どうやら百合百合しい世界に転生したらしい。 作:今日のぱんださん
演技力とは、何か。決められた振り付けを間違えることなく、雄大に魅せられることなのか。
セリフをセリフのまま感情豊かに語ることか。
キャストとしてその内面を理解し求められる以上のクオリティを引き出すことか。
少なくとも主演である僕に求められるのはその全てなんだろう。
しかし、だ。
「おや、お嬢さん。何かお困りかな?」
「あ、あなたは?(何この人、趣味の悪い仮面)」
「いきなり辛辣。しかし、心配無用。私は君の味方さ。強きを虐め弱きを励ます優しい悪魔。人は私を悪魔仮面と呼ぶ。さあ、弱きものよ、唱えるんだ。『助けて、悪魔仮面!』と。さすればその悩みをこの悪魔仮面がまるっと解決してやろう」
僕は一体何を言っているんだろう。というか何なんだろうこの舞台は。
美智瑠主導で進められた完全新作オリジナルの作品「怪盗怪傑『悪魔仮面』」。もうタイトルからひどい。
内容としては仮面を被った主人公が不遇な登場人物を悪いヤツから助けるという遠山の金さん的な内容となっている。変わっているところとしては悪魔仮面は人の心を読めるらしく敵も味方も悪魔仮面の質問には内心がナレーションとして皆に筒抜けで流れるという嘘をつけない世界観である。
その能力をうまく使って敵も味方も関係なく赤裸々にされるというひどいヒーロー作品となっているのだが。
後この悪魔仮面は別にモノは盗まない。じゃあ何を盗むかって美智瑠曰く「あなたの心です」ということだ。
美智瑠的にはこの悪魔仮面が凄いかっこいいヒーローとして皆の心を鷲掴みにするらしい。
台本を一通り読んで思ったのはこの悪魔やることがあくどい。不良に絡まれて困っているいじめられっ子を助けるシーンにしてもその能力を活かして不良仲間たちの隠してる知られたくないことを暴くわ、不良のリーダーが溺愛している妹を人質にとるわ。あとそれでもダメなら実力行使の悪魔ビームで焼き払うというゴリ押しぶりである。
しかしなぜだか助けられた者達は悪魔仮面に盛大に感謝しているあたりご都合主義もいいところである。
これは、ダメなんじゃないだろうか。
表情の乏しすぎる僕のために仮面の主人公という配慮は有難いがもうそんな、配慮も主演も投げ捨てて無難に有名な舞台をやる方がいいんじゃないか。
主演に作品を合わせるぐらいなら作品にあう主演を見つけるべきだろう。世にはそういうゴリ押しをした結果駄作中の駄作となった作品もあるのだ。真の仲間とか。
いや、皆出来上がったばかりの作品に熱が入っていて冷静な判断ができないだけだ。
きっと一週間ぐらい作品読み込んで進めていけばこれはやばいと気付くに違いない。
そう、まだ慌てるような時間じゃない……
❁❀✿✾
一週間が経過した。うちのクラスの士気は未だもって高い。
凄い一体感を感じる。今までにない熱い何かを。
風……吹いてきている。確実に、着実に、やばい方に。
皆心のどこかで気づいていてももう止まれない。いけるいけると走った先が崖とわかっていても突っ込むしかない。
……その先頭を走らされるのは僕のわけだが。もううだうだ言っても仕方がない。わかっていて止めなかった僕にも責任はある。たとえ泥船であろうと渡りきって見せるしかない。
最初はあんなに笑顔で監督をやっていた美智瑠も今や引きつった笑みで目も焦点があってないように感じる。その傍らにずっといて助言していた静さんの姿はいつの間にかみえない。僕を含めた役者はもうやけくそとばかりに演技に打ち込む。むしろ開き直ったおかげか皆いい演技をしている。これが超B級ヒーローショーじゃなければそこそこいい舞台になったんじゃないだろうか。
今回の件から僕が学ぶべき教訓は、素人に脚本を任せるな、ということだろう。
やりたいこと、見せたいとこ、伝えたいことがあってもやり方、見せ方、伝え方が拙ければその十分の一も届かないだろう。どんなに傑作であろうと三分の一でも届けば御の字。
お客としては盛大な監督のオナニー見せられても唖然とするだけだ。
おっと、僕としたことがお嬢さまらしからぬ言葉を。いや、きっと美少女が性用語を口にするだけでご褒美だろうからありか。ありだ。美智瑠なら超喜ぶ。
いやはや、しかし、全くもって損な役回りだ。
不幸だ……と呟いてしまうような状況だが、別に不幸とは思っていない。なんだかんだと僕はこの状況を楽しんでいる。
僕はキャストとして最善を果たす。その一方で監督はこのままじゃやべえやべえと頭を悩ます。
お金はあるからとつぎ込んだところで内容が酷ければただの金の無駄で、監督は能無しと嘲笑われる。
例えば悪魔男とか。見たことないけど。
美智瑠としてはそうならないように少しでもよう方向に持っていかないといけない。でも、自分の伝えないところも譲れないから悩む。
美智瑠が悩んで苦労する姿など早々見れないから性格は悪いけど今は楽しい。
さあ、監督。
次はどんな注文をつけてくるんだい?
君が思う最善を言ってみて。
僕がそれを叶えるから。
結果は……しーらないっ