どうやら百合百合しい世界に転生したらしい。   作:今日のぱんださん

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第二十話︰夏休みの過ごし方 その三

「はあはあ……何で走らないといけないのよ……」

 

「逃走の基本は全力疾走じゃないか」

 

「これでは……ウォーキングにも肝試しにもなってませんけども……」

 

「でもお化けから逃げるなんてホラーの定番でちょっと楽しかったですわ。映画とかですと先回りされたり、逃げきれないものですが、今回は大丈夫のようですわね」

 

その分ただでさえ少ない体力を大量に使ったけどね。僕と愛衣さんの体力的に同じ手はもう使えないだろう。

 

と、いうか、

 

「お化け屋敷ってそんな長距離逃げなくてもすぐに追ってこなくなるものなのでは?」

 

「それもそうね……逃げるのに必死だったけど角曲がればもう大丈夫だったのかも」

 

「まあ過ぎたことを気にしてもしょうがないじゃないか。さあ、次は音楽室のようだよ」

 

さくさくと進んでいく静さんはいつもよりも少しテンション高めに見える。やっぱりホラーなものが好きなようだ。

 

「そういえばここの学校には七不思議とかあるのかしら?」

 

「七つあったかは忘れましたがいくつかの怪現象は聞いたことがありますわ。中等部の校舎側ですとこれからいく音楽室もあります」

 

「それって……どんな?」

 

「ああ、それなら僕も知ってますよ。何でも音楽室に使用した楽器をそのままにしておくと……」

 

「……しておくと?」

 

「次の日ちゃんと整備されて綺麗に片付けられているという……」

 

「それってただの親切な話じゃない!」

 

「そうなんですよね。この学校の怪現象って可愛い話ばかりで」

 

「むしろ楽器を出しっぱなしで帰るような生徒は内にはまずいないからその話そのものが成立しないんだけどね」

 

「それじゃあそんな怖い事は起こらないのね?」

 

「ええ、音楽室の備品って高価なのものが多いので走り回るようなことにはならないと思いますわ」

 

話してる間に音楽室前につく。またしても音楽室のドアに謎の張り紙が貼り付けられている。

 

「読むよ。『声に気をつけよ』だって」

 

「声……音楽室だから、でしょうか?」

 

「さあ……とにかく入りましょ」

 

静さんがドアを開けて中に入るが、暗いだけで特にこれと言った変化は見られない。普通にピアノと机があり、奥には楽器類が置いてあるだけで何か違和感を感じることもない。

 

「特に……何も無いですね」

 

「そうだね。ルートとしては音楽室に立ち寄ってから次に行くみたいだけどこの様子だともう行ってもいいかな?」

 

「そうしましょ。何かいるのも嫌だけどただ暗いだけって言うのも不安になるわ」

 

「では、参りましょ――」

 

 

「しーんぱいないさあぁぁぁぁぁー!」

 

 

「「「「きゃああああ?!」」」」

 

思わず逃げる。そら誰だってそうするだろう。

暗闇の中でいきなり天井が外れてそこから出てきた男に大声で叫ばれたら。

やたらいい声だったけどそんなものは関係ない。驚いたら、逃げる。怖いとかじゃなくてただただびっくりした。

ひとしきり角まで走って皆足を止めるけどさっき走った時よりも短距離なのに、もっと疲れた。

 

「なにあれ?! 何なの、あれ?!」

 

「大〇ライオンですかね」

 

「そういうことを聞いてるんじゃないのよ! 何で天井から……はあ、もういやぁ」

 

愛衣さんの気持ちも分かる。あれが何かとか何でいるとかどうでもよくて、リアクションとるのに疲れる。

 

「いやー、驚いたね。完全に音楽室の中を見ていて油断していたよ」

 

「ええ、びっくりしましたわ。まさか天井に隠れられるスペースがあったなんて知りませんでしたわ」

 

静さんや美智瑠もさすがの予想外の出来事に驚きを隠せないらしい。

 

「次は……渡り廊下から体育館ですかね」

 

校内より外と繋がっている渡り廊下の方が月明かりのおかげで明るくて少しほっとする。しかし、この先の体育館は縦横ともに一番広いのでそこがどうなっているかが不安すぎる。

 

「ただ広いだけならいいけど、お化け屋敷の定番のような迷路になってたら私入らないわよ」

 

「さすがにこの短時間でそこまでの仕込みはしてないと思いますので安心してください」

 

「私としては大型ホラー迷路なんて楽しそうでそっちの方が嬉しいのだけれど」

 

「僕は愛衣さんに賛成ですね……もう既にかなり疲れました」

 

歩き始めて十五分も経ってないけど、驚いて走って驚いて走ってと繰り返しただけで一瞬で体力が空になった。もう高等部の中まで歩く元気はないから体育館を見終わったら帰りたい。

体育館前につけば、案の定張り紙がある。

 

「『トラウマ注意』ですって。これは、愛衣さんどうしますか?」

 

「……正直入りたくない。けど、皆は行くんでしょ?」

 

「ええ、私はまだまだ、余裕があるので」

 

「勿論。むしろ楽しみだ」

 

「僕はどっちでもいいですけど、行くとしても体育館まで、ですね。体力が持ちそうにないです」

 

「そうね、私も華月さんと同じ気持ちだし、最後に体育館だけ行くわ」

 

息を整える。

ここまでの流れで後ろに気をつけて、音に気をつけてときちんと注意喚起をしてくれているのを考慮するとはっきりとトラウマ注意と書かれているということは相当な気合いの入った仕掛けが用意されているのだろう。

正直女の子たちに、そんなガチなホラーを用意してしまうと泣いてしまう可能性もあるので愛衣さんがこの先大丈夫なのか不安ではあるが、行くというのならその意思を尊重しよう。

 

「じゃあ、開けるよ?」

 

「ええ、いいわよ」

 

「はい、どうぞ」

 

「いつでもよろしいですわ」

 

 

❁❀✿✾

 

 

中は今までの中で一番暗かった。暗幕で完全に外の光を遮断し、床は黒いシートで覆っている。僕らが入ったと同時に扉は外から閉められて明かりは懐中電灯のみ。

 

「一応、迷路というわけではなく一本道のようだね」

「ただ暗くて歩くだけなら、ま、まあさほど怖くないわね」

 

「姫様、もし怖ければ私の手にどうぞ掴まり下さい」

 

「ありがとうございます、美智瑠。もしもの時はお願いしますね」

 

「ええ、ええ。姫様の為ならたとえ火の中水の中。溶岩さえ渡って馳せ参じますとも」

 

「さすがに溶岩は言い過ぎじゃないの……」

 

「愛さえあれば無問題ですわ!」

 

「愛、凄いなあ!」

 

「話してる間に折り返し地点のようだよ」

 

静さんの言う通り一本道から少し開けた場所に出た。開けてると言っても何かあるわけでもなく……いや、一つだけわかりやすくぽつんと置いてあるものがある。細長くて覆いが被っているのでその中身までは分からないが明らかに違和感がある何か。

 

「……これってこのまま放置でもいいわよね? わざわざ覆いとらなくていいわよね?」

 

「そうですねー、ここまでの流れからこの覆いを取ったらなにかが起こるんでしょうし」

 

「わざわざトラウマ注意って書いてあるんだ。それ相当なおもてなしがあるに違いない」

 

「静。ふりじゃないからね? やるなよ、やるなよはこの場合ガチのやめてね? ってことだからね?」

 

「私は、母が一体どんなものを用意したか気になるというのが、本心ですわね」

 

「ふふふ、美智瑠さんも気になるよね。というか、こんな明らかに覆いをとってね、と言わんばかりに置いてあるんだよ? 取らない方が失礼じゃないかな?」

 

「そういうよくわからない芸人根性はいいから……もう出ましょうよ?」

 

「全く、愛衣は怖がりだなー。分かったよ、もう出よう――おっと手が滑った!」

 

こてこてな、棒読みとともに静さんが覆いを外す。中からでてきたのはただの姿見だった。

 

「……姿見? なんだ、怖がって損した。人体模型とかもっとあれなやつが出てくると思ってたわ……って、静どうしたの?」

 

姿見を見てさっきまで、余裕のあった静さんの表情が凍りつく。

 

「いや、ね。この展開のホラー作品を知ってるんだが結構トラウマ級に怖かったことを思い出してね」

 

「静さんが、怖かったって珍しいですね」

 

「正確には怖かったというよりは驚いたっていう感じなんだけどね。映像演出として、いきなり目の前にいるとか振り返ったらこっちに向かって凄い勢いで近づいてきてるとびくってするだろう? そういう感じのやつさ」

 

「……じゃあ、今回の場合そういうのがこれから起こるわけ?」

 

「恐らくは。いやでもその作品の場合襲われてそこで終わり、バッドエンドって作りだったからなぁ」

 

「出口は?! もうさっさと出ましょうよ!」

 

「……今気づいたけどこの先道がないね」

 

「行き止まり、ですか。これは逃げようがないですわね」

 

「ええええ、引き返すしかないの?」

 

「でも、ここで引き返さないといけないってことは……」

 

ばうん、ばうん、と何かが跳ねる音がする。きっとボールが跳ねる音。

静さんが音の方へ明かりを向ければ来た道から一個のバスケットボールが転がってくる。

 

明かりを向けたのが間違いだったのか僕達は気づいてしまう。来た道に何かがいることを。

白い人。

 

暗闇の中でもわかる白い人が立っていて、こちらに向かって、走ってくる。

 

「あ、あアアアア」

 

「――死ねぃ!」

 

「あべしっ」

 

「きゃああ、……え?」

 

「あわわわ、ん?」

 

「ひ、姫様?」

 

「あ、つい」

 

しまった。恐怖のあまり思わずこっちに来る人を走ってくる勢いを利用して投げ飛ばしちゃった。

まずいまずい。お化け役の人受け身も取らずに床に叩きつけられたよね?

 

「み、美智瑠! すぐに救護の人を! だ、大丈夫ですか?!」

 

「は、はい。あ、私です。肝試しは中止。体育館の電気をつけてください、いますぐ!」

 

慌しくしまらない形でウォーキング兼肝試しは幕を閉じた。

教訓として、追い詰めすぎると人は何をするかわからないというのが我がことながら身にしみた。

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