第12話『社会へ役に立つ人間へは、社会が役に立つ』
俺に姉がいたとは知らなかった。
それもあの時支援に来ていた四天王の『氷の女王』だとは。
それにしても、先程から愚痴しか言っていない。この姉は余り建設的では無いな。
第一、地味に際どい惚気染みた愚痴を、本来肉体的には思春期の弟に言うな。
それとポケモンチャンピオンの『竜王』が今後は最早、姉のふたごやまにしゃぶりついて甘える大きな赤ん坊にしか見えなくなった。
如何すれば良い?
この場合、ベストは何だ?
教えてくれフーディン、俺はあと何秒この話に耐えれば良い?
俺はあと何秒空しい時間を過ごせば良い。
周囲で目を逸らす海パン野郎や大人のお姉さんは何も答えてくれない――――
グリーンは こんらん していた。
というか、普通にどうでもよくなっていた。
どう考えても、『私たち同棲してます』を前提とした愚痴。
時折、「グリーンにも良い人はいないのかしら、心配だわ」と己のふたごやまを組んだ腕で持ち上げながらため息を吐くカンナ。
だが心配されるべきは、未だ思春期にして将来有望な弟よりも、
子供のようなキラキラした瞳で未だ心は思春期な結婚の話すらしない恋人を持つ姉というのが客観的な判断だろう。
勿論、
「ゼク○ィをそれとなく机の上に置いてみては如何だろうか?」
「それはもうやったわ」
この回答はベストでは無かったようだ。
カンナは思い出したように怒りのボルテージが上がった。
「俺がチャンピオンになったときに、今のチャンピオンには早く家庭を作ってはどうかと提案しよう」
今度の回答はどうやらベストだったようだ。
「持つべき者は優秀な弟ね」
硬い生地の上からでも柔らかなふたごじまに弟を抱きしめると、姉はそう言った。
普段クールなカンナだが、年齢のこともあるが、その生い立ちから家庭の憧れというものに飢えている。
そして恋人は家庭というものに極めて不向きそうな、夢見る××歳児。
お互い三十路前だというのに、恋人には一切焦りが無いことをカンナは焦っていた。
しかし、何時だってベストな回答を常に模索し続けるグリーンには焦る感情は解らないが、焦る姉の心を落ち着かせることには成功した。
姉を見送った後、グリーンはふたごじまの中に入った。
勿論、山の方のふたごじまである。
カンナが去るときに、この場所には伝説のポケモンがいる可能性がある。
何故なら、伝説のポケモンは強力な自然のエネルギーがある場所を支配下に置くからと伝えた事が、グリーンが山に入ろうとした理由である。
決して、四天王の愚痴を聞かされた少年という哀れみの目をする海パン野郎や大人のお姉さんの視線から逃げるためでは無い。
あくまで、伝説のポケモンを手に入れることがベストな選択肢だからである。
本来は『かいりき』が必要なふたごじまの内部であったが、忍者修行を行ったグリーンにはその必要は無い。
例え火の中水の中草の中、女性のスカートの中とは色んな理由があって出来ないが、水上を歩いたり、高所から綱を使い飛び降りたりすることなら問題なかった。
伝説のポケモンの居場所は探さなくても解った。
何故なら、カンナの言うことが正しければより寒い場所へと進むだけでよかったからだ。
最近ロコンから進化させたキュウコンをコートのように背負いながらグリーンは奥へ奥へと進んだ。
そしてその最奥。鎮座するようにそれはいた。
伝説のポケモン―――――――『フリーザー』。
とは言え、努力値0、レベル50の野生ポケモンに過ぎない。
何故か野生ポケモンは、野生の中で鍛えられているにもかかわらず努力値が0である。
ジムリーダーの本気に打ち勝ったグリーンには倒せない敵では無かった。
寧ろ、ポケモンタワーで『とくしゅ』を上げまくった6Vキュウコンであれば、倒さないかどうかが心配であった。
故のゲンガー。
タイプ一致の技が固定ダメージのナイトヘッド。加えてさいみんじゅつまで持っている。
特殊130の種族値に加え、ゴースを倒して稼いだ努力値と6Vはフリーザーの氷タイプの技を大きく減衰する。
凍らされる恐れがあるが、『なんでもなおし』という人間の科学技術の前には恐れるに足らない。
後はゲンガーを回復しながらのハイパーボールの投げ続け。
モンスターボールなど使うはずも無い。ベストを尽くすならより良い道具を使うのは当然だ。
おこづかいが足りないという言葉は、おこづかいを貯める努力も工夫も怠った者の言い訳に過ぎない。
ベストを尽くす男にとって、フリーザーの捕獲には難は無かった。
勿論、外したハイパーボールは全て回収する。
環境の美化・保全にもグリーンはベストを尽くす男なのである。
グリーンは、失敗したら返ってきて再利用できる。若しくは放置しても消えて無くなるボールの開発を今度シルフカンパニーに提案しようと考えた。