ぼくは、プレシオスドラゴンの傷を癒していた。回復魔法は使えないが、薬で代用できるだろう。プレシオスドラゴンも、最初の方はおびえていたが、ぼくに敵意がないことを察したのか、大人しく治療を受けていた。と、プレシオスドラゴンに緊張が走る。ぼくもそれに気づき、背後を振り返る。そこにはレオンがいた。
「お前は一体何をしている?」
レオンからは明確な殺意。そして明確な怒りが感じられる。ぼくは、怯えてしまった。
「なに……って……」
レオンは、武器を構える。今にも飛び掛かってきそうな気配だ。
「お前はすでにドラゴンと契約を交わしている。一人に一匹のドラゴン、それを知らないわけじゃないだろう?」
「知っているよ……。でも、ドラゴンを手当てしちゃいけないなんて決まりはない!」
その答えにレオンの怒りはさらに増した。
「お前はそいつを庇うのか!ドラゴンはすべて殺さなきゃいけない!」
「どうしてそう思うの?人に危害を加えないドラゴンだっている。すべて殺すなんてそんなの間違ってるよ」
「ドラゴンに家族を殺されたことのないやつの発想だな!話にならない。そこをどけ。そいつを殺す!」
レオンは武器を構えながら、一歩前に出る。プレシオスドラゴンを庇うように、レオンの前に立つ。
「……何のつもりだ」
「この子を殺すなんてさせない」
レオンはぼくに剣を向ける。
「そこをどけっ!どかないなら、お前を殺す!」
その殺意は本物だった。それほどの覚悟が見えた。しかし、同時に迷いも見えた。
「いいよ。ぼくを殺しなよ。ぼくはこの子を守る」
ぼくは両腕を広げ、レオンの前に立ち続ける。レオンは歯を食いしばり、武器を振り上げる。その殺意を前にしたぼくは、目をつぶり、振り下ろされるであろうその大剣を待った。しかし、それはいつまでたっても来なかった。そっと目を開けると、レオンは大剣を振り上げたまま、震えていた。
「何故だっ……!」
ぼそっとレオンが呟く。
「何故俺は!お前も!こいつも!さっきのやつも!一人も殺せないんだ!」
レオンはそういい、その眼には涙を浮かべていた。
目の前に立つノエル。手を広げ、抵抗する気もないその無防備な姿。ただ剣を振り下ろすだけでそいつは死ぬだろう。なのに俺は剣を振り下ろせずにいた。
(何故俺は、一人も殺せない。あの時に覚悟を決めたはずなのに)
そう思うと同時に、ノエルが俺に語り掛ける。
「君の恨みは本物だろう。でも、君の本来の優しさがそれを邪魔するんじゃないかな」
本来の優しさ?そんなものはない。そう、今までだって優しさなど……
俺は思い返す。
図書室で本を読む。その内容は、ドラゴンの生態に関することだ。ドラゴンにも営みがある。生きるために他の生物を食し、自分の子を守るために命を張る。そんなドラゴンの生態を読み、ぼくはハイドに尋ねる。
「ねえねえ、ドラゴンって人間を無意味に殺すわけじゃないんでしょ?」
「そうだな。ドラゴンも人間を好きで襲ってるわけじゃない。だが、人間は弱いからドラゴンたちにとっては格好の獲物なんだ。だから、襲う」
「じゃあさ、ドラゴンがお腹いっぱいなら人間食べられなくて済むの?」
ぼくの無邪気な問いかけに、ハイドは優しく答える。
「そうだな。でも、そんなに食料があるわけじゃないからね。ドラゴンたちも必死なんだ。俺達も生きるのに必死なようにね」
「それじゃあ僕、ドラゴンのためのご飯いっぱい作る!」
「ははは!それは名案だな。でもな、ドラゴンが食べるごはんは人間の手で作るものじゃ足らないぞ」
そう聞いて、ぼくはしゅんとする。ハイドはそんなぼくの頭にそっと手を乗せて、撫でてくれた。
「うーんじゃあドラゴンと共存するの無理なんだ」
「そうだな」
「じゃあ共存するの諦める。ハイドみたいに強い冒険者になって、ドラゴンから弱い人たち守る!」
「お前は優しいな」
「そうかなぁ」
「ああ、優しいさ。ドラゴンを倒すとかじゃなく、弱い人を守るのだから」
「?」
きょとんとする僕に、ハイドは笑顔で話す。
「いつかこの言葉の意味が分かる日が来るさ」
ハイドはその答えを教えてくれることなく旅立った。
俺はハイドに言われた意味が分かった気がした。いつまで経っても、俺は人を守るために動いている。ノエルの言った優しさというのはそれを指しているのか。それは分からないが、俺が弱い理由が分かった気がした。思いつめる俺にたいし、ノエルは語り掛ける。
「ぼくはそんなレオンの優しさが好きだ。だから、レオンにドラゴン狩りなんてしてほしくない」
「……俺はドラゴンバスターだ。いつかお前を殺す。俺は強くなる。ドラゴンバスターとして強く!」
俺はそう決意した。そして俺は武器を下ろし、来た道を引き返す。
「待ってるよ」
ノエルが俺にそう言った。俺は驚いた。そして同時にノエルのその余裕にイラついた。
レオンは立ち去り、ぼくとプレシオスドラゴンだけになった。ぼくはプレシオスドラゴンに話しかける。
「君はここに住んでるの?プレシオスドラゴンはこんなところにいないはずだよ?」
しかしプレシオスドラゴンはこちらを見つめるだけで答えてはくれない。まあ、喋れるドラゴンなんて数少ないが。
「もう追ってはいない。ここに住んでるんじゃないなら、自分の巣におかえり。今度は、あんな奴に見つからないようにね」
そう言い聞かせると、プレシオスドラゴンはゆっくりと月明りが入り込み、その光を反射する水の中に姿を消した。
ぼくは、いろいろ思うことがあった。王都で捕まったはずのドラゴンサモナーについて、そしてその彼女が狙ったプレシオスドラゴン。そして、強い恨みを持ちながら、本来の自分との間に葛藤を持ち生きるレオン。わからないことと考えることが多すぎる。ぼくはそんなことを思いながら、ホテルへ戻ったのだった。
ホテルに戻ると、先生に今回のことを報告した。レオンのことはあえて報告しなかった。先生は驚き、何度か聞き返してきたが、包み隠さずすべて話した。
「王都で捕まったはずのドラゴンサモナーか……わかった。今度王都へ連絡を入れてみる。お前は気にすることはない」
「あの、先生は誰かを恨んだことってあるんですか?」
「ん?唐突にどうしたんだ?」
「いえ、強い恨みを持ってたら、本来の自分を見失うのかなって」
先生は、俯き、思い悩んだようなぼくの頭に手を置き、顔を覗き込んできた。
「何故そんなことを聞くのかは分からないが、少なくとも俺はそんなことはない。自分は自分。どんな自分であっても見失ってしまったらそれはもはや自分ではないからな。恨みを持った人間がどうなるかなど俺は知らない」
先生の言葉は、痛く心に染みわたった。そしてなんとなく、救われたような気がした。
おまけ
魔法戦士 戦闘スタイル:近接、タンク、トリッキー
戦士の職業の派生。戦士と同様に皆の盾になり、高い攻撃力で敵を倒す。戦士と違い、オーラと呼ばれる、自身の魔力を使い、自身に属性を付与する魔法を使える。また、魔法の盾を使い、敵の攻撃を防ぐこともできる。高レベルの魔法戦士になると、自身に強化魔法を使うこともできるようになる。属性を変化させるため、隙の少ない職業である。が、魔法戦士になるためには高い魔力を保有する必要があるため、並の戦士ではこの職業になることは難しい。
ネクロマンサー 戦闘スタイル:遠距離、支援、トリッキー
この職業になれるのは、アンデットや死神といった種族のみ。主に闇魔法を扱い、即死魔法やアンデット系のモンスターの召喚に特化している。また、闇魔法の蘇生魔法も使え、賢者と魔法使いの間のような職業である。
ドラゴンサモナー 戦闘スタイル:支援
サモナーの職業の派生。基本的にサモナーと同じだが、使う召喚獣がドラゴンである。ドラゴンを使役するうえで、ドラゴンと血の契約を交わすため、ドラゴンサモナーの血にはドラゴンの血が混ざっている。ドラゴンサモナーは唐突に暴走し、竜人化するが、原因は不明。暴走したドラゴンサモナーは、モンスターとして扱われ、討伐される。一匹のドラゴンとしか契約できないがそれが何故かは不明。
ドラゴンバスター 戦闘スタイル:近距離、遠距離、特攻型
戦士と魔法使いの職業を混ぜ合わせたような職業。高い攻撃力、高い防御力、高い魔力を持ち、ドラゴンを討伐することを生業としている。近接戦闘はもちろん、魔法を使った遠距離戦闘も可能で、その破壊力は魔法使いに劣らないほど。それゆえこの職業になれるものは少ない。ドラゴンバスターだと言い張る冒険者は多いが、大体は魔法戦士の成りそこない。ドラゴンを狩るのが生業であるが故か、ドラゴンサモナーを狙うことも少なくない。