礼装しかでやがらねえ!   作:ケイト

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1話目

 突然だが、千谷奏多という一人の少年の話をしよう。

 

 見た目は普通。性格も普通。この個性が蔓延したヒーロー飽和社会とも揶揄される時代で珍しく、見た目的には特に何の特徴もない何の変哲もない中学生だ。

 

 クラスメートが話しかければ談笑してくれるし、ある程度話題に乗ってくれたり話題を提供してくれたりするためクラス内でもそこまで悪い地位にいるわけではない。むしろ友達は多い方で、当たり障りのないその性格はまるでなんにでも合う白米の様に病みつきになると評価されることがもっぱらだ。

 

 勉強や運動は小さいころからやってきたのかかなりでき、それも周囲の評価に一躍買っているのかもしれない。

 

 普通ならば勉強に精を出し、運動に力を入れる事は立派な事なのだろう。しかし、彼にとっては事情が異なった。

 

 奏多は『転生者』である。

 

 少し前の話をしよう。それは奏多にとって10年以上も前の話になる。

 

 奏多はその頃、一人の社会人であった。毎日毎日仕事をしては家に帰りパソコンを開くという生活を延々と続けていた一一般人であった。趣味といえばパソコンを見る事、漫画を読む事、ゲームをすることとサブカルチャーに偏った、いわゆるオタクであったが、一般的な部類に入れても問題ない程度には平凡な存在だった。

 

 ある日、彼はせっかくの休日をFGO―――Fate/GrandOrderと呼ばれるソシャゲーにつぎ込んでいた。新しく第2部が始まり、一体どんなストーリーが待っているのかというワクワクを抑え込んで仕事を続けたのが昨日まで。今日は全休であり、会社から呼び出しが無い限り一日中FGOにつぎ込めたのだ。

 

 自分の部屋でごろごろとしながら好きなゲームをする。そのなんと幸せなことか。小さな幸せであったがとにかく彼にとっては幸せだった。仕事ばかりの毎日を抜け出して、サーヴァント達と本当に旅をしているような没頭感に心も身も任せるのだ。

 

 しかし、その日。彼はあまりにも運がなかった。

 

 ガラスの割れる音。頭を突き通した強烈な衝撃。昏倒し明滅する視界には、自分と一緒に地面を転がる固そうなチーズのホール。

 

(な…なん…で…)

 

 チーズが自分の部屋の窓ガラスを物凄い勢いで突き破ってきたいきさつも、それが自分の頭に突き刺さった原因も知らない。

 

 ただ何もかもが分からないまま、彼の意識は永遠の眠りについてしまったのだった。

 

 

 彼の最後の記憶は、ひび割れたFGOの画面を移すスマフォの姿だった。

 

 

 そして、目が覚めたら彼は赤ん坊になっていた。

 

 ―――何それ怖い、と普通の人なら思うかもしれない。実際彼は恐怖のあまり泣き喚いたり暴れたりして両親や病院の先生を困らせた。『元気な子だ』というのが彼に投げかけられた最初の言葉であり、そしてその言葉で彼は自分が赤ん坊になっている事、そしてこれが転生と呼ばれる現象なのではないか、という事に気が付いたのだ。

 

 それからは早かった。赤ん坊の頃の自我は浮き沈みが激しく、いつの間にか幼稚園に通えるまでの年齢になっていた。彼はいつの間にか千谷奏多と名付けられ、新しい生を訳が分からないまま生きる事となる。

 

 だが奏多の驚愕はこれだけではなかった。

 

 ヴィラン、ヒーロー、オールマイト。魔王という言葉がネット上でまことしやかにささやかれ、さらに奏多の父親はヒーローであった。

 

(…あれ?ここってヒロアカの世界じゃね?)

 

 彼がそう勘付くのも時間の問題だった。つまり奏多は生前の漫画の世界に転生してきたという事である。

 

 常人ならここでSAN値チェックを行いアイデアロールまで一直線な事実であったが―――奏多は違った。

 

 彼が生まれて早5,6年。いい加減この生活に慣れ始めたうえでの驚愕の事実である。びっくりしたのも事実だが、取り乱す程じゃない。そもそも転生してきた時点で異世界、あるいはそれに近しい世界に生まれているのではないか、という予感はうすうすと感じていた。

 

 故に奏多が思った事はただ一つ。

 

(すげー!本物のオールマイト!本物のヒーロー!それって超カッコいいじゃん!)

 

 某アベンジャーズや某デッドプールなどのアメリカのヒーローもの映画を見るのが好きでもあった奏多にとって、まさしくそれは天啓ともいうべき事実であったのだ。

 

「ヒーローになってやる…!俺は!この世界で!最強のヒーローになってやるぞ!」

 

 そして、奏多はヒーローを目指す事にした。

 

 

 

 しかし彼は忘れていた。その世界では、すべて個性がものをいう事を。

 

 

 

 これはヒーローを志した少年が辿る、リトルヒーローの物語である。

 

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