第15話『ベストはかていではなく、結果である』
グレンタウンで一晩過ごした後、化石を復元させると久し振りのマサラタウンにグリーンは帰った。
実家に帰っても母はヤマブキの病院にいるから誰もいない家である。
グリーンは軽く掃除をした後、オーキド博士の研究所とレッドの家に向かった。
レッドの家には本人はおらず、レッドのお姉さんがいた。
エリカは何故か警戒していたが、グリーンは浮気をするつもりは無い。
どちらかというと嫉妬するエリカが可愛らしいとしか思っていなかった。
ぶっちゃけ、今彼氏がいるわけでも無い(ド田舎のマサラには冴えた男はグリーンとレッドしかいない)お姉さんには二人は毒だった。
レッドのお姉さんのポケモンへのマッサージは一級品と昔から有名であり、サンダースの目は完全に蕩けていた。
友の姉が独り身というのを心配したグリーンはマサキのことを紹介した。
かなり優秀で仲は良い。――但し性格にかなり難があるという言葉も添えて、だ。
それを聞いて、グリーン君が言うのならよっぽどなのねとお姉さんは思った。
マサラタウンでポケモンを合法的に売買(寄付金を出した相手へポケモンを譲渡する形式)するビジネスを考案したグリーンは、
はかいこうせんを覚えたケンタロスを主力で売れば絶対に売れると付け加えてマサラを去った。
トキワシティへと進むと、何時もしまっているジムが開いていた。
鍵だけで無く、扉が少し開いていたのだ。
グリーンは中に入ると、ジムの内部は荒れに荒れていた。
トレーナー達は隅に固まって震えている。中のギミックは完全に故障していた。
そんな場所で良く聞いたことがある声がした。間違いなくレッドの声だった。
それは、怒りに満ちた声だった。
「
――――――俺のラッタは死ぬことは無かったっ!!」
明らかにポケモンによる攻撃を受けて、反撃する体力も無さそうなサカキを殴り続けるレッドがそこにいた。
しかし殴られているサカキは不敵に笑っている。
「悪党が…悪い…ことをして何がおかしい…は…はは…」
「――――ウィンディ、やれ」
サカキの右足の爪先をウィンディは前足で押さえると、その場所を発火させた。
「あががっあ”あ”っっ!! ………ははは、いい目だ。私たちと同じ目だ」
「お前なんかとっ!! 一緒にっっするなっっ!!」
サカキの顔を殴り続けるレッド。最早周囲は見えていない。
そんなレッドに殴られているサカキもまぶたが切れたのか顔が真っ赤だ。恐らく視界は塞がっているだろう。
「いや、同じだ。
今、お前は…奪われる側、痛められる側のことを考えず、自分がやりたいことをやりたいようにやっている。
同じだ。何も、変わらんよ。あの少年と、私と、お前は…!!」
そう喋るサカキの顔を尚もレッドは殴り続けた。
グリーンはそろそろ頃合いかとレッド達の方へ歩み寄った。
「サカキ、聞きたいことがある。
お前は
もしそうならば資格が剥奪される前にジム戦を申し込みたい」
「グリーン…ッ!?」
レッドは振り向いて
「俺は世界を変える。
その為にはこの男とのジム戦は必要だ。サカキ、げんきのかたまりを6つやる。
大人しくやられたふりは止めて立ち上がれ。
その声を聞いたサカキはニヤリと笑うとレッドを振り払うように立ち上がった。
「君は、必ず来ると思っていたよ。
君はそう言う人間だ。
やはり、というか、予想できてしまう。君は何時だって何だってしてしまうからな」
「今すぐ相手をして貰う。良いな?
喋る口と頭があるならトレーナーは務まるだろう」
「ああ。話せて口がきけるなら、手足を叩き潰されようと、内臓を潰されようと一向に問題ない。
やはり、君は私に似ている」
「…紅い髪の女性は地元にいられなくなってしまうだろう。
近々幼い子供とジョウトに行くそうだ」
「教えて貰い感謝する――――と言いたいが、正直に言えば私にはどうでも良い。
グリーンはモンスターボールを構えてサカキに告げた。
「実を言うとそれなりにはお前を買っていたが、若干失望した。
お前のベストはその程度か。…俺がお前なら世界も家族も全てを手に入れる。
そして全てに満たされた中で死んでやる――――ではやろうか」
サカキは ダグトリオを くりだした
グリーンは ダグトリオを くりだした
初戦はまさかの同種対決。
より強い方が、勝つ。それはポケモンについてのことであり、トレーナーについてのことでもある。
「「ダグトリオ じしん」」
タイミングはほぼ同時
ジムが揺れる。揺れて揺れて揺れる。
僅かにグリーンが早かった。6Vの恩恵だろう。
しかし――――
「当たり所が悪かったか、戻れダグトリオ」
勝ったのはサカキのダグトリオだった。
「いけ、ケンタロス」
グリーンの二番手はケンタロス。速度はダグトリオに劣る。
相手のあなをほるの回避を想定して、はかいこうせんではなくじしん。
ダグトリオはグリーンの予想通りあなをほった。この後に来るのは地震と同じ威力100(初代仕様)のタイプ一致攻撃。
地中へ潜るあなをほるをしてもじしんなら有効かと考えたが、上手く効かなかったようだ(初代仕様)。
だが、ダグトリオのあなをほるに耐えられないケンタロスでは無い。それを見越して――
「ケンタロス はかいこうせん」
もはや鉄板中の鉄板。ダグトリオの攻撃に耐えた猛牛の破壊光線は防御種族値50のモグラを一撃で叩き潰した。
「よくやった もどれダグトリオ いけペルシアン」
高速の切り裂き魔ペルシアン。
素早さ種族値115とケンタロスにすばやさ5だけ早いシャム猫ポケモン。
愛玩動物としても飼われるが、その真価は圧倒的な素早さから繰り出される急所率100%のきりさくを使ったガチ戦闘用。
あなをほるを受けたケンタロスに威力70という名の実質威力140の切り裂くが襲いかかる。
ケンタロスは倒れた。
ついでグリーンが繰り出したのはゲンガー。
ペルシアンを封殺出来る相性故に、サカキはサイドンと入れ替えた。
それを見越していたかのように、
「ゲンガー、さいみんじゅつ」
サイドンは睡魔に落ちた。
サカキは直ぐにねむけざましを使った。
ここで『ゆめくい』を使っていれば不発に終わっただろう。
だが、選択したのは、
「サイコキネシス」
特殊種族値45のサイドンにこれは強烈だった。
次のターンもう一度サイドンへのサイコキネシスが加わり、サイドンは沈んだ。
素早さ種族値40ではゲンガー相手には先手は取れなかった。
故に、次のポケモンに交代する羽目になる。
サカキは ニドクインを くりだした
グリーンは ラプラスを くりだした
「ニドクイン じしん」
「ラプラス なみのり」
タイプ一致のなみのり。タイプ一致のじしん。
違いは片方がこうかがばつぐんだと言うことぐらいだ。
しかし耐久型のニドクインはそれでも耐えた。
互いに同じ攻撃を繰り返す。
先手はニドクインが取ったが、最後まで生き残ったのはラプラスだった。
「もどれ ニドクイン いけ ケンタロス」
「もどれ ラプラス いけ ゲンガー」
ついで繰り出されたのはケンタロス。
サカキもまた、ケンタロスを持っていた。
一方グリーンはラプラスをゲンガーと入れ替える。
一般的にはノーマルのケンタロスが不利だが、そうでは無い。
トキワのジムリーダーサカキなら間違いなくある技を覚えさせている事をグリーンは想定した。
こうげきが高いケンタロスに合う
その予想は当たった。
「ケンタロス じしん」
「ゲンガー だいばくはつ」
ケンタロスの攻撃に生き残れるも、競り合えば負けることを想定してのベスト。
これがグリーンの選択だった。
両者ダブルノックアウト。
「もどれ ケンタロス いけ ペルシアン」
「もどれ ゲンガー いけ キュウコン」
ペルシアンの攻撃はグリーンには解っている。寧ろベストを尽くすならそれしか無い。
己がそうであるからグリーンにも理解できた。
だからキュウコンに命じたことは、
「ペルシアン きりさく」
「キュウコン かげぶんしん」
ペルシアンの攻撃に耐えたキュウコンは回避率を上げた。
「ふふ、きりさくの命中率は100。回避率を少し上げたところで何も変わらないさ」
「なら試してみるが良い」
「敢えて挑発に乗ってやろう」
グリーンとサカキは再び同じ命令を下した。
「ペルシアン きりさく」
「キュウコン かげぶんしん」
ペルシアンの こうげきは はずれた
キュウコンの かいひが あがった
「くっ、もういちど きりさく だ」
「ではこちらも かげぶんしん」
ペルシアンの こうげきは はずれた
キュウコンの かいひが あがった
「なんだと、偶然だ。切り裂いてやれペルシアン」
「どくどく。 何時もの流れだ。いいな、キュウコン」
ペルシアンの こうげきは はずれた
キュウコンの どくどく
ペルシアンは もうどくを あびた
「ならばこれでどうだ。ヨクアタール」
サカキはペルシアンにヨクアタールを使った。
ペルシアンの めいちゅうが あがった。
しかし、グリーンは余裕を崩さない。
「良い判断だ。ベターと言える。だが、ベストでは無かった。
キュウコン、ほのおのうずに閉じ込めろ」
ほのおのうず。それは炎タイプの束縛技。
当たれば最後、ポケモンは攻撃も何も出来なくなる(初代仕様)。
威力が低く、外れやすい。それでいて拘束期間が終われば相手を解放してしまうが、動けない、逃げられない相手へ責め苦を与えるのは炎だけでは無い。
ペルシアンは もうどくの ダメージを うけている
ペルシアンは もうどくの ダメージを うけている
ペルシアンは もうどくの ダメージを うけている
ペルシアンは もうどくの ダメージを うけている
ペルシアンは もうどくの ダメージを うけている
ペルシアンは たおれた
ほのおのうずから逃げられること無く、助けて貰えることも無く、孤独に毒で蝕んでいく恐怖。
これはグリーンの好む戦法であった。
「次のポケモンは特別だ。私の最初のポケモン。このトキワで出会い、私と共に生きてきたポケモンだ。君に、勝てるかな?
――よくやった もどれ ペルシアン いけ ニドキング!!」
ニドキング の じしん
しかし こうげきは はずれた
キュウコンの かえんほうしゃ
こうかは いまひとつのようだ
当初は互いに削り合いをしていたが、ニドキングのじしんが当たり、キュウコンは倒れた。
「もどれ キュウコン いけ ラプラス」
グリーンは ラプラスを くりだした
普通に考えれば圧倒的に地面タイプに有利な水タイプのラプラス。
だが、グリーンは知っている。
ニドキング、ニドクインは技のデパートと呼ばれるほどわざマシンでのカスタムができて、それでいてとくしゅはそこまで低くない。
ならば必ず来るはずだ。
「ニドキング かみなり」
「ラプラス なみのり」
ニドキングの方が僅かに早く、せめて少し削れればと思ったグリーンの思惑は外れた。
「もどれ ラプラス いけ フーディン」
ならばすばやさで勝り、有利なタイプで沈めてしまえば良い。
「フーディン サイコキネシス」
グリーンの攻撃でニドキングはひんし――――その一歩手前で生き残った。
「ニドキング じわれ
お前なら、当てられる」
ニドキングの じわれ
いちげき ひっさつ
フーディンは たおれた
後少しだった。それは仮定の話だ。過程の話だ。
現実としての終着駅にたどり着けなければ全て無意味だ。
だからこそ、グリーンはその結果を、ベストな結果を取りに行く。
「いけ サンダース」
それは、属性的には不利な選択だった。
だが、確信している。グリーンは己の勝利を。
「サンダース――――にどげり」
「ニドキング じわれ」
サンダースの にどげり
こうかは いまひとつのようだ
『にどげり』。それはニドラン族が好んで良く使う攻撃手段。
当然サカキも知っていた。
サンダースの攻撃でニドキングの体力が低下する。
もし数値でいうならば、残り1しか残っていなかった。
しかし、1は残っている。
だが―――――――――
「「にどげりは……二度、蹴る」」
ニドキングは たおれた
グリーンは サカキにかった
「はげしい たたかい だった!
きみの かちだ!
ぶかにも みせてやりたいほどの たたかいだった!
だが ロケットだんは… ほんじつを もって かいさんする!
最後に、君に聞きたい。どうして道具を使わなかった?」
本来、ベストを尽くすならもっと積極的にかいふくのくすりやげんきのかたまりを使うべきだったのだろう。
では、何故グリーンはそうしなかったのか?
その答えはグリーンにもわからない。だが、グリーンはこの時、これがベストだと確信してこれを行っていた。
そしてその結果、勝利した。
「結果を見ろ。俺はお前に勝利した。それが
「…くくく、そうか。敗者が何を言っても戯れ言に過ぎん。
その通り、勝った者の言うことこそが現実であり、真実であり、真理だ。
私は、そこに気付くのが遅すぎたのか、それとも早すぎたのか…。
だが、あの時の私が今の私を知ったとして、何も変わらず同じ事をしただろう。
それが私に取れるベストだった。
ただ、君のベストに破れただけだ」
「何を言いたいか解らないが、所詮それも敗者の戯れ言だ。
大人しくジムバッジをよこせ」
「違いない」
グリーンは グリーンバッジを てにいれた
グリーンは わざマシン27を てにいれた
サカキは、再び彼を押さえつけようとするレッドを軽々と引き剥がして後ろを向いた。
そうやって、姿を眩まそうとするサカキにグリーンは告げた。
「もしロケット団を再興するなら、再びお前の敵として滅ぼす。
…後、これは余談だが俺の姉も俺も母子家庭で、姉は自分の母親を亡くしてそれなりに辛い思いをしたようだ。
だからどうと言うことでは無いが、――――いや、言っておこう。
今お前に残された中でのベストを尽くせ。それが人間の義務だ」
「――覚えていたらそうさせて貰おう」
この日、ロケット団は完全に壊滅した。
それは、一人の少年がベストを尽くした結果であり、彼のポケモンや周囲の人々がベストを尽くした結果である。
ベストを尽くすためにベストを尽くし、世界を革命する少年も、
ロケット団の引き起こした騒動の中で、ポケモンを喪い、行き場の無い怒りを絶叫に乗せる少年も、
互いのベストを尽くしていき、互いに高みを目指して、目指し続けていくのだろう。
その
――――――ただ、彼らの意志の強さだけがそれを知るのだ。