螺旋と星と雷と    作:螺旋

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第10話 少女の戦い方

すべてを聞き終わったユーノの顔は暗く沈み、その細い体は震えていた。

 

「ちょ、どうしたんだよ、ユーノ。そんな落ち込むことはなかったと思うけど」

「……本当にすみませんでした。いえ、謝っても許されることではないとわかっているんです。ジュエルシードがシモンさんの世界でそんな災害を引き起こしていたなんて……そのせいで亡くなった方々もいるはずなのに……」

 

ユーノは罪悪感で押しつぶされそうになっていた。ジュエルシードが起こしてしまった悲劇。それはそのまま自分が引き起こしたことになる。償っても償いきれない罪の重さに、ユーノは耐えられずにいた。しかし、

 

「あ、いや、それがそうでもないんだけどな……」

「……どういうことですか……?」

 

ユーノが顔を上げると、声をかけたシモンは申し訳なさそうに頬を掻いていた。

 

「確かに行方不明になったやつはたくさんいるらしいんだけどな、どいつもなぜか3か月もすれば魔の荒野の外で生きたまま見つかるんだ。本人たちは荒野の中で行き倒れた後の記憶がなくて、近くの村や町で助けられることが多かったらしい。ま、そもそも死人が出るような脱出不可能な荒野なら、案内人ができるほど荒野の攻略を進めることなんてできないって」

「あ…………そうか……。その荒野は案内人がいれば通ることができたんでしたね」

 

そう。「魔の荒野」なんて物騒な名前がついているので勘違いされてしまったのだが、行方不明者は多く出たものの、誰一人として死人は出ておらず、必ず生還しているのだ。「3か月は出られない」とは、裏を返せば「3か月すれば出られる」ともとらえられるのだから。確かに災害ではあるものの、その実態ははた迷惑で済む程度のものだった。

 

「でも、ジュエルシードのせいでシモンさんとブータさんがこちらの世界に迷い込んでしまったのは事実です。本当にお二人には迷惑ばかりかけてしまって……」

「あーもうそれはいいって。俺自身今の状況を楽しんでるんだぜ。もう世界中旅し終わって、行くところがなかったところを、ジュエルシードがこの世界に連れてきてくれたことでまだ新しい旅を続けられるんだから。ジュエルシードにはそれこそ感謝したいところさ。な、ブータ!」

「ブブィ!」

「だから細かいことは気にすんな!」

「だから細かくないですってば!」

 

シモンにそう言われても、ユーノはまったく細かいことだとは思えなかった。しかし、ジュエルシードによる死人が出ていないこと、シモンとブータが異世界転移をむしろ肯定的に受け止めてくれていることもあり、ユーノの顔からは曇りが消え去っていた。

 

「それでどう思う?お前の意見を聞かせてもらいたい」

「そうですね……まず、その荒野で方向感覚を失う現象はジュエルシードが原因と考えて間違いないでしょう。ジュエルシードを中心として、半径数十kmの範囲が暴走したジュエルシードの魔力でおおわれたせいではないかと。広範囲を包み込むような形で広がった魔力が方向感覚を狂わせたのだと考えられます」

「なるほど。暴走ってのは昨日みたいに動物の形をして襲ってくるだけじゃないのか」

「はい。そしてその大元であるジュエルシードを、たまたま円の中心に迷い込んだシモンさんたちが掘り起こしてしまったので、もう元の荒野に戻っているはずです」

「じゃあもう魔の荒野はなくなっちまったってことか。安全なルートも見つけられてそれなりに有名になってきてたみたいだったから、それももったいない気がするけど」

「案内という仕事がなくなってしまうのは申し訳ない気もしますが、誰かに迷惑かけるよりはよっぽどいいですよ」

 

ユーノはシモンから聞いた情報をもとにジュエルシードが与えた影響を考察していく。シモンは魔の荒野がなくなることにちょっと思うところがあったようだが、ユーノとしては誰かを苦しめるよりは消えてしまった方がいいと思っていた。

 

「それと、さっきお前が言っていたように、やっぱり俺たちがこっちに来たのも……」

「おそらくジュエルシードのせいですね。そんなことができるのはロストロギアであるジュエルシードくらいだと思いますし、それだけのことをすればジュエルシード内の魔力が枯渇してしまうのもうなずけます」

「そうなるよなぁ。ま、魔法に関することをたどっていけば元の世界に戻る手掛かりも見つかるだろ」

「でもシモンさん、僕が知る限りでは異世界へ行く方法なんて発見されていないはずなんですけど……」

「『まだ』だろ?だったら俺たちが見つけてやるさ。”絶対”なんてものはないんだからな」

「ブーブ!」

 

シモンは自信をもってユーノに宣言する。見つかる根拠はどこにもない。だからといってあきらめるという選択肢はシモンの中には存在しなかった。

 

「……シモンさんはすごいですね。シモンさんならできるって、そう思います。根拠はありませんが」

「そう言われると照れくさいな……」

 

お前ならできる、そう言われたのは随分久しぶりだ。本来そう言われるのは自分ではなくアニキだったはずだ。彼とは違う生き方を選び、それでもその背中を追いかけつづけた自分は、彼に追いつけたのだろうか。年老いてもなお不意によぎるそんな思いを、その言葉は肯定してくれるような気がした。初めて”彼女”が言ってくれた、そのときから。

 

 

「けど、ジュエルシードが俺たちをこっちに連れてきたとして、肝心のジュエルシードはどうやって俺たちの世界に来たんだろうな?偶然なのか、誰かに送り付けられてきたのか」

「送り付けるなんてことできるんでしょうか。ロストロギアを使ってとはいえ、そんなことができるなら今頃次元世界中で大騒ぎですよ?」

「やっぱ誰かがってのは無理があるか……………(アイツならもしかしたらできたかもしれないが……)」

「どうかしたんですか、シモンさん?」

「あぁいや、何でもねぇよ」

 

こういう時はどうしても神のごとき力を見せつけてきたアイツを思い出す。だがアイツがもういないことは戦った自分自身がよくわかっているし、もし生きていたとしてもそんなことをする理由が見当たらない。シモンは頭の中に浮かんだ考えを首を振ってかき消した。それにそんな強大な力を持つ者がこちらの世界にいるとは考えにくかった。

 

 

「さて、そろそろ買い物に行くか。ユーノも一緒に行くだろ?」

「はい!」

 

シモンは留守番のついでに桃子からお使いを頼まれていた。食材の調達もそうだが、勉強した成果を試すことと、彼がこれから過ごす街のことを知ってもらうことが目的だった。

 

そのとき、

 

「「「!?」」」

 

一瞬時が止まったような感覚と強い力を感じ取った3人。

 

〈ユーノくん!〉

〈あ、なのは!〉

〈今のって、もしかしてまたジュエルシードが……〉

〈うん、新しいジュエルシードが発動したんだ。すぐ近くだから、現場で合流しよう!〉

 

直後、同じように気配を感じたなのはが念話を飛ばしてきた。

 

「……ということです。行きましょう、シモンさん、ブータさん」

「あぁ、急ぐぜ!」

「ブィ!」

 

ブータとユーノを肩に乗せ、シモンは暴走体の元へ走る。

 

 

 

 

 

「なのは!」

「お兄さん、ユーノくん!」

 

階段を上った先の神社の境内で、四ツ目の獣が咆哮していた。ユーノとブータはシモンの肩から降りて暴走体を見据える。

 

「あれは?」

「原住生物を取り込んでるんだ。実体を持っている分、昨日のよりも手ごわくなってる」

「そうなんだ。けど、大丈夫だと思う、たぶん!」

「お、やる気満々だな。それじゃあ行くとするか!」

 

意気込むなのはを見てシモンも気合を入れる。シモンは足と腕に螺旋力を発動させ、昨日と同じように思いっきり跳ぼうとする。しかし、

 

「はぁぁぁああああああああああああああああ!!!」

「あ、お兄さんストップ!!」

[protection]

「のぎゃ!?」

 

なのはが慌ててシモンを止めようとすると、飛び出すシモンの目の前に昨日なのはが使った半球状の防御魔法が現れ、シモンはバリアの内側から顔面で突っ込んでしまう。

 

「いつつつつ……どうしたんだよ、なのは?」

「ご、ごめんなさい、ってあれ?なんでレイジングハートが杖になってるの?私昨日の呪文みたいなのまだ言ってないよ?」

「まさかパスワードなしでレイジングハートの起動を!?」

 

ぶつけて赤くなった鼻をさすりながらシモンはなのはに理由を尋ねるが、なのはとユーノは勝手にレイジングハートが起動したことに驚いていた。

 

「グルァァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「うおっ!?」

 

そんな彼らを暴走体が待ってくれるわけもなく、暴走体はなのはたちめがけて突っ込んでくるが

 

 

 

「やっぱ何度見てもすげぇよな。なのはの魔法は」

 

 

 

防御魔法アクティブプロテクションがすべての衝撃を受け止め、その巨体を跳ね返した。

 

「なのは、今のうちに防護服を!」

「うん!」

[barrier jacket]

 

なのははバリアジャケットを展開し、戦闘準備万端となる。

 

「それでお兄さん、できるだけ足に力を集めずに戦うことはできませんか?なるべく地面をえぐらない程度に」

「足?まぁできないことはないけど……なのはがそう言うんならやってみるさ。はぁ!!」

 

シモンは今度こそ暴走体に向かって走り出す。

 

「グルルルル…………グルアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

跳ね返されて倒れていた暴走体は頭を振って意識を起こすと、同じくシモンに向かって走り出した。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「うおりゃああああああああああああ!!」

 

そして右腕に力を込めたシモンが暴走体の顔に右ストレートを叩き込む。が、

 

(浅い!?)

「グオオオオオオオオオ!!」

「くっ!」

 

シモンの右こぶしを力づくで振り払い突っ込んでくる暴走体を、シモンは交差した腕で防ぐ。しかし、強化しているのは腕だけなので、勢いに負けてそのまま吹っ飛ばされた。

 

「一発でダメなら何度でもだ!」

「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

両腕に力を込め、再びシモンは暴走体に向かう。

噛みついてきそうなところを腰を落としてかわし、左下から顔面にフック。

さらに突っ込んでくるところを後退して避け、アッパーを食らわせる。

そして頭が上がって胴体の下が空いているのを見て滑り込み、そのまま全力で突き上げる。だが

 

(お、重っ……!)

「グルルルルルルルルル!!」

「うおっと!」

 

脚に力を込めていないせいでその巨体を持ち上げられず、暴走体が押しつぶそうとしてきたので急いで腹の下から退く。

 

「お兄さんの攻撃が効いてないの?力は込めているはずなのに」

「いや……」

 

少し離れたところにいるなのはは、昨日とは違い螺旋力による攻撃でも暴走体が弱っていないことに気づく。

 

「ちゃんと踏ん張れていないからすべての力があいつに届いてないんだ。これじゃいくら殴ったってジリ貧だぞ……どうすれば……」

「グルオアアアアアアアアアアア!!」

「危ない!」

「!」

 

シモンにぶつかる直前、なのはが再び防御魔法を展開し、暴走体を吹き飛ばす。暴走体は全くダメージを与えられずに逆にダメージを受けているようだった。

 

「大丈夫ですか?まだ防ぐことしかできないですけど、私が防ぎ切って見せますから!」

 

これが今は基本的な防御魔法しか使えないなのはの戦い方だった。それを見たシモンは、

 

「……!そうか、よし!なのは、ちょっと耳貸してくれ」

「え?なんですか?」

「シモンさん、何を……」

 

なのはに何かを耳打ちする。後ろにいるユーノには聞こえていないようだ。

 

「…。……!……。どうだ、できるか?お前が耐えられそうにないならやめるけど」

「いえ、大丈夫だと思います。さっき2回受け止めたとき、ほとんど衝撃は来ませんでしたから。けどタイミングは……」

「そっちは任せておけ。俺が合図を送るから、できるだけ早く展開してくれ」

「わかりました」

 

そう言うシモンはなのはの前に立ち、腕に力を集中させて待機する。

 

「グルルルルルル……」

「行くぜ、なのは!」

「はい!」

 

シモンは三度暴走体に向かって走る。それを迎え撃つように、暴走体も突進してきた。そして、

 

「今だ!」

「レイジングハート、お願い!」

[protection]

 

シモンの合図で後方にいるなのはは防御魔法を展開する。それと同時にシモンはジャンプして暴走体を飛び越え、暴走体の後ろをとる。

 

「グルァ!?」

「突っ込めぇぇえええええええええええええええええ!!」

「ええええええええええええええええ!?」

 

シモンは暴走体を両手で思いっきり押し出した。突進の勢い+押された勢いで今までの3倍のスピードでなのはの防御魔法に突っ込んでいく暴走体。もはや自身の力では止められず、恐ろしいほどの勢いでアクティブプロテクションに衝突した。

 

「はぁああああああああああああああああああ!!」

「ギャオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!」

 

暴走体は跳ね返ってきた自身の力を受け止めきれず、その場で倒れてしまった。

 

「えっと、これで封印をすればいいんだよね?」

「う、うん、そうなんだけど……」

 

なのはは呼吸を整え、ジュエルシードの封印に取り掛かる。

 

「リリカルマジカル、ジュエルシードシリアル16、封印!」

 

なのはが呪文を唱えると光の羽が暴走体を包み込み、浄化していく。その後に残ったのはジュエルシードと

 

「あ、ワンちゃんだったんだ」

 

すやすやと眠る子犬の姿だった。

 

「やったな、なのは」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シモンさん、無茶しすぎじゃないですか!?なのはが耐えられたからよかったものの、わざと加速させて防御魔法にぶつけるなんて!」

「悪ぃ、アレ以外思いつかなかったんだ。でもなのはの防御魔法を見る限りじゃまだまだ余裕がありそうだったから、なのはなら耐えられると思って……」

「でも!」

「まぁまぁ、ユーノくん。そもそも私が変なこと頼んじゃったからこんなことになったわけなんだし、私も無事で封印もちゃんとできたんだからいいじゃない。私自身、ちゃんと耐えられる自信はあったんだから」

「むぅ……でも次こんな無茶するときはちゃんと僕にも伝えてください!心臓に悪いですから」

「あはは、ああ、わかったよ」

 

ジュエルシードを封印することはできたが、ユーノはシモンの作戦に不服を申し立てていた。一人だけ作戦を伝えられていなかったことに対する不満もあっただろう。

 

「足を使わないでっていうのはどうしてだったんだ?」

「あの、それが……」

 

なのはは学校で聞いたことをシモンに話す。

 

「足跡が残っちまってたのか。全然気づかなかったな……」

「あの時は確認している余裕なんてなかったですし、アスファルトに足跡が残るなんて誰も思いませんから。ただ、ジュエルシードが発動した場所で同じように足跡が残ると怪しまれるので、足跡が残らないようにと思ったんですけど……」

「お前の考えは間違ってないよ。要は足を使わない戦い方を見つければいいだけの話だ。それよりこれから買い物に行くんだけど、なのはも一緒に行くか?」

「はい、行きます!」

 

とんとんと足音を立てて階段を下り、4人は夕暮れの町に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




人語を話せない分、ブータが空気になりかけて大変です(泣。
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