〜「if」もしも、あの時あの選択をしていなかったら〜 作:クロノス@百合おじさん
「久しぶり♪比企谷君♪」
一体どう言った経緯で、この魔王にエンカウントしてしまったのか、説明すると長くなるので簡単にまとめると、
プチ打ち上げ終わる→チャリ取りに駐輪場行く→魔王があらわれた!
…いやおかしいだろ。元の世界ではこんなことは起きなかった。確かに、この世界は元の世界とは全く別物だが、雪ノ下さんにとって大きな変化はなかったはずだ。一体何の用が?
「久しぶりってほど前ではないですけどね」
「ん?ああ、そっか。この世界の雪ノ下陽乃はつい最近会ってたのか」
と、呟いた。小さな声ではあったが、こんな静かなところでは丸聞こえだ。当たり障りのない返しをしたつもりが、とんでもない事実が明らかになってしまった。
この人は今、“この世界の”と言った。そんなセリフが言えるのは俺と同じく、別の世界から来た証拠だ。
「もしかして、雪ノ下さんも一年後の世界の人なんですか…?」
元の世界を“一年後の世界”と、呼んでいいのか疑問ではある。この世界が、パラレルワールドという可能性もあるのだから。寧ろ、俺や雪ノ下さん(他にもいるのかもしれないが)のように一部しかタイムスリップしていないと考えると、別の時間軸に飛んでいることの方が納得がいく。今まで、無意識にこの世界のことを考えようとしていなかったが、こうして考えて見ると、興味深い謎がたくさん出てくる。
「そうだよ。君のいう通り、私はそっちの世界の雪ノ下陽乃。君と話すために、ここに来たんだよ」
雪ノ下の言う”ここ“がこの駐輪場ではなくこの世界であると、何故か俺は自然とそう解釈した。
「話す?何をですか?」
「そんな警戒心むき出しにされるとお姉さん傷ついちゃうなあ」
「つまらないことを言ってないで、さっさと要件を話してください。それとも、こっちから質問した方がいいですか?」
「質問?何かな?」
「どうして、俺をこの世界に連れて来たんですか?」
「へえ、根拠を聞かせてもらおうじゃない。どうして私が君をこの世界に連れて来た犯人だとわかったの?」
「やっぱりそうなんですか…」
「ありゃ、もしかしてカマかけられた?」
「確信が欲しかっただけですけどね。疑問に思ったのは、さっきの言葉です」
「さっきの言葉?」
「雪ノ下さんは、この世界の雪ノ下陽乃、と言いましたよね。まるで、この世界に自分がもう一人いることがわかっていたように」
「何かおかしいの?ここは元々“この私”がいる世界じゃないんだから、この世界の私がいるって考えるのは自然なことじゃないの?」
「じゃあ聞きますけど、雪ノ下さんがこの世界に来た時、どういった状況でした?」
「状況?」
「時間、場所、日付、といったところですかね」
「日付は4月30日、場所は自分のベッドで、時間は朝6時頃かな」
「朝6時は、雪ノ下さんが普段起きる時間ですか?」
「うん」
「だったら、“この世界の自分”がいると未だにに思うはずがないんですよ」
「…流石だね」
そう。朝6時が雪ノ下が普段起きる時間なら、そこには“この世界の”雪ノ下さんがいなければいけない。俺の時だってそうだった。だからあの場にもう一人の自分がいないなら、自分の意識がこの世界の自分に憑依したと考えるのが普通だ。やはり、雪ノ下さんは嘘をついている。
「でも、それだけじゃ根拠としては弱くないかな」
「この話にはまだ続きがあります」
「続き?」
「雪ノ下さんがついた嘘は、自分がこの世界に来た時間。雪ノ下さんがこの世界に来たのは割と最近ですよね」
「どうしてそう思うの?」
「雪ノ下さんのいう通り、”この世界の雪ノ下さん“は存在します。文実の会議の時何度か乱入しに来てますし」
「それがここにいる私でない根拠は?」
「最初に言いましたよね、久しぶりってほど前じゃない。と」
「正解。続けて」
「ドッペルゲンガーを見ると死んでしまう、って怪談。雪ノ下さん程の人なら自分が誰かに目撃されて、その証言から”この世界の雪ノ下さん“が勘付くリスクは避けたいはず。だからギリギリのタイミングまで待っていた。人が少なく、かつ俺と必ず会える場所と時間を」
「怪談が根拠なのは…弱くない?」
「そうでもありませんよ。もし、一つの世界に全く同じ人間が二人いるなんて世に知れたら大パニックですからね」
「なるほどね…なんというかまあ、まさかここまで見抜かれるとはね」
「とか言って、気づかせる気満々だったじゃないですか」
「ありゃ、それも気づかれてたか」
「最初に言った台詞、あれ別に声に出して言う必要ないですよね。しかも、その後もわざわざ犯人、なんて言葉を使ってる。違和感しかなかったですよ」
「そこに気づけてる時点で、大したものだと思うけどね」