王都襲撃から一週間がたった。あの後僕たちは遠足を早々に切り上げ、帰ってきたのだ。なんでも王都襲撃は無視できないため、しばらく王都を閉鎖するらしい。その間王都から出ることすら難しくなるため、遠足を早々に切り上げたのだ。やはり王都からそうそうに出ることになってクラスのみんなも不満があるようだ。休み時間には王都の思い出話と王都襲撃を起こしたファウスノートと名乗った組織への愚痴を言い合っている。
そんなことしているうちに先生が教室に入ってきた。
「おい早く席につけー。今日から新しい仲間が増えるぞー」
「新しい仲間?」
「そうだ。おい入れ」
男にしては少し長めの青い髪から赤い瞳を覗かせる。背中には大きな剣を背負っており、クラスは戦士に近いものだろうと思われる。
背負っている剣は確かドラゴンブレイダーという極めて珍しい武器だったはずだ。
「よし、じゃあクラスと名前、あと趣味とかあれば言ってくれ」
「名はレオン。クラスはドラゴンバスターだ。趣味など持つつもりはない。ただ目的を達成するためだけに生きている」
「……終わりか?じゃあ奥の角の開いている机、使ってくれ。みんな仲良くな」
レオンは品定めをするようにクラスのみんなを見据える。と、僕と目があった。その刹那、突然表情を変え、大剣を抜き、僕の机を真っ二つに切ってしまった。僕は慌てて後ろに下がろうとして椅子と一緒に倒れ、切られることはなかった。
「お、おい!!」
先生が慌てて止めに入った。
「一体どうしたってんだ!!」
レオンは僕に的確な殺意を向けてくる。まるで親の仇でも見つけたような目だ。僕はその殺意に怯えるしかなかった。
一瞬の静寂が教室を埋め尽くす。皆何が起こったか分からず、息を呑むばかりだ。そんな静寂を壊したのはレオンだった。
「お前、ドラゴンサモナーだろ!」
僕が今まで隠してきた秘密は一瞬でバレてしまった。
騒ぎを聞きつけてきた先生がレオンを抑え、別の教室へ連れて行く。僕もまた、先生とともに別の教室へ連れて行かれた。
「で、ドラゴンサモナーだとばれたわけだが、お前はあいつと会ったことあるのか?」
先生は二人分のコーヒーを準備しながら、優しく僕に問いかける。そう問いかけられて僕にわかるわけもなかった。レオンと会ったのは今日が初めてだ。そう先生に告げると、ぼそりと呟く。
「……
「才能?」
僕は先生に問いかける。まだ授業で習ってはいない項目だ。先生はコクリと頷き、説明する。
「才能というのは、全ての生き物に必ず一つだけあるものだ。才能の種類は人それぞれで、かなりの数の才能が見つかっている。彼の場合はドラゴンサモナー……いや、”ドラゴンを見つける”才能だろう」
先生はコーヒーを飲み一息つく。僕はコーヒーを見つめる。ブラックコーヒーの水面に写った僕の顔は少し不安な顔をしている。先生は続けて説明した。
「俺にドラゴンを見つける才能はないからどういう理屈かは分からないが、おそらくお前から何かしらを感じ取ったのだろう」
僕から何を感じ取った?僕がドラゴンサモナーであることを知っているのはグルフトたちとゴーウィンだけだ。そう言えば先生は僕がドラゴンサモナーであることを知っているかのような口ぶりだった。誰かに聞いたのかもしれない……。
僕は先生に尋ねる。
「先生は、僕がドラゴンサモナーだって知っていたんですか?」
「ん?ああ」
やはり。僕は続けて尋ねる。
「誰かに聞いたんですか?」
「いや、聞いていない。お前の普段の生活からそう推測していた」
先生は再びコーヒーを飲み、話を続ける。
「お前のクラスはサモナーだが、俺は一度もお前の召喚獣を見たことはない。召喚獣を隠す必要は一切ないはずだが、ドラゴンサモナーであれば別。そうだろう?俺はそこからお前はドラゴンサモナーではないかと思ったのだ」
ドラゴンサモナーがドラゴンを隠す理由はただ一つ。ドラゴンバスターにばれないようにするためだ。ドラゴンバスターはドラゴンサモナーのドラゴンであっても殺そうとする。ドラゴンバスターになる冒険者は基本的にドラゴンに恨みを持つ。
そもそもドラゴンバスターというものは、誰でもなれるものではない。多彩な知識とかなりの身体能力が必要で、なろうと思って勉強したところで本気でなろうと思わない限り挫折する。それこそドラゴンに家族を殺されたなどの恨みを持ち、明確な目的がない限りは。
それほどの恨みを持っているからこそドラゴンサモナーはドラゴンバスターに見つからないようにするのだ。
「まあ、バレた以上レオンには注意しろよ。いざというときは守ってやるが、先生の力じゃドラゴンバスター相手に太刀打ちできない。お前自身でもなんとかするんだぞ」
「はい」
ドラゴンバスターはドラゴンに対抗するためにそれと同等の力を得る。なろうと思えばなれるクラスで最も力を持つと言われる戦士がドラゴンバスターと剣のみで対峙した場合、戦士はあっけなく負けてしまう。逸話として、雪崩が村を襲ったときにドラゴンバスターが現れて、大剣の一振りで雪崩を止めたと言われるほどだ。また、魔法でも普通のクラスとは格が違う。さすがにマーリンほどの魔法は放てないものの、それに匹敵するほどの魔法を唱えることができる。
そんなドラゴンバスターであるレオンが相手では先生も一たまりもないだろう。
レオンと僕は同じ教室で授業を受けた。学校で問題を起こしたならばこの学校にはいられないため、レオンも大人しくしているようだ。しかし、授業中にひしひしと感じる殺気はどうしても隠せないようだ。
午後の授業は冒険だ。場所はドレミシオン洞窟だ。
「チームはいつも通りでいいな。ああそうだレオンはどこに入れようか……」
「一人でいいです」
「しかしなあ……」
先生は頭を掻きながら困る。僕と目が合い、先生は何かを思いついたようにレオンに指示する。
「ノエルと組め」
僕とレオンは同時に驚きの声を上げた。
「お前ら仲良く協力してダンジョンをクリアしてくれ。いいか?間違っても殺し合いなんてするんじゃねえぞ」
レオンは僕の方を見てキリっと睨む。やはり僕を殺す気満々のようだ。
皆が洞窟内へ入っていき、いよいよ僕たちの番がやってきた。
洞窟へ入るとさっそくモグラやバットが襲ってきたが、レオンは剣を抜くことすらしなかった。鋭い爪で襲ってきたモグラの爪はその腕であっけなく折れ、鋭い牙で吸血しようと噛みついてきたバットは回し蹴りで蹴り飛ばされ、そのまま地に落ち力尽きた。その力は格闘術を生業としている拳闘士と同等レベルだ。そんな調子でまるで相手にならないモンスターに飽きてしまったレオンは、立ち入り禁止エリアに入っていこうとしていた。
「待って!そっちは立ち入り禁止エリアだよ」
「それがどうした」
制止する僕に対し、レオンは鬱陶しそうに答える。
「立ち入り禁止エリアは立ち入り禁止だから……」
「知るかよそんなこと。この程度のダンジョンなんだ。もっといい報酬をもらいに行くべきだろうよ」
「僕たちは禁止エリアに入ることを許可されてない!」
僕の言葉に苛立ったのか、僕を殴りつけた。僕はそのまましりもちをつく。レオンは僕をにらみつけた。その目は憎悪そのものだった。
「許可なんて知るかよ。腰抜けは普通に正規ルート通って帰ってろ」
尻餅をついたままの僕を置いて、レオンは先に進んで行った。僕は立ち上がり、レオンを追いかける。途中で出てくるモンスターはイフリートが薙ぎ払う。
洞窟の最奥部に着くと、ちょうどギガントモグーラが倒れる瞬間だった。レオンはたった一人であれを倒したのだ。
「ふん。所詮この程度か」
剣をしまい、こちらを振り向く。レオンは退屈そうだった。見たところかすり傷一ついていない。
「なんだ腰抜け、来たのか。もう終わった。この程度の相手じゃまるで相手にならない。もっと……もっと強いやつと戦いたい」
最後の方の言葉は、心の声を口に出しているようだった。本当は報酬を狙ったわけではないのかもしれない。ただ強い相手と戦いたかっただけかもしれない。奥に置いてある宝物の中身はクリスタルだった。売るとかなり高く売れる宝石だ。レオンは全く興味が無いようで、バックにすぐにしまい込む。
レオンは引き返し、正規ルートを通って外に出る。僕もそのあとに続く。外に出るとクラスメイトのほとんどがすでにダンジョンを抜けていた。
「おお、お前たちも無事抜けれたようだな。仲良くでき……てないようだな」
僕たちの様子を見て、苦笑する。レオンは僕の方を見ようとしない。先生に言われて我慢しているが、おそらく内心は僕を殺したいと思っていることだろう。目が合うたびにそれが伝わってくるのだ。
しかし、レオンはどうしてそこまでドラゴンサモナーを殺そうとするのか。いつかは聞けるのだろうか。
結局あの後立ち入り禁止エリアに入ったことはバレずに授業は終わった。レオンと僕の関係はまだ険悪なままだった。
おまけ
召喚魔法 下位魔法 属性:無 範囲:自分とその周囲 魔法タイプ:召喚
召喚士やサモナーが使える魔法だ。事前に魔法陣の中に道具等を入れておくことで召喚することができる。召喚したものは手放すことで帰還魔法が自動発動し、元の場所に戻る。帰還魔法の自動発動は術者自身が制限できるため、凄腕の召喚士は連続で武器を召喚し、躱す暇もないほどの猛攻を行うことができ、また時限発動で投げた武器を帰還させることもできる。
マジックウォール 中級魔法 属性:無 範囲:自身の前方 魔法タイプ:ガード
魔法を弾く壁を目の前に形成する。最上位魔法でも弾ける強力な壁だが、物理攻撃は弾けず貫通する。
サンダーオーラ 中級魔法 属性:雷 範囲:自分 魔法タイプ:強化
雷を纏い、自身の属性を変える。魔法戦士のみが使える魔法で、他のオーラ魔法を唱えると上書きされる。
アルティメットブースト 最上位魔法 属性:無 範囲:自分 魔法タイプ:強化
自身のステータスを2倍に引き上げる強化魔法の最上位魔法。筋力を引き上げるため、魔法が解けたあとは激しい疲労が襲う。
ファイヤ 下位魔法 属性:炎 範囲:単体 魔法タイプ:炎上
小さな炎の球を敵に向かって飛ばす。森の中で使用する際は注意が必要。火の取り扱いには注意。
ベノム 下位魔法 属性:闇 範囲:単体 魔法タイプ:状態異常付与
毒を付与する魔法で、毒耐性のあるものには全く効かない。遊び半分で使うと危険なため、子供に覚えさせてはいけない。
ベノマラート 上位魔法 属性:闇 範囲:単体 魔法タイプ:状態異常付与
超猛毒を付与する魔法で、毒耐性がかなり高くても防ぎきれない。この魔法を食らったものは大体死ぬ。かなり強力な魔法なため、並の魔法使いでは使えない魔法。