清らかなりて明けの明星 作:兎餅
今回はほのぼの回です。
それと、今更なのですがクロスオーバーのタグ入れてると思ってたら入ってなかったです。すみませんでした( ˊᵕˋ ;)
ある日の昼下がり。
昼食を終えたサーヴァント達は、皆それぞれの時間を過ごしていた。
日課のトレーニングをこなす者も居れば、真昼間から酒を仰ぐ者やライブコンサートの為にボイトレをしようとして止められる者まで、このカルデアでは千差万別の日常がそこかしこに転がっている。
そんな中で、小さき三つ影が愛らしく元気に集合していた。
「喜んでくれるかなぁ?」
「きっと大丈夫よ! ええ、心込めて皆で作ったんですもの!」
「そうです! ちょっと失敗もしちゃいましたが……きっと大丈夫な筈です!」
「うん! そうだね。よぉし、行こう!」
上から順にジャック・ザ・リッパー、ナーサリー・ライム、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィである。
万夫不当、古今東西の英雄が集う天文台において数少ない子供組の三人だ。
三人が話し合っていたのは手に持つ小さな箱の中身の事。
箱の中は、今この場には居ないがポール・バニヤンを加えた四人で作ったケーキが入っている。
種類としてはシンプルなイチゴのホールケーキ。今日この日のために藤丸立香やエミヤ、ブーディカに教えて貰って子供達で作った大事な一品だ。
その送り先は、驚くなかれ安部清明である。
実は清明、このカルデアの子供達からかなり慕われており。特に古参であるジャックは清明の事をおじいちゃんと呼び、まるで本当の祖父の様に懐いていたりする。
頼光の幼少期に纏わる逸話からも分かる通り、清明自身も子供好きである為、よく子供達に飴や
「着きました!」
「ドキドキするわね」
「う、うん。よし、行くよ」
狭いカルデアでは、清明の部屋に着くのに時間は掛からなかった。
ドキドキと、感じたことの無い緊張感と不安が三人の内を巡る。
特異点修復において戦場の只中で感じる物とはまた違った、恥ずかしいような楽しみなような、そんな感じのもの。
『初めて誰かに物を送るというのは、少しばかり勇気がいるものだ』
とは、ケーキ作りを手伝ってくれた厨房の赤いおじさんの言葉だ。
なるほど、これは確かに勇気が必要だと、ジャックは思った。
幼い三人はプレゼントを送られることはあれど、誰かにプレゼントをあげるというのは余り経験が無い。
オルタリリィはサンタという経験上その限りではないが、それはそれクリスマスの話だ。
クリスマスではプレゼントを与えるのが常識であるが故に、それに倣ったに過ぎない。
だが二月二一日、今日という日は別だ。クリスマスでもなければ他の誰かにとっての祝日という訳では無い。
誰か個人のためだけの祝い事に、それも合作とはいえ初めての手作りの品を送るのだから、この緊張も然るべきものだろう。
一歩。扉の前に立つと、センサーが反応して自動的に開いた。
「お、おじゃましまーす……」
声を抑える必要は無かったが、オルタリリィは自然とそうなってしまった。
中へ入ると、出迎えたのは優しい匂いがする広い和室だった。
生けられた美しい花に、すべすべの畳、壁に吊るされた掛軸には綺麗な絵が描かれている。
清明が教えてくれたその絵は鳥獣戯画というらしい。
いつ見ても不思議な絵だと、オルタリリィは思った。
「居ないね」
「きっと奥にいるわ。おじ様のことですもの、今頃小鳥でも見ながらお茶しているのだわ」
清明がこの和室に居ないことを確認した三人は、さらに奥へ続いている襖へ手を掛ける。
襖の奥には廊下が続いており、部屋も幾つか存在していた。
キョロキョロと、オルタリリィの目が忙しなく動く。
実はオルタリリィは、古参のジャックやナーサリーと違って清明の部屋に来たことがあまり無い。
それゆえ、物珍しさと好奇心から視線が止まらないのだ。
ふと、オルタリリィはある事を思い出す。
外見的にも物理的にも可笑しい程の広さを誇る清明の部屋は、一種の結界だとマシュが言っていたのだ。
空間を無理矢理拡張させ、収まらないはずの異空間を無理やり形成し貼り付け、それがあたかも自然であるかのように世界の認識を誤魔化しているのだとか。
だから部屋の中なのに空もあれば生物も存在しているらしい。
はっきり言ってオルタリリィからすればちんぷんかんぷんなのだが、ただ何となく凄いことなんだろうという事は理解出来た。
と、そんな事を思い出しているうちに、一つの襖の前に辿り着いた。
これは縁側に繋がっている襖だ。
ゴクリと、ジャックが生唾を飲み込みいくよ、と意気込む。
そして……バッ! と勢いよく襖を開けて──。
「おじいちゃんお誕生日おめでとう!」
「おじ様お誕生日おめでとうなのだわ!」
「清明さんお誕生日おめでとうございましゅ!」
その勢いのまま、元気よく声を揃えた。
若干一名だけ噛んでしまい、その事に顔を赤くしてしまっているが、勢いに任せて有耶無耶にしようとしていた。
飛び込んできた幼い華達を前に、清明は驚くこと無く三人を受け止めた。
「くふ、威勢のいいことだ。態々ここまで祝いに来てくれたのか?」
「うん!」
「くふふ、そうか。ありがとう、感謝しよう。だが、あまりはしゃぐものでは無いよ。手に持っているそれは大事なものなのだろう? 落としては元も子もあるまいよ」
バッ、と清明の胸元から勢いよく顔を上げるジャックは慌てて手に持っていたケーキの箱を確認する。
どうやら無事なようだ。良かったと、ほっと一息つくと体を離した。
「あのねおじいちゃん、今日おじいちゃんのお誕生日だから皆でケーキ作ったの」
「ほう、ケーキか。それはお前達三人でか?」
「うん、あとバニヤンも一緒に」
「ふむ、それは楽しみだ。だがバニヤンが居ないようだが……?」
「バニヤンはちょっと、おかあさんと一緒にお仕事で来れなくなっちゃった」
「ふふ、そうか。それは残念だ」
フッと笑い、悲しそうな顔をするジャックの頭を清明は撫でた。
かつて幼い頃の頼光にしていたように、優しく元気付けるように。
頭を撫でられたジャックはすこし擽ったそうにしながらも、嬉しいのか少しほの暗く翳っていた顔が晴れていく。
それを見た清明は、大丈夫だと判断し手を離した。
「では、早速だが馳走になるとしよう」
清明がそう言うと、少し慌てたようにオルタリリィが声を上げた。
「そ、その、今回色々と初めてで上手く出来たかどうか分かりませんが……」
「なに、きっと大丈夫だろうよ。それに、贈り物とは何よりも気持ちが大事なのであろう? なあ、サンタ殿?」
「──は、はい!」
「くふ。では、中へ戻ろうか」
清明が立ち上がると、続くように子供達は廊下へと戻っていく。
風の子軽やかに、賑わい跳ねる様相まさに童唄。
琵琶の風情にも負けず劣らずの雅楽に聞き入りながら、清明はゆったりとした足取りで子供たちの後を追った。
☆
「く、何故私がまたこんな目に……」
恨みがましく清明を睨みつけるているのは、毎度巻き込まれるでお馴染みの玉藻だった。
何故ここに玉藻がいるのか。それを簡潔に述べるとこうである。
きよひー&おっきーこと清姫と刑部姫、それに鈴鹿御前を加えた四人で談笑していた所、突然玉藻の足元に方陣が出現。
あまりの出来事に一瞬フリーズしたが、その方陣は
が、悲しきかな。そんなことはお見通しとばかりに、干渉してきた玉藻の魔力を会して呪詛返しを行い動きを封じられてしまう。
そしてその顛末が、清明の元への強制召喚という結果であった。
「あ、おばあちゃん」
「どぅわあれがおばあちゃんですか! ちょっと、貴方のお陰で私要らない火傷を負いそうなのですが……何とかしてくれません?」
「ふふ、そう大差あるまい。さして俺と歳も──」
「そおい!」
その先は言わせないとばかりに、魔力と呪詛が濃密に圧縮された氷柱を清明目掛けて飛ばす。
しかしそれは清明が何をするでもなく、触れる直前になって霧散してしまった。
そして玉藻の攻撃が通じなかった事に、ニヤニヤと清明は笑みを向けてくる。
ああ、なんと腹の立つ顔なのだろうか。もし視線だけでこの男を呪えたなら。
玉藻はそんな事を考えずには居られなかった。
「はぁ。それで次は一体何の用なんです?」
「この光景を見て理解が出来ないほどの愚鈍でもあるまい?」
「あのですねぇ、私は給仕ではありませんので。お茶なら蜜虫ちゃんにでも……」
「くふ、断る。存外にも俺は──狐の茶が好物らしいのでな」
間髪入れず、真剣な顔でそう言われてしまう。
「──っ、はあ。もう、仕方ありませんね。どうせ、淹れるまで返してはくれないでしょうし。はいはい、やりますよ」
分かっていたが、結局自分が折れる形となってしまった。
本当に清明という男は苦手だと、玉藻はつくづく思う。
そして同時に、食い気味で言われた今の言葉に、自身の霊基が喜んでしまっているのにも気付いていた。
(まったく……。昔から口だけは上手い男なんですから)
そういつだって口が回る男だった。
在りし日の真葛をからかい怒らせたかったのかと思えば、途端に口説き文句を並べ始めたり。
相手にしている方が馬鹿らしくなるほど、口達者に飄々と気持ちを見透かしてくる。
何度苦労させられたことか。
霊基に刻まれた記憶を巡る度に、ため息が漏れそうになった。
そして、このままではダメだと、かぶりを振ってさっさと茶器の用意に掛かる。
いつか泣かす。そう心で呟きながら、玉藻は無自覚に微笑みを浮かべていた。
「さて、頂くとしようか」
清明が皿に置かれたデザートフォークを手に持った。
ちゃぶ台の上には人数分の小皿が並んでおり、小皿には均等に切り分けられた不格好なケーキが置かれている。
ゆっくりとケーキに向かっていくフォークを、ちびっ子三人衆は固唾を呑んで見守っていた。
まるで世界がスローモーションにでもなったかのようだと、三人は錯覚する。
ジャックは緊張しながも恥ずかしそうに。
ナーサリーはワクワクと擬音が視認できそうなほどの笑顔で。
そしてオルタリリィはというと……。
──早く食べて欲しい。けれど、やっぱり食べて欲しくない。でもせっかく作ったのに……。いやでもそれで不味かったら……。
そんな自問自答を不安げな顔で先程から繰り返していた。
そして遂に、ケーキが清明の口に運ばれた。
「「「……ッ」」」
一回、二回、三回、規則正しく咀嚼していく清明の顔からは感想が伺えない。
もしや不味かったのだろうか? ただ黙々と食べる清明を見て、三人の頭にそんなことが過ぎった。
「ふむ、少々甘いな。……だが、ああ、美味いよ。よく頑張ったな三人とも」
フッと口元を緩ませ笑った。
「「「──や……ヤッタァァア!!」」」
ジャック達は声を重ねて、飛び上がった。
余程嬉しいのだろうキャッキャッと笑いながら、飛び跳ねる。
その姿は容姿相応であり、とても人理を守護する英雄とは思えない。
もしここにアタランテがいれば鼻血を吹き出すであろう光景だ。
そんな幼い子供達を眺めていると、不意にある記憶が清明の脳裏を通り過ぎた。
それは二人の子供の記憶。庭を駆け回り、快活に動き回る童のうたごえ。
真葛と同じ髪の色をした二人の少年の記憶だった。
「──くふふ」
「突然どうしたんです?」
「いやさ、昔を思い出しただけだよ」
「……ああ、そういう。それにしても、ほんと子供好きですね」
「なんのことだ?」
「甘いの、あまり得意ではないでしょうに」
「くふ。だからこそ、お前の茶が……っ」
湯呑みに入った茶を飲んだ時、僅かばかりに清明は動きを止めた。
そして次にはしてやられたとばかりに、静かに笑みを零す。
「おや、どうかしたんですか?」
玉藻の顔を見れば、しらばっくれるように小首を傾げていた。
「こちらのセリフだ、狐。お前は、俺を嫌っていると思っていたのだがな」
「いやーん、タマモ何言ってるのかわかんない☆ …………でも、そうですね、私も昔の事をほんの少し思い出しただけです」
そうか。とただ一言だけ答え、清明は視線を湯呑みの中の茶へと移した。
この茶葉は切れていたはずなのだが……と、笑みと共に茶を喉の奥で転がす。
その茶は、夫婦となった真葛が初めて清明へ出した茶葉のものだった。
あの時、あの瞬間より清明は茶というものが好きになったのだ。
「おじいちゃん!」
「む、どうした?」
自然な動作でジャックは、あぐらをかいていた清明の元へすっぽりと収まる。
「今度は一緒にケーキ作ろうね」
口元にケーキの滓をつけながら、そんな眩しい笑顔を咲かせた。
「あぁもう、ほらお口、付いちゃってますよ」
玉藻はやれやれと、そんな愛らしい童女の口元を拭き取る。
それが終わるとジャックはグイッと、玉藻の腕を引き寄せ。
「おばあちゃんも一緒に、皆で!」
「だから私はおばあちゃんでは……もういいですそれで」
結局否定することを諦め、しかしながら玉藻は困ったように美しく微笑んだ。
童たちに囲まれる二人の姿は、傍から見れば仲睦まじい家族のようであった。
立香達は別のタイミングで誕生日を祝っています。
なんだかんだ言って、プレゼントを用意している玉藻なのであった。
というか最後の玉藻のお母さんムーブよ……。
更新頻度が遅くて申し訳ありません!
ネタが思いつき次第描いて投稿していきますので、気長にお待ちいただければ嬉しいです。