パーフェクトヒューマン(緑)   作:蕎麦饂飩

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妥協は人生の自殺

「欲しい女と結婚して、欲しい仕事で働き、欲しいものを食べて、欲しい酒を飲む。

欲しい事を叶えられない人生なんて嘘だ。

欲望を叶えるために人間は生きているんだから、欲望を叶えられる者だけが人間だ。

それが出来ていない奴は、己の欲望を叶える努力を人間であることと共に放棄した奴隷か、

――――――さもなくば、人間として当たり前の能力さえ持っていない様な死にたくなるぐらいの無能だろう」

 

 天才が努力した結果、当然のように欲しいもの全てを一代で手に入れた男。

 彼は、愛する美しい妻を手に入れ、急成長を続ける屈指の大企業のオーナーであり、美食家である。

 

 弛まぬ努力の果てにそこにいる故に、努力を怠る感覚自体が理解できない。

 天才が努力を続ければ当然凡才達に勝ち目は無く、常に彼は一人勝者であった。

 

 欲望の塊でありながら、欲するモノを全て手に入れてきた。

 天は二物を与えずと言うが、彼に至っては全てを手に入れてきた。

 

 彼の妻や部下達は、彼の有り余るエネルギーに惹かれ付いてきた。

 惹かれる者達の目的は、彼の生み出す金では無く、金を生み出す彼自身だ。

 天才が全力で動き続ける様を一番近くで見られるという栄光は、意識の高い者にとっては有り余る価値を示していた。

 

 そうで無くとも、お金持ちや権力者の周りには自然と人が集まる。

 力の無い者に嫌われても大きな問題は無いどころか、力の無い者を排除することも出来る。

 だが、力がある者に嫌われれば居場所が無くなるし、好かれればその力の一端のお零れを受けやすくなる。

 だから『力』が有る者は周囲に好意的な態度を取られる。

 無力な者ではそうもいかない。そんな人間に媚びてもメリットなど存在しないからだ。

 

 彼は優れた能力を持つ己を更に向上させることに全力を尽くしてきた。

 だから劣った者の苦悩が理解できない。

 それを示すような発言が冒頭の言葉である。

 

 彼には全力で努力することが出来ない者や、全力で努力しても向上できない者が理解できない。

 限界まで努力することは当たり前で、そうしない者は彼の目には己の人生を妥協しているようにしか写らない。

 己の人生に妥協した者が妥協した結果を受け取るのは当たり前のことだという理屈だ。

 全力で努力しない者がそれなりに含まれているこの世界で、平均値以下の能力を持つと言うことは彼にとっては妥協に過ぎない。

 偏差値50を下回る者はすべからく努力不足。若しくは、人間としての最低限の能力を保有できていないとしか思えない。

 自分の人生に妥協を少しでもする者は、その少しの分だけ自分の人生を生きようとしていない。

 能力が不足して何も得られない人生というのは無意味なことだ。死んでいるのと変わらない。

 妥協することは己の人生が殺されることに納得すること――――つまり、その少しの分だけ自殺しているに過ぎない。

 彼にはベストを尽くさず、ベストにたどり着けない人間は人間(同類)では無い。

 

 何故ベストを尽くさないのか?――――彼にはそう写る。

 何故ベストを尽くせないのか? ということは考える価値すら存在しなかった。

 

 

 

 

 

 成功ばかりを続けてきた。只の一度の敗北も無く、只の一度も理解されない。

 そんな男にも――――――遂に死期が迫ってきた。

 そして、彼は彼を尊敬する者達(崇拝者)に囲まれ、成したい全てを成し遂げた人生に満足して、彼の認識する人間らしい死を迎えた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 そして男は意識を持ったまま、赤子として生まれ直した。

 彼が生まれた町の名前は―――――――――『マサラタウン』。

 研究所以外には民家しか無い田舎町で、父親が失踪した母子家庭で彼は再び生を受けた。

 

 彼の今生での名はグリーン。

 後に『何故ベストを目指さないのか』という著書で彼が語る育成論は、世界中で爆発的にヒットし、

『厳選』『6V』『役割』『フルアタ』などの彼の造語と共に広まった彼の引き起こしたムーブメントは、様々な社会問題を引き起こすこととなった。

 

 

 

 

 

第1話『妥協は人生の自殺』

 

「母さん、借金をしようと考えている」

 

 

 いきなり借金をしたいと言い出した息子(グリーン)に母親は驚きつつも、自分よりも遙かに賢い息子の言うことだから納得できる理由があるのだと認めた。

 その額は実に100万円。

 『おこづかい』という額では無い。

 

 そしてグリーンはその100万円を投資に使った。

 シルフカンパニーの株やリニアモーターカー関連の株などを売買するなどして、彼は未だポケモントレーナーでも無い年齢でありながら投資家となった。

 尚、名義は母親の名前である。

 

 近所でも有名な慈善家であり、マサラタウンの発展や美化、マサラの象徴であるポケモン研究所への援助まで行うグリーンは有名人だった。

 そんな彼が遂に、ポケモントレーナーとして独り立ちするときが来た。

 ヤマブキシティの某大企業からも花束が贈られたし、タマムシシティの記者が特集を組むために訪問してきた。

 

 彼は最初のポケモンとしてイーブイをポケモン研究所所長であるオーキド博士から渡された。

 そして、ヤマブキシティの大企業こと、シルフカンパニーの社長からはラプラスを受け取った。

 社長からは序でに違う町でポケモントレーナーをしている娘を婚約者として紹介された。

 しかし、欲しくない女と結婚するのはベストでは無いと、会ったことも無い女性との結婚はお断りした。

 その結果、社長の強引な押しで婚約者候補という形で決定した。

 

 

 

 グリーンの同級生にレッドという少年がいた。

 別にグリーンにとってはライバルという立ち位置でも無い。

 レッドは地元の名士、オーキド博士の孫でありながら、カントー地方中で有名な投資家女性の息子であるグリーンに引け目を感じていた。

 何せ、ポケモン研究所は経営難に陥ったことがあり、その際に資金援助とプロデュースを行い復興させたのが書類上はグリーンの母、…実質グリーンである。

 勝てるものが一つも無い。

 

 ポケモンについての知識だけなら研究者の一族として負けたくは無かった。

 だが、いざグリーンが「ポケモンの知識においても俺は頂点をいく男だ」と宣言してからは凄まじい速度での知識の吸収速度に圧倒された。

 だが、レッドも負けてはなるものかと必死の意地で努力をした。

 彼も天才の一人である。

 レッドにとってはグリーンはライバルであり、それが彼の劣等感と、それを誤魔化すための虚勢となって彼を後押しした。

 

 初めてのグリーンのポケモンバトルの相手はかなり有名なトレーナーだったが、そのトレーナーをしてグリーンは見所がある少年だと言えた。

 有名なトレーナーの使うポケモンは殆ど極めて珍しいドラゴンタイプであり、そして特殊な教育によって覚えるはずの無い技さえも習得していた。

 勿論結果はそのトレーナーの攻撃が二回当たったときに、グリーンのポケモン二匹は全滅して終わった。

 だが、それでも尚、有名トレーナーをしてグリーンは見所のあるトレーナーだと思えた。

 しかしそれ以上に、その試合の直後に元気の塊で回復したポケモンを率いるグリーンと対決したレッドという少年に、

何か煌めきのようなものを感じた事が、そのトレーナーには強く印象に残った。

 

 

 グリーンのポケモンは復興したポケモン研究所の主力商品(・・・・)であるイーブイの中でも、厳選に厳選を重ねた個体である。

 そんなポケモンに加え、シルフカンパニーから渡されたラプラスも所持している。

 有名トレーナーとグリーンほどでは無いが、偶々出会ったピカチュウしか所持していないレッドとイーブイとラプラスを所持するグリーンでは勝ち目は無い。

 

 だが、勝ち目があるとかどうとかはレッドにはどうでも良かった。

 グリーン相手にレッドはベストを尽くそうとしたのだ。

 それがグリーンには当然だと思ったし、有名トレーナーには眩しく映った。

 

 レッドにとっては初めてとなるトレーナーとのポケモンバトルは惨敗に終わった。

 だが、グリーンが負けたときとは違い、負けた側へのフォローに回る人達は少なかった。

 特に女性などは顕著だった。

 

 

 

 グリーンは初めてのポケモンバトルで世界のレベルを知った。

 だから、最終到達目標がこの時点で見えた。

 有名トレーナーであるポケモンリーグチャンピオンの背中に追いつき、追い越せば次はその栄光は自分のものだ。

 だから、ベストを尽くさなければならないのだ。

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