あれから僕はすぐにベッドに入り、眠った。グルフトたちは深夜まで騒いでいたようだ。
まぶしい朝日で目が覚めると、グルフトたちはまだ眠っていた。ふかふかのベッドはとても寝心地がよく、昨日の疲れも全て取れていた。軽く準備をして部屋を出るとセシルとエールがちょうど部屋から出てきていた。
「おはよー!」
「おはよう」
「うん。おはよう」
「起こそうと思ってきたんだけど必要なかったみたいだね」
「僕はね。グルフトたちはまだ寝てるよ」
「全く……はいはい起きろー!もうすぐ集合の時間よ!」
セシルは手を鳴らしながら部屋の中へ入っていった。ふと廊下の奥を見ると、ちょうど階段からセイレナが上がってきたところだった。
「あっ!ノエル……さん、おはようございます!」
エールを見て猫を被るセイレナ。僕は苦笑した。
「うん……おはよう」
「お、おはようございます!お姫様!」
「ふふふ、セイレナでいいですよ。えっと……エールさんでしたっけ?」
「は、はい!名前を覚えていただいて光栄です!」
「ノエルさんの友達ですもの。名前覚えないと失礼ですわ」
エールは緊張した様子だった。そういえばまだエールとセイレナは話したことなかったような。
「ところで姫様はこんなところにどうしたのですか?」
セイレナの猫被りに合わせて敬語を使って話す。
「はい。朝ごはんができたので皆さんを呼びに来たのです」
「そうなんですか」
話していると、部屋の中からグルフトが起きてきた。
「ふあああ……おはよ……はっ!?おはようございますセイレナ様!!いけないっ!寝ぐせ直してきます!!」
グルフトは勢いよく頭を下げ、慌てて部屋に戻っていった。
「まったく……この男子たちは……あっ」
「あらあらセシルさん。グルフトさんたちとそういう関係だったんですね」
「はあ!?違うし!こいつらを起こそうと思って……」
「隠さなくてもいいのですよ?気にしませんから」
「だから違うって!!」
朝から元気だなと思いながら僕はエールの方を見る。セシルとセイレナの関係を把握してないエールはどんな状況なのかを理解できず立ちすくんでいた。
「エール、僕たちは先に食堂行こうか」
「はっ!そ、そうだね」
僕とエールは部屋でガタガタやっている男3人と猫被りながらセシルに喧嘩を売るセイレナを放っておいて、食堂へ向かった。食堂にはすでに先生と数人の生徒がいた。
「おはようノエルにエール。よく眠れたか?」
「はい」
「セシルやグルフトは?」
「あー……まだ準備してるみたいです」
「そうか。全く早く来ないと美味しい料理が冷めてしまう……」
と噂をすれば影。グルフトたちが食堂へ入ってきた。
「さあ、席に着いた着いた」
席に着くとさっそく食事を始めた。朝ごはんも豪華だ。ゴールデンチキンの卵を贅沢に使った目玉焼き、黄金小麦のパンといった普段では食べることはないような物ばかりだ。さすがは王様なだけある。僕たちはお腹いっぱい食べた。
食事を終えた僕たちは王都のギルドに来た。これからの行動について先生から話がある。
「お前たちには一流の冒険者たちと同じようにクエストを受けてもらう。だが、危険度は1のみを受けてもらう。危険度が高いものに挑んで怪我でもされたら困るからな。ギルドにもそう話を通している。危険度1のものなら内容はどんなものでもいい。報酬はチームで仲良く分けてくれ。さあ、各自チームを組んでクエストを受けてくれ。解散!」
その言葉と同時にいつものチームで集まり、クエスト一覧を見る。
「どの任務を受けようか」
「報酬はもらってもいいらしいから報酬が高いのがいいよね」
僕はクエストをひとつづつ見ていく。農家のお手伝いクエスト、人探しクエスト、落とし物探しクエストなど。危険度1の任務はどれもこれもおつかいクエストばかりだ。その中でも特に目を引いたのが、このクエストだ。
クエスト:師匠に手紙を届けて!
報酬:3000G(ゴールド)とMPポーション2つ
内容:私の師匠、マーリン先生にお手紙を届けてほしいのですが、私は研究で忙しく手が離せません。どなたかお手伝いしていただける方、お願いします。
3000Gは危険度1のクエストでは安いほうだ。そのためこのクエストを受けるという冒険者がいないのだろう。依頼を出してすでに4日立っている。
「僕これ受けたいかな」
「どれどれ?……えー安いじゃん。どうせなら報酬が高いの受けようよ」
「僕が気になったのはね、このマーリンって人。どこかで聞いたことあるなって思って」
「そうかな?マーリン……うーん有名な人だっけ……?」
「ノエルがいいなら私はそれでいいよ」
「うーん。まあ、私も別に構わないわ。じゃあこれにしましょう」
クエスト掲示板からクエストの内容が書かれた紙を剥がし、クエストカウンターへ向かう。受付のお姉さんに紙を渡すと、内容を確認して、クエストを受ける条件に合っていればそのままクエストへ向かえる。合っていない場合は門前払いだ。今回はビギナーランクでも受けられる危険度1の任務だ。もちろんOKをもらった。
「さあ、行きましょうか。まずはクエスト依頼者のプルーンさんに会いに行きましょう」
僕たちは王都の中の居住区にいるプルーンという依頼者に会いに行った。住所は居住区の隅っこの方が書かれていた。
家に着くと、チャイムを押す。
「はーい」
若い女の人の声が聞こえた。少し待つとドアが開き、中から胸の大きい女の人が現れた。
「どなたかしら?」
「えっと……クエストを受けたノエルと言います。こっちはセシルとエールです」
「よろしくお願いします」
「あらあら、クエスト受けてくれたのね。ありがとう。立ち話もなんだし、中に入って」
「お邪魔します」
プルーンに家に入れてもらい、リビングに案内された。椅子に座ると、コーヒーを入れてもらい、話を聞くことになった。
「改めて自己紹介するわね。私は元冒険者のプルーンと言うわ。クラスは魔法使いなの。今は薬剤師を務めているわ」
「冒険者なんですか」
「ええ、昔はね。そこそこ活動してたんだけど、今は魔法使いの知識を生かして薬の研究をしているの。それでクエストの内容なんだけど、冒険者のころの師匠であるマーリン先生に手紙とこの薬剤を渡してほしいの」
「なるほど……この薬剤は?」
「私が開発した薬よ。効能はあらゆる状態異常に効き、かつ体力、MPの回復もできるという万能薬……なんだけど、副作用として力が抜けるのよね」
「どうしてこれを?」
「先生に万能薬を作ってくれって言われて作ったの。で、できはさっき言った通り万能薬ではあるんだけど副作用があってね」
「なるほど」
「効能と謝罪を書いた手紙とこの薬剤を届けて、できれば助言とかもらえたらいいなって。私はまだ依頼された薬の作成をしないといけないからお願いね」
「わかりました」
プルーンに手紙と薬剤をもらい、マーリンの住所を書いた紙を受け取ってその場所へ向かった。場所は王都の外で、少し離れたところから獣道に入った森の奥だった。
「この辺は低レベルのモンスターしかいないからビギナーランクでも危険が少ないということで危険度1なのね」
「なるほど。出てくるモンスターはファングやモグラ、ビブラートといったところね。どれも脅威ではないわね」
「と噂をすれば」
ブーンブーンという耳の嫌がる独特の音を放ち空を飛ぶ大きな虫型モンスター、ビブラートだ。
ビブラート 種族:虫 属性:雷
「ビブラートの尻尾の針に刺されたら体が麻痺するから気を付けて!」
「オッケー!前線は私に任せて!エール!援護よろしく!」
「うん!敵を燃やし尽くせ!ファイヤ!」
エールが唱えたファイヤはまっすぐビブラートに向かっていき、直撃。ビブラートは羽を焼かれ、地に落ちる。
「仲間に力を与えよ!ビルド!」
「はああ!!やあああっ!!」
地に落ちたビブラートはセシルの剣で真っ二つになり、そのまま倒れた。
「やったわね。さあ、行きましょう」
途中でビブラートやファングにあったが、レベルが上がった僕たちの敵じゃない。簡単に倒して、森の奥に進む。
すると、木造の一軒家が見えてきた。
「たぶんあれね」
玄関に行き、コンコンとノックをする。しばらくすると、ドアが開き、僕たちより年下くらいの女の子が出てきた。
「何の用だ?」
「あ、えっと……マーリンさんはいるかな?」
「マーリンは我のことよ」
「あっ……」
プルーンに先生と聞いていたため、大人だと思っていたが、まさか子供だったとは。僕たちは面食らった。
「で?何の用だ?我は忙しいのだ」
「あっ、えっと、プルーンさんに頼まれて、薬剤を持ってきたのですが……」
「おお!来たか。全くあいつも顔を見せればいいものを」
「えっと……」
「まあ入れ。もてなすものもないがゆっくりして行け」
「あっはい。お邪魔します」
家の中は普通だった。冷蔵庫にキッチン、食器棚や机に椅子など。だけど親が一緒にいるようにも見えない。
「えっと……親御さんはいないんですか?」
「親なんてとっくの昔に死んだよ」
「ああ……えっと……」
「何うろたえておる。ああ、そうか」
少女はお茶を出しながら話をする。
「我はすでに100歳を超えておるぞ」
「えっ!?」
「若返りの魔法を取得してな。見た目は子供まで戻ってしまった」
「へ、へえ……」
「なんじゃ信じておらんようだな。まあ、無理もない。若返りの魔法なんて我のみが使えるものよ」
と話していると、僕は一つ思い出した。
「マーリンって確か99レベルの冒険者の一人……」
「おお!知っておったのか!いかにも、我が9人しかいない99レベルの冒険者の一人、大魔法使いのマーリンよ」
「嘘!?あなたがそうなんですか!?」
マーリンは小さな体で胸を張る。
「まあ、99レベルになってもまだ我の望む最強の魔法を開発できておらん。我は最強の魔法を開発するまでは死ねんからの」
「へ、へえ……」
「それで、薬の効果は」
「ああそうじゃった。そういえば手紙もあったの。読んでみるか」
マーリンは手紙を開き、内容を朗読する。
「えっと何々?『親愛なる師匠、マーリン様へ。依頼された万能薬は完成しました。しかし、副作用として力が入らなくなります。しばらくすると戻りますが。万能薬となれば完璧に作るのが難しいのです。すみません。』なんじゃ失敗したのか。まあよい。大した副作用でもないし。えっと続きは『最近は部屋に籠りっぱなしで大丈夫でしょうか?ちゃんと栄養バランスを考えた食事をしていますか?たまには運動しないといけませんよ?体は子供なのですから』……うっさいな!あの巨乳め!!」
マーリンは一人で手紙に当たっていた。
「『最近は忙しくて会いにいけなくてすみません。また今度会いに行きますね。プルーンより』っと。うむ。やつも元気にしておるようだな。それじゃあ薬の効果試してみるかの」
マーリンは薬の入った瓶を開け、コップに水を注ぎ、そこに薬を少し入れる。
「自身に毒を付与せよ!ベノム!!」
下位の状態異常魔法、ベノムを発動させ、自身に毒を付与する。
「……あっ」
「……?どうしました?」
「すまん。我状態異常耐性、無茶苦茶高いんだった」
「……つまり?」
「下位魔法程度じゃ毒にかからぬ」
あっはっはと誤魔化すように笑うマーリン。僕たちは愛想笑いしかできなかった。
「さて、我を蝕め!最強の毒よ!!ベノマラート!!」
「うあっ!?」
魔法陣から出てくる魔法の風圧に吹き飛ばされそうになるほどに強力な魔法が発動される。
「うむ。やっぱり毒というものは体を蝕む感じがして嫌だな。さて、万能薬はどんな具合かの」
毒を受けているというのに平然として、万能薬を飲む。
「ぷはー!なるほど。しっかり毒が抜けてHP、MPの回復をしているのがわかる。少しばかり体がだるいな。これが力が抜けるってやつか。ビルド!」
力が抜ける副作用をビルドにより打ち消す。さすが魔法使いと言ったところだ。
「うむ。これなら上出来だ。素晴らしい薬剤だと伝えておいてくれ」
「あっはい」
「それじゃ、よろしく頼んだぞ」
お邪魔しましたーと言い、家から出て元来た道を戻る。
「いやーびっくりしたわね。まさかマーリンさんが99レベルの一人だったなんて」
「何より子供みたいな見た目であることにびっくりしたよ」
「そうだね。でもあの魔法、憧れちゃう」
「確かに。魔法の衝撃波がすごかったわね」
「それに状態異常耐性が無茶苦茶高いのも、優秀な魔法使いである証拠ね」
「上位の魔法の毒って言えば超猛毒だったはず。あれだけ平然としていられるはすごい」
魔法に強弱があるように、毒や麻痺などの状態異常にも強弱がある。例えば毒だと微毒、毒、強毒、猛毒、超猛毒といった強弱がある。僕たちのようなレベルが低い冒険者では毒だけでもそこそこのダメージを受け、動くことすら辛くなる。強毒となるともはや動くことが難しい。猛毒になるともはや動けない。超猛毒になると解毒薬がないと死んだも同然である。もちろん猛毒でも死ぬことはあるが、仲間がいれば助かる。負ぶってもらい、病院に行くことになるが。つまり、そんな死んでも当然である超猛毒を受けても平然としていられるマーリンの状態異常耐性は本物だと言える。
「はあ……あんな魔法使いになりたいなあ……」
「エールならなれるよ。一緒に頑張ろう!」
「そうだよね。いつかなれるよね!」
と、話していると獣道を抜けた。すると、街の方から大きな爆発音が聞こえた。
「な、なんだ!?」
「見て!あれ!」
街の方から黒煙が上がっていた。
「何かあったの!?」
「おやおや、街が燃えてるのう」
いつの間にか後ろにいたマーリンがのんきに煙を見ていた。
「急がないと!」
「まあ待て、我も街に用事がある。一緒に行こうぞ」
「ええ、急ごう!」
「だから待てって。我の魔法で飛んでいくぞ!」
「え?うあっ!?」
足元に魔法陣が出た次の瞬間、体が宙に浮く。確か浮遊魔法、エアフローだ。
街の上空に着くと、街の様子がよくわかった。
「なに……あれ……」
「ドラゴン……」
街中で暴れる1匹の黒き龍。ブラッククロウと呼ばれるドラゴンだ。
「ふむ。ドラゴンか。確かブラッククロウと言ったか?なんでこんなところに」
「あっ!あれ!」
エールが指を指す方を見ると、黒いフードを着た同世代くらいの子供が魔法を唱えていた。その魔法はビルドの上位魔法、ビルドアだ。その方向はブラッククロウだ。あの戦い方はよく知っている。ドラゴンサモナーだ。
「あれはドラゴンサモナーだな。あいつを止めればやつも消えるだろう」
「じゃあ!」
「うむ。行こう!」
地に降りると、フードを被ったドラゴンサモナーはこちらに気づき、逃げ出す。
「逃がすか!敵を拘束せよ!イビルソーン!!」
魔法陣から無数の茨の触手が出て、逃げ出すドラゴンサモナーを捉える。
「くっ!」
「お前、何者だ?」
「……」
「答えろ!」
茨を動かしフードを剥ぐ。真っ白な長い髪に青色の瞳の少女だった。
「……」
「何を目的で王都を襲う!」
「……」
「……ふん。何も言わないつもりか。ならば!」
「マーリンさん、何を?」
マーリンは茨を動かし、少女の体をくすぐった。
「くっ!ぐふっ!あはっ!あははは!やっ!やめっ!あははは!!」
「どうだ!言う気になったか!」
「こ、こんなことっ!あはは!しても!い、言わないんだから!!」
「なかなかに強情だな。なら言うまでくすぐってやる!」
「あはははは!!やあああ!!やめてええ!!」
その後しばらく触手による拷問は続いた。触手から解放された時には、少女はすでに立つ気力すらなくなっていた。
「はあ……はあ……」
「ほら、言え」
「王都を襲って……我々の野望を……達成させるためです……」
「野望?」
「世界征服です……」
「お主らのグループは何という?」
「ファウスノート……」
「ほう、ファウスノートというのか。もっと話を聞いてみる必要があるようだな。お主ら、こやつを騎士団に引き渡してこい」
「マーリンさんは?」
「このドラゴンをとめねばなるまい。多少は被害出るだろうが、まあ、ドラゴンに全部壊されるよりはましじゃろ」
僕たちは少女を縛り、騎士団のところへ向かった。騎士団とは、王都の治安を守るグループだ。
マーリンはエアフローで上空に上がり、ドラゴンへ狙いを定める。
「究極の炎よ、敵を跡形なく消し飛ばせ!最上位魔法、エクスプロージョン!!」
まるで太陽のように赤く、まぶしい光が視界の片隅に入り、そちらを見る。太陽としか言いようがないほどの赤い炎。その強力な魔法に目が奪われる。
「はああああ!!」
小さな太陽はブラッククロウに直撃し、大爆発を起こす。その爆発はかなり離れている僕たちの方にまで届くほどだ。炎の柱が立ち、とんでもない爆風が発生する。これがレベル99の大魔法使いの力だ。
僕たちは、レベル99の冒険者というものに再び憧れたのであった。
モンスター図鑑があるように、魔法にもちゃんと魔法図鑑がある。こちらもたまに復習しておいた方がいいだろう。
エアカッター 下位魔法 属性:風 範囲:単体 魔法タイプ:斬撃
空気を切り裂く風の刃。鋭い刃は硬い岩をも切り裂く。風属性の下位魔法。これを覚えたら魔法使い初心者。
ビルド 下位魔法 属性:無 範囲:単体 魔法タイプ:力強化
対象の筋力を上げ、攻撃力を上げる。能力強化系魔法の下位。荷物運びが楽になる。
エアショット 下位魔法 属性:風 範囲:単体 魔法タイプ:打撃
空気を固めた魔弾。その一撃は岩を打ち砕く。風属性の下位魔法。遊び半分で使うとケガをする。
トルネード 中位魔法 属性:風 範囲:全体 魔法タイプ:斬撃
大きな風を起こし、複数の敵を吹き飛ばす。一度起こせば森の一部に開けた広場ができる。この魔法を使う時は慎重に。