第10話『停滞するは悪』
過去を悔いて慈善事業を行うフジ老人と話すため、グリーンはシオンタウンへと向かった。
シオンタウンはハナダシティとイワヤマトンネルで繋がっているが、イワヤマトンネルは暗いことで有名だ。
グリーンはいずれは内部照明を付ける必要があると感じていた。
フジ老人は催眠や暗示についての研究者だった。
その研究成果がミュウツーの人間の命令を従わせようとする機械とそれを外したら死ぬという暗示だった。
フジ老人はシルフカンパニーを辞めて以降は一気に老け込んだ。
そのフジ老人は、いつかミュウツーに使おうと思っていた『
グリーンは、何度でも使える特定状態異常回復器具をシルフカンパニーで高額商品で売り出させようと思った。
後に使い切りで無い麻痺を解除、毒を解除出来る類いのアイテムも販売しようと思っていた。
フジ博士に嘗ての思い切りと能力があればグリーンは新たな世界の踏破者にスカウトしただろう。
しかし、この老人は前に進むことを諦めてしまった。それに疲れ果ててしまった。
勿論、そこに至るまでに進んできた距離は凄いもので、常人を越えている。
立ち止まった今でも凡人よりはマシだろう。
だが、グリーンには物足りなかった。
だからフジ老人の孫に祖父のような研究者になれば、祖父が行う慈善活動の資金を得られて祖父が喜ぶと帰り際に伝えた。
グリーンは珍しいゴーストタイプのポケモンを手に入れるため、
また、『とくしゅ』が高いゴーストタイプをひたすら狩れば『とくしゅ』が上がるという理論の実証のためにポケモンタワーに行くことにした。
入り口にはレッドがいた。
「……お前のポケモン、死んだんだったな」
レッドはヤマブキシティから脱出するサカキと共に逃げるロケット団、そしてサカキを逃がそうと反対側から通路に侵入してきたロケット団と戦い、
その戦いの果てに彼のポケモンであるラッタを喪った。
ボスを逃がすためにレッドに銃弾を放ったロケット団から庇うようにして、彼のラッタは命を落とした。
「…どうしてだよ、どうしてラッタは死んだ?
どうして俺は助けられた?
どうしてお前はそれを知っている?
どうしてお前はそんなに大人になれる?」
レッドは虚ろな目で勝負を仕掛けてきた。
グリーンにはそれに対して一つの回答しか持たない。
それが――――ベストだからだ。
レッドのポケモンだが、最もレベルが高かったラッタがいないレッドのポケモンのステータス自体は大したことは無い。
だが、それでは測れない何かがレッドのポケモンの地力を引き上げていた。
特にガーディなどは、彼のラッタが以前そうあったようにひたすら攻めの姿勢を崩さなかった。
戦い方だけで無く、その意志を受け継いだのかも知れない。
…だからロコンの搦め手に上手く巻き込むことにグリーンは成功した。
何かを忘れるように、何かを忘れないように必死に影分身を攻撃するガーディ。
レッドもそのガーディに対して、ラッタに付けていたニックネームで命令していた。
レッドがラッタを喪った現実を受け止められていないにせよ、スピードを重視したガーディの戦い方がラッタに瓜二つにせよ、
主従の心に深い傷があったのは間違いないようだった。
ガーディが倒れた後、レッドはギャラドスを繰り出してきた。
グリーンが安物買いの銭失いと一蹴した怪しいおっさんから購入したコイキングを大切に育てたものだ。
ガーディよりは遙かに高いステータスであったが、グリーンがサンダースを繰り出した事を差し置いてもガーディの方が強かった気がした。
最後は、ピカチュウをダグトリオで倒し、バトルは終わった。
レッドは、先程より少し晴れた目をしていた。
「先へ、進まないと」
レッドは過去を乗り越える道を選んだ。
グリーンに取っては当然のことであり、先へ進むことは人間の義務とさえ思っている。
レッドがラッタの為にも、ガーディの為にも前を向こうとした想いとは似ているが、何処か違うものだった。
グリーンはレッドと別れてそのまま、ポケモンタワーを登っていった。
霊は優しい気の持ち主に憑くと言う。それは取り憑くに
善人は誑かしやすいという話に似ている。
だからだろうか、グリーンはポケモンタワーに昇り、そして帰るまで霊と遭遇することは一度も無かった。
彼は善人では無い。だが悪人でも無い。
彼は世界をより革新させるためにベストを尽くし続けているだけである。
歩みを止めるのは死ぬときだけ。
彼には善か悪か自体を当てはめることがナンセンスなのかも知れない。
彼にとって大事なのは、ベストを行うか、そうで無いかだけなのだから。