こちら横須賀港・整備場   作:右肘に違和感

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この話は前置きみたいなものです。
本来自分が書き上げたい描写は次話になると思います。


疲労度

 

整備場の整備長室で、一人の男性が何かを書いている。

 

「●月〒日  晴れ

 

 最近、自分が受け持つこの整備場の部下達の疲労が溜まってきている気がする。

 

 自分は整備をすることこそが戦場であるため、畑違いすぎてよくわからないのだが

 どうやら、鎮守府から新たな海域の開拓を依頼された様だ。

 

 未知の地域というのもあるが、敵である深海棲艦達の強さがキツイそうだ。

 うちの提督、というより秘書艦が引き際を誤らないため、最悪の惨事は避けられている様だが

 つまるところ普通の惨事が常に起こっていて、そのせいで現場がフル回転しているとの事だ

 自分は別になんとでもなるんだが、部下達は一応女性のカテゴリの筈なので

 どうにかその苦労に報いてやりたいのだが、何かいい手はないだろうか」

 

どうやら現場における日誌をつけているようだ。

ひと通り内容を書き終えたのか、男性は椅子の背もたれに体重を掛けて一息ついた。

 

(……先日のクレーン横倒し騒ぎといい、疲労が溜まっていると碌な事にならない。

 かといって今の現状、一人でも欠けると辛い……なんとかして疲労を和らげてやる事は出来ないものか)

 

一人、作業場の事を思い浮かべ、解決策を考えてみるものの……何も思い浮かばない。

基本的に自分達の港は『ブラック鎮守府』と呼ばれる現場ではないのだが

このままではひとりひとりの効率が落ちて、周りから批判される要因にすら成り兼ねない。

 

早急に何かを考えつかねばならないのは確かだが、この場で何かを考えつくのは難しいと判断し

ひとまずは本日の作業内容も終了したので、自宅へ帰る事にした。

 

整備場から外へ出ると、辺りも既に真っ暗であった。

整備場内のドックに居る修理中の艦娘達も、穏やかな寝息を立てている事だろう。

 

そして整備長は、整備場入り口からやや遠い波止場まで行き

ポケットに入れている帰りの駄賃である鋼材1を、糸で吊るして海に下げる。

 

すると1分ほど経過したところで、海に何やら動きがあった。

なんと深海棲艦、駆逐イ級が波止場に現れてしまったのだ。

 

「うっす、今日も家まで頼むなー」

「●ー」

 

何やらおかしい光景が見えた気がするが、駆逐イ級はこの世界の海における『敵』である。

それは間違いないのだが、何故か整備長は駆逐イ級をタクシー代わりにする気マンマンだった。

 

駆逐イ級は海に垂らされた鋼材を嬉しそうにガリポリと食べ始め、その姿にツヤが出てくる。

ツヤが出てきた辺りで整備長は駆逐イ級に飛び乗り、イ級は成年の体重をモロに受けても微動だにせず

そのまま自分の体に彼が座り込む事を容認している様だ。

 

やがて、そのまま彼らは暗闇の海の先へと消えていった。

この港の丁度斜め直線にある、整備長のアパート近くの海で再び姿を表し

そして彼らはその場で別れた。

 

 

 

 

「───と、いうわけだ。現在使える資源も枯渇し始めている。

 量産が利く兵装を何か開発出来ないだろうか?」

「(んー、効率的に疲労を取る方法なぁ……)そうですねぇ……」

 

 

翌日、整備長は整備場の入り口で本日の内容を秘書艦と吟味している。

同型艦が濃ゆい関係上、周りからたまにいじられる男勝りの秘書艦と話しているが

どうにも彼は、彼女の言葉があまり耳に入っていないらしい。

 

「やはり新しい兵装を開発しろというのは無理があるか。

 現存している兵装でも良いから、何かを低コストで量産出来ないだろうか?」

「(整備場に喫茶店、とか? いや、誰が経営すんだよ)んーどうでしょうねぇ」

「……整備長、俺の話を聞いているか? なにやら上の空じゃないか?」

「(んんんんんんん、マイナスイオン、針・お灸、甘いもの……)そうですねぇ……」

「……おいッッ!! 整備長ッッ!!」

「は、はぉっ!? はいッ! 元気ですッ!」

 

突然目の前で名前を怒鳴りながら呼ばれ、整備長は一瞬混乱する。

何やらスットコドッコイな返答をしてしまった辺りで、彼は目の前の秘書艦の黒いオーラに気付く。

 

「───お前……覚悟は出来てるんだろうな?

 仮にも一現場の責任者が、施設の統括者代理の話を聞いていないとは……

 この地での礎にでもなりたいのか? なりたいんだな? 撃っていいな?」

「あ、いや、その、も、申し訳ありません……その、ちょっと……」

「言い訳など聞きたくないのだがな……? まぁ、言ってみれば良い」

「は、はい……その、げ、現場の部下達の、疲労が溜まっているな、と最近感じて……

 何か良い疲労回復は無いかと考えてたら、ちょっと深く考えこんでしまって……」

「…………現場の部下の、疲労?」

 

どもりながら、言葉尻も弱い言葉の所々を拾い、秘書艦は整備場の中に視線を移してみる。

 

忙しそうに走り回る作業員達が見えるが、よくよく姿を捉えてみると

資材を手押し車で運搬している女性は、足取りが重く

ヘルメットを被ってハンマーを使っている女性は、目の下に濃い隈が見える。

前に新たな仲間を即座に建造していた火炎放射を取り扱う女性に至っては

なんと作業現場で倒れたらしいスパナを持つ女性を手押し車で運搬している。

 

じっくりと見れば、一部の作業員達は顔がハニワの様になっていた。しかもプルプル震えている。

 

(あ、これ……もしかして結構ヤバい……?)

 

その様子を伺っていた秘書艦は、実は現場がこのような事になっているとは知らず

何故こんな状態で我々が普通に海上に出れる仕上がりになっているのか疑問を持ってしまった。

 

そして疑問を持つということがすなわち出来上がりの不安という彼女の心理を示しており

この様子では、この部下達に指示を飛ばさなければならない整備長が

物思いに耽ってしまうのも仕方がない事と割り切れた。

 

「……ひとつ、尋ねたいんだが」

「は、はい。なんでしょうか木曽さん」

「何故、この現状を上に報告しなかった?」

 

まず、秘書艦である彼女が思い至った点がそこだった。

 

「い、いや、えーと、報告書に、混ぜたはずなんですけど……

 何も返答がなかったので、多分スルーされたんだなって……」

「……それは、いつ頃の話か覚えているか?」

「3週間前程度ですかね、休憩所をちらりと覗いてみたら、全員ぐで~ってしてて……

 それで「あぁやっべぇなこれ」って思った後に即座に書いたのでよく覚えてます」

「……3週間前、か。俺が丁度秘書艦になった辺りと一致するな……。

 どうやらその際に前の秘書艦との間で引き継ぎがされていなかった様だな」

「あ、そうだったんですか……」

 

予想される内容を話した後、彼女は素直に「すまなかった」と整備長に頭を下げて詫びた。

彼女も、周りの艦娘達も……自分達が活躍する為には土台が必須な事を意識していなかった。

故に気楽に傷を負い、ドック入りしていた艦娘も存在したかもしれない。

 

少なくとも彼女は、自分達にも疲労は存在するのに作業員達の疲労に関しては気にすらしなかった。

だからこそ、この事実に対して素直に謝ったのだった。

 

 

 

 

「今回開発に回してもらいたい資材は、以上になる。

 先程渡した書類にも目を通して、数の差異や不備が無いかを確認しておいてくれ」

「はいよ、木曽ちゃん。まあ二日ぐらいは掛かりそうだけど

 何かしらこっちでも頑張ってみるから、明日にでも顔出してみてくれ」

「わかった、期待させてもらう。また入渠する時にもよろしく頼みたい」

「あぁ、手入れ不足で沈まれちゃやるせなさすぎるしな、こっちの事は気にしないでもいいさ。

 何かおかしいなと思ったらすぐ来てくれて構わんから、いつでも待ってるよ」

「そうか」

 

用意された資材をテキパキと整備場の中にある倉庫へと持って行き

装備用として分別した後、秘書艦である彼女と整備長は別れた。

心なしか去り際に少し笑顔だったのは、恐らく整備長の気のせいであろうと思われる。

 

「さて、どうしようか……ああは言ったものの、皆限界も近いしな。

 本当に何か、その場しのぎにしかならなくても、なにか手を打たないと不味そうだ」

 

悲しい話ではあるが、別れ際に少し良い話にこそなっていたものの

謝って貰ったところで対応して、貰えなければ何も変わらないのが現場である。

その対応も、あの提督では即決力に欠けるであろうことは目に見えているし

どうにかして対応がされるまで、こちらで部下達の働き具合を維持しなければならないのだ。

 

とりあえずは良い頃合いだったので、整備場のスピーカースイッチを入れ

お昼休憩のアナウンスを流す、そしてその後手押し車を引っ張りだし

お昼休憩に行く気力すら危うい作業員達を2,3人ずつ手押し車に乗せて休憩室に運んでいく。

 

「せいびちょうー……本当にありがとうー……」

「ごめんなさい……」

「気にしないでくれ、俺は君等と比べたら長い時間ココに拘束されてるだけだ。

 体の疲れはそれほどでもないし、どうせ独りモンだからな」

「うぅ~……」

 

申し訳なさそうに手押し車でぐってりしながら運ばれ

あまつさえ整備長自身がひとりひとりを椅子に座らせたり長椅子に寝そべらせたりしていた。

 

限界は、近い。

 

そして「ア艦これ」状態の作業員を全て休憩室に収納し終えると

少しでも部下の作業が減るように、入渠して修理されている艦娘の作業を進めようとして───

 

 

それは、突撃してきた。

 

 

「せ、整備長さぁーーーーーんっっ!」

「!」

 

整備長は瞬時に察した。これは何かが突撃してくる殺気ッッ!

 

彼は慌てず騒がず、胸元から赤いハンカチーフを取り出す。

さらに取り出したそれをひらひらふわふわと、緩やかに、だが素早く 横へと掲げる。

 

するとどうだろう。

ちょっと彼より小柄な何かが「整備長さぁーーーーーんっっ!」といいながら赤い布に突撃していった。

 

そして布の先の進路にあった『グラスウール』に「はわわわわわっ!」と言いながら突っ込む。

柔らかいモノに突っ込ませる辺り、やや紳士な整備長である。

 

しかしそんなことも気にせず「暴れはわわ」はグラスウールからズボッと抜け出し

「せ、整備長さんっっ!」と慌てた様子で整備長の元へ駆けてきた。

 

「んで、どうしたの(でん)ちゃん。またイ級でも保護してきたのか?」

「きょ、今日は違うのですっ! あぁ、でもちょっと同じなようなっ!?

 それとデンではありません! イナヅマなのですっ!」

「どうどう。落ち着いて落ち着いて」

「え、あ、は、はいっ」

 

大変に慌てた様子の電を一度落ち着かせ、整備長は彼女の様子を見る。

特に破損した様子も見られないので、やはり彼女に何かが起きたわけではないのだろう。

 

そしてふと、彼は電が脇に抱えているデカめのクッションのような存在に気付く。

それに気づいてからそちらを見れば、目が何か光を出しており

横の裂け目は口の様な歯並びがなぞられてあり、ちょっとウネウネした触手のようなものも見受けられた。

ついでに述べると、整備長はそのクッションが何故か泣いているように思えた。

 

「(……なんか、どっかで見たことある気がするな?)そのクラゲみたいなモノに何かしてほしいの?」

「は、はいっ! あのっ! 今日は警備任務についていたのです!

 それで、その……この子がひっくり返りながらふよふよしてて……」

「見てられなくて、全員が帰投した後にコイツを拾いに戻ったわけか」

「あ、あのっ、あのっ……」

 

以前の駆逐イ級の事もあって、整備長は電が何を言いたいのかすぐに察した。

要するに、このクラゲを匿って欲しいのである。

 

彼女はこの港の艦隊の中でも一際性格が優しく常日頃から「敵でも命までは取りたくない」と言っている。

しかし、それはある意味で、特定部分に対して致命的な弱点でもあった。

 

「……前にも言ったけど、気楽に保護しちゃダメなんだぞ?

 仮にも敵なんだし(多分)、俺や俺らが保護するにしたってこいつらも資材を消費するんだぞ?」

「はうっ……」

「まあ前にも言った通り、正直俺も開発資材から余った資材少しちょろまかしてるけどさ。

 君等と違って弱っちぃ人間がくすねてる資材なんてたかが知れてるんだぞ?」

「そ、それは大丈夫なのですっ! 

 こんなこともあろうかと、私も遠征に行って獲得した資材を少しくすねているのですっ!」

「ア艦これ」

 

自分が前に述べた衝撃的な事実よりもっとダメな事実を、優しすぎるはずの艦娘から聴いてしまい

なんとも言えない気分になり、思わずあさっての方を向いてしまう整備長だった。

 

「そ、そういうわけなので……こ、今回はボーキサイト以外の資材を10ずつ持ってきたのです!」

「あ、そ……そぉっすか。それでこのクラゲを元気にしてあげたい、のね?」

「なのです!」

 

なんの蓄えも無く色々と保護してしまうならまだ説教の余地もあったのだが

この港の電・壱号はその辺りまで確信犯のようであるため、どうしようもないのだった。

整備長はふと、前に持ってきたそれもくすねたもんだったのか……と思い至った。

しかしそれをした上で、どちらの行為もバレて居ない辺りはこの港の精強さを感じる整備長だった。

 

「んー、まぁ、わかった。このクラゲはこっちでなんとか元気にしておくから

 電ちゃん、君は報告に行ってきなさい。

 どーやってごまかしたか知らんけど、君って確か第3艦隊の旗艦だろ?」

「あっ、そうだったのです! で、では、あの……この子の事、よろしくお願いしますね……?」

「あいあい、もう俺らは秘密を共有した共犯みたいなモンだからねぇ……。

 電ちゃんには逆らえんさ、とりあえず資材でも食わせておくから、後で見においで」

「は、はい、ありがとうなのです。では、行ってきますね」

 

そういうが否や、やはり人間とは違う脚の素早さで彼女はその場を高速で去っていった。

その場に残ったのは、入り口で立つ整備長と地面にぺちょっと置かれたクラゲだった。

 

整備長は慌てず騒がず、以前駆逐イ級を保護した際に使ったデカ目の水槽を押しカートに乗せて

ポンプで海水を汲み上げて水槽に入れた後、なんか見覚えがあるクラゲをその中に入れる。

そして何事も無かったかのように、ごく普通に作業場の中に持っていくのだった。

 

 

後に作業に戻った作業員達の一部は語る。

「なんか整備長が隅っこの方で、笑顔でクラゲに燃料やってた」と。

 







※模造Tips※

・グラスウール
 工事現場などで壁材(壁の中に詰める断熱材、吸音材)に使われるもの。
 短いガラス繊維を綿状にしたものであり、腕を突っ込むとものっすごいチクチクする。
 電ちゃんが突っ込んで平気なのは、仮にも艦なので、艦になった際に皮膚が強化されている。
 (公式発表で、一応艦娘の中身は人間ということになっているらしい。
  解体などは装備を外して普通の人間に戻る、という内容なんだそうな)

・駆逐イ級、クラゲの消費する資材
 当小説では深海棲艦達の燃費はチートになっております。
 碌な拠点も持ってないのにどこかしらから沸いてくる彼等の資材摩耗率は著しく低く
 具体的な数字を言えば、駆逐イ級なら燃料と弾薬が枯渇しても補給に1/1しか掛かりません。


・提督のLvは115

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