どうやら百合百合しい世界に転生したらしい。 作:今日のぱんださん
世間一般において、お泊まりイベントというのは楽しみにされるものだろう。
普段は学校内でしか交流がない友達の意外な一面を知ることができたり、お風呂では実は着痩せしてたあの子の裸体にドキドキしたり。
夜は布団の中で女の子らしい話題に花を咲かせたりとそれはそれは楽しい思い出になるだろう。
まぁ、それはあくまで一般的な話で僕にはこれっぽちも関係のない話なんだけどね。何より学校でも家でも猫被ってる身としては宿泊研修の間はずっと安らぐ間がないと思うとただただ憂鬱だし、できることならお風呂は1人でゆっくり入りたい身としては複数人の女の子たちとのお風呂など目のやり場に困るは確実に美智瑠からのセクハラがあることを考えればゆっくりなどもってのほか。
就寝時も同じ理由で夜這いの恐怖がある。実家のお泊まり会の時は目が時々怖いな、と感じたぐらいしか違和感を感じなかったが大人にまた一歩近づいた彼女たちの行動力をかんがえると可能性は捨てきれない。
そうは言っても中等部のころの宿泊研修が勉学メインだったので砕けきった内容にはならないだろうと思う移動中の車内である。
こういったイベント施設は決まって田舎の山中と相場が決まっているので移動も長距離となる。
なので現在神島家所有のリムジンに乗っている。
うん、意味がわからない。普通の感覚ではこういうイベントは協調性が重視され個人車での移動や別行動はご法度なのだが、そもそも一般常識や社会での協調性など関係ないほど裕福な神島家の娘にそんな常識は通用しない。
同乗してる静さんにしても大病院の娘なので将来性において内申や学校評価など歯牙にもかけない。
僕? 僕はできるなら皆と一緒にバスで移動するつもりだったよ?
ほら、どんなに家筋が凄くても僕の性根の部分は小市民だからまず別行動で目的地を目指すなんて選択肢思いつきもしないからね。
彼女達に言わせれば謙虚で日本人らしい美徳ということらしいがこれが普通だからね? 一般常識とか集団行動を鼻で笑う美智瑠がおかしいからね。
そんな美智瑠が今朝に当たり前のように家の前にリムジンで迎えに来て学校まで一緒に行くのかな? と思ったら学校とは違う方向に走り出したリムジン。
聞けば直接現地に向かうというし、僕が皆とバスで一緒に行こうと言っても、「まあまあ、まあまあ」とよくわからないなだめ方で流されて現在にいたる。
「姫様、何かお飲み物はいかがですか? 移動中お暇でしたら映画でも見ますか?」
「華月さん、よかったらこの伽椰男VS貞夫みない? ほら、一時期CMでやってた『マダオにはマダオをぶつけるんだよ!』って煽り文句のホラー映画」
至れり尽くせり、とはこのことだろうか。両隣を挟まれて色々とオススメしてくれる。静さん、それ僕の知ってるホラー映画とは違うみたいだけどもうタイトルからB級臭が酷い。というかそれはホラー映画なの?
「でもこうやって三人だけの移動だと修学旅行を思い出しますね」
「ああ…美智瑠が勝手にファーストクラス手配してたやつですね」
「私、ファーストクラス乗ったのあれが初めてだったよ」
僕もである。しかも、時期が時期だからか他にファーストクラスに乗ってるお客さんもおらず貸切状態だった。広さや設備に驚かされたが僕としては何よりもこの利用料金は一体いくらなのかと考えた時が恐ろしくて恐ろしくてある意味忘れられない思い出ではある。
「あら、お2人がお望みなら夏休みでもまたファーストクラスでハワイにでも行きますか? 私、お友達に使うお金に糸目はつけませんわよ?」
「はは、美智瑠さんはそれを本気で言ってるから凄いよ。ファーストクラスはともかく皆で旅行は行きたいね」
「ええ、本当に。僕も旅行は行きたいですね、ファーストクラスはともかく」
くすくす、と静さんと笑いあい、むくれる美智瑠。
ああ、こんな普通な日常が毎日続けばいいのに、と思ってしまう。
「……ところで姫様、お買い物で買った下着は持ってきてくれましたか?」
「ああ、それなら今着てますよ? 美智瑠の言う通りサイズが変わっててこっちの方がぴったりしてますし」
「「ぴったり…」」
唐突に鼻をおさえる二人。え、なにどうしたの。
「そ、そうですか、それはよかったです。実は私も新しい下着買ったんですよ」
「あ、私も。奇遇ダネ」
「エエ、奇遇デスワネ」
「ウンウン、折角ダカラミセアイッコシナイ?」
「ソレハイイデスワネ!」
ぐるり、と二人が僕を見る。あ、いつもの怖い目だ。
普通の日常は一分ともたなかったよ。