こちら横須賀港・整備場   作:右肘に違和感

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さぁ、地獄の蓋を開けようか。



8 vs 500

 

 

ドン、ズドン、ドドン。

 

「……き、緊急、回避を……!」

 

弱々しく言葉を絞り出すのは、果たしてどの艦娘だったのか。

 

ドコン、ドカン、ボシュン。ボシュン。

 

砲撃の隙間を縫いながら、甲高い落下音が聞こえ……

 

ドガォンッッ!!

 

───大爆発する音が場に響き渡る。

 

「キャァーーーーーーーーッッ!!」

「ね、姉様ッ……あ、ぐ……!」

 

直撃。

 

轟沈にまでは至らなかったものの、四方八方──周りは全て、敵で埋め尽くされている。

この現状において……大破と轟沈で、一体なんの違いがあるのだろうか。

 

「や、山城……もう、もう……良いの……。

 私は……もう、良いから……貴方だけでも……」

「そんな……姉様、そんな事、出来る訳、ないでしょう……!」

 

そして今尚続く砲撃音と、未来の見えないこの状況に、ついに戦艦娘・扶桑は心が折れた。

 

が、しかし───そこにひとつの声が響く。

 

「──そうだ、巫山戯(ふざけ)た事を言っていては、駄目だぞ?」

「ッ!?」

「え……?」

 

ドドンッ!!

 

『……ーーーッ!?』

 

海上の先に蠢く深海棲艦から絶え間無く繰り返される砲撃を潜り抜け

既に中破している、その航空戦艦から放たれた46cm主砲は

見事に、フラッグシップ空母・ヲ級を一撃で葬り去る。

 

「ひ、日向、さん……」

「諦めたら……駄目だ。私達は、まだ生きている……」

「そうよ、さすがに勝ち切るのは無理でしょうけど……まだ終わった訳じゃない」

「伊勢……様子はどうだ?」

「ちょっときついかな、飛行甲板もこの通り……ボロボロだしね」

「そうか、まあこの状況では……な」

 

別の港に所属している戦艦娘・扶桑、山城の援護を完遂し

敵の深海棲艦に一気に近づかれるのをギリギリの所で防いだ戦艦娘・日向。

その後ろから日向と同じような装甲で、同じように中破している戦艦娘・伊勢が現れる。

 

「今、他港所属の千代田さんに頼んで、敵の層が一番薄い箇所探してもらってるわ。

 一番良くて小破の娘しか居ない私達じゃ、それぐらいしか生き残る道はない」

「そ、そんな……無理よ……この数じゃ、いくら薄くても突破なんて、とても……」

「無理なんて百も承知さ、私達姉妹は──多少、生き汚いものでね」

 

さすがに、この海域に取り残された全ての艦娘が───わかっていた。

艦隊としてこれだけの致命傷を負いながら、周りを埋め尽くす深海棲艦をどうにか出来る訳もない、と。

現に今も、先程放たれた日向の一撃こそあれど、徐々に距離を詰めてきているのがわかる。

 

だが、それでも───

 

「完全に囲まれる前に、貴方達の潮ちゃんに帰港してもらっているから

 無事に逃げ切ってくれてるなら、きっと───きっと、鎮守府が救出部隊を編成してくれる筈だから」

「陸奥さん……千代田さんから新しい情報は来た?」

「いえ……偵察に出した彗星も逃げきれずに撃墜されたらしいわ……。

 いよいよ、ジリ貧ってとこかしら?」

 

希望は、捨てたくなかったのだ。

 

生存し続ける限り、全員───もう一度自分達の提督に、会いたいのだ。

 

 

 

ドン、ドドン。

 

 

 

『『ッッ!!』』

 

再度、長距離砲撃の音が聞こえ、全員が周囲に警戒を張り巡らせる。

だが───弾が向かってくる甲高い音は、こちらに向いてはいない様だ。

 

そして、続く──絶望の『爆発音』。

 

「───ァァァーーーーッッ!」

「ッ! 不味い、あの方向と声は……!」

「───他港の、千代田さん……!?」

「ね、姉様ッッ!?」

 

甲高い悲鳴が海域に木霊して、何故か一番に反応を示したのは──大破している扶桑だった。

低速ながらも、必死に悲鳴の先へと進水する。

 

「……駄目だ、もうここの地点も捨てるしか無い!

 全艦、1発ずつ威嚇砲撃を行って後退するぞ!」

「わ、わかりました!」

「ええ、任せて!」

 

陣形として保っている水域をさらに切り捨て、運命の時は刻々と迫る。

ここまで、全港合わせても轟沈の艦娘が出ていないのは本当の奇跡だった。

 

だが──

 

「しっかりしろ千代田ッ! 全員で生きて戻ると約束しただろう!?」

「おいっ! てめぇ千代田ッ! 先に行くなんざ承知しねぇぞっ!」

「───ぁ、千歳、おねえ? ……おねえは、だい、じょうぶ……?

 そっか───なら、いいや……」

「千代田ァーーーーッッ!!」

「─────駄目ぇーーーーーーーッッ!」

『ッ!?』

 

千代田が敵の爆撃機から直撃を喰らい、ついに限界ダメージを上回った。

同じ港所属の戦艦娘・長門と重巡洋艦娘・摩耶が呼び掛けるも千代田の意識は掠れ行く。

 

その中で、彼女を引き戻したのは──別の港の、先程直撃を喰らい大破した扶桑だった。

ゆっくりと沈みかけていた千代田を無理やり引っ張り抱き締めて、轟沈を遅らせる。

 

「駄目……! 千代田さん、まだ、まだ駄目です……!」

「あ……れ? 扶桑、さん……? 良いの、もう、良いから……千歳おねえに、ごめん、って……」

「───長門さんッ! 摩耶さんッ!」

「お、おう」

「あ、あぁ……なんだろうか」

「私が、私が彼女を『曳航』します……だから……だから、どうか……」

「扶桑……貴方は……そんな傷を負いながら、何故そこまで私達の千代田を……」

 

先程まで、姉妹艦である山城に対して自分を見捨てるように言っていた扶桑だったが

ここに来て、大破ながらも覚醒し──事実轟沈を引き止めた。

 

まだ、『死者』は出ていない。

 

「私も、先程直撃を喰らって、諦めかけました……」

「──そうか、先に上がった爆発音は貴方が喰らってしまった音だったか」

「でも、言われて……伝えられて、しまったんです──『諦めたら駄目だ』って」

「…………」

 

周囲に気を張り巡らしながら、そして間合いを詰めようとするエリート戦艦達に威嚇をしながら

千代田が意識を失った今、戦艦娘・長門と重巡洋艦娘・摩耶は扶桑の話す事を黙って聞き入れ続ける。

 

諦めたら駄目だ、確かにそうではある。

この、今にも押し潰されそうな物量を前にして希望を持つのは難しい。

だが、それだけでここまで持ち直したのだろうか?

 

しかし、それは違った。違って居ないのかもだが……

 

 

もっと単純な理由だった。

 

 

「あの人達は、まだ諦めてない……私は───伊勢や日向には、負けたくないのッ!」

 

 

その言葉を聞き、長門は自然と唇が上に上がっていくのを自覚する。

 

(そうか、そんな……単純な理由か)

 

単純だった。

 

この状況で、一番必要な理由だった。

 

 

『負けたくない』

 

 

「姉様ーーーッッ!! 姉様ッ、大丈夫ですかッ!?」

「山城……えぇ、私はまだ大丈夫……でも、千代田さんが……」

「ッ……千代田、さん……」

 

自分達が居た地点から、先程まで一緒に居た戦艦娘が全員合流する。

そして千代田と同じ港に所属する陸奥は、扶桑の胸の内で気絶している千代田を見て悲しみに染まる。

 

「……これは、もう……」

「陸奥ッ! 千代田は扶桑殿が引き受けてくれるそうだ!

 この際なんでも良い、なんとか活路を見出すぞ!」

「……そう、ありがとう扶桑さん。でも……無理は、しないでね」

「大丈夫です……絶対に、護ります……!」

「……頼んだぜ、扶桑さん」

 

あと少しでも自分に追撃を加えられれば、沈み行く運命である。

ならば既に一度運命に見捨てられた者を抱いていた所で、さして変わりは無い。

むしろ、庇護する対象が固まっている分まだやりやすいはず。

 

そんな想いを胸に抱きながら、扶桑は場にいる全員に願う。

 

「皆さん、お願いします。 ……山城、二人で───必ず、二人で提督に会いに行きましょう!」

「姉様……! 山城は……山城は絶対にやり遂げてみせます……!」

「ふふ、良い姉妹仲だな、羨ましいよ」

「私達だって結構仲いいじゃない、どうなのさ日向?」

「……さて、な」

「ったく、こんな場でもイチャイチャしやがって、アハハ」

 

轟沈寸前の者が固める決意を前に、全員が全員気を引き締める。

負けてなど、居られないのである。

 

「ふぅ、この場に居るのは陸奥が小破であるだけで……。

 私を含め扶桑殿以外は全員中破……これはもう、決死隊で一点に突撃するしかないな」

「このまま粘ってても弾だって枯渇してきてるし……まさにジリ貧だな。

 あんた達がこっちに来たってことは向こうも限界になっちまったんだろう?」

「あぁ、扶桑殿が直撃を喰らった時点であそこの未来は見えていた。

 こちらからこれ以上戦力を削るのも無理がある」

「いよいよ、背水の陣かしら?」

「何言ってやがんだよ陸奥、さっきからずーーーっと周りなんて水だらけじゃねえか」

「あら? あらあら。」

 

格好良く決めたと思いきや、よくよく状況と重ねあわせてみれば素っ頓狂な内容だった陸奥。

自然と陸奥の発言から全員に笑いが浮かんでいた。

 

周囲を徐々に狭めていく深海棲艦達は、その場違いな笑い声の意図を察する事も出来ず

只々、楽しそうに響く笑い声に困惑するのだった。

 

「───さて、全員気合も入ったな!

 準備は良いかッッ!! 我等の、それぞれの……! 提督に、会いに行くぞッッ!!」

『『了解ッッ!!』』

 

───そして、深海棲艦の軍団は……すぐに知る事になる。

 

「散開ッ! 複縦陣を展開するッ! 全砲門開けッッ! 突撃するぞーーーーーッ!!」

「超ド級戦艦・ビック7を、なめないでよねッッ!!」

「山城……大丈夫……! 砲戦よッ!!」

「──お姉さまの力を借りてッ! 今、必殺のッ! 三式鉄鋼46cm砲弾ッ!」

「航空戦艦の力を思い知れ……砲雷撃戦、用意ッ!!」

「瑞雲ッッ!! 気合と根性でなんとか発進しなさいッ!!」

「へっ、散々なめくさりやがって……! でぇぇぇえええーーーーーいッッ!!」

 

 

 

そう……『笑い』とは。

 

 

 

生物にとって、本来攻撃的な行動であることを。

 

 

 

 

「……クッソ、まだ着かねぇのかッ!」

「仕方ないでしょ、前回の私達ですら二日と半日は掛かってるのよ……!」

 

とある海上にて、けたたましい音と共に光を定期的にバラ撒きながら進む二人が居た。

 

最先行部隊に指名され、まるで光る翼をはばたかせながら高速で進む軽巡洋艦娘・天龍と

長い刀を腰に装着し、天龍から借り受けたアロンダイトの剣の腹に足を乗せ

まるでサーフボードの様に乗りこなす駆逐艦娘・叢雲である。

 

「……お? なんか此処ら辺の風景見覚えあんぞ……?

 おい叢雲、お前もこの辺り通った事なかったか!?」

「あ、確かに……これは……! もう少しよッ! もう少しで辿り着けるわッ!」

「っしゃぁー! あと一息気合入れて───」

 

「────アーーーーハハハハハハハハハハハハーーーーーーーーーーーー!!」

 

『……えっ゛!?』

 

互いに水上機程度の高さを維持しながら、高速で進み続けた彼女達である。

あの後、次々に同港所属艦娘が出撃したで有ろう事は想像するに容易い。

 

そして──『聞き覚えのある声』が後ろから響いたのだ。

 

ぎょっとして後ろを振り向いてみれば、なんとおかしな事に誰も居なかった。

しかし笑い声は未だに周りから響いている。

 

「……あぁ?」

「……おかしいわね? 今うちの夜戦バカの声が……って」

 

後ろを確認して見ても、普通の洋上が広がるだけであり

気のせいだったか……と、進行方向の微修正を掛けようと前を見た時に気付く。

 

遥か先に、一人の何かが洋上を突っ走っていた……笑い声を上げながら。

 

「……ねぇ、天龍? あれって、まさか」

「……やっぱ、そういう事なのか……? なんなんだあいつは……」

 

二人はその光景を見て事実を確認するに至った。

 

夜戦バカこと軽巡洋艦娘・川内は。

 

天龍と叢雲が振り向いた時点で二人の真下まで追いついており

後ろを確認している間に遥か先まで突き抜けたのだ。

 

もちろん、二人が高速で飛んでいるその速度すら凌駕して。

 

そして既に、川内は二人の視界から消え去っていた。

 

「っちぃ! 追い抜かれちまったがこっちも負けちゃいらんねぇ!

 風の抵抗少しでも無くして速度上げてくぞ叢雲ッ!」

「了解よッ! あんな夜戦脳に負けてなるもんですかッ!!」

 

かくして飛行状態の二人は、長い間飛び続けた疲労度もなんのそので

体勢をさらに縮め、若干の加速を果たして目的地へと飛び続ける。

 

 

決戦の刻は、近い。

 

 




※tips※

フラグ・夜戦バカ

自分の艦隊には長門が存在していません。出るかあんなもん。
口調、間違ってなければ良いのですが。
千代田は逆に(胸が)好きすぎて暴走しかねないので早々に気絶してもらいました。
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