時間が無いのによく頑張ったと、自分で褒めてやりたい。
内容がどうたらこうたらは置いといて。
「んふ~~♪ ん~ふ~んふ~♪」
ドックの隅では、保護されたクラゲのような何かが付きっきりで世話をされている。
但し、保護者が整備長から艦娘の一人に替わったようだが。
クラゲから差し出された触手に人差し指の先をくっつけるなど、とても微笑ましい図であった。
「ねぇ、整備長。あれは何なの?」
「ん? あぁ、電ちゃんが触れ合ってるあいつかい?
結構出撃機会の多い陸奥殿なら見たことあるだろ。多分あれ空母ヲ級が被ってるヤツだと思う」
「え゛……あまりあの子には良い思い出がないんだけど……大丈夫なの?」
自分達が戦っている深海棲艦の一部と聴いて、ドックに入渠して修理を受けている陸奥は少し怯える。
しかしその怯えた様子を一切気にする事もなく、整備長は戯れの様に陸奥に対して返答した。
「まぁ大丈夫だとは思うよ、さすがに危険だと判断したらこの整備場には入れないからさ。
一応この港の生命線の一部を任されている自覚はあるんだぜ」
「そう、なら、いいんだけど……。金色のヲ級の攻撃、避けれた
「例が無いって……狙われたら一巻の終わりやん……って、あぁそうか……君、運無いもんねぇ……。
大富豪でも何故か常に貧民だし、大貧民ですらないってところが特になぁ」
「言わないでッ! お願いだからッ! 私も気にしてるのッ! かなりッ!」
今回修理を受けている超ド級戦艦娘・陸奥(改)はこのドックの常連である。
しかも戦艦という戦力な為に入渠時間すら無駄に長いため下手をすれば整備長より居る時間が長い。
何故常連かといえば……この艦娘・陸奥はやたらと運が悪いのである。
しかも上記で語られた遊びだけではなく、戦場でまでそれが発揮されるという『整備士泣かせ』な娘なのだ。
だが大富豪自体は下手の横好きもあるらしく、待機艦娘と遊んでいるのを見かける事が出来る。
さらに述べれば史実では、『超ド級戦艦』という海戦の花型であるのに
戦艦・陸奥は海戦で殆ど『戦い』に用いられず(戦場には出ている)
その上「戦い」の中ではないシーンで、戦艦・陸奥の第三砲塔付近が突然大爆発してしまい
船体が真っ二つになって沈没しているのだ、ここまで行くと最早お笑い芸人の捨て身芸である。
「ま、一応鎮守府にゃ黙っておいてくれよ? 仮にも敵方の部品(?)だからなぁ。
バレたら下手すりゃこの港のお取り潰しまで行くだろうしな」
「あら? ということは……私は整備長の弱みを一つ握っちゃったのかしら?
うふふ、この弱みに付け込んで何か特別な砲装でももらっちゃおうかな?」
「んー、べっつにー。つーかむしろ弱みとして俺を脅すような艦娘が居るんなら
遠慮無く『第三砲塔』にC4辺り仕掛けてやるしな」
そしてそんな運の無さの詳細を、船を取り扱う者として事前に学習しており
トラウマを気軽に抉る整備長は、おそらくひとでなしの部類と思われる。
事実、抉られた瞬間に陸奥は青くなって黙りこくってしまった。
「まあ、お互い下手な事は考えん事さ。
爆発物取扱の免許は、ここで弾材を取り扱う手前しっかり取ってるからな」
「あ、あわわ、あわわわわ……」
「んじゃ、悪いけどヘルメットさんー。陸奥殿のケアの続き頼むわー」
「あ、はいー、わかりましたー」
踏む必要の全く無かった虎の尻尾をいじってしまい、その結果がトラウマの再発。
こんなところでも運が無い戦艦娘・陸奥であった。
◇
「さて、と……3回目の開発分量はこんなところかな」
修理ドックから場所を移り、現在整備長がいる場所は開発施設である。
この施設は資材倉庫と直通の通路が設置されており、必要な資材をすぐさま此処に持って来る事が出来る。
整備長は現在、昨日港責任者の代理人である秘書艦に依頼された装備の作成を行っていた。
気まぐれで設計して成功してしまった烈風2台が、既に倉庫の横に鎮座している。
昼休憩に入る前にそこらを歩いていた正規空母・蒼龍と軽く話して浮かんだアイディアのおかげであった。
(しかし……なんとか……疲労を……いや、無理なのか……
俺の考えられる範囲も限界があるしなぁ……でも、なんとか……)
だが、前の二台は他の港を管理する提督が驚愕するほどのものを揃えても
今回の開発は、今も思い悩んでいる職場環境のせいもあり、整備長は集中力が乱れていた。
そこに通り掛かった艦娘の一人が声を掛ける。
「──おーい整備長ー! なんか手元が危なっかしいぞー! 気ぃつけとけー!」
「へ? お、おぉ天龍か……って、あ。やっべ」
「おいコラ! 言ってる側から……ぁーぁ、俺しーらね」
整備長の手元が何やらいつもと違い、照準が若干狂っているのを目敏く見つけた艦娘のアドバイスがあり
それに気を向けてしまった整備長は、ものの見事に現在組み上げていた開発装備を歪ませてしまった。
───装備の開発に失敗しました……───
「あーぁ、どうしようこの鉄屑……いつも通り再加工して専用倉庫に突っ込んどこうかな……ん?」
結構なところまで形を造られていたナニカは、残念ながら集中力の足りない整備長が原因で
一瞬で廃棄物となってしまったのだが、整備長はその鉄屑の中を見て何かに気づいた。
「これは……うぅむ、こんなのに現れるまで思考がズレてたのか……。
というかむしろこのまま完成してたら何になってたんだコレ」
鉄屑の中に手を突っ込み、周りのがらくたが音を立てて崩れて行く中
整備長は見つけた「それ」を引っ張りだす。
そう……それは。
「人間の大きさに近い平面の板……か。人体のツボでも書き上げて整備場の入り口に立てとくか?」
一見すればタダのガラクタ。そんな鉄の板だったのだが……
板の輪郭が何やら人間の図を表すような……人体模型を平面にした様な板になっており
それを見て整備長が一番に想像したのは、医学本によく書かれている「あの図」である。
思いついたが吉日と言わんばかりに、整備長は行動を始めた。
健康オタクでもなんでもないので、港にある図書館から医学本を借りてくる。
そして整備場にある装甲塗装用のペンキと太い筆を用いて、ザカザカと描き上げていった。
◇
「……っは!? 俺はこんな時間まで一体何やってんだ!?」
ふと気付けば時刻は20:00頃。既に作業員達が帰宅準備を終えている時間である。
本日中に4回目の開発に関する型枠施工までを予定としていたのに
全く持って自分の業務に関係ない内容に目を取られ、3回目の開発から作業は完全に止まっていた。
の、だが……スクラップからの再利用という全く関係ないジャンルにここまで入れ込んだ成果はあり。
「って、あれ、なんかこれすっごい出来が良いっぽいぞ」
改めて見てみると、SSホロですらここまで行くのかという謎の出来栄えになっていた。
適当には作らない職人魂が無駄に大爆発した結晶と言えた。
「案外、無駄にならなかったりする……かな?
俺は医学本見ながら作ったから既に付け焼き刃の知識がついちまってるし……
明日になったら何も知らんヤツに見せて、やってみてもらって効果があるか実験してみようか」
無駄に真剣に取り組んだが故に出来上がった謎の良作を背中に背負い
時間としても既に整備場を閉める時間なので、整備長は開発施設を後にした。
そして開発施設からドックを通り、入り口に向かおうとした整備長が
こんな時間になってもドックに残っている人物を発見した。
「ん、電ちゃん……?」
「あ、あれ? 整備長さん、まだいらっしゃったのです?」
ドックの片隅で保護しているクラゲとずっと触れ合っていた、艦娘・電だった。
クラゲも恩人である整備長に気付き、意思があるのか触手を一本水槽から出して、くにょくにょしている。
「俺の方は、まぁ……その、またやらかした」
「あぁ……また廃材から何かを作ってたのですか?」
「うん、気づいたらこんな時間だった。そしてこんなのが出来た」
背中から一旦「人体模型・平」を降ろし、一度電に見せる整備長。
しかしさすがにいきなりそんなものを見せられても、意図はわからないらしく
顔から「なんだろうこれ」という意見がひしひしと伝わる顔でジロジロとみられる事になる。
「あ、あの……なんですかこれ?」
「うん、人体における健康に良いツボ108選って項目を参考にして作った立体大のツボ図説」
「む、無駄に説明が、長いですね……?」
「●ー」
クラゲも若干興味があるのか、水槽の縁に上手く上顎(?)を乗せて人体模型・平を見ている。
「ツボ、ですか……そう言われると、確かに見やすいですね」
「お、そうかい」
「えーと……腕の、ここと……ここの間? を、えいっ……はわわわっ!?」
「お……どうだい、一応かなり精密に図説を模写してるんだけど、感じはどう?」
「あの、えっと……凄い痛いんですけど、なんか、こう……調子が上向いてきた様な?」
「マジでか」
適当に作っては居ない。適当に作っては居ない、のだが……まさか本当に効果があると思わず
自分が作った作品の効果を普通に疑ってかかる整備長だった。
「えーと……次は……ふくらはぎの……」
「電ちゃん、ちょっと待った。一旦やめなさい」
「へ? ど、どうかしましたか?」
「●ー」
「その体勢でそのままやるとパンツ見える。俺オッサンだけどそういう趣味無いから。」
「はわわわわわっ!?」
やりやすそうなツボを押そうとちょっと前屈みになって指で押そうとした所で、整備長から制止が入る。
電も自分が現在どんな体勢をしているのか意識した後、股を手で隠して一瞬で顔が真っ赤になった。
「どれ……互いに空気が悪くなるよりは、おっさんに奉仕した方がまだマシだろう。
電ちゃん、悪いけどその板面を参考にして俺の首とか肩にやってみてくれないか?」
「あ、はい……えーと、後ろ失礼しますね……んっと、ここ?」
「おぎぎぎぎぎぎぎッッ!? ちょ、ま、ちょッッ!! アゴっ……」
横に置いたツボ指圧の図面板を見ながら、電はさっそく整備長の体を弄りだした。
そして効果がテキメンなのか、単にズレて人体にとって押しては行けないツボなのか
押した瞬間から整備長がよくわからない悲鳴を上げ始めた。
「次にこっちで……あ、クラゲちゃんもやってみます?」
「●ー♪」
「ま、まじっすか? ちょっと、あの、電ちゃん一人で十分なんあぎゃぎゃぎゃぎゃ?!」
「そうそう、そこなのです♪ じゃあ私はこっちを……えいっ♪」
「はおっ」
クラゲの触手4本ぐらいに一気に指圧をされ始めた所で
電が親指を首の筋にずぶっと入れた瞬間、整備長は最後に謎の声を出して意識がなくなった。
「あっ!? や、やりすぎてしまったのです! ど、どど、どうしよう!」
「●ー;」
「えーと、ま……まずは……証拠隠滅? まず整備長さんを隠して、山の中に……
って、違います! まだ整備長さんは死んでいないのですっ!」
「●ー」
「えーとえーと……ご自宅に送って上げれば……いい、のかな?
うん、そう、だよね……よしっ! 誰かに見つからないうちに素早く送り届けるのですっ!
それじゃあ、クラゲちゃんまた明日っ!」
「●ー ノシ」
無意識ながら、整備長の意識をすっ飛ばしてしまった電は
己の持つ艦娘としてのスペックをフルに活用し、すぐさま整備長を抱え上げて入り口へと走る。
そして整備長の腰から整備場の鍵を見つけ出し、入り口に鍵を掛ける事を忘れず
すぐさま海へと抜錨し、何度か寄った事がある整備長の家へと突撃し、ドアにも突撃。
たたまれていた布団を素早く畳の上に敷いて、意識のない整備長を横たわらせた。
ばふっと掛け布団を上から掛けた後、壊れたドアから退室。
すぐさま整備長のアパート前の道路から海へと着水して、港へと戻っていった。
この間僅か20分。
当事者である整備長と艦娘・電、クラゲの2人と1匹のみしか知らない事件がまた出来た。
そしてこの翌日以降、人体板面図は整備長の予想を大きく上回る効果を発揮。
まず初日の被害者である整備長の疲労が(電のアフター破壊ケアがあったとしても)綺麗サッパリなくなり
他の作業員・入渠している艦娘にもクラゲの触手を用いて相次いで試したところ
気絶のち疲労完全回復という凄まじい結果に。
1日、作業員達が気絶して動かなくなったせいで整備場の業務はほぼすべて停止したが
翌日以降、ノリにノった上向き調子の作業員オールスターズが目覚ましい働きを見せつけ
2日後には潰れた1日分の作業すら上回る効率を見せつけていた。
ただし、ツボ刺激にはひどい痛みを伴っている為、あまり人気はないようである。
なお、整備長のアパート玄関のドアは電がくすねている資材の一部を没収され
それを町中の工材屋に売却し、その金額で新品に代えられた事も記載しておく。
電は「助けたい子を保護する資材が減った」と半べそだった。
『人体板面図説』 SSホロ
※効果※ あるだけで艦娘の疲労回復効果が2倍。
しかし、所詮失敗作から引っ張りだされたガラクタなのでアイテム欄には記載されない。
※Tips
Q.大富豪で運が無いなら大貧民じゃねぇの?
A.状況次第じゃ3と4の革命で巻き返せるから。
1枚しか交換されない貧民のが巻き返せる可能性は著しく低い、とかってに考えてます
・ゲームでは秘書艦によって、開発で出来る装備が変わります(所詮、率ですが)
飛行機を扱う子なら艦載機ができやすくなり、駆逐艦とかならなんか電策とかが出来る、らしい。
艦載機の方は試したけど電策の方は試してません。
・烈風 SSホロ
ホロがレアなら、SSホロはめっちゃレア。そんなイメージでOKです。