〜「if」もしも、あの時あの選択をしていなかったら〜 作:クロノス@百合おじさん
「君たちが悩んでいるのはおおかた行動の可能範囲、と言ったところだろう?ならば、雪ノ下を委員長にしてしまえばおおよそのことはできるだろう」
なるほど…確かに、雪ノ下が委員長になればスケジュールも作業内容も決め放題だ。
「ですけど先生、実行委員でもない生徒を委員長にしてもいいんですか?」
前の世界では、相模の手助けをするからという大義名分があったから副会長を務めたが、
本来なら実行委員から選出するのが筋だろう。
「文実の顧問は私だからな、そこは権限でどうにかできるさ。それで、どうかな雪ノ下」
雪ノ下は考え込んでいる様子だったが、やがて顔を上げると、
「提案としてはとてもいいと思います。ですが、奉仕部の理念から外れているのではないのでしょうか」
と、言った。
《飢えた人間に、魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える》確かに、先生の提案通りにすればうまくいくようにも思えるが、それは奉仕部の管轄外だ。
「ふむ。しかし雪ノ下、私は一度でも”奉仕部に“頼みたいとは言ったか?」
と、先生は言った。由比ヶ浜は頭に?マークを浮かべてるが、俺は先生の言いたい事が分かった。
「…確かに、言っていませんでしたが、それが何か?」
「私は君に、君個人に頼んでいるんだよ。ここまで言えばわかるな?」
「なるほど…しかし先生、それはあまりにも屁理屈なのでは」
「比企谷の言葉を借りれば、屁理屈だって立派な理屈だ。まあ、正直な話今回の件はイレギュラーだからな。例外ということで見逃してほしい」
「イレギュラー…ですか。わかりました。先生の依頼。いいえ、頼み事を承ります」
「そうか…。本当にすまないな」
どうやら先生の思惑は達成したようだ。しかし、俺の言葉を借りると言ってたけど俺そんなこと言ってたっけ…と、過去の記憶を探っていたら、
「ヒッキー、結局どういうことなの?」
と、由比ヶ浜が聞いてきた。
「今回の先生の提案が奉仕部の理念に反している、のはわかるな?」
「うん」
「だったら、“奉仕部”ではなく“雪ノ下個人”に依頼すればいい。これならただ雪ノ下に頼み事をしただけだから奉仕部の理念も何もないってことだ」
「ほへー。なんか先生ヒッキーみたい」
「それは褒められているのか…?」
先生は苦笑した。
「あれ?でもそうすると今回あたしだけ何もすることない?!」
「雪ノ下の補佐でもやればいいんじゃね?お前会計とかできそうだし」
と、言うと由比ヶ浜は餌を与えられた子犬のように表情を輝かせた。
「そうだな、由比ヶ浜だけ仕事がないのも仲間外れな感じがするし、折角だから頼もうか」
先生も賛成してくれたようでよかった。元の世界の雪ノ下はハードワークで一度倒れているからな、近くにいて気づける奴がいると心強い。実質全員が働くことになって、先生の屁理屈もほとんど意味がなくなったようにも思えるが、まあ、終わり良ければ何とやらだ。
「それでは、依頼内容は比企谷君たちの補助…は、やらずに文実の委員長をやる、ということでよろしいですか?」
「ああ、本当にすまないが、よろしく頼むよ」
結論から行くと、文化祭は大成功だった。雪ノ下による完璧なスケジューリングに、現代の若者のブームに詳しい由比ヶ浜の助言がうまくマッチし、先生曰く、例年の、どの文化祭よりも盛り上がっていたそうだ。俺と川崎も、特に困ったこともなく(もっとも、俺は何故か人より雑務の量が多かったが)仕事を終える事ができた。途中、雪ノ下さんの乱入もあったが、今回は雪ノ下が委員長だったのと、元の世界の経験から、俺も動じずに対応する事ができた。
「いやー、文化祭うまく言ってよかったねー」
「ええ、そうね」
文化祭を終え、今俺たちは部室にいる。机には模擬店で買ったお菓子などが広がっている。
プチ打ち上げ、というやつなのだろう。
「まさかここまでうまく行くとはな…期待以上の結果に教員たちの間でも君たちのことが噂になっているよ」
「ゆきのんもサキサキもすごかったよね!」
「あ、ありがと…」
川崎は文化祭のイベントの一つである《仮装ミスコン》の衣装作りが仕事だった。
家庭事情的に人並み以上の裁縫スキルを身につけている川崎の活躍は凄まじいもので、
もう家庭科の先生が「私することない…」としょげていたくらいだ。
改めて振り返ってみて、完璧としか言えない結果だった。多くの人に負担をかけてしまったが、それでも誰も傷つかない結末だった。なんというか、あっさりしすぎて逆に拍子抜けというか…
「それでは、そろそろお開きにしましょうか」
と、雪ノ下の言葉で意識が現実に戻った。机の上を見ると、あれほどあったお菓子やらがほとんど消えていて、結構な時間考えていたんだなと思った。
黙々と片付けをしているが、みんな満足そうな表情だ。元の世界と今の世界、二つの世界の結末を知っている俺はなんだか複雑な気分だ。胸にしこりのようなものが残ったまま、片付けを終え、帰路に着いた。