パーフェクトヒューマン(緑)   作:蕎麦饂飩

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価値を生み出すことが価値

第9話『価値を生み出すことが価値』

 

 μⅡ(ミュウツー)はとあるポケモンの遺伝子の欠片を無理矢理再現しようとしたために生まれたポケモンである。

 絶滅した恐竜を無理矢理復活させようとしたら、モンスターになった。

 そういう認識で構わない。

 

 だが、その不完全な再現の為に、生存には人間の施した機械と、薬物の投与が必要だった。

 そして、その薬物の副作用と、生存装置の機械の機能の一つとして、持ち主への絶対の従順とモンスターボールの無効化があった。

 

 故に、以前社長に貰ったマスターボールは使えない。

 社長が眠気を抑えながらグリーンにそう忠告した。

 

「我が名はμⅡ(ミュウツー)。最強のポケモン」

 

 グリーンは人間の言葉を喋るポケモンを珍しいと思ったが、多音声の発生が出来るポケモンが言語にベストを尽くした結果だと納得した。

 

「そうか、俺はグリーン。最強のトレーナーになる男だ。

お前を倒すことでベストに近づく。恨みは無いが必要はあるので倒させて貰う」

 

 グリーンはダグトリオを繰り出したが、その瞬間ダグトリオのいた場所が歪んだ。

 ダグトリオは持ち前の素早さで辛うじて躱したが、元いた場所は完全に空間が削り取られたように圧縮されて破壊されていた。

 そして、ダグトリオをわざとミュウツーが見逃したことは、サカキの表情を見れば解った。

 

「今なら先程の言葉の取り消しを認めよう。

君とミュウツーが手に入るなら、このシルフカンパニーもゲームセンターもどうでも良い。

何処でだって、何時だってやり直せる」

 

 サカキの言葉を無視してミュウツーの背後に移動させていたサンダースの電磁波をミュウツーに浴びせかけたが、

麻痺をして尚速い速度でサンダースは壁に叩き付けられた。元より、エスパータイプに肉体の麻痺の影響は大きくは無い。

 

 サンダースは倒れたが、代わりにミュウツーの生存を保証する機械の一部がショートしていた。

 つまり、長期的には機械の修理や交換が無ければミュウツーには緩やかな、しかし確実な死が待っていた。

 

 

 後は時間を稼ぐだけ。だが、その『だけ』が厳しかった。

 余裕が無くなったミュウツーは地面ごとダグトリオを攻撃。

 今度はダグトリオの回避は許されなかった。

 

 瀕死になりサンダースに続き、モンスターボールに二体目が収納される。

 出来れば早く瀕死になっているラプラスを回収してやりたいが、それを許す相手でもない。

 ロコンとフーディンを使って、サカキを直接攻撃することをグリーンは決めた。

 

 麻痺をした身体で、ひ弱な人間を守護することに回せば時間を稼げる。常に攻勢を張れば相手は守勢を取るしか無くなる。

 これはどう見ても主人公と言うよりは、悪の側に相応しい手段だったが、この状況ではグリーンにはこれがベストだった。

 サカキを護るために、ミュウツーの攻撃は薄くなり、防御に集中せざるを得ない。その手数は一気に減った。

 その隙を突いてグリーンはサンダースとダグトリオに『げんきのかたまり』を投与。

 無理矢理戦闘可能状態に持ち込んでサカキを攻撃させる。

 

 サカキを護りつつ、その合間に行われるミュウツーの正確無比にして強力な攻撃で直ぐにロコンとダグトリオがやられたが、

それでもげんきのかたまりは残り97個もある。

 資本経済(げんきのかたまり)が勝つか、独裁政治(ミュウツー)が勝つか。

 その天秤はどちらかと言えばミュウツーに傾いていた。

 最強の兵器は伊達では無かった。

 

 

 

 

 げんきのかたまりが残り10個になった時、ラプラスの歌声が響いた。

 

 それは、グリーンのラプラスの歌声では無い。

 その証拠に、その歌声に合わせるように、応えるように、もはや『うたう』として機能していないか細いグリーンのラプラスの声が放送を通じて聞こえてくる。

 

 第一、そのラプラスの声は放送設備では無く、シルフビルの外から生音声(・・・)で聞こえていた。

 

 

「真逆ッ、もう来たというのかっ!?」

 

 サカキは早すぎると思った。

 この世界で、ラプラス使いと言えば目の前の少年よりもずっと有名なトレーナーがいる。

 4つしかない最強の席の一角。

 

 氷の女王――――――『カンナ』

 

 

 サカキは隙を突いて逃げ出した。

 その場にミュウツーを残したまま。

 

 

 残されたミュウツーは最後の命令、サカキの『悪あがきで良い。全力で暴れろっ!!』の命令を忠実に実行する。

 守らないといけない足手まといがいなくなったとはいえ、PP(技ポイント)もない。身体も麻痺している。生命維持装置も壊れかけてきた。

 だが、最強のポケモンは最強のポケモンだった。

 超能力で暴風を巻き起こして己が健在であることを証明する。

 

 風に煽られながらもシルフビルの最上階へと続く氷の階段をゆっくりと歩いて昇ってくるカンナ。

 

「貴方、少し暴れすぎよ」

 

 

 眼鏡が反射してその向こうの表情がわかりにくいが、その威圧感はグリーンが初めて戦った最強のトレーナーに引けを取らなかった。

 

 カンナに襲いかかろうとしたミュウツーの生命維持装置を、カンナの遙か下の地上から彼女のラプラスのれいとうビームが穿ち抜いた。

 

「ああ”あ”あ”ア”ア”唖”ア””阿”亜”ーーーー」

 

 

 絶叫しながらも喉を押さえながら、苦しそうにその声を徐々に落としていくミュウツー。

 生命維持装置が無くてはミュウツーは、生物として未完成な実験生物は、この世で息をしていくことすら許されない。

 

 これが最強のザマか、いや、これが生物としてのザマか。

 何が最強なものか、この身はただの――――――ただの欠陥品では無いか。

 何故、こんな不完全に造った!? 何故私を生み出した!?

 誰が、誰が造ってくれと頼んだ!?

 

 完全で無い生を生きるくらいなら、最初から生まれない方が良かった。

 ゴミのような欠陥品であるくらいなら、生まれたときに殺してくれれば良かった。

 完全無欠な生命体として生まれてこそ、この世で生きていく価値がある。

 生きているだけの生などゴミのようなものだ。

 生まれただけで愛される権利がある?

 誰が、私を愛した?

 誰が、私に愛することを教えてくれた?

 愛とは何だ、私とは何だ、命の価値とは何だ?

 全ては虚構に過ぎない。現にこうして不完全な存在は息を吸うことさえ許されない。

 

 

「こ………ろ……せ」

 

 意識的には息を吐くことしか出来なくなったミュウツーは、僅かな空気を消耗しながらも無理矢理声にして、グリーンとカンナに嘆願した。

 

 グリーンはカンナの方を見た。

 カンナは首を振った。

 グリーンは生命維持装置の破片である金属片を手に取ると、ミュウツーの首に向かって振り下ろし――――――

 

 

「止めてくれっ!!」

 

 鳥ポケモンの背に乗って飛び込んできた老人によって、それを防がれた。

 

「すまない。本当に済まないことをした。

ミュウツー、お前は不完全な生物では無い。そういう風に無意識を洗脳されただけなのだ」

 

「お……ま…え……は…?」

 

「私は…フジ。

――お前を造った科学者の一人であり、最後のプロテクトとして制御装置を外したら死ぬ、薬物の投与を拒否したら死ぬという暗示をかけた者だ…」

 

 

 フジ老人はかいふくのくすりをミュウツーに投与して話しかけた。

 

「しっかりと己の心に言い聞かせてくれ。

お前は不完全な生命体では無い。お前はお前の肉体だけで生きていける」

 

 そのフジの行動は、危険排除という観点からはベストな対処では無かった。

 だが、危険が起きたとしても四天王が既に一人到着、そして残り三人も此方に向かっている状況ではミュウツーにかけてみるのがベストだとグリーンは判断した。

 

 だが、ミュウツーは間に合わず息絶えた。

 しかし、これはある種の解決であるとグリーンは考えた。

 大切なのは、立ち止まらず次に何をするのかが最善かを考えること。

 他者の死に立ち止まることで、己が何かを生み出すことを止めてしまえば世界の損失になるとグリーンは考えている。

 

 これはある意味忌引きで休む暇があったら働けという思考に似ていないわけでも無い。

 厳密には違うが、そう思われてもおかしくないほどにはグリーンは冷静だった。

 

 

 ――――だから最初に気が付いた。

 空より羽のように舞い落ちてくる光る球体に。

 

 その光の球体の中にはポケモンがいた。

 そのポケモンは何処かミュウツーに似ており、その姿はミュウツーより小さくて可愛らしく、そして神々しかった。

 

 そのポケモンは光をミュウツーに与えた。

 『たまごうみ』と呼ばれる技の亜種だとグリーンは想像した。

 

 暫くしてミュウツーが身じろぎを始めると、そのポケモンは何処かへ去って行った。

 

 

 グリーンは何故か、今生で己と母を置いて失踪した父親のことを思い出した。

 直前に母親が襲撃された際に、母を謎の男が救ったという情報も手に入れている。

 グリーンにはその男が己の父親であるような気がしていた。

 

 

 

 ミュウツーは起き上がると、

 

「何だ、アレは………アレが、そうなのか…?

認められたのか……アレに、この、世界に……。

そうか、私は、私は今此処にいる…」

 

 そう呟いて、そして何処かへと飛び去っていった。

 具体的にはハナダの洞窟なのだが、それを知るものはいない。

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