どうやら百合百合しい世界に転生したらしい。   作:今日のぱんださん

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第十九話︰夏休みの過ごし方 その二

 

 

 

夜の学校という場所は古ければ古いほど雰囲気がある。軋む木の床、かたかたと揺れる窓。うっすらと光る非常口。

大体夜の学校に忍び込む定番としては忘れた宿題を取りに来る。テストの答案を盗み出すなどろくでもないものだったりするのでバレないことが絶対条件。今回のような気楽なレクリエーションとして入るなんてまず起こらないだろう。

ちなみに僕は霊の存在を信じているほうだ。そもそも僕という存在が転生している身なので魂が存在することを知っている。ならば、現世に残る魂が幽霊になってもおかしくはない。

まあ、霊感皆無なので見ることは叶わないのだけども。

ただ霊が見える見えないに関係なく夜の学校というのはその雰囲気の不気味さに否応なく緊張させられる。それが楽しいわけだが。

 

「それでは第一回夏の肝試しを始めたいと思いますわ!」

 

校門前で美智瑠が元気よく宣言する。

ただいまの時刻は夜の十時。当然のように学校は真っ暗である。

 

「まずは四人みんなで中等部の校舎を回ります。その後に二組に分かれて高等部へ」

 

「中等部……初めて行くわ」

 

そう言えば愛衣さんは高等部からの入学組だから中等部に立ち入ったことがないのか。

 

「まあ、殆ど変わらないですよ。全体的にサイズや規模が縮小されている感じですし」

 

「そうですわね、位置取りも高等部と変わらないので迷うことはないでしょう」

 

「もしはぐれることがあったら近くの教室が何か教えてくれれば私たちが向かえに行くから安心してくれ」

 

「……お願いね?」

 

さあ、皆で楽しい楽しい肝試しの始まりだ。学校の鍵を持っている美智瑠が懐中電灯を持って先頭を行き、鍵を開けて校内に入る。

 

「あ、ちなみに盛り上げる為にキャストを校内に配置していますので、存分に楽しんでいってください」

 

「帰りたい……」

 

どうやら校内は大規模のお化け屋敷となっているらしい。

確かにまだ入口の靴箱だというのに冷たい冷気と霧で見通しが悪いが、点々と床に光る矢印が設置されており、順路は決まっているようだ。

 

「そういえば僕、お化け屋敷って来るの初めてかもしれません」

 

「私もですわ。母に許可を求めたらそっちの方が楽しいだろうと色々仕掛けてくれるそうで」

 

「待って、最初の予定ってただのウォーキングよね?

それが何でこんな本格的なお化け屋敷探検になってるの?」

 

「まあ、ただ歩くだけだと飽きるしこういう変わり種はありじゃないか?」

 

「全然よくないわよ!」

 

今のところ暗くて見通しが悪い以外にこれと言って変わったところはない。このままルートに従っていけば恐らく図書室に行き着くはずだけども……

 

「ん? 何か図書室前に書いてあるね」

 

「ええ、読み上げますわ。『背中に気をつけよ』」

 

「定番ですね」

 

「嫌よー、定番って分かってても怖いのよ! 背中に気をつけろとか……え、足音しない?」

 

確かに、さっきまで無音だった廊下にゆっくりとぺた、ぺた、と濡れた足音がする。

僕らが来た方から。

 

「だんだん早くなってますね。この類は大体振り返れば……」

 

「……振り返れば?」

 

「こっちに向かって走ってきてるやつですね」

 

愛衣さんが恐る恐る振り返る。それを待ってから僕も振り返れば案の定、誰もいないはずの廊下に人がいる。

 

 

 

真っ赤なワンピースを着た全身ずぶ濡れの髪の長い女性が。

 

 

 

「きゃああああ?!」

「愛衣さん、こちらに」

 

取り乱す愛衣さんの腕を引いて図書室に四人で入って、鍵を閉める。

それと同時にドアにばん! とぶつかる音がする。

 

「私も怖がれば姫様に腕を引いてもらえたのでしょうか……」

 

「二人も助ける余裕はないからその場合は美智瑠は生贄でしょうかね」

 

「ひどいですわ!」

 

「ううぅ、いやいやいやいや、もう既にいっぱいいっぱいなんだけど」

 

「愛衣がそんなに怖がりだとは思わなかったな。私と一緒に結構ホラー映画見てるじゃないか」

 

「静が見てるのどれも何とも言えないB級で全然怖くないじゃない。それに映像と体験型では怖さがまるで違うわ」

 

「しかし、まだまだ始まったばかりですよ?」

 

「そうですわね。私たちは図書室に逃げ込んだだけですし、ここから表の人をどうにかしてここから脱出しなければいけません」

 

まだドアをばんばんと定期的に叩く音が聞こえるのでこのままだと図書室に閉じ込められたままとなる。

 

「アトラクションとして考えると謎解きか何らかの弱点をつけば倒せる、または出し抜けるというのが妥当じゃないかな」

 

「そのヒントがこの図書室の中にあるというわけですね。まあ、ルートに従えば自然と分かるでしょう」

 

図書室の中にもきちんと矢印が敷かれているので順路通り進む。

図書室から繋がっている図書準備室に入り、そちらの出入口へと矢印は向けられている。

 

「……これって普通に廊下に出ろってことよね?」

 

「そのようですわね」

 

「……それで逃げられるの?」

 

「うーん、美智瑠さんのお母さんがどういう難易度設定でこのお化け屋敷を作っているかによるな」

「母は割と凝り性というか大人気ないところがあるので……生温いことはしないと思いますわ」

 

「ということは……?」

 

「百パーセント追いかけてくるでしょうね」

 

「どうするのよ!」

 

「ふふ、こういう時に大事なのは冷静であること。クールであれば自然と最善策ってやつが思い浮かぶものさ」

 

「! 何か考えがあるのね」

 

「ああ、あるとも。とっておきのやつがね。何も考えない、無心で前だけを見るんだ」

 

「静が何を言いたいか全然分からないのだけれど」

 

「ふっ、つまりはね」

 

静さんが不敵に笑い、準備室のドアを思い切り開ける。

 

「逃げるんだよォ!」

 

 

まさかウォーキングに来て全力疾走する羽目になるとは少しも思わなかった。

 

 





肝試し編が長引きそうで中々ナイトプール(水着回)に行けない…
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