〜「if」もしも、あの時あの選択をしていなかったら〜 作:クロノス@百合おじさん
目が覚めて最初に感じたのは、違和感だった。家具の配置が明らかにおかしい。寝ている間にや親が配置を変えたのかと思ったが、すぐにそれを否定する。ベッドの位置まで変わ
っているのだ。幾ら何でも、寝ている人をそのままにしてベッドを移動させたとは思えない。しかもこの配置には見覚えがある。去年の夏辺りまでこの配置だったはずだ。まさかと思い、スマホのカレンダーを見ると、【5月25日】だった。昨日は確か 4月7日。これも小町のイタズラなのか…?しかし、それにしては手がこみすぎている。制服のポケットから生徒手帳を出す。薄々そんな気がしてはいたが、やはり二年の時のものだ。部屋を見渡したり、机を漁っても、三年の教科書が無い。信じたくはないが、確証を得たかったので、一階に降り、朝飯を作っている小町に話しかける。
「なあ、小町。今日何時に家出る?」
「ん?いつもの時間だけど、どうしたのいきなり?」
小町が変なものを見るような目で見てくる。まあ、仕方ないか。それよりも、これで確信した。総武高校に入学してから、小町の登校時間は変わった。しかし、小町は「いつもの」と言った。俺の記憶上、入学式しか行っていない。その小町が「いつもの」と言ったのだ。この事実から導き出される結論…
(やはり、時間が巻き戻っている…?)
「お兄ちゃん?どうしたの?いきなり黙って」
その声で我に返る。
「いんや。なんでもない」
「ふーん。ま、いいけどさ、早く行かなくて良いの?学校」
なんのことだ?と、思って時計を見ると、いつも登校している時間
「ん、そうだな。そろそろ行くわ」
と、答えておく。自分の予想以上に、去年のことを覚えていないようだ。
(これは、結構大変なことになりそうだなぁ)と、思いながら、俺は学校へ向かった。
『二年の』駐輪場に自転車を留め、『二年の』靴箱に向かい、自分の靴箱を開けると、想像通り、『比企谷八幡』と、書かれた上履きがあった。それを取り、教室へ向かう。自分の席がどこだったか、一瞬迷ったが、明らかに一箇所だけ空いている席があったので、そこに座る。たまたま遅刻ギリギリに来たのが幸いしたようだ。
席に座ると同時に、平塚先生が入ってくる。挨拶をし、朝礼が行われる。朝礼の内容も、聞いたことがある気がする。確かこのあと話すのは…
「それじゃあ、文化祭実行委員を決めようと思う。立候補者は?」
と、先生が言うが、誰も手を上げない。クラス中が沈黙に包まれる中、俺は過去のことを思い返していた。
(思えば、これが始まりだったよな。ここから始まって、最後に俺が、葉山に自己犠牲と呼ばれたやり方で集束された。あの時、俺は間違えたのだろうか。あの方法は、時間のない中で出した最善策だと思っていた。だがもし、他の選択肢があったのなら。全員を傷つけないなんて、そんな理想的な方法でなくていい、せめて、自分の周りの奴らだけでも傷つけない方法が…)
「いないんだったら比企谷、やって貰うぞ」
と、言われる。どうせ拒否権はないので首肯する。
「男子枠は比企谷にするとして…女子はどうするか」
「先生。文化祭実行委員って男女1人づつじゃないとダメなんですか?」
「ん?あー…明記はされていないが、普通はそうするべきじゃないか?」
「そうですけど、この状況じゃその普通は守る必要は無いと思いますよ」
「確かに…しかし、そう言うということは、男子なら当てはあるのか?」
「そうですね、例えば、戸塚とかどうですか?」
「戸塚かぁ…運動部だから厳しくないか?」
と、言われる。痛いところを突かれたように思えるが、むしろラッキーだ。これで
「まあ、忙しいですからね。んじゃあ、川崎とかどうですか?」
「確かに彼女なら忙しくはないな。頼めるか?」
と、先生が川崎に尋ねる。さて、ここが問題だ。川崎が答えてくれるか…
「えっ…ま、まあ、わかりました」
と、川崎が答えると周りが拍手する。え、俺ん時拍手無かったよね?どうでもいいけど。
「それじゃあ、比企谷と川崎に実行委員をやってもらう。以上でHRは終わりだ。二人は後で私の元へ」
そう言い、HRが終わる。俺と川崎は先生の元へ向かった。
「さて、二人とも、悪かったな。押し付けてしまって」
「いえ、構いません。借りも返したかったですし」
と、川崎が言う。恐らく、大志の件だろうな。
「あの件のことか。しかし、こう言ってはなんだが、実行委員の仕事、大丈夫か?」
「その件に関しては、雪ノ下に…奉仕部に依頼しようと思います」
「む、そうか。そう言うことなら任せるよ」
なんとか平塚先生を納得させることができたようだ。これで作戦成功だ。今の俺が考えた誰も傷つかない方法。それは、相模を実行委員にさせないことだ。そもそも論というか、前提を崩してしまえばいいのだ。最も、もし、川崎が俺たちに対する借りを感じていなかったらこの方法は成功していなかった。情けは人の為ならず。先人はそう言ったが、まさにその通りだ。
「押し付けた側がこんなことを言うのもアレだが、この経験は君たちにとって実りあるものとなるだろう。是非、頑張ってほしい」
先生の言葉に俺たちは首肯で返し、席に戻った。