「────愛そうか、殺そうか……そ、その前に服はきちんと着ろ!」 作:佐折
それでも読んでくださる方、心より感謝します。
「ここは何処だ」
と叫んで解決するなら是非ともしたい。
辺り一面の草原。私の居る場所は小高い丘になっているのか、はるか水平線の向こうには海らしき青が広がっている。
おかしい…絶対に可笑しい。私は確か自室で大学の課題をやっていたはず。レポートの提出期限がそろそろだから手をつけないとと思い立って机に向かったのに…。
「どうしていきなり草原なの」
思わず真顔。いや、爽快な笑顔で言えても逆に怖いのだけれども。
更に言えば、草原には私一人。人っ子1人いない。ついでに動物もいな『グルルルルルゥウ…!』前言撤回。いました。それもとびきりデカそうな動物。
後ろから唸り声が聞こえる。振り返りたくない。振り返ったら終わりな気がする。振り返らなくても終わりな気がする。誰か、現実逃避をさせて。
考えてる間にも、足音が近くなっていく音が聞こえる。元々あまり離れていなかったのだろう。少し鼻息まで聞こえる。恐怖で固まる獲物をゆっくり追い詰めていくってなかなかの性格してると思う。私本当に力無いんだけど。平和な日本暮らしだから、こういう本能剥き出しな世界は合ってないと思う。というわけで、元の世界…自分の家に帰りたいです。え?クーリングオフは受け付けてない?どんな詐欺だ。
「もう、どうにでもなれ!」
意を決して振り向く。知らぬ間にお陀仏より、知ってお陀仏!少しくらい抵抗してから逝ってやる!
その時の私は知らなかった。自分が、自分では無いことに。
自分の髪が菫色になっている事も。普段では絶対に着れないドレスを身に付けてる事も。肌が前よりも白くなっている事も。
…………自分の声が本来よりずっと凛としたものになっている事も。
「…え?」
せめて、見た目ばかりの距離でもと思って伸ばした腕。何か起こるという気はしてなかった。
けれど、現実は違った。私の手によって空に刻まれた文字から氷の結晶が現れたのだった。
その結晶は目の前の動物───というよりは虎に見えるので獣と言った方が適切な気がする───を見事に氷像にしていた。
……私の見間違いで無ければ、空に刻まれた文字は確か…
「ルーン文字…」
そう。あの人気ソシャゲー「FGO」に登場するクー・フーリンとその師匠スカサハが使うルーン文字。それにそっくりだったのだ。
「ま、まさか…」
はっとして自身を確認しようとしたその時だった。
「あっ…!ぐっ!」
激しいほどの頭痛。頭に異物を押し込まれるような錯覚に陥る。
────異物。違う。これは記憶。異聞帯の北欧に君臨した1人の女神の記憶。不安に押しつぶされそうになっても1人で奮うことしか出来なかった、綺麗な神様。
『そなたは私。私はそなただ。ぞんざいに扱うでないぞ?』
記憶の中の女神が振り向いて笑う。あぁ…貴方はそのように微笑みを浮かべられるような
痛みが段々と弱まり、改めて自身を見下ろす。その容貌は正に、
私は彼女、彼女は私。2人分の記憶が混ざり合ってるせいか、女王としての振る舞いをすることに違和感を覚えそうにない。逆にこの姿なら女王らしさを出した方が相応とも言える。
モノは試しだと思い、眼前の氷像を見据える。
「さぁ────愛そうか、殺そうか」
最初から喋ってたのに声が変わってることに気づかない主人公。
動揺がすごいんです、多分。