第14話『今すぐにでもベストを始めよ』
急成長を続ける大企業、シルフカンパニーの御令嬢と正式に婚約した以上、グリーンはそろそろ自分自身の実績を積み上げる必要性を感じていた。
故に、シルフカンパニーの特別開発室長の役職を手に入れ、『ポケギア』の試作品を大々的に発表した。
「離れた場所にいるあの人と話したい?
大丈夫、出来るよ。そう、ポケギアならね」
開発者であるグリーン自らが爽やかな広告塔となって宣伝する。
シルフカンパニーの次期社長には相応しいスタートであった。
シルフカンパニーの社長は、グリーンが正式に入社するまで、グリーンの名前で発表できるよう、幾つかの製品の発表を温存していた。
それは当時の会社としてはベストで無かったかも知れないが、次期社長の箔付けという意味ではベストであったかも知れない。
特にポケギアの存在は衝撃であった。
今後はビジネスが待ち時間なしで行われる。
それは、今日は連絡が付かないから明日で良いという、
全てのビジネスの距離と時間が無くなっていく。
そうなると、今までは急がずに、1つずつやっていたことが、常に全力で働き続けられる様になる。
それにより、常に全力で高いパフォーマンスを出す事が出来る人間と、そうで無い人間の格差が広がる。
働く密度が増えるのだからそれは当然だった。
今までは封筒に会社の宛名を書くだけだった仕事も、シルフカンパニーが出した新しい高機能で安価なプリンターの登場で消え去ることとなった。
単純作業を休みながらしていれば良い時代は、シルフカンパニーとグリーンによって終わりを告げようとしている。
これからは単純作業を機械を適切に使ってこなし、常にクリエイティブなアクションを起こし続ける社員が当然と求められることになる。
着いてこられない人間は単にやる気が無いだけである。常々グリーンはそう思っている。
だから、そういう人間のことは考えない。寧ろ邪魔にしかならないから、解雇自由化の法案を政府に通させたのだ。
より良い世界でより良い人々が生きていく。そんな未来を掴み取るために。
出来ない人間をどんどん追い詰め、代わりに出来る人間をどんどん浮き彫りにしてチャンスを与える製品やシステムを生み出すグリーンは、
出来る人々から熱狂を持って受け入れられた。
公の場にどんどんと出るようになってかなり有名になったグリーンだが、彼は放置していたジムバッジの回収を再開させていた。
場所はグレンタウンのジムである。
しかし、ジムには鍵がかかっていた。
グリーンはこのような、時間を無駄にする仕掛けは嫌いである。
開かれた公共性あるジムが鍵を閉めるとはどういうことかと抗議して、鍵を開けさせた。
ジムの回答曰く、近くにある屋敷の中で鍵を見付ける仕掛けという事だったが、屋敷の所有権をグリーンが買い取ってしまった以上、
他者の敷地を使ってのジムの仕掛けという意見は通らなくなってしまった。
そもそも注意書きで、隣の屋敷でパスとなる鍵を所有せよという但し書きが無い時点で、免責では無い。
新星の如く現れたカリスマ。そしてその隣には美人なお嬢様として割と有名であったエリカを侍らせている。
そんなグリーンが堂々とジムの中に入ってきた。
グレンジムにはかじばどろぼうや、りかけいのおとこと言った、社会をドロップアウトした者や、陰キャラのような、
所謂、非リア充が多い。というか、ジムリーダーのカツラ自体がかなり年が進んだ独身だ。
つまり、此処は非リア充ジムなのである。
グリーンに対する嫉妬の目線がものすごいが、グリーンは全く気にすること無く余裕の表情である。
彼は嫉妬されることや賞賛されることになれすぎていて、他者の視線が気にならないのだ。
意識をしなければ弱い風の音が気にならないのと同じである。
非リア充ジムトレーナーを余裕の表情でなぎ倒し、エリカに賞賛されながらまっすぐと進む様はまさしくリア充の王。
炎のジムなのに湿ったジムトレーナー達には、その在り方が眩しすぎた。
挙げ句に隣にいる幸せそうな美少女がいる。
お隣のジョウトで有名なFカップ小学生のグラビアアイドルのアカネほど、ロリコン好みでは無いかも知れないが、
お嬢様属性というのは、男慣れして居なさそうなところが、ロリコンで処女厨なりかけいのおとこ好みだった。
だが、そんなお嬢様にも隣に普通に男がいるという事実は、どうやってもフィギュア以外の美少女を侍らせることが出来ないりかけいのおとこに涙を流させた。
そんなジムトレーナー達の敵を討つべく、クイズ大好き熱血親父はグリーンの勝負を受けた。
しかもジム用では無く、全力の編成で行うという条件でだ。
リア充潰すと燃え上がったが、戦う前にクイズのノリでエリカのスリーサイズを聞こうとして、ぜったいれいどの視線を受けた。
尚、ぜったいれいどという技はこの時代のカントーには存在せず、もしポケモンの技で例えるならふぶきかれいとうビームであろう。
冷たい視線を受けても熱血で立ち上がるハゲでも熱い男。その名はカツラ。…ハゲだけど。
非リア充の想いを背負ったリーダーのカツラは、ブーバーを繰り出してきた。
レベルも60という強力な個体だった。
余談だがブーバーは成長すると一つの火山を一組のオスとメスで縄張りにするらしい。
つまり他のブーバーは追い出されるのだ。
加えて、ブーバーのオスとメスの比率は3:1。つまり追い出されるブーバーの殆どがオスとなる。
カツラのブーバーも、そんな悲しい過去を背負ったブーバーだった。
だが、野生生物というのは強い者からペアを作ることが多い。
言い換えれば、その当時は強い個体で無かったと言うこと。
負け組から、此処まで来るのは並大抵のことでは無かっただろう。
しかし、それでもグリーンは
先頭はラプラス。
グリーンの手持ちの中では、フーディンに次いで頭の良いポケモンだ。
そして何より、単純に強い。
水が無い場所でも、水を巻き起こして相手を呑み込む『なみのり』。
自分よりレベルの高いブーバーの体力を大きく削った。
実は、見た目ほど『HP』以外のステータスは特別には高くないラプラス。
どうしてリアリストのグリーンの主力を張り続けられたのか。
その答えは、そのやや耐久寄りのバランスがよいステータス配分と、多彩な技である。
知能が高く、温和で、身体が大きく使い勝手が良く、人懐っこい為に、人間に乱獲され絶滅の危機に瀕した種族、ラプラス。
心の奥底に『魔』を飼っているので無ければ、有能な無能を地で行くポケモンであろう。
だが、それは裏を返せば、使い方次第では有能な有能に化ける素地は十分にあるのだ。
とは言え、勿論相手がほのおタイプ一色であればなみのり一択だろう。
しかし、なみのりのごり押しでブーバーを倒した後のカツラの後続のポケモンにもラプラスの技構成は容赦なく突き刺さった。
カツラはモンジャラをくりだした。
回答は、
「ラプラス、ふぶき」
モンジャラは倒れた。
カツラはピクシーをくりだしてきた。
ピクシーはレベルアップで覚える技が貧弱なこともあるが、ラプラスと同じ高知能が多くのわざマシンの習得を許容させるタイプのポケモンである。
ピクシーを使っているのが下級トレーナーならノーマルタイプの技構成しか無いであろうとゲンガーを出したが、相手は
場合によっては電気タイプの『10まんボルト』か『かみなり』を習得している可能性があった。
故に、シンプルに正面から叩き潰す。
「もう良い。戻れラプラス。
いけ、ケンタロス!!」
先手のはかいこうせん。タイプ一致の威力225、攻撃種族値100から繰り出される強力無比の一撃。
高い耐久が無ければ体力レッドゾーンでのギリギリの耐えさえ許さない。
そして相手が倒れれば、本来負うはずの反動すら無い(初代仕様)。
まさに選ばれしポケモン。ベストオブベスト。
続くラッキーさえも、ケンタロスは止められない。
物理半減のひかりのかべを張ろうとしたが、のしかかりの麻痺効果で痺れて動けないところへのはかいこうせん。
同様に、ガルーラも闘牛の光線の前に沈む。
次にウィンディを繰り出してきたカツラであったが、再びラプラスを出したが故に――封殺。
最後のポケモンは、カツラのエースギャロップだった。
ギャロップは、ジムの中では無く広大な敷地であれば、その最高速度、時速240キロを再現しきっただろう。
しかし、小回りはそこまで得意で無い故に、そのすばやさは105でしかない。
つまり、対抗策としてグリーンが出したすばやさ120のダグトリオに劣ると言うことだ。
そうでなくとも馬は足が弱点だ。
自分より背が低い相手とはやりにくい。
その点に関してはとくしゅ技であれば、相手との高低差など関係ないとは言える。
ギャロップの熱量が勝つか、ダグトリオのこうかばつぐんの『じしん』が勝つか。
物理、特殊共に耐久の低いダグトリオは、ギャロップにかなり押された。
しかし、それでもこうかはばつぐんの攻撃は有効だった。
震災が起きた後などには自重される傾向のある技『じしん』だが、過去を振り返らない男グリーンにはその意識は無かった。
誰かや自然が起こしたことに対応して自分を変えるのでは無く、彼は自分が引き起こす世界改変のうなりに周囲を変えさせる側の人間だからである。
ポケモンバトルでも負け、目の前で婚約者とイチャついている様子に男としても負けた気になった。
ついでに、カツラが副業で経営している温泉旅館に、この後二人で泊まるということを伝えてきたグリーンにカツラは心の底からこう思った。
――――――もげろ
グリーンはグレンジムの雰囲気を炎タイプなのに陰気くさいジムでは無く、折角炎タイプには見目麗しいポケモンが多いので、
華やかな熱血青年を看板にしてイメージを変えてはどうかと提案した。
その結果、ジムトレーナーは今までの私服を全て禁止にされ、グリーンやエリカが選んだファッションに変更することになった。
更にグリーンは肉体改造を高いレベルで要求して、顔をもうちょっと引き締めるようにした方が良いと割と酷いことを言い放った。
肉体改造こそ、熱血ジムに相応しく全力で取り組むべきだという、グリーンの意見を真摯に取り入れたカツラは、グレンジムは、ベストを尽くした。
その後大きく様変わりして、カツラは数年後年の離れた妻を貰うことになるのだが、それはまた別の話。
ベストを尽くさなければカツラは一生結婚出来ない変なおっさんのままであったであろう。
しかし、ベストを尽くしたからこそ一代で廃業しそうだった旅館に女将を迎えることも出来た(しかしその直後、グレンタウン自体が火山噴火で駄目になる)
ベストを尽くすのに遅すぎると言うことは無い。
勿論、より早くベストを尽くした者に、遅れてベストを尽くした者は勝てないだろうが仕方ない。
ベストを尽くし始めたときから、少しずつでも周囲のベストを尽くさない者達との乖離は間違いなく始まっていく。
つまり、ベストを尽くさない者は腹を切って死ぬべきだ。
そう言ったとしても過言では無いだろう。