なんか花畑にいた……あれぇ俺は何とか貞操を守ってから疲れて寝てた筈なんだけど。何で外に居るんだ? あぁ夢か。夢なら仕方ないな。それにしても綺麗だなこの花畑、周りに咲く花が黒百合しかない。
黒百合畑だ……でもおかしい黒百合は独特な臭いがする筈なんだけどな、ここ一帯に広がるのは懐かしくて、とてもいい匂いだ。夢で匂いって感じるんだな初めて知った。
黒百合の周りに集まっているのは蝶だけだ。花畑ならもっといろんな虫がいてもいい気がするけどな、見渡してみてもいる二種類しかいなかった。鮮やかな漆黒の蝶とその蝶とは真逆の雪のような
あれ、何で俺こんなに黒百合の事を知っている?
ズキ―――――変な頭痛が、二日酔いとはなんか違うな、痛い抉じ開ける様な痛みだ。痛い、ここに居たくない。
痛い―――
痛い―――
イタイ―――
おかしい。ここに来てから頭痛が収まらない。……いたい……痛すぎる。割れる、頭が割れる。離れなきゃここから早く。
しかし俺の意志とは真逆に俺の足はこの花畑の奥へと進んで行く。止まってくれ、戻ってくれそんな思考を無視してさらに奥へ――――――
気付いたら俺は花畑の中心に居て、頭痛はもう消えていた。
今、俺が居るこの場所には霧が立ち込めており、周りには漆黒と雪白の蝶。黒百合の周りを飛ぶ蝶はとても幻想的で今まで見た物と比べ物にならない。しかし……何故だろう? 懐かしい。だがこんな光景は今生では見たことがない前世か?うっまた頭痛が……何でこんなに痛いんだ? それと切ない、何なんだこの光景は?
この夢は前世の記憶なのか?
うぐっ頭が……何なんだよ!? 俺に何を見せたいんだこの夢は!? 耐えられない。頭を割った方が良いと思えるほどの激しい頭痛。
俺を地面に倒れそうになり、少し後ろに後ずさる。
がさり。
俺が後ずさった事により、花が揺れて音が鳴る。静かなこの空間にその音が響く?
「誰じゃ?」
この口調は朧か? 助かった、今は一人でいるのがつらい。少しでも知っている妖怪が居るだけで安心できる。
「朧?」
「誰だそれは? 妾はそんな名前ではないぞ?」
「誰だ?」
「ちょっと待っていろ、そっちへ向かう」
誰だ? こんな声は聞いたことがない筈だ。なのに記憶が疼く、頭痛が再発してより酷くなる。
ズキ―――――近づかないでくれ。この声は駄目だ。異常にこの声の主に、俺は会いたくない。
「来るな……来ないでくれ!」
「大丈夫か? 辛そうだが……まっていろ、妾も治療くらいはできる。楽になる筈だそこに居てくれ」
やめろ。この声は嫌だ。聞きたくない。この声を聞くと悲しくなるんだ。やめてくれ、近づかないでくれ、心配そうに俺に声を掛けるな。
俺は何故か動けなくなっていた。この声は俺を拘束する。動けない体が言う事を聞かない。今俺の元に向かっている奴には会いたくないはずなのに、何故か体は動いてくれない。動け! 動け! 動いてくれ!
そんな無駄なことを繰り返している間に、俺の前に声の主が現れた。
その姿は、様々な蝶の刺繍が施されている漆黒の着物を纏っており、髪は黒百合の花の様で、着物から露出している肌は病的なまでに白い。そんな少女だった。この花畑をすべてまとめた様な黒い少女。
狂いそうになるほどの痛みの頭痛が俺を襲う。やめてくれ俺の前から消えてくれ……この少女を見ているとおかしくなりそうだ。何で俺は初対面の筈の少女をここまで嫌う?
「ッおまえは」
少女は信じられないようなものを見るような目で俺を見たかと思うと、急に駆け寄ってきた。俺を抱きしめてきて、あやすように背中を摩って来る。そうされている内に頭痛が引いてきた。
この少女に抱きしめられると安心する。さっきまであんなにも嫌だった少女に、とてつもない安心感と懐かしさを覚えてしまう。俺の頭痛が消えると同時に、少女は俺から離れて優しい口調で言ってきた。
「もう大丈夫だ。これで頭痛は収まるであろう。ゆっくり妾から離れろ」
俺は何とか息を整えて、少女に話しかける。
「はー……はー……お前は?」
「妾はそうだな……
「那美?」
何で俺はこの少女の名前を聞くだけで懐かしく感じるんだ? 何だこんなにも悲しくなるんだ?
「気にするな、これは夢だ、忘れてしまえばいい。そうだこれも何かの縁だ。この夢から覚める前に、おまえの話を聞かせてくれんか?」
俺はその質問に自然と首を縦に振り、これまでの事を話し始めた。那美は俺の話を、嬉しそうに、楽しそうに、安心した様な、悲しそうな、少しづつ話を進めるたびに那美は表情を変えていき、自分の事のように俺の話を聞いてくれる。
俺はそんな那美に、気付いたら警戒を忘れ、心を開いていた。
俺が話し終えると、黙っていたが口を開く。
「ふふ、楽しそうな妖生だな。妾は話を聞けて嬉しいぞ……それにしてもおまえは、いろんな妖怪に好かれているのだな。何人かは病んでいる気がするぞ?」
「いやないって、俺を好く奴なんていないから。ありえない、だって俺だぜ?」
今、この少女にあるのは異様な懐かしさ、しかしそれも気にならないほどに、俺はこの少女との会話を楽しんでいた。
「もう少しは自信を持て、今時鈍感は流行らない」
「ちょっとよくわからない」
「ふふ、そうか仕方ない奴だかわらないおまえはそうだ。その椿妃という少女は危ういぞ? どうするつもりだ?」
「どうするって言われてもなぁ……あいつは俺を誰かと間違えているっぽいし、あんな綺麗な子に想われる奴は幸せ者だよなまったく」
「本当にかわらぬなそうだ。おまえは椿妃を助けたいのか?」
「分からない……いや力になりたい。椿妃は辛そうな表情をしていた。俺をそいつと間違える程に、つらいことがあったと思うんだ。一度俺は椿妃と縁を結んでしまった、見て見ぬふりはできない」
「それでこそおまえだ■……そろそろ夢が覚める。今夜の事は忘れたほうがいい……でも、せっかく来たんだ、贈り物くらいはさせてもらうぞ」
そう言って、少女は俺の手を取り息を吹きかけた。それを終えると、那美はにこりと微笑み、俺の意識が暗転する。
さっきのは夢だったのか? しかし、頭痛も懐かしさも覚えていて、妙に現実感があった。胡蝶の夢というやつなのだろうか?
酒臭ぇ、昨日は朧に酒を飲まされたんだっけ? 酔った朧に酒をかけられて臭いが服についた。洗わないとな、その前にもう一眠り、何故だか無性にまたあの場所に行きたいから。寝たらあの少女に会える気がするから。
瞳を閉じようとする俺の視界に、蝶が見えた気がした。
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