なんにでも変身出来るヒーロー志望ですが何か 怪! 作:輝く羊モドキ
「急に笑い出すんじゃねえよ。気持ち悪いな」
俺は遊戯 融剛。プロヒーローの子供であり、ヒーロー志望だ。目の前に居るコイツとは小学生の頃からの仲だ。
化太郎は俺の事を親友と呼んでくれる。ありがたい事だ。俺も化太郎の事は親友だと思っている。
……あまり口には出さないけどな。でもそれだけじゃないんだ。
昔話をちょっとだけしようか。俺と、小さなヒーローの話を。
* * * * *
俺が豆粒くらいの時、有体に行って俺はクソ人間だった。両親はプロヒーロー。個性は超強力。そして当時から軽くとはいえプロに鍛えられた肉体。少なくとも同世代の間では最強だったからな、そりゃもう増長しまくった。
小学校に入ったばかりの時でも俺の性格は変わらない。むしろさらに醜さは増大していた。その時くらいから自身と他者を一時的に融合することが出来るようになり、瞬間的な強さも激増した。
気に入らないヤツは力で脅し、従わない奴には暴力を振るう。そうして手下、取り巻きを増やしていった。今思えば典型的なヴィラン予備軍で、本気でヒーローを目指しているような子供じゃあなかったよ。
そんな小学校生活をしていたある日。転校生がクラスに来た。化太郎だ。コイツは第一印象からして衝撃だった。どういう挨拶をぶちかましたと思う?
『今日から新しいお友達がこの学校に来ました。皆さん仲良くしましょーねー!』
『『『 はーい!! 』』』
『いい返事ですね!それじゃあ化太郎くん!教室に入って来てくださーい!』
『化太郎くーん?』
『わーたーしーがー!!』
バリィィィンと飛び散るガラス片。
『教室の窓から入ってきた!!』
HAHAHA!!とやたらアメリカンな笑い声。
そして、この日本において最も有名なヒーローが目の前に現れたのだ。
あの時の担任の先生の顔は忘れられねえな。目の前に隕石でも落ちて来たような、宝くじに当たったかのような、あんな顔は。
もうね、オールマイトかよと。普通に扉から入って来いよと。突っ込むことも出来なかったね。画風が違い過ぎる。
今だからわかるけど、アレはアイツなりのつかみのギャグらしかった。効果は抜群だったけどな。そして改めて、アイツ成長してねえなとも思う。
そうしてすぐに変身を解いて普通に自己紹介して普通に空いてる席に座った。先生が動き出したのは授業開始の鐘が鳴ってからだった。
俺は思った。アイツを俺の側近に取り上げ、何時でもあの『偽マイト』と融合出来るようにすれば、中学生すら簡単に怖気づかせることが出来るってな。そうだろ?いきなり目の前の奴が筋肉ダルマに変貌すれば誰だって驚く。そのスキを突けば、俺の実力ならどんな相手も余裕だからな。
その日から化太郎籠絡作戦が始まった。授業終了の鐘が鳴り、休み時間に入ったとたんすぐにアイツの周りに人だかりが出来た。まあ当然だな。転入生というのもあるし、何よりあのふざけた個性だ。もう一度オールマイトを間近で見たいって思うのは誰でも思う。
だが、残念だったな。ソイツは俺が目を付けているんだ。
『お前等、退け』
その一言で人だかりはモーゼが海を割るかのごとく離れて行った。ガキ大将、つまり俺に目を付けられた転校生を哀れに思うが誰も助けようともしない。
当然だよな。俺の邪魔をすれば痛い目を見るのだから。俺は悠々と転校生に近づき、話しかける。
結果から言って、徒労に終わった。なんていうか、当時から話すだけでも疲れるイカレ具合だった。
個性の制御が出来ていないのか、コロコロ姿を変える。それ以上に、俺をじっと見ながら俺の姿になるのは止めろ。なんか鏡に話しかけてる痛いヤツみたいで嫌だ。
ああ、このテンションのブチ切れ具合について行けねえ。と、未だかつて出会ったことのないタイプに終始翻弄されまくっていた。だが俺は諦めなかった。俺の目指す最強のヒーローへのロードのためにコイツには人柱になってもらうのだから。
そうして化太郎が転校してきて1年が過ぎた。コイツは未だに友達が出来ないと嘆いている。まあ当然か。ガキ大将が特別に目を掛けている存在であり、コイツ自身どんな奴相手でもイカれたテンションのブチギレ具合から周りからどう思われているのかなんて明らかだ。だが、俺は俺でコイツのブチ切れているテンションのアップダウンについていけるようになってしまった。これは成長ではないと思いたい。
しかし、コイツと色々話し続けているおかげで新たな個性の運用法を思いついた。これだけは成長と言えるな。
そんなこんなで未だにコイツに執着していたある日、俺は本当の
「やあ、君もしかしてフレンドシップの息子さんかい?」
「?ああ、確かにフレンドシップは俺の母ちゃんだけど。」
誰だ、このスーツの男は。母ちゃんの知り合いか?生憎だが母ちゃんは今遠出してるから家に来られても困る。
「おお、そうかそうか。やっぱり君があの『ゲームマスターズ』の子か。うんうん、目元とか口元とか、確かに似ているなぁ」
「……あの、何の用ですか?」
言ったとたん軽く袖を引っ張られる。引っ張った犯人は一緒に下校していた化太郎だ。
「(こいつ、なんかヤバイ匂いがする)」
「(はあ?なんだそれ)」
こんな如何にも優男然として、高級そうなスーツを着こなしている奴がか?と、疑問に思った瞬間強く引っ張られ、俺は尻もちをついた。
「っ痛ぇな、何するんだ!」
声を上げ、顔を上げる。そこで俺は、声を失った。
化太郎の左腕が不自然に曲がっていた。
「……は?」
「っっっ!」
化太郎は声にならない声を更に押し殺していた。
「はは、ひははは!おいおいおい、今のをよく避けられたなぁ!だが他のガキを盾にするなんざヒーローの子供のすることじゃあねえなあ!!」
なんだ、今、何が起きたんだ?
「ひひはは!何が起きたかって顔してるなぁ?」
「!!」
「っぐぅ、見えない……武器だ……。多分……鉄パイプか何か……」
「ひひはぁ!よぉぉく分かったじゃねえかぁ!ええおいガキィ!そーですそのとーり、俺の個性は透明化!触ったものを誰にも見えなくすることが出来るのさぁ!!」
「っなあ!」
なんてふざけた個性だ。見えない武器なんてどうやって防げばいいのか。
……なーんて思っちゃいない。要は見えないだけで其処に存在はしているのだ。ならば話は早い。
1、相手の武器の無効化
2、相手の拘束
1は簡単だ。地面のアスファルトか、壁のコンクリブロックか、どっちかにでも融合させてしまえば鉄パイプなどどうってことは無い。
2も余裕だ。こんなチンピラ程度、鉄パイプと同じように地面か壁と融合させてしまえば簡単に拘束できる。
それに今は下校途中。こんな街中で騒いでるのだ。どうせヒーローがすぐに駆けつけてくれるだろう。折角だ、駆け付けてきたヒーローに俺の活躍を見せておくのも悪くない。有能な若者はどの界隈でも欲しがるものだ。
「ひひははは!さあフレンドシップのガキぃ!お前にはヤツをおびき出す人質になってもらおうかなぁ!」
「っは、バカが!ヒーローが敵に屈するかよ!」
「ひははは!じゃあ無理やりにでもオネンネしてもらおうかなぁ!この鉄パイプでぇ!ひひはは「嘘だっ!」はは、あ?」
「っ化太郎!?」
「お前は、二つ、嘘をっ痛ぅ、吐いている」
「一つ、お前の武器、鉄パイプだけじゃねえだろ?」
「……あ?」
……なんで。
「二つ……お前の個性、ッハァ、透明化じゃ、ない。そうだろ?」
なんで。
「……」
「は、はは、ええおい。おいおいクソガキさんよお、お前、お前よお。どぉ~してわかったんだぁ?」
目の前の
化太郎が、不自然に曲がった腕をかばいながら
「一つ。
オー、ラ。お前、何言って……。お前の個性は見た目が変わるだけじゃねえのか……?
「お前の周り、そして私たちの後ろ側に、無数の、武器のオーラが見えてるよ」
「……へぇ」
「そして二つ。人からもオーラが出ている。そのオーラの色は人の、特に個性によって色が大きく異なるんだけど……お前のオーラと、武器のオーラが一致してない」
「……はっ」
「ついでに言えば、武器に繋がっているオーラの色からして、あと最低二人は近くにいるんでしょ?」
……あ?つまりそれって、最低でも今、三人の
「ふ」
「ふひははは!ひひははははは!!あ”あ”ぁ!?何だそのふざけた見破り方はよぉ!オーラが見えるぅだぁ~?ひはは!こりゃあ予想外だぜおい!お前等!出てこい!」
目の前の
「っかぁー!なんや、けったいな方法でバレよったなぁ!」
「未だ計画に支障なし」
「ひはは!なあに、今からでもこのガキを拉致っちまえばいいんだからよぉ!」
「おぃ、フレンドシップのガキじゃねえ方はどうすんや」
「殺害すればいい」
「ふひは!目撃者は殺さねえとな!」
な、なんなんだよこいつ等……。まるで今日の天気の話をするかのような気軽さで拉致するだの、こ、殺すだの……。異常、異常だこんなの。
「お、お前等……何でこんな……」
「あぁ~?どーちまちたかー?怖くてブルっちまいましたかー?ひははは!馬鹿なガキだ!」
「っか!エエ事教えといたる。ワイらはなぁ、お前んトコの両親に恨みを持ってん。んの恨みを晴らすっちゅーからにゃ、ちぃとお前ん協力が必要なんや。分かるやろォ?」
「必然、貴方は無様に泣き叫ぶだけでいい」
「ひはは!お前を人質にして『ゲームマスターズ』をぶっ殺してやるんだよぉ!!」
「おぃおぃ、ただ殺すだけやアカンやろ。生まれて来たことを後悔するまで甚振り続けてやるわ!」
「目の前で息子を殺すのも良さげ」
なんなんだよ、なんなんだよこいつ等。理解できない。訳が解らない。怖い、怖い怖い。
「ひひは。分かってくれたかオイ?お前にはこれから人質としてお先真っ暗な未来が待ってんだよ。なら痛い思いをしないうちに諦めな?」
「ケハハ!そない言葉で諦める奴が居るんかいな!」
「抵抗してくれた方が楽しい」
「ひひはは!そういう事だ!精々ガキらしいカワイイ抵抗してみろや!」
何かが空気を切り裂きながら振るわれる音がする。ふ、防がなければ……。頭ではそう思っていても身体が思う様に動いてくれない。濃密な悪意、或いは殺意に触れて、心と体がバラバラになってしまったようだ。勝手に腰が引け、足を滑らせて尻もちをついてしまった。
バキィッ。
耳にへばりつく様な、水っぽい嫌な音が響く。
俺の視界には、ランドセルを背負った男にも女にも見えるその後ろ姿。化太郎が居た。
「融剛、怪我は無い?」
振り向いた化太郎の笑顔は、額が裂けたのかドクドクと流れ出る紅に染まっていた。
「お、まえ……血が、血が……」
「こんなモノ、変身すれば治るわ。まあ痛いっちゃ痛いけど気にしないで」
怪我しても、すぐに治る……?嘘だろ……?
「それよりあんた等、さっきから随分好き勝手な事言ってんじゃないの。拉致するだの殺すだの。私の目が黒い内には私の目の前でそんな事させないわ」
「ああ?ちぃと目が良いだけのガキがなに言ってんねん。死にたいんかワレ?」
「子供は理想と現実の区別がつかない」
「ひひははは!威勢の良い小さなヒーローさんだこと!そんなに守りたいってんなら守ってみろや!」
「化太郎ッ!」
大丈夫。
そう、呟いた気がした。
バギィン!!
「……アァ!?何が起きたんや!」
「理解、不能」
「ひは?おいお前等、どうした」
「「ナイフが折れた(よった)」」
「……あ”あ”?」
「ふふ、残念でしたー。アタイの頭は石頭なんでね、安物のナイフなんて効かないわよ?」
「……なんやコイツ。目が良い個性とちゃうんか?」
「聞かないで」
「ば、化太郎……」
「融剛、ここはわたしに任せて、あんただけでも逃げなさい」
「は、はあ!?」
逃げろ?この俺に逃げろって言ったのか!?
「早く行け!死にたいのか!!」
「っ!」
ふざけるな。俺を誰だと思ってやがる。俺はヒーローの息子で、同年代に敵なしの強個性持ちだぞ。
ふざけるな。滅茶苦茶な努力をして鍛え上げた力で、大の大人すらブッ倒せることだってできるんだぞ。
ふざけるな。
ふざけるな。
なんで、俺は。
感情と行動が一致せず、無様に滑りながらも、無様に転びながらもその場から逃げ出してしまった。
チクショウ。
チクショウ。
◆
ボギッ!
右足から嫌な音が聞こえる。左腕、右腕に続いて、今度は右足かぁ。ああ、参ったなぁ。私の個性、変質の力はイメージだけで簡単お手軽に変身できるんだけど、これじゃあ完全に折れたっていうイメージがこびり付いちゃうよ。まあ、最悪飛べばいいか!(極論)
「なんや、なんなんやこいつは!」
「化け物」
「ひは、打撃も。斬撃も。刺突も。効果が今一つとはな。その上すぐに再生?幾つ個性をもってるんだっつーの!」
今の私は完全にボロボロ。鏡で自分の姿を見たら卒倒しそう。
左腕は見えない鉄パイプが突き刺さり、その上から釘バットや角材でズタズタのドロドロ。右腕は刃渡りの長いナイフや包丁だのを受けてバラバラのボロボロ。お腹回りは未だにアイスピックや錐、フォークが突き刺さったままだ。何で生きてんの?
油断した、と言えばそうなのだが、このヴィラン共えらい戦い慣れをしている。飛んでくる武器を弾く程の硬化は、私が意識した部分にしか出来ない事をいち早く察し、意識外からの攻撃を重点的に行って来る。未だにオーラを見る目を持ったままだが、三人全員で攪乱してくるから武器だけに意識を集中出来ない。攪乱だけじゃない、隙を見せればそれぞれが手に持ったスタンガンやサバイバルナイフ、警棒で殺しに掛かってくる。
オーラを見た限り、クソ方言男が武器を浮かし操る個性。女が武器を透明にする個性。スーツ男は不明……だが恐らくこの辺りの空間に何かしらの作用を与えている。平日の昼間だってのにこの道を誰も通らず、ましてやこんな派手に暴れてるのにヒーローの一人も来ないなんて異常だ。スーツ男がなんかしたのだろう。
「なんでお前、こないボロボロになっても生きてんねん!」
「不死身かしら」
「ひはは、そんなになってまでまだ立ち向うのか?いい加減諦めちまえよ!」
お前等が融剛襲う事を諦めたら諦めてやるよ!
とはいえ流石にキツイ。腕や足が折れたということ自体は全く問題ではない。痛いは痛いが、怪我自体は変身して無かった事に出来る。だが、ダメージを受けるということは当然私の集中力を削がれる事に繋がる訳で。
今は皮膚の下は筋肉でなくスライム状のドロドロで構成されているから原型を保っているけど、骨組み部分がそろそろ限界かな。戦闘用のフォルムに変化したいが、息継ぐ暇もなく攻撃を受け続けて変身出来ない。うーん思わぬ弱点だ、これならもっと個性訓練を真面目にやるべきだったなぁ。後悔先に立たず、これから直していこう。
次が、あればの話だけどね。
「チィッ!何やコイツホンマウザったいなぁ!」
「ひはは、再生個性と思ったが……お前の身体、まるでゲームに出てくるスライムみたいじゃねえか!?」
「言い得て妙。打撃も斬撃も効かない事に説明がつく」
「ハッ!なら電撃で焼き殺してやるで!」
バヂバヂとスタンガンが鳴る。電撃はアカン。
とは言え、だ。数の限られているスタンガンを警戒すればいいが、余りこのまま長い事戦ってられない。私の個性は使えば使う程にお腹がすく。非常に燃費が悪いのだ。既にお腹がぺこぺこちゃんなのだ。こうなるんだったらランドセルにお菓子でも常備しておけば良かった。
校則違反なんですがね!
このままじゃ千日手、しかも私の方が分が悪いときた。何かしらのブレイクスルーが欲しいとこ
「油断、大敵」
斬ッ
私の首が飛ぶ。
「首と身体が分かれて生きてる生き物は居ない」
「ひはは!スタンガンだけに気を取られ過ぎだっつーの!!」
「ケッ!丁度楽しくなってきたとこやっつーのに……まあええわ。万一復活しないように念入りに焼くで」
なるほど、私は斬られたのか。透明で見えないが、恐らく肉切り包丁的な何かなんだろう。斬られた感覚的にそんな感じがした。
そして、残念だったね。私は首と身体が分かれても生きてるタイプの生き物なんよ。何故かは聞くな。分からん。
飛んだ首が地面に落ちる寸前にイメージを固める。頭と、身体がどろりと崩れ、再構成される。するとそこには素敵な賽銭箱によくご案内している素敵な巫女さんが!
「あー、いったいわねー……。あんた等、こんなモン振り回して良いと本気で思ってる訳?」
「……首と身体が分かれて生きてる生き物は居ない、筈。貴方、化け物ね」
「ひはは!なら俺等は
「アホ
「ホントよね。
「ひはは!ガキが粋がんなや!死なねえなら、死ぬまでブッ刺すだけだ!」
「同感。殺せるなら、殺せる。道理」
「ッカ!その心臓抜き取りゃぁ死ぬやろ!」
辺りの見えない凶器が一斉に私に向かって来る……気がする。さっきまでのようにオーラを視て判別は出来なくなったけど、その代わりに余りある
「ぐわっ!?な、なんやぁ!!?」
私の弾幕が周囲一帯に散りばめられる。威力自体は周りの建物や塀にちょっと焦げ目が付くくらいだが、それでも見えない武器を全て叩き落とせる位には高い。
そして、私の勘が叩き落とした武器全てがまた浮き上がることは無いと告げた。勘、便利。
「な、なんだ今のは……!?」
「光の弾……?」
「クソッ!なんにせよ今ので武器とのリンクが全部切れよった!」
「ッチィ!肝心な時に使えねえなお前の個性は!」
「アアッ!?何やお前のクソ地味個性ほどやないやろボケェ!!」
「あ”あ”?テメエ誰のおかげで今の今までヒーローに捕まんないと思ってんだカス!」
「喧嘩してる場合ではない。アイツはとても危険」
「……ケッ!後でカタ付けたる!」
「上等だ、ブッ殺してやるよ!」
「「先にテメエを殺してからなぁ!!」」
お腹が空いてヤバみを感じる今日この頃。だがここで倒れる訳にもいかない。某S級エリートに変容し、持っているブレードで迎え撃つ。
あ、これ思ったより軽すぎ……?
「何処向かって斬ってるんや!?」
「ひははっ!刃物はこう使うんだよぉ!」
地面に向かって空振りした隙を狙ってスーツ男が持ってるナイフを側頭部に向けて突き立ててくる。回避しようにも避ける方向から金属バットが振り下ろされ、動ける方向が制限されてしまっている。
まあ、『視えてた』んだけどね。実力派エリートは伊達じゃない。
ズバァン!
「ギィ!?」
「ガハッ!?」
持っていたブレード『風刃』から伝った斬撃が男二人の胴体を無慈悲に斬る。本来なら人一人程度なら真っ二つに斬れる斬撃だが、私のイメージ力不足と男達の防御力で皮膚ちょい底程度を切り裂くに留まった。流石に人殺しはマズいからいいんだけどね。
ま、その結果も『視えていた』けど。
ドサリと地面に崩れ落ちる男二人。本当なら
融剛を庇って左腕を折られた時、突然の衝撃で瞬間的にS級エリートに変質し、融剛を『視て』しまった。そこで『視えた』のが、転校してから今日まで毎日話しかけてくれた、友人どころか親友と言っても過言じゃない融剛の、無惨とも言える死に様で。
身体が勝手に動いた、口が勝手に動いた。融剛を守る為に。
『凝』の要領で相手と周囲のオーラを読み、『言霊』を使って意識を引っ張る。そうして融剛から意識を反らし、逃がす。
そこからはもう全部アドリブだ。私が逃げてしまえば、追いかけてくるかもしれないが、融剛に向かって行くかもしれない。だからなるべく戦闘を長引かせたかった。
一対三なのもマズい。一人でも融剛の所に向かってしまえば万が一がある。だから『存在感』を放ち常に意識を私に向け続けた。その所為でまともに回避も出来ず変身も出来なかったが。
あーやばい。お腹が究極的にペコちゃん。頭が回らなくなってきた。
▼早く何か食べないと!
▼うえ死にしてしまう!
「あ”ー……クソ。まさかコレに助けられるとはな」
「ケッ……ホンマ、やってられんわ……」
そう言って男共は服を捲り上げ、腹から何かを落とした。
何かって言うか、ジャンプだコレ。お前等の防御力の高さの元ってそれかよ。
「あ”ぁ……どうしてくれんだよお前。もうコレ読めねえじゃねえかよ、ああ?」
「ホンマお前許さへんで……」
ヤバイ。何がヤバイってもう、こいつ等の目に殺意が満ち満ちている。貴方は殺意に包まれたってか?笑えねえ。
「ひはは、刺突も、殴打も効かねえなら……奥の手だ」
そういってスーツ男が取り出したのは手のひらよりは大きな……基盤?
「最悪でも『ゲームマスターズ』の事務所でも爆破してやろうと思ったが、気が変わった。ひはは!ありがたく思えよ?お前みたいなガキを殺すには高すぎるモノだが特別製だ。コイツの二つ名は『必ず、殺す』だ!」
「そないモンあるなら最初っから使えやダラズ!」
「抗議」
「うっせえ!最終手段って奴だ!これ使っちまったら俺の個性でも誤魔化しきれねえんだよ!」
爆弾はらめぇ。
「ひははは!もう死に体のお前には逃げることも出来ねえだろ!爆散して死ねやぁ!!」
そう言ってスーツ男は離れていく。代わりに私に近づいてくる爆弾。やべえ、爆弾に強いなにかイメージを!
爆弾に対して何が強いんですかね(哲学)。
ちがう、ふざけてる場合ではない。これ爆発したら流石に死ぬ。死ぬ?死ぬのか。まあ、『視えてた』結果ではあるんだけど。流石、暗躍が趣味のエリート。自分に対しても格が違う。
あーもーほんと。あの時なんでヴィランを挑発するような事言っちゃったかなぁ。
でも、まあ。結果的に融剛守れたからいいかな。仕方ないよな。転校する前だって私にまともな友達居なかったし。初めての親友だもんなー。そんな親友を見捨てて自分だけ生きることは出来るだろうか。いや、出来ない(反語)。
というかあれだね、勝手に体が動いちゃったってやつだね。うん。やべえよ、これもしかして私トップヒーローの器なんじゃね?うっはやべえ、学生時代から逸話残したとか言うレベルじゃねえ。だって私小学生だもん。
いや、方やまともに友人作れないロクデナシ。方やロクデナシ相手でも気さくに話しかけてくれるちょっと口の悪い神サマ。世界がどっちを取るかっていったら当然神サマだよねぇ。
ていうかあれだ。今更だけどこれ走馬燈的な奴か。そうだよなー、爆発するまで長いんだよなー。長いというかほら、まだ地面に落ちてってる最中だし。
とか思った瞬間ピーとか甲高い音聞こえるし。あ、はい。爆発するんですねわかります。
まあ、悔いのない人生だったんだろうか。
死にたくないなぁ。
て、え、ちょ。 融剛おま な ん で
そうして視界が光に包まれた。
◆
死ぬか思った死ぬかと思った!
やった事は単純明快。化太郎を爆弾から庇う位置に立って爆風を個性で自分に融合。言ってしまえばそれだけなのだが、融合するタイミングを間違うと俺も死ぬところだった。ぶっつけ本番で出来るもんだな。二度とやりたくないけど。
「え、ちょ。融剛?え?なにここ天国?」
「バカ、現世だよ。」
「ええ……死んだかと思った」
「なんだよ、死にたかったのか?」
俺をかばったんだ、この借りを返す前に勝手に死んでは困る。
「いやぁ、生きてるならそれはそれで」
「は、そうかよ」
ああ、そうだ。こいつには借りがある。あの時凶器から俺を庇ったっつー借りが。さらにはさっき『逃げちまった』借りが。
ヒーローってのは逃げてはいけないのだ。ヴィランから逃げるということはそれだけ市民が傷つく可能性が増えるのだから。もしあのまま、こいつを……友達を見捨てて逃げてしまったら俺はもう、真っ当に生きれなかっただろう。ヒーローには一生なれないのだろう。
一度逃げたっていう過去は消せねえ。だから、もう逃げないと此処に誓う。この胸に誓い、そしてそれを体現する。
まずは目の前のヴィラン共から逃げない。此処で、倒す。そのためには友達の協力が必要だ。必要……なのだが……。
「おい」
「んぅ……私かな?」
「お前以外いねえだろ?」
「そうかぁ」
そうかぁ、じゃねえよ。いやそれよりもだな。
「お前のその……身体……なんだその状態」
「……?あ、そっか爆発のショックでイメージが完全に吹っ飛んじゃったか」
そこにはまるでデッサン人形に気持ち肉を付けた程度の人型がいた。肌も無く、毛も無く、顔も、目や口といったパーツすらも無い人型が居た。
「これは、アレだ。生まれつきでね、気にしないでくれたまへ」
「何目線だ馬鹿」
普通に考えたら、こんなモノは気持ち悪いと思うだろう。当然だ、人の形と呼べる最低限の構成物しかない存在が動いて喋っているのだ。
だが、俺に不快感は無い。コイツは化太郎なんだから。
ふと、思いついた事を試してみる事にした。
「あー。ちょっと待ってて。ゆっくりでも良い感じの人に変化するけんね」
「いや、無用だ。それよりお前、手ぇ貸せ」
「ん?」
相変わらず化太郎の事はよく分からないが、とにかく今の形がきっと本来の、
「ひは、ひは!木っ端微塵だ!ざまあみろ!」
「絶対死んだわね」
「ワイのオモチャも木っ端微塵やねんけど」
「ひひははは!あんな化け物をぶち殺すことが出来たんだ!やっすいものだろぉ!」
「……待った。見て」
「ひは、は……は?」
「……なんや、まさか!?」
『うひょー!融剛お前なんだこの個性バリかっけぇ!』
「うるせえお前耳元で叫ぶんじゃねえよ。こんなもんまだ序の口だぞ。」
『だってお前合体だぞ合体!こんなもんテンション上がらないわけないだろーが!』
「合体じゃねえ。融合だ。おら、これで少し慣らしたらギアあげんぞ!」
『おう、そうだな。これじゃあまだ乗っただけ融合とか言われるもんな。ゲートガーディアンも思わず突っ込むわ』
「褒める流れで急にディスんのやめてくれない?」
((( 何だあれ!? )))
「おぃおぃありゃどーなっとるんや!?何やアレ……なんや!」
「委細不明」
「チィッ!何で仕留めそこなったか分かんねえが……この際もうターゲットごとブッ殺してやる!!」
「……透明化」
女が男二人の背中を触り、見えなくなった。あの女が凶器を透明化してた奴か!
「おい化太郎!ヴィラン共が見えなくなったから何とかしろ!」
『おっおっ?これはつまり主人公のお助けフェアリー的なポジション?おっけー!なんかエネルギー満ちてってるから私にまっかしといてー!いざ変身っ!』
すると視界が急変し、見えない筈の物までよく見える様になった。どこまでも深く、深く。それは空気の流れだったり、意識の向ける方向だったり、植物の声だったり。
頭がパニックになりかけたが、視界が勝手に不必要なモノを排除していった。きっとこれも化太郎の仕業か。
そうして残ったのは、いつも自分が見ている景色に、うっすらと色のついた湯気のような物が見える世界だった。その湯気は自分からも出ているし、辺りの植物も、塀や建物等の無機物も湯気は出ていた。無機物から出ている湯気は明らかに植物よりも少ないし、植物から出ている湯気も自分から出てくる湯気より少ない。
そして、前に意識を向ければ何もないが、何もないところから確かに三人分の湯気が出ているのが見えた。これが、オーラ……!
『どう?どう?見える?見えてる?ばっちりオッケー?』
「ばっちりオッケー!!」
なら、後は鍛えた肉体で、鍛えた技術で、ヴィランを仕留めるだけだ!
「っ!?なんでヤツらこっちにまっすぐ来んねん!ホンマに見えへんようにしたんやろなぁ!?」
「当然でしょ?殺すわよ?」
「ひは!喧嘩は後!迎え撃つぞ!」
『刃物はNO!中距離攻撃だ!オーラを掌に集めて撃ち出せぃ!!』
「撃ち出す……こうか!?」
自分の掌にオーラを集めるように意識を向ける。するとオーラは確かに掌に集まっていき、圧縮されていく感じがする。そしてそれを……撃ち出す!
ヒュボッ!
「ギャハッ!?」
「ひは!!?な、なんだぁ!?」
「正体不明……」
掌からオーラの塊が撃ち出され、方言男の鳩尾に一直線に飛んで行き、直撃をした。
方言男はそのまま撃ち出されるように塀にブチ当たり、意識を失った。
「マジかコレ!強いな!」
『でもあんま連発出来ないよ!オーラが尽きちゃうと動けなくなるんだからねっ!』
「それ先に言えよ!」
「ひひはっ!距離を取るのはマズい!一気にブッ殺す!」
「近接推奨」
スーツ男と女が見えない武器を持って迎撃に当たる……が、関係ない。そうだろ化太郎?
『変身!マッハ20の殺せない教師!』
「当たらなければどうということは無いパンチ!」
「速びごぉ!?」
流石にマッハ20で殴ったら血霧になるっていうレベルじゃないので加減したが、無事意識を奪うだけで済んだようだ。
「さあ、ラストワンだ!」
「っ、ま、待って降参」
高速で殴りかかるが、女のその声を聞き身体が一切の慣性を無視してビタリと止まった。
「ッちょ!?おい化太郎!急にとまんじゃねえよ!」
『それはゴメン!だけどほら、ヒーローとしてさ、敵意の無い相手を殴るのもどうなのって話よ』
「ああ?そんなモン口だけの嘘に決まってるだろ!ヴィランはとりあえず殴って捕まえた後で処罰を考えるんだよ!」
『まーまー、ヒーローたるもの、悪人には更生の機会を与えるべきだよ。ね?』
「……ちっ!」
(……助かっ、た?)
『まあ、とはいえ、だ。持ってる武器は全部捨てて貰おうかね』
「……当然ね」
そう言って女は手に持っている武器の透明化を解除して地面に捨てた。バールのような物だった。
それ以外にも腰に付けていたポーチからは刃渡りの短いナイフ、メリケンサック、針、剃刀、金槌を捨てた。
「……外したわ」
「ほら化太郎、これで満足か?」
『んっんー。私は全部、と言ったんだよ?』
「……全部」
『嘘はNONONO!』
俺の腕が勝手に動き、女の服に手を掛け……っておい!?
ビッ、ビリビリィッ!!
「バッ!?おま、何して!??」
ジャランガランガランカラカラ……
「……」
「……」
『さて、もう一度言うわ。持ってる武器は全部、捨てて貰おうかしら?』
引き裂いた服からは小型の銃、特殊な形状のナイフ、鋼線、マキビシ、アイスピック、靴下に小銭を入れて振り回すアレ、等、等。
お前何処にそんなモン持ってた。
『捨てないというのなら、私の手で一つづつ丁寧に剥いでいってあげるわよん?』
「今は俺の手なんだけど!?」
「ガクブル」
一つ分かった事がある。
女って、いろんな所に隠せる場所があるから完全に動けなくなるまで油断してはいけないって事だ。うん。
「あっ!あっあっ!」
『ココか~?ココにまだ隠してんのか~?』
「やめっ!?ああっ!?」
『このカタいのはなんや~?毒針か~?注射針か~?ん~?』
ぼくこどもだからむずかしいことわかんない!
「捕獲ヒーローただいま見参!ヴィランはお縄に……て、なぁにこれぇ」
◇
あの後子供がヴィランに立ち向かうなんて無謀すぎると説教を食らい、遅れてやって来た警察にも説教を食らい、保護された俺等を迎えに来た両親からも説教を食らった。化太郎は最初の説教の時に
「あ、電池切れだわ」
といって寝るし散々だったぜ。
ん。まあ、そういうようなことがあってからかな。俺は今までやっていたガキ大将的な悪行を止めた。暴力を振るったり虐めたりした奴らにも謝罪した。謝罪した時、ついでに何発か貰ったがな。まあ自業自得だ。
化太郎も化太郎で全然友達が出来てない。まあ結局、ヴィラン襲撃事件に関しては大人の都合とやらで情報操作されたし、ガキ大将がいきなり心変わりしたんだ。アイツが何かしたーって陰で凄い噂流されちゃぁ友達も出来るもんも出来んわな。
……あ~、要するにアレだ。俺にとって化太郎ってのは。あ~、一言で表すのには難しい関係ってことだ。
「お~っし。こっちの準備はいつでもおっけーね!」
「こっちはとっくに準備終わってんだよ待たせやがって」
つまり、そういう事。あれ以来、こうやって真のヒーローを目指して互いに高め合ってるのさ。
さあ、今日の戦闘訓練を始めようじゃないか。今日こそ俺が勝ち越してやるからな。
一応言っておくが、別に化太郎に恋愛感情は抱いてねえからな。だって、性格とかがアレだし。
今後どうせ出ないキャラの紹介コーナー。
個性:幻影
ひはひは言ってるヴィラン。個性の力でヒーローや警察を欺き、こそこそあくどい事を積み重ねた武闘派ヴィランチームのリーダー。
個性の幻影は一見なんの事件も起きていない日常風景を見せるだけ。爆弾みたいなド派手な物を使うと流石にばれる。
個性:物体操作
エセ方言使いの男。手に持てる程度の道具を浮かし振るうことが出来る個性。
浮かせるだけなら10個くらい浮かせられるが、振るうことは同時に2個までしか出来ない。
個性:不可視
見えないニンジャガール。触れた物と自身を見えなくすることが出来る。見えなくしたものは自分にも見えない。
大量の暗器を扱い、更に見えない凶器で確実な死をお届けする。