激闘の記録を見終えたアルマは、堪らず言葉を失った。それが自分の体験を含めたどの戦闘よりも、彼女の心を湧かせる戦闘の記録だったからだ。
アルマは不思議だった。先程覚えた既視感が何から来るものかは、映像を見る途中で理解していた。
それは、かつて共に戦ったレギアスとマリアの背中だ。どれだけの逆境でも、安心させてくれるあの背中と重なったのだ。
でも、何処かが違うのだ。記憶の中に居る彼らと、映像の向こうで揉め合うカミトと盞華の姿が酷似しているのは間違いない。だから余計に、彼らと何が違うのかが気になっていた。
「はあぁ……やっぱりかっこいいなぁ……」
「かっこいい?」
シエラが恍惚という表情で、スクリーンに映る二人を眺めていた。
「かっこいい……そうか。かっこいいんだ!」
突然大声を上げたため、シエラが驚き肩を激しく震わす。アルマはごめんと謝り、再びスクリーンへと視線を戻した。
頼りになる背中。だが、実際に目の前で戦う彼らを、アルマはかっこいいと思ったことは一度もなかった。恐らくカミトと盞華のように、無謀な戦に身を投じるようなことがあれば、アルマは己の力の全力を以てそれを静止していただろう。
『ねぇねぇカミト! アレやろうよアレ!』
『アレって……なぁ。それをするなら作戦を始める前じゃないのか?』
『細かいことは気にしない! ほら、カミトも手を出して!』
アルマがかつて大敵を撃った時、果たして彼らのように喜びを分かちあったことがあっただろうか。いや、いくら思い返してみてもそんな記憶は彼女にはなかった。
スクリーンの向こうで、重ねた掌を宙へと掲げる二人に、アルマは自分が一体どんな視線を向けているかが分からなかった。
子供だなと思ったのだろうか───違う。
羨ましいと感じたのだろうか───そうじゃない。
懐かしさを憶えたのだろうか───全然違うよ。
そう、これは自分の知っている感情とは異質のモノだ。ならば、この気持ちは一体───
ふと、スクリーンに見入るシエラの、あの瞳を思い出した。
「……なあんだ、そういうことか」
それは憧憬と呼ばれる感情だった。アルマは自身の胸に手を当て、彼らによって生まれた新たな熱を抱きしめるように手を組んだ。
初代クラリスクレイスは残る逸話が少なく、【巨躯】を封じ込めたこと以外で後世に伝わっているものは殆どない。恐らく【巨躯】を撃ったことが、それらが霞むほどの偉業だったのだろう。
だがしかし、じゃあ"初代クラリスクレイスってどんな人?"と問われた時、彼女の実績を答えられる人は大勢居れど、彼女がどのような人物であったかを答えられる人物は……現在六芒をの除いて艦橋の面々くらいだろう。
きっと、彼らは憧憬を抱いた人々の心に寄り添って行けるのだ。見る者の心を鷲掴みにし、喜びと感動を与えられる。それが彼らの魅力であり、後に語り継がれる英雄の姿なのだろう。
カミトや盞華の周りにはいつも誰かが傍に居る。フォトンが人格を持つまで独り言をブツブツ言っていた自分とは大違いだと、アルマは一人小さく頷いた。
「あ、あれ? なんだか雰囲気が剣呑に……こんなことありましたっけ?」
思考に耽っていたアルマがスクリーンに目を向けると、画面の向こう側は一触即発の圧迫された空気で満ちていた。
『さて、これでもう邪魔者は居なくなった』
『
双方くるりと向きを変え、互いに五歩ずつ歩いた先で再び振り返り、静かに己の得物を抜いた。
「こ、これって……まさか模擬戦ですか!? あの人たち任務終わった直後にこんな事やらかしてたんですか!?」
シエラの記憶が正しければ、私的理由での模擬戦は禁止されていたはずだ。これは……。
「存分に目に焼き付けて、記録は削除しましょう」
……どうやら観戦は続行されるようだ。
『二年間であたしがどれだけ腕を上げたか、存分にその身で受けてもらうよ!』
『ああ……それは楽しみだ。でも、俺だってそう簡単に負けるつもりはないぜ?』
両者が同時に得物を握る手を強める。その時、まるで見計らったかのように、先に打ち倒したマザーの最後の欠片が、二人の真ん中にひらりと落ちた。
───それを合図に、戦いの第二幕は切って落とされた。
それは手に汗握る激闘だった。呼吸一つの間に巻き起こる火花の数は計り知れない。心から楽しむように、カミトと盞華は拳と刃を交わしていた。
今度はシエラだけではなく、アルマを技を競い合う彼らに声援を送っている。そこだ! いいぞ! と、アルマもシエラも普段出さないような大声を張り上げていた。
艦橋のお祭り騒ぎは、訝し目のシャオが帰ってくるまで続いた。
カミトと盞華の模擬戦の記録はもう残っていない。あの後彼らがどのような戦いを魅せたのか。
その激闘の行方は、彼女たちの胸の内にしまってある。
『英雄の記録 ~劫火烈拳の章~』 【完】