響き渡るのは三色の恋音   作:しゅ〜

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今回から少しずつ出会いの話と過去の話を。
お付き合い下さい


#7 松原花音は彼のために勇気を出す

「それじゃあグラスを持って〜!かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」

 

ファミレスのテーブルを囲む男女4人の嬉々とした声が響く。

テーブルには沢山の料理と各々グラスに入れた飲み物。

 

「こ、こんなに沢山食べ切れるかなぁ…?」

「大丈夫だよ花音ちゃん!響君がいるから!」

「おいおい、そんな大食いじゃないぞ俺は。俺よりひまりの方が食うだろ」

「そんなことありませんー!」

 

テーブルを囲んでいるのは響・花音・彩・ひまりの4人。

今日は月末の給料日で響の奢りで晩御飯と合わせて互いの近況報告や雑談をする4人の月一の楽しみだった。

 

 

「にしても、頼んだ私が言うのも変だけどこんなに頼んで大丈夫だった?」

 

響を…というより響の財布を心配して問う彩だったが響は自信満々の顔で答える。

 

「ま、今月はかなり出勤したからな。大丈夫」

「そういえば響君、かなりシフト入ってたもんね…その…体調とか大丈夫なの?」

「別に大丈夫だよ、それなりに気遣って貰ってたみたいだし」

「そっか。じゃあ前みたいに倒れたりしないでね?」

「お、おい花音…その話は…」

 

響が歯切れが悪そうにしている様子を見て彩とひまりが即座に食いつく。

 

「か、花音ちゃん、前みたいって…?」

「もしかしてもしかして!私と彩先輩が来る前って事ですか?」

「そうだよ。丁度私がアルバイトを始めた頃の話なんだけどね…」

「ストップ!その頃の話恥ずかしいからやめてくれ!」

 

慌てて話を止めさせようとする響の動揺さに2人は余計に興味が湧く。花音は元からもう話す準備万端といった表情でニコニコしていた。

 

「大丈夫だよ、そんなに恥ずかしい話じゃないと思うし…」

「響先輩!ここまで来て聞かずにはいられませんよ!」

「そうだよ響君!覚悟を決めよう!」

「覚悟って何だよ!?…じゃあまぁ良き所で止めてくれよ?」

「ふふっ、わかったよ」

 

響も腹を括って花音に委ねる。花音はニッコリ微笑みながら口を開いた。

 

「私が入った頃だから…1年くらい前のお話…かなぁ…」

 

 

■ ■ ■

 

 

 

「え、えっと…松原花音…です…よろしくお願いします…」

「お、おう。俺は松原の教育係になった九重響だ。よろしくな」

 

響にとって初対面の人と話す事はそう難しい事ではない。だが花音に話す事だけは高難易度だった。それはなぜか

 

『あ、松原』

『は、はい!な、なんですかっ?』

 

『松原、こっちの仕事なんだけど…』

『ひゃっ!い、今行きます…』

 

そう、何故か微妙な距離が生まれているのだ。響は花音と仲良くなりたいと思っているのだがその微妙な距離のおかげで踏み込みたくても踏み込めない状況になっているのだ。

そしてある日のバイトでの事。

 

「九重、休憩入りまーす」

 

昼のピークを終え休憩を貰った響はスタッフルームに戻った。

するとスタッフルームには既に花音がいた。

 

「お疲れさん、休憩か?」

「は、はい!」

 

そしていつも通りの対応をされる。スタッフルームには2人切り、踏み込むなら今だと感じた響は口を開いた。

 

「松原さ、俺の事苦手か?」

「ふぇぇ…い、いきなりどうしたんですか?」

「いやーなんか俺と松原さんの間微妙な距離がある気がして」

 

今まで思っていたことを素直に伝える。これで嫌われてしまっては元も子もないのだが。

 

「え、えぇと…苦手とかじゃなくて…私、人見知りな所あるから…それに男の人と話す機会なんて滅多になくて…」

「あぁ…そういう…」

 

なるほどと思いながら花音の話に耳を傾ける。聞く限りだと響は自分のことは苦手ではなく人見知りだから話せなかった、という結論に至った。

 

「んでもさ、人見知りなら何でまたアルバイトなんて始めたんだ?しかも接客業なんてさ」

「そ、それは……変わりたくて…」

「変わる?」

 

花音の言葉に?を浮かべる響。

 

「そう、なんです…。私、人と喋るのが苦手で色んな人に迷惑かけてるから…少しでも自分を変えたいと思って…」

「へぇ、そういう事」

 

声は少し震えながらもしっかりと響の目を見て話す花音を見て響も何かを感じた。

 

「でも俺と話してる限りじゃ普通に話せてるし大丈夫だと思うけどな。目見て話せるだけでだいぶいい方だろ」

「そう、かなぁ…えへへ」

 

花音は少し照れながら笑ってみせた。響はその顔を見て「小悪魔か…」と苦笑いを見せた。

 

「まぁあれだな。折角まともに松原とも喋れたんだ、これから改めてよろしく頼むぜ」

「う、うん!…あと私のことは花音って呼んで?苗字で呼ばれると…距離感が…」

 

人見知りで喋れなかった人が距離感言いますか。と響は心の中で思ったがせっかく花音がここまで言ってくれてるという事実に頬が緩む。

 

「…あぁ、よろしくな。花音」

「うん!ありがとう、響君!」

 

 

■ ■ ■

 

 

「へぇ〜!それが花音先輩と響先輩の出会いって事なんですね!」

 

ストローでジュースを吸いながら目をキラキラさせるひまり。ひまりはこういった手の話が大がつくほど好きなため食いつくのはわかっていた。

 

「確かにこんなだったな」

「響君、忘れてたの?酷い…」

「わ、悪かったって…にしてもあれからもう1年か。花音も成長したよな。…方向音痴以外は」

「それは言わなくても良いよ…」

 

ニヤニヤしている響をぷくっと頬を膨らませた花音が睨む。

 

「にしても、なんか意外だな〜。花音ちゃんが人見知りなのは知ってたけど響君の事は案外すんなり受け入れたんだね」

 

彩がドリンクを飲みながら花音に問う。その質問を聞いた花音は少し顔を赤らめた。

 

「そ、それは…その…」

「ほほーう。じゃあ花音先輩はその時に惚れた、という事でいいんですか?」

 

小悪魔のようにニヤニヤ笑いながら小声で花音に聞くひまり。それに対して花音は俯いて「違くて…その…」とブツブツ独り言を言っていた。だがそのやり取りは小声だったからか響の耳には届いていない、

 

「でも、今の話聞く限りだとまだアクシデント起こったりしてないよね?その…倒れたっていう…」

 

不安げな彩だったが響がドリンクを飲みながら答える。

 

「その後すぐだったんだよ、まぁ簡単に言えば俺がシフト入れ過ぎて疲れてさ。それだけの事だ」

「そうだったね。響君が他の人の代わりにシフト入りすぎちゃったせいで」

「あれは俺の善意だ」

 

当時の話を繰り広げる2人だったが彩とひまりはついていけず相槌を打つ事しか出来なかった。

 

「でもさっき「あの頃の話は恥ずかしい」って言ってませんでした?別に今聞いた話だとそんな要素どこにも…」

「そこからなんだよ…」

「じゃあ続きのお話だよ」

 

ひまりが聞くと花音はまた話を続ける。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「響君、大丈夫?顔色悪いけど…」

 

ある日の店にて花音は響の様子がいつもと違う事に気が付いた。

 

「…あぁ、大丈夫…だと思う」

「絶対大丈夫じゃない…少し休んできた方がいいよ?」

 

花音と響はあの日以来、それなりに話す仲になっていた。花音の響に対する警戒心が解け自ら進んで話すこともあり、すっかり響に懐いていた。

 

「今俺が抜けたら店回らないだろ」

 

何度か花音が休憩を促しているが響はこの一点張りである。

というのも今日の店は従業員がそう多くはない為、上手く店を回せる響が休憩に入ると回らなくなってしまうのだ。

 

「確かにそうだけど……それより響君、今何連勤?」

「…2週間くらいだったら気がする」

「原因はそれだよ!学校と両立で2週間も…」

「他の奴らが休みたいって言ってるんだ、仕方ないだろ」

「だからって全部響君なんて…」

「それより客の波がまた高くなるからよろしくな」

「う、うん…」

 

花音にそう言い残すと響はフラフラの足で厨房に戻って行った。

花音はその後ろ姿を見て倒れるのではないかと心配したがレジに客が並んでいるのを見てそちらの対応に追われる。

 

「(響君、大丈夫かなぁ……)」

 

 

 

そして事件が起こった。

ピークを終え少し落ち着いた頃、花音の心配が的中し響が倒れたのだ。厨房がいつもより騒がしくなりふと目をやると目を瞑った響きが他の従業員に肩を借りてスタッフルームに戻る瞬間が見えたのだ。

それを見た時、花音は酷く戸惑った。

 

「(私も響君のところへ…でも…私じゃ…何も出来ない…)」

 

すぐにでも駆け付けたかった花音だが自分が行っても何も出来ないという考えに陥ってしまった。震える手を握りしめて目をギュッと瞑ると響が話しかけてくれた日の事を思い出す。

 

「(あの日、響君が話しかけてくれたから今のアルバイトが楽しいと思えてる。響君はいつも私の話を聞いてくれたりしてくれてる…だから今度は私が響君に恩を返す番だ…)」

 

自然と震えは止まり、足はスタッフルームに向かっていた。

扉を開けると部屋に横になっている響とそれを心配そうに見つめる従業員数人の姿が。

 

「そ、その…私が響君を看てるので…」

「確かキミは…響とよく一緒にいる…」

「松原花音です。私に…響君を任せて貰えませんか…?」

「…わかった、じゃあ何かあったら直ぐに呼びに来てね」

 

そういうと従業員はスタッフルームを出て戻って行った。それを確認すると花音は響が横になっている隣に座る。

そして響の手を握った。

 

「響君、やっぱり無茶してたんだ…」

 

遠目にシフト表が見える。そこには響の名前の横に出勤のマークがずらり並んでいた。

 

「響君。響君が初めて私に話しかけてくれた日、覚えてる?」

 

手を握りながら花音は続ける。

 

「私は人見知りだから…全然喋れなくて…それでも響君は何度も私に話しかけてくれた。とっても嬉しかったんだよ?だ今度は私が恩を返す番。だから…早く…目を覚まして…」

 

後半は涙が出てきて途切れ途切れになってしまったが花音は心に思っていたことを全て吐き出した。それでも涙は止まらなくて涙の粒が2人の繋いで手に落ちる。

 

「……ったく、疲れてるだけなんだからそんなに心配しなくていいんだよ」

 

花音ははっとした。その声は花音が聞きたかった声、響の声だったからだ。涙を拭うとそこに薄ら目を開けて微笑んでいる響がいた。

 

「ひ、響くん…」

 

思わず響に抱きつく花音。その行動に響はとても戸惑った。

 

「お、おい花音?どうしたんだよ」

「響君が目を覚まさなかったらどうしよう思って…それで…ぐすっ」

「大袈裟。けど…心配かけたな」

「ホントだよ…ばか…」

「まさか花音にばかって言われるとは…」

 

抱きついた花音の頭を撫でる響。花音がどれだけ心配していたのか、響はその涙で思い知った。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「へぇ、そんなことが…」

「響先輩ならやりかねない…」

 

一通り話を終えドリンクを飲む花音。彩とひまりはというと話にのめり込んでいた。

 

「あれ?でも待ってください?今の話に恥ずかしい所なんてありました?」

 

ご最もな疑問をひまりが響にぶつける。

 

「あるんだよそれが。お前ら聞いてたろ、今の話」

「う、うん。聞いてたけど…あった?」

「私もわかりません」

 

ひまりと彩が顔を合わせて疑問の表情を浮かべる。それを見た花音は苦笑いをしていた。花音にはどこが恥ずかしかったのかわかっているのだ。

 

「で、どこなんですか?恥ずかしい所って」

「お前ね……花音が俺に抱きついたんだぞ!?」

「え……えぇー!?そこですか!?」

 

予想だにしない答えにひまりは声を上げ、彩はあっけからんとした顔をしていた。花音はというと苦笑いから照れた表情で俯いている。

 

「花音が涙目で抱きついてくるなんて…恥ずかしいだろ…」

「彩先輩、何か…響先輩って…小さいですよね」

「だね、ひまりちゃん。私もそう思ったよ」

「お前らわかってないな?こんなに可愛い花音がな?涙目で抱きついてくるんだぞ?男にしかわからねぇのかな…」

「あんまり抱きついたって大声で言わないで!?」

「…はぁ、恥ずかしいよ全く…ドリンク取ってくる」

 

そういうと響は席を立ち上がりドリンクバーに向かった。響が席から抜けたからか花音は心で思っていたことを口に出してしまう。

 

「しかも可愛いって…ふぇぇ…」

「いいなぁ…花音先輩。私も響先輩に可愛いって言われたーーい!」

「ひ、ひまりちゃん!声大きいよ!…でも…いいなぁ…」

 

羨ましいといった視線を花音に送る2人。

 

「そういえばひまりちゃんと彩ちゃんが響君と出会った頃の話って聞いたことなかったね」

「確かにそうですね。じゃあ響先輩が戻ってきたら話しますか!」

「いいね!私もそれなりにエピソードあるし!」

 

花音に対抗してか2人も張り切っている。そしてタイミング良く響がドリンクバーから戻ってきた。

 

「ただいま…って2人の目に火が点ってるんだが…花音。これはどういうことだ?」

「これから暴露大会が始まるんだって」

「何のだよ…」

「戻ってきましたね響先輩!じゃあ次は私の番です!」

「なんの暴露だよ?」

「勿論!響先輩と出会った頃の話ですよ!」

「何の流れだよ…」

 

 

 

「私が初めて響先輩と出会ったのはですね…」

 

ひまりの響と出会った頃の話が始まった。




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