ハジメ「おう、前回に引き続きハジメだ。前回は……なんていうか、ひどかったな」
ユエ「ん、あんな風に思ってたなんて知らなかった。てっきりとっくの昔に完結してるものかと」
シア「あの人も悩んでたんですねぇ…」
エボルト「………あいつも人間ってことだ」
ハジメ「まあ、あいつに任せよう。今回で街からは出発だ。それじゃあせーの、」
四人「「「「さてさてどうなる再会編!」」」」
……あれから、しばらく経って。
南雲くんたちは、とりあえずギルドに向かった。なんでも、支部長から受けた私たちの救助依頼の報告に行くらしい。
それに香織と石動さんがついて行ったのもあって、クラスメイトたちはカルガモの親子みたいにくっついて行った。
ただ、光輝だけは先に宿に返した。シューに色々言われて困惑していたし、メルドさんたちと一緒に休ませておいたほうがいいだろう。
そして、私は……
「っと……見つけた」
町の外れにある、小高い丘。以前ホルアドにいた時、よくピクニックに来た場所だ。
そこに生えている一本の木の根元で、シューは座り込んでいた。その背中からは、負のオーラが滲み出ている。
「シ……」
近づいて声をかけようとした時……不意に、シューの後ろ姿がぶれた。そして次々と別の姿に変わる。
白い髪の男、大きな金色の獣、薄汚れたローブを纏う男……そして、茶色いトレンチコートを着た、男の人。
それが全て重なって、シューのいる場所に座っている。思わず目をこすり。次に目を開けた時には消えていた。
……なに、今の。幻覚かしら?
「ここにいたのね」
不思議に思いつつも、シューに声を掛ける。
ゆっくりと振り返るシュー。そうして見えた顔は、はっきり言ってとてもひどかった。
いつも通りに笑っているけれど、さっき以上に崩れかかってる。もし下手なことをすれば、その場で壊れて消えてしまいそう。
「おー、見つかっちまったか」
「まあね。雫センサーをなめないで頂戴」
なんだそりゃ、と笑うシューの横に腰掛ける。いつかの夜みたいに、ぴったりと肩を密着させて。
「南雲くんたちが、あと一時間もしたら出発と言っていたわよ。その間に機嫌直さなきゃ置いてくって」
「ワーオ、ひでえ扱い。全く厳しいねぇ」
ははは、と笑うシュー。それすら取り繕ったものに見えて、私は思わず顔を歪める。
私はここに、シューを連れ戻しに来た。同時に励ましにも。南雲くんたちに頼まれたというのもあるが、私自身がそうしたいからだ。
『貴方が行ってくれ。弟子から始まった私よりも……きっと、恋人の貴方の方が良いだろうから』
あの赤髪の女性にもそう頼まれたわ。
その時の彼女の顔は、どこか複雑で何かを無理に飲み込むようだった。彼女とは話す機会がありそう。
「「…………………………」」
で、ここに来たわけだけど……正直、かける言葉が見つからない。いつも話しているのは、わけが違う。
シューの根幹に関わる問題、一番デリケートな部分。そこが今揺れていて、中途半端に何かを言えばヒビを入れてしまう。
愛しているからこそ、私にシューは傷つけられない。
「……あいつらにゃ、迷惑かけちまったな」
さて、どうしましょうかと考えているとシューから言葉を発した。
「俺が癇癪起こしたせいで、空気最悪ーって感じだ。ハジメたちに合わせる顔がねえ」
「…………そう」
確かにあの後、雰囲気はまさしくお通夜状態だった。皆沈黙して、シューの言葉に衝撃を受けていた。
それはきっと、あそこまでシューが怒るのを見たことがないのもあるんだろう。この人は、そういう風に演じてきたから。
それを、盛大に崩した。原因は光輝とはいえ、流石にあれほど派手にやったら流石のシューも……
「きっと失望させた、よな。ハジメたちのこと」
「…………はい?」
素っ頓狂な言葉が聞こえて、思わず振り返る。
するとシューは、とても悲しげな顔をしていた。まるで全てに憂いたとでも言わんばかりの顔だ。
「こんな迷ってばっかで、ろくに自分の葛藤もなくせねえやつだ。流石のあいつらも俺のこと見限る可能性だって……」
「………………はあ」
何だかとんでもない勘違いをしているおバカな恋人に、ため息が出てしまった。この人、何言ってるのかしら。
てっきりやり過ぎたことを反省してるのかと思ったけど……これ違うわね。見当違いの方向に落ち込んでるだけだわ。
さっき愛しているから傷つけたくないって言ったけど、一時撤回。ちょっとお灸をすえる必要ありと見た。
「シュー、こっち向きなさい」
「……なん「ほいっと」あべしっ!?」
なので、かるーくビンタをお見舞いした。スパーンと小気味良い音が鳴って、シューが倒れる。
そのままゴロゴロと丘から転がり落ちていった。そして麓で止まって、グデーンと伸びているのに近づていく。
「思ったより威力でたわね。ハザードレベル上がったかしら」
「いやいや雫さんホワイ!?何故にビンタ!?」
がばっと起き上がったシューは、さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへやらそうまくし立てる。
「よいしょっと」
「ゴールデンスパークっ!?」
なので、丁寧に帽子を取って直接脳天にチョップを入れた。頭を抑えてゴロゴロ転がり回るシュー。
「どう? 私の心境わかった?」
「で、できれば詳しく説明プリーズ……」
「そう、わからないのね。なら追加よ」
「モアイ像っ!?」
立ち上がりかけたので、どすんっとお腹の上に乗ってやる。あ、これ案外いいわね。ちょっとくせになりそう。
「ぐぬぬ……何故こんな仕打ちを。いやご褒美か?」
「あら、ちょーっと顔の方に動きたくなったわね」
「やめろください窒息死しますっていうかそろそろ本当に理由教えて」
「仕方がないわね、勘弁してあげるわ」
お腹の上から退いてあげると、シューは勢いよく起き上がってふぅ、と息を吐く。
そしてこちらにジト目を向けてきた。それを受ける私はどこ吹く風、全く怖くない。
「で、何故に俺はビンタされたり金縛りもどき受けたの?」
「頓珍漢なこと言ってるからでしょ。誰も失望なんかしてないのに」
「……………………え? マジで?」
本当にそうなると思ってたのね……これはもう1発くらい入れてもいいんではないかしら。
「いやあの、すいません雫さん。謝るんでその振り上げた壊れかけの刀の柄頭下ろしていただけると」
「まったく、何が見限るよ。南雲くんたちに限ってそんなことするはずがないでしょう」
「痛い、痛いっす。わかったから止めて、脳天にクリーンヒットしてるから。超速再生発動しちゃってるから」
すぐに治せるのをいいことに、ポカポカと殴る。こうしているとゲームセンターでモグラ叩きしてるのを思い出した。
しばらくやって満足すると、また隣に座る。そしてシューの腕にぎゅーっと強く抱きついた。
「えぇー何この怒りと甘えの切り替えの早さ……」
「いいから、じっとしてなさい」
数十分ぶりのシューの腕を堪能する。うん、この細いながらもちゃんと筋肉がついててがっしりしている感触、良いわね。
先ほど同様、しばらく沈黙が空間を支配した。でも先ほどより断然軽いもので、まあその原因は私なわけだけど。
風が吹き抜け、雲が動き、空は青く澄み渡る。その下でただ、シューの熱を堪能する。ようやく戻った、その熱を。
「………………」
「雫?」
「南雲くんたち、呆れてたわ。でもそれは、あなたが一人で悩んでたから。決して失望なんてしてなかった」
シューが息を飲むのが聞こえた。それほどに衝撃だったのだろう、自分が見捨てられていなことに。
まったく、本当に自分に自信がないんだから。その自己評価の低さの戒めとして、シューの足に私の足を絡ませてやるわ。
「普通、あんなの聞いたらなんだこいつ?ってなりそうなもんじゃねえかい?」
「じゃあ普通じゃないんでしょう。そもそも、あなたに関わった時点で普通じゃないわよ」
「酷いっ!酷いわ雫ちゃん!」
ふざけた答えを返すシュー。それが先ほどよりも、いつもに近くて。私は少し微笑んでしまう。
「ねえ。前に言ったわよね、一人で全部抱え込まないでって」
「ああ、そうだな」
「その時、私はこうも言ったわ。私がずっと一緒にいるって。その気持ちは、今も変わってないわ」
あの日、月の光の下で私は言った。あなたが全ての苦しみを、責任を背負う必要はないと。
確かに私たちは、この人に守られる側なのかもしれない。でもせめて、その重荷だけは一緒に背負いたいと願っている。
「…………怖くないのか?こんな俺のそばにいて」
人殺し、化け物。光輝にそう言われたのが効いてるのか、シューは泣きそうな目で聞いてくる。
それはまるで怒られるのを恐れる子供のようで、私はそっと手足を解くとシューの後ろに回り、肩を引いて膝の中に倒す。
そして頭を撫でる。あの日と同じように、優しく。
「……俺にこんなことしちゃっていいのかよ」
「確かに、人殺しは良くないことだと思うわ。私だって何も思わないで人を殺すシリアルキラーなんて願い下げよ」
「……そりゃそうだな」
流石に殺人鬼と嬉々として一緒にいる趣味はない。いつ自分が殺されるのかわかったもんじゃないわ。
「でも、あなたは違う」
けれど、シューはそうじゃない。
「殺してしまったことに、切り捨ててしまったことに苦しめる人。そしてその後悔を飲み込んで、相手の分まで私たちを守ってくれる人」
この人は、どれだけ強くても救えないものがあるのがわかっていて。
救えないならせめて、自分の手にあるものだけは守ろうと、そう思い生きている。何度も悩んで、悩み続けながら。
「そんな貴方だから。自分の弱さから逃げないで向き合える貴方だから私は、誰より人間らしいと思うの」
「……俺が人間らしいねぇ」
鸚鵡返しに言うシュー。それから何度も反芻して、でもしっくりこないのか渋い顔をする。
「納得できない?」
「……そう思うには、俺はあまりに機械的に殺しすぎた。 この後悔は、本当なら持つ資格すら「はいギルティ」お星様ッ!」
思い切りデコピンしてやると、シューは額を抑えて悶えた。
「ぐぉぉ……」
「んっ」
「んぐむっ」
その手をどかして、邪魔できないように掴んでおくとキスをする。
「ん……ふ。なあ、さっきからデレとの緩急が激しくないですかね」
「貴方がネガティブなこと言うからよ……ねえ、シュー。悩まない人なんていないのよ。何にも怯えない、苦しまない人なんていない。それはきっと、人じゃない」
機械的と言うけれど、機械はあんな風に涙を流さない。本当に心ない化け物なら、悩むことすらできない。
それでもきっと、この人は否定するのだろう。後悔ばかりして、前を見るのが怖くて、下を向き続けるんだろう。
だったら、私が肯定する。他の誰がシューを罵ったって、私は人間だと言ってみせる。
「もう一回、はっきり言うわよ。一人にならないで。きっと、支えるから」
たとえどんなにこの人が傷ついても、血に染まっても。そこに心がある限り、私は絶対離れない。
シューが悩める人である限り、私はずっと愛してる。だから一緒にいるわ、この人生でも、次の人生でも。
それが私の、八重樫雫の唯一の在り方だから。
「……頑固だなぁ」
「貴方には言われたくないわ」
「だな………………ありがとう」
「どういたしまして」
私が笑うと、シューも笑う。これでいつも通り。フリじゃなくて本気の落ち込みなんて、この人に似合わないもの。
それからしばらく、無言が続いた。私はシューの頭を撫でて、シューはおとなしくなすがままになっている。
思えば、こうして一緒にのんびりするのも半年くらいぶり。散々苦労してきたんだもの、これくらいのご褒美がないと、ね。
『〜♪』
「あ、電話だわ」
ポケットの中で震える携帯を取り出して画面を見ると、南雲くんだった。時計を見ると、もう一時間たっている。
「もしもし?」
『おう、八重樫か。こっちの準備は整ったが、あのバカはどうだ?』
「紫色の不機嫌な猫さんなら、私の膝の上でのんびりしてるわよ」
「にゃーん、なんつって」
手首の曲がったゆるい握りこぶしを優しく包んで、もう行くことを南雲くんに伝える。
どこか安堵したような声音で南雲くんは通話を切って、それと同時にシューが立ち上がった。
「うし、行くか」
「もういいの?」
「おかげさんでな……なあ、雫。一緒に来てくれるか?」
「うーん、そうしたいところだけどね……」
面倒なことだが、あの状態の光輝を放っておけない。そろそろ自分で整理つけられるくらいになってほしいんだけど……
「まっ、そこはあっち行ってから考えるかな、っと」
「わっ」
いとも容易く持ち上げられる体。驚いてシューを見れば、いたずらげにウィンクした。
さっきのお返しに苦笑している間に、シューの瞬間移動で一瞬に景色が切り替わる。見覚えのある場所だ。
「ここは……街の入り口?」
「おーっす、お待たせー」
「ん、おう。馬鹿か」
「開口一番にそれとはひどくねえですかい?」
腕組みして立っていた南雲くんに、私を下ろしながらシューがすっかりいつもの調子で答える。
「パパ!」
「おーリベル、我が愛娘よー!」
そんなシューに、旅の途中でできたという娘さんが走り寄った。シューは笑顔でしゃがんでリベルちゃんを抱き上げる。
「パパ、もう平気なの……?」
「心配してくれてたのか?パパは平気も平気、元気マックスだぜー!」
「ふみゃー♪」
ウリウリとリベルちゃんの頬に自分の頬を擦り付ける姿は、まさしく父親だった。むう、私との子供が最初が良かったわ。
「それにしても可愛いわね、あの子……」
「だろう? 自慢の娘だ」
隣から聞こえた声にそちらを見る。そこにはシューのことをマスターと呼んでいた美女がいた。
「あなたは……確か、ルイネさん?」
「ネルファから聞いたか。ああ、私はルイネ・ブラディアだ。以後お見知り置きを、正妻殿」
「正妻殿、ね」
聞いたところによると、この人は前世のシューに唯一女として愛されていたらしいけれど……
「あなたとは一度、しっかりと話をしてみたいわ」
「ああ、私もだ」
微笑みあって、軽く握手する。普通なら険悪になるのでしょうけど、シューが幸せになるなら彼女の存在はむしろ喜ばしい。
シューを一個人として愛して、肯定してくれる人は一人でも多い方がいいもの。
「ったく、心配する必要もなかったか」
つぶやきが聞こえてふと見ると、薄く笑う南雲くんの近くには……こう、スルーしたい雰囲気の香織とユエさんが睨み合っていた。
「ふふふふふふふ……」
「あははははははは♪」
ガスガスと杖の石突をユエさんの足に振り下ろす香織に、ユエさんはドスドスとボディーブローを入れている。
香織にがっちり腕をホールドされている石動さんは呆れ顔で、ユエさんの袖を引っ張るシアさんは涙目だった。
極め付けに、相変わらずお通夜状態のクラスメイトたちに青い顔で南雲くんを睨む檜山くん、面倒臭げな顔の御堂さん。
「えーと……これ、どういう状況?」
「ちょっと一悶着あってな」
「あ、雫ちゃん。私と美空、ハジメくんについていくことにしたから」
「あ、そう」
それはなんとなく予想できていたから、別に驚かなかった。むしろようやくかと安堵する。ユエさんとの関係がちょっと心配だけど……
「で、そこのバカはくっだらねえ悩み事は終わったか」
「んー……なあ。お前らさ、俺のこと」
「悪いが」
まだ立ち直りきれていないのか、あのことを聞こうとするシューに、南雲くんがゾッとするような鋭い目を向けた。
「その質問は、たとえお前でも一発殴らせてもらう。本気でな」
「……りょーかい。ハジメのゲンコツは雫のデコピンの次に痛いからな」
おどけるシュー。ならいい、と南雲くんは笑った。励ました側として、ほっと胸をなでおろす。
「なになに?パパとおじさん喧嘩?」
「パパ、ケンカはダメなの」
「いや、別にしてないからな。で、この話は終わりとして、八重樫もついてくるのか?お前もある程度戦えるし、シュウジが守るだろうから心配いらんと思うが」
「それは……」
ちらり、と宿のある方向に目を向ける。
光輝さえなんとかなれば……そう悩んでいると、誰かに肩を叩かれた。
「……?」
視線を下ろすと、そこにいるのは御堂さん。赤いドレスからいつもの装いになった彼女は、私に微笑む。
「行きなさいな。あの愚種と彼らの世話はこちらで承ります」
「……平気?」
主に光輝が死んでしまわないかという意味で。
「まあ、知っていて素知らぬふりをしていた私にも責任の一端の一端はあります。せいぜい調教しておきましょう」
「ほ、ほどほどにね?」
にこりと笑う御堂さん。どうしましょう、全く信用できないわ。
ま、まあ、それはともかく……これで最大の懸念は消えたわけだけど。それでも生来の責任感が邪魔をする。
本当に、このままついていっていいのか。御堂さんに皆を任せて大丈夫か(性癖的に)、鈴がおっさん化しないか、etcetc……
「いってこいよ、雫」
「龍太郎……」
「ずっと待ってたんだろ?こっちは俺が頑張るからよ、北野と一緒に行け」
「ほら、この金色ゴリラもそういってますわ」
「おうこら御堂喧嘩売ってんのか?売ってんなら買うぞ?」
「ちょ、龍っち!御堂さんにそれはまずいって!」
鈴に押さえ込まれる龍太郎に苦笑しながらも、まだ踏ん切りがつかない。理性と欲望が私の中でせめぎ合っている。
「でも……」
「ああもう、頑固ですわね。ほら!」
「わわっ」
こちらを見ている野次馬に見られない角度でお腹に触手が回されて、軽く後ろに投げられた。
「おかえりさん」
「あ、シュー……」
気が付いた時には、シューの腕の中だった。陽気な笑みを向けられ、微笑み返す。
でもそれは一瞬で、すぐに真剣な顔になった。あまりの変わりように、どきりと胸が高鳴る。
「雫、俺からも頼む。一緒に来てくれ」
「……もう、ずるいわ。そんな顔で言われたら、断れないじゃない」
「なら決まりだな」
とても嬉しそうに笑うシュー。全く、ここまで喜ばれると彼女冥利につきるわ。
「それじゃあ……お願いね、御堂さん」
「ええ、お任せを」
「北野、雫を頼んだぜ!」
「おーう、お前も谷口と仲良くしろよ」
「? 何言ってんだ、谷口とはもう以心伝心だぜ?」
「ふみゃっ!?」
御堂さんに加えて、龍太郎もサムズアップする。今の龍太郎になら任せられるでしょう。
あと鈴、からかわれたからって真っ赤な顔を龍太郎のお腹に埋めるのはやめなさい。それだとバレバレよ。
南雲くんが何か言ったのか、クラスメイトたちからは特に反対意見が出ることなく、そのまま出発することになった。
街の外に出て、南雲くんがハマーみたいな黒い車をどこからか出す。
「一気に三人も増えたからな。あれ使うか」
リモコンみたいなのを取り出して、南雲くんは車に向けてボタンを押す。すると、音を立てて車が変形して、ひとまわり大きくなった。
「もうそろそろ寝れてきたけど……前に一緒に観た映画の乗り物みたいね」
「あー、あのM◯Bのやつね」
「ハンドルはコントローラーじゃねえぞ」
軽口を叩いて、運転席に乗り込む南雲くん。香織といがみ合っていたユエさんをはじめとして他の人も乗った。
「お先にどうぞ、お嬢様方」
「じゃあお言葉に甘えて」
扉を開け、慇懃無礼にお辞儀をするシューにお礼を言って車に乗る。
車内は、地球にある車と何も変わりがなかった。改めて考えると、なんで異世界なのに車に乗ってるのかしら……
「全員乗ったな?それじゃあ出発だ」
その言葉とともに、南雲くんは車を発進させた。半年ぶりの感覚にちょっと驚き、シューの腕を掴む。
「どこに向かうの?」
「スタッフー」
「誰が観光ガイドだ……【グリューエン大砂漠】の火山だよ。そこに大迷宮の一つがある」
「「「大迷宮?」」」
首をかしげる私と香織、美空に南雲くんは旅の目的を説明してくれる。この世界からの帰還方法を探すという、壮大な目的を。
「なるほど……長い旅になりそうね」
「ま、のんびり行こうや。必ず守るからよ」
「ふふ、お願いね」
自信ありげに笑うシューに、私も笑い返す。
そうして、私たちは長い間お世話になったホルアドを後にして、シューたちの旅についていくこととなった。
あと数話続きます。本当なら前回で終わるはずだったので、幕間はなしで。
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