに来て頬を突いてきた。
それでようやく我にかえると、全員こっちにきている。三人ともまるで天之河から俺を守るように囲っていた。
「な、なんだ君達は。今真剣な話をしているから、少しあっちに」
「……くだらない男。ハジメ、もう行こう?」
「あー、そうだな。美空もいいか?」
「うん。ここ怖いし」
「あっ、待って美空。南雲くん」
バッサリと切り捨てたユエに同意して、俺は美空と仲間たちを促し早々に帰る準備を始めた。もうここにいる意味はねえしな。
さて、それじゃあパイルバンカーの杭を回収しに……
「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲たちの本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」
本当しつけえなこいつ!
つーか失礼だのなんだの言うなら、まず自分の胸に手を置いて考えろや。お前散々俺らに失礼な態度とってるぞ。
……とは思うものの、突っ込んでもまた変な正論じみた屁理屈言われそうだからな。ほら、ユエとかもう興味0の顔してる。
「おーいおい、ハジメ?」
さてどうしたものかと思っていると、ふとシュウジに名前を呼ばれた。
「あん? どうしたシュウジ──」
「さっきから話してるけど──そこに誰かいるのか?」
「……は?」
こいつ、何言ってんだ? 確かに天之河のことは毛嫌いしてるけど、今のは本当に見えてないみたいな口調で……
そこまで考えて、あることに気がついた。もしかしてと思い、いつも通り陽気に笑うシュウジを見る。
「ん、どした? 俺の顔になんかついてる? あ、昼に食ったホットケーキの食べカスとか?」
「お前……」
目の焦点が、合ってない。
こっちを見ているようで、その目は全くまともではない。おそらく本当に、今のこいつには天之河が認識できてないんだろう。
他の皆も気がついたのか、訝しげな顔をシュウジに向ける。ついさっきまで何か思いつめていたルイネまでもがだ。
特に八重樫などは青い顔をして見上げるが、本人は首をかしげるばかりだ。
「ねえハジメ、これって……」
「ああ……おいシュウジ。とりあえず、地上に戻るぞ」
今はとにかく、こいつをこの場から遠ざけないと。
「そう? なら雫、行こうか」
「え、ええ……」
にこりといつもの様に……いっそ不気味なくらいに自然に笑ったシュウジは、八重樫の手を引いて上へ向かい歩き出した。
俺たちも動き出すと、ここに残されてはたまらないとクラスメイトたちも移動を始める。
そんな中、天之河はまだ諦めてなかった。
「お、おい待て! まだ質問に──」
「天之河。色々言うと面倒臭いことになりそうだから、お前に一つだけ言ってやる」
振り返り、[威圧]を軽めに発動して有無を言わさぬ口調で天之河に話しかける。
「誤魔化してんじゃねえぞ」
「ご、誤魔化す? 俺が一体何を誤魔化してるっていうんだ!」
なんだこいつ、また気づいてないのか。
「お前は人殺しを咎めたいんじゃない。人死にが見たくなくて、だが殺されかけた以上下手なことは言えない。だから
「なっ!」
こいつは俺たちに話しかけるとき、枕詞に必ず「無抵抗の」と置いていた。まるで自分に言い聞かせるみたいに。
クラスメイトどもなら天之河のカリスマ(笑)に当てられて見逃しそうなもんだが、あいにくとそこまで馬鹿じゃない。
「殺しは見たくない、でも助けられた以上は何も言えない。だから見たくないものを見せられた、戦意を喪失したのに殺したと話をすり替えた。さも正しいことを言ってますって顔でな。まったくすげえよ、その自覚なしの息を吐くようにご都合解釈する癖」
「ち、違う! わかったようなことを言うな! それに、北野が人を殺したのは事実だろうが!」
「それがどうした?」
「はっ!?」
間の抜けた声を上げる天之河。こいつ、いつまで自分が平和な地球でヒーロー気取ってられると誤解してやがんだ?
ことここにきて、まだ地球の常識が通じると思ってるあたり大した勇者様(笑)だ。情けなさで涙が出てくる。
「ひ、人殺しは悪いことだろ! それがどうしたって、おかしいぞお前!」
「おかしいのはお前だボンクラ……あーもう、お前と話すの疲れるからこれで終わりな?」
「なんだと!?」
だからそのいちいちオーバーリアクションするのが面倒くさいんだって。
「いいか、俺たちは敵とみなした場合、俺たちに害が及ぶと認識した時点で──容赦なく殺す。そうすることで俺たちが生き残るからな。この世界は弱肉強食、甘さを見せた奴から死んでくんだよ」
「なぁ……!?」
そもそも、だ。こいつは魔人族を捕虜にしたとして、どうするつもりだったんだ?
あの様子じゃ絶対何も吐かなかっただろうし、途中で逃げ出そうとするのがオチだ。なんなら寝首をかかれる可能性が高い。
よしんば王都まで連れてったとして、そこで拷問を受けるのは確定。その時に受ける屈辱を、苦しみを、こいつは理解してるのだろうか。
いいや、してるはずがない。敗者には残酷な未来しか待っていないとわかっているのなら、無意味に捕虜にするなんて繰り返さない。
「別にこれは俺たちの価値観だ、押し付けるつもりは毛頭ない。だからお前の価値観も押し付けるな。それができないのなら……」
一瞬でホルスターからドンナーを取り出し、威嚇用のゴム弾を撃つ。それは天之河の頬をかすめ、後ろの壁に当たった。
「俺たちはお前を敵とみなし、殺す。たとえ顔見知りでも、明確な理由がない限りな」
「お、おま……」
「それ以前に、ここには美空と八重樫を迎えにきただけだ。あとは、白崎に義理を返しにな。仲間だなんだ寝言言ってる前に、それをそのネジの外れた頭で理解しとけ」
それだけ言ってドンナーを戻し、美空たちの方に振り返る。すると、白崎が複雑そうな目で俺を見ていた。
ま、それが普通の反応だろうな。俺だってこれが物騒な考えだってのは自覚してるが、曲げたいとは思わない。
さて。肝心なのは美空の反応だが……
「ん、話終わった? じゃあ行くよ」
「……あっけらかんとしてんな、お前」
「別に当然のこと言っただけだし。そもそも初日のエボルトの話でそれくらいの覚悟はしてたしね」
我が彼女はとても強かった。こんないい女、ユエたちを除けば地球にはいねえな。大切にしよう……刻まれないためにも。
そんなことを考えつつ、呆然としている天之河を放置して俺たちはホルアドの街へと帰るのだった。
感想をくれると嬉しいゼ!