番外編『愛憎』
カンナにとって、それは偶然の出会いだった。
カンナは小さな島で生まれた。
カンナの父親は長らく不明だった。カンナの母親が当時の恋人と別れて暫くしてから妊娠が発覚したためだ。
カンナの祖母は優しかったが、周囲の人達の目線には蔑みを感じた。
小さな人口も少ない島では、人の悪口でさえ島民共通の娯楽になる。
カンナは随分と島の人々を恨んだものだった。そしてそれ以上に己を生んだ母親に懺悔したものだった。
小さな島から抜け出すべく、必死で勉強とポケモンバトルの両立をしつつ、そのどちらも極めて優秀な成績を修めると、島民は手のひらを返した。
未だ少女の域を超えていないのに、飛び級での大学卒業と全ジムの制覇にはそれだけのインパクトは間違いなくあった。
時期に何処かのジムリーダーか、タマムシ大学の教授になるのは確実と言われたカンナに、是非うちの息子の嫁にと言う人々は少なくなかった。
カンナは凍るような視線で彼らを威圧し、彼らが想像した以上の存在『四天王』にまで上り詰めた。
ここまで行くと、『氷の女王』などの異名もあり、昔のカンナを知る人には恐れられ、若い島民には尊敬されるようになった。
カンナは四天王の権力を持って、己の生まれた島に様々な支援を施した。
これは、両親や随分前に亡くなった祖父母への恩返しだけで無く、お前達が蔑んだ馬の骨に養われる気分は如何かしらというカンナにとっての島民への
四天王として有名になって数年が経った時にカンナが雑誌の取材を受けて数週間後、一人の男性がマサラから訪ねてきた。
その男性は、最近亡くなったカンナの母親の昔の恋人だと名乗っていた。
「何故、今頃になって…。後少し早ければ母は…。
いえ、貴方が母に会うことも無かったら…」
その男にカンナはやつあたりするようにバトルを挑んだ。
その男はカンナにも容赦なく最善を尽くした。
昔から四天王の席に座るキクコの弟子でもあり、昔はポケモンリーグチャンピオンにまでなった男は、やはり強かった。
その男に対し、そしてその男の家庭に対して復讐するために、カンナは家庭に何も伝えずに島に残り続けることを要求した。
それは――――復讐だった。
決して、父親に甘えたかったわけでは無い。そんなはずは無いのだ。
カンナは気が付けば四天王の席に落ち着く程度には強くなった。
自分より強いトレーナーが四天王の席を奪う心配など、最早必要無い。少しも恐くは無かった。
カンナが四天王最初の門となってから、破られたことは一度も無い。
そんな彼女だったが、ある時、シルフカンパニーお抱えのテレビ番組である少年が写されることになった。
「息子なんだ」
その男はそう言った。
そろそろ
そう思ったとき、電話が鳴った。
カンナへの依頼だった。今テレビ番組をしているスポンサーの社長からの依頼だった。
マサラの有名投資家がロケット団に狙われている可能性が高いので警護して欲しいと。
カンナは迷った。
だが、男は迷わなかったようだ。
迷うこと無く鳥ポケモンに乗って消えていった。向かう先はマサラだろう。
――カンナは、また一人になった。
そして、彼女は生き別れの弟と出遭う。
ロケット団が最後の花火を上げた、国内最大の総合商社ビル。
その少年は、確かにあの男に血を引いていた。
それは、容姿だけでは無い。氷使いのカンナをして怖気がするほどの冷たい合理主義を宿した思考。
それでいて、その魂は世界を変えるような熱量を持って、主張せずとも目を逸らすことを許させない。
それはチャンピオンの器だった。
なるほど、これならば
カンナは弟をそう評価した。
全力での姉弟としてのぶつかり合いは、何時の日か来る。必ず来る。
彼ほどの素質があって、四天王の門を叩かない筈が無い。カンナはそう確信した。
だからその前に、少し姉と弟として軽く話をしよう。
そうだ、最近喧嘩したワタルの愚痴についてでも話そうかしら。
いつも、脱いだ靴下をそこらで置きっぱなしにしたり、浴槽で身体を拭かずに脱衣所に出たりだらしないのよね、あの人は。
地味に下ネタも多いし。「旅行から帰ってきたらお前のふたごじまを探検したい」とか中学生だろうか?
そもそも三十路前の恋人に早くプロポーズをしようとか思わないのだろうか?
カンナはそんな事を思いながらふたごじまに向かった。
奇しくも、