吾の目の前の空間が歪んだ。そしてそこから黒髪の少女が現れる。
その少女が纏う気配は、禍々しくて恐ろしい。この世の狂気をまとめている様で、底知れぬ怒気を感じられる。顔は無表情だが覇気を感じる事が出来る。この少女は吾らを殺すつもりだろう。既に身を削るような殺気が吾らを襲っている。
「……汝は……何者だ?」
吾は、こいつの放つ気配に潰されそうになりながらも、なんとか口を開く。
口が渇く。
体が震える。
動悸が激しくなって息が苦しい。
こいつは今まで相手した中で最上位の妖怪だと確信できる。骸鬼や夜刀に母上そして朧と土蜘蛛、横に居る鬼童丸、それらと並ぶ大妖怪だ。吾では逆立ちしても勝つ事が出来ない。
「……茨木童子……お前は……主には……会わせない……ここで殺す……消し飛べ」
「っ絢殿避けろ!」
「ッ―――――ぐっ―――がぁっ!」
吾は避けられないことを悟り、何とか吾を襲う”何か”を防御した。しかし、それはあまりのも重く、吾は地面に足が埋まってしまう。このままでは、次の攻撃は避けられないだろう。それを分かっているこの少女はすぐに二撃目の”何か”を放った。回避は不可能、今の威力じゃ受け流すことなどできないし、一撃受けた感じ重すぎる。吾の力では跳ね返せない。
吾はやられると思った瞬間に、鬼童丸に突き飛ばされた。そのおかげで地面から抜け出す事が出来たが、鬼童丸は慌てていたようで力加減が出来ておらず、吾は後ろの森まで飛ばされる。
「っ綾殿のすまぬ!」
「いやいい! 助かった!」
「……よそ見……しないほうが……いいよ?……すぐ死んだら……つまらない」
「くっ貴様! 吾を愚弄するか!」
「……今の……貴方じゃ……私に勝てない……これは事実……私の恨み……晴らさせてもらう……それにお前を殺せば……空亡は多分精神が弱くなる……そこに付け込めばいい……」
吾はこいつと初めて会う筈だ。何でこんなに敵意を持たれておるのだ!? ちっそんなこと考えている場合ではないな……気を抜くと簡単に吾は死ぬぞ、だが幸い鬼童丸が居るある程度は戦えるだろう。それと最後の方、不穏なこと言わなかったか? 吾はこいつに恨まれることしたのか?
「そう簡単に綾殿は殺させんぞ!『剣戟”梅の木”』」
鬼童丸は高速の攻撃は全てこの少女に放たれる。それは先程結界を破った時よりも早く一撃一撃が確実にこの少女の命を奪いに迫っていく――――しかし、少女はこの攻撃を前にしても怯まずに、その場から動かずそっと手を出した。するとそこから異様なまでの密度を持つ骨の塊が形成され始めた。
”梅ノ木”はこの骨の塊にことごとく防がれていた。
「……早いけど……威力足りない……この程度……これで……十分」
「――――硬いな……これならどうだ?」
鬼童丸は二本目の刀を抜いて十字に構える。そして………
「『櫻花』」
その名を言った途端に、視認できないほどの速度の斬撃が放たれた。この技は先程の何倍だ? どう考えても速度が上がっている。一撃の速度に威力そして数、その全てが”梅の木”をはるかに凌駕している。”櫻花”が先程の骨をいともたやすく粉砕して。今度は確実に少女に至った。
「獲った!」
「……痛ッ!……くそ……」
「”梅の木は天に昇る無数の枝葉の如く、”櫻花”はあたかも億万の花が吉野の山に散るが如く、梅の木の十倍の速さで”斬撃”する、あと何発で貴様は沈む?」
「……だけど……目は慣れた……」
「なぬ?」
「……次は……こっちの番……お前は……殺す必要ないから……はじき出す……喰らえ……主曰く……ロケットパンチ!……」
少女の後ろから、巨大な骨の腕が現れる。それは何十もの骨を合わせて作られている様で禍々しい形をしている。そしてそれは妖力を纏いながら回転し始める。骨の元に風が発生してそれに周囲の者が吸い込まれていき、吸い込まれたはしから、粉々にされていく……そしてそれは放たれた。回転し、周りを巻き込みながら一直線に鬼童丸へと。それは、その巨大さからは想像できないほどの速度で一瞬のうちに鬼童丸の元までたどり着いた。
「―――――――――っ重いな―――それに回転が「……吹き飛べ」」
そのまま鬼童丸は巨大な腕に捕まれこの空間から叩き飛ばされた。
「鬼童丸!」
「綾殿すぐ戻る! 少し持ち堪えてくれ!」
そう言われもきつすぎるぞ……どうする?……
「……まぁすぐ殺すから……安心して……死んで……」
そして少女の後ろから5本もの骨の腕が現れる。それは、吾の体の何倍もあり。この細い吾の身など簡単につぶす事が出来るだろう。その腕は吾に伸びてきて何百もの連打を放ってきた。隙は無く威力も絶大。一発でも掠れば即死するであろうな。
吾はそれを愛用している大剣で何とか流して防御する。しかし時間が増すごとに威力も速度も上がっていき。一発防ぐのにも体力を大きく消費する。
「ぐぅ―――クソッ!」
「……そのまま……潰れろ……」
ついに大剣が耐えられなくなり、罅がはいる。
どうする? 考えろ。どうすればいいかを。
勝利は不可能。
逃走も不可能。
逆転?
逃げ切る?
時間稼ぎ?
それとも命乞いでもするか?
―――――――いや、違うな。吾は何を弱気になっているのだ?
吾は鬼だぞ? 妖怪の代名詞とも呼ばれる鬼だ。
理不尽の塊と人間に呼ばれ。そして自然を操る鬼だぞ?
この程度……倒せないくどうする? 炎が足りない? 妖力が足りない? 素早さが、体力が……全てが劣っていると? ありえぬだろう! 吾は鬼である! 傲慢で、無敵で、強欲な! それがこの少女如きに負けていいとでも? そんなの! 母上に知られたらもう相手にされないどころではないだろう!? ならばどうする? 勝てばいいどんなに醜くても、意地汚くても勝てば勝者なのだ。五臓六腑すべて捨てる覚悟で挑むしかないな……くはは、くははは!
滾る! 血が滾る!
この身に流れる鬼の血がこいつを殺せと叫んでいる。勝とうではないか……殺そうではないか!
その考えに至った吾に、変化が訪れる。
吾の腕がより赤く染まり、角が伸びる。背中から炎が溢れ羽のようになる。罅のはいった大剣を炎で修復して、より太く巨大にする。
そして残った妖力を全て炎へ転換して体に炎を纏わせる。
「……変わった?……」
「そうだな……行くぞ?」
羽を使い一気に飛翔するそして速度を上げて少女に間合いを詰めて腰をかがめて腕を突き刺す。少女の体から赤い花が咲いたよに血が噴き出す。少女は吾の速度の変化に反応が遅れ、回避する事が出来なったみたいだ。
そして刺した腕から少女の体を燃やす。飛び散った血は全てが蒸発し、鉄の臭いと肉の焦げる臭いが周りに漂よう。
「このまま炙り続けるぞ?」
吾はそう言いながら地面に少女を叩きつける。
さらに火力を上げる。少女の体を全焼させる勢いで。
油断した少女のにもはや命はない。確実に殺す。
―――――しかし、次の瞬間不可解なことが起こった吾が宙を舞っていたのだ。さっきまで少女を叩きつけていた吾が……。
状況を確認するために先程までいた場所を見ると、少女は立っていた。腹に穴は開いているが、平然な顔をしている……何が起こった?
「……熱かった……油断した……もうしない……」
「ちぃ!この程度では堪えぬか! ならもう一度!」
「……同じドジは踏まない……だけど……警戒必須……」
吾は少女に左手で殴り掛かり右手で大剣を振るう。
同時に迫る攻撃に、少女は一瞬考えるそぶりをしてから、腹の中に手を入れて刀を取り出した。その刀も腕と同じようにいろんな種類の骨が固めて作られていて、歪な形をしている。数多の妖怪と人間の骨で出来た歪で禍々しい異形の刀。少女は、その刀で大剣を防ぎ、返しの刃で拳を弾く。鉄のぶつかり合うような音が響き、耳が痛む。
一瞬だけ少女と目を合わせてから、吾は蹴りを放つ。炎を纏った蹴りは空気を焼きながら少女に迫る。少女はそれを腕で防いだが、予想以上の威力だったようで、軽くよろめいて後ずさる。
隙を見せたな? 吾はそのまま再度蹴りを放つ。
――――しかし、それは突然空間から現れた骨の壁に防がれた。それは死者の頭蓋骨をありつけたもので、それらはすべて苦悶の表情を浮かべている。その頭蓋に吾の炎は飲み込まれていく。苦悶の表情を浮かべながら、炎を吸い込む頭蓋は恐ろしい物だった。
「……ごちそう……さま……妖力……うまうま……椿妃ちゃん回復☆……」
この少女は今更ながら椿妃と言うらしい……吾の力が奪われたのか……それだ相手は回復するだと? 面白いな吾はまだ攻撃をうていない……この技は椿の妖力を使っている筈だ。そうじゃなきゃ反則だからな。できるだけ使わせて消耗させ続ければいつか勝てるかもしれん。希望は見えた。勝機はある。ならば! それを掴みとるまでよ!
しかし、楽しいなこの戦は……鬼としての本能が、もっと激しい戦を望んでいる。
忘れていたが、戦の作法くらいちゃんとしなければな。
「おい……貴様、名を名乗れ」
「……おまえ……やっぱり……変わらない……名乗るよ……私は椿妃……
「吾も名乗るぞ、吾は絢、茨木絢である。偉大なる吾が母上雅の娘」
「それで何がしたかったの?」
「いやこれは大事だろう?」
「……変わらないんだね……」
そう言った椿妃の顔はとても穏やかで優しい物だった敵意など全く感じさせないように。でもそれは一瞬で、すぐに無表情に戻る。
「でも……殺――――――く」
「おい! どうした!?」
「まって……なにこれ!?……空亡……違っ……何で……私は空亡を閉じ込めて!? いや……戦いたくない!」
椿妃の様子が一変した。
頭を押さえて喚きだす。まるでさっきまでの事を信じたくないように。
そんな椿妃の体からは泥が溢れ出して、椿妃を包んでいく。
黒く、この世の悪意を詰め込んだような最悪の代物。
”これ”は危険だ。
”これ”は駄目だ。
”これ”存在してはいけない。
吾は初めて恐怖した。
怖い
怖い
怖い
コワイ。
椿妃の姿が変わったいく。椿妃の姿が溶けるように消えて霧と泥が発生する。周りに悪意と、どす黒い妖力の渦が溢れ出す。そして――――現れたのは。体中に泥を纏った。巨大な黒い骸骨だった。骨一本一本が全て数多の死者の骸を合わせて出来ている。骨で腕は六本あり、胸の部分に結晶がありその中に椿妃の姿が見える。
泥が垂れた。
そして中から黒い人影が無数に出現しはじめら。どう考えても人間ではないこいつらは意思を持っていない気がする。いや、何かを言っている。聖杯? 何のことだ?
人影は吾を見ると一斉に襲い掛かってきた。一体一体、全員が違う武器を持ち吾を殺そうと走り出した。このまま何もしなければやられるだろう。吾は迎え撃とうしたがそれは失敗だった。
泥を出していただけの椿妃が動き出して、吾に向けて六本全ての腕を使い攻撃してきたのだ。
その攻撃は全部の腕が意思を持つように、自由自在に動いて吾をおってくる。咄嗟なことで反応がうまくできずに、何回目かの攻撃で吾はそれに直撃する。
「グッ!―――ガァッ!――――」
吾は地面に叩きつけられ血反吐を吐いた。今ので骨の大半が逝った。動けない。そんな吾に近づくのは人影。絶体絶命。そんな言葉がよく似合うな……
「セイハ『燃え尽きろぉ!』GAAAAAAA」
この声は?
聞きなれた声と共に周りの人影は燃え尽きたは。そして吾は霞む視界の中で声のする方を見る。
「……おい……空亡……なのか?」
「悪い……絢。遅れた今から俺は椿妃を救う」
空亡の姿いつもと違った髪が伸び纏う妖力も増えている。明らかに強くなっている。なにがあったんだ?
「戒のおかげで拘束は解けたんだが敵が多すぎてな……やっぱり椿妃には聖杯の泥が……今、助けるからな」
「どうやるのだ……何を言っておるのだ?」
「この泥を全て燃やす」
「出来るのか?」
「あぁ今の俺じゃ無理だから力を借りるんだが。行くぞ」
空亡が息をすった。その瞬間心地よくて暖かい炎のような妖力が流れ始める。
「求めた渇望は仲間たちが道を見失わないように閃光となって燃え続けたい。夜都賀波岐が一柱。『人物模倣』天魔・母禮。その大極を今此処に顕現させよう」
そして空亡はその詠唱を紡ぎ出した。
かれその神避りたまひし伊耶那美は
その一文を唱えると空亡の髪の色が変わる。血の様な朱殷の色から鮮やかな金髪に、体には黒い鎧を纏い、目の色も変化する。その姿は女のようで美しかった。
出雲の国と伯伎の国 その堺なる比婆の山に葬めまつりき 。
周りの空間を炎が包みだしここ一帯を別の空間に変化させる。雲が発生し始めて、雷だけが降り注ぐ。それは周囲の人影を倒していき。
ここに伊耶那岐
次に空亡の手に二振りの刀が現れた。一本は赤く炎を纏っている。もう一本は白い雷を纏っている。それは一本だけで妖怪と錯覚するほどに妖力が込められている。
御佩せる十拳剣を抜きて
空亡の後ろに妖力が集中し始める。それは形を成していき。
その子迦具土の頚を斬りたまひき
――太・極――
随神相――神咒神威・無間焦熱
そして空亡は巨大な女武者を出現させた。
大極発動! そういえば何でシュピーネさん大極ないんだろう?
まだリクエスト募集してますので活動報告を見に来てください。そうだ知り合いが自分のSCP記事書いてくれましたので活動報告に貼ります。次回は明日投稿。
良ければ感想とお気に入り登録お願いします。