螺旋と星と雷と    作:螺旋

11 / 13
第11話 少女の休日

 桃から生まれた快男児然り、経典を求め天竺を目指した高僧然り、3人の供を引き連れた者の物語は、怪物退治と相場が決まっているようだ。

 怪物のいないはずのこの平和な現代日本、そんな道理など風が吹けば倒れてしまうのは火を見るよりも明らか。だというのに、小学生ならば普段は入ることのない夜の学校に、お供3人を引き連れてもぐりこんだこの少女に、その理屈は通用しなかった。

 

「おおぉりゃぁああああああああ!!!!」

「グギャァアアアアアアアアアア!!??」

 

男の叫び声とともに、人ではない何かの断末魔が小学校の校庭に響く。校庭に現れた怪物と男は今まさに交戦中であった。

男に思い切り殴り飛ばされた怪物はグラウンドを二転三転し、大きな音を立てて崩れる。

 

「こっんの!」

「ギギッ……!グガッ……!」

「これで……!なのは、あとは頼んだ!」

「は、はい!」

 

男はすぐに怪物を抑え込み、身動きをとれなくする。最後の悪あがきで暴れる化け物を何とか抑えつつ、準備が整ったであろう少女に後を託す。

後方では少女が杖を構え、あふれ出す魔力が周囲を淡く照らしていた。杖を振りかざし、少女は魔法の呪文を口ずさむ。

 

「リリカルマジカル、ジュエルシードシリアル20、封印!」

 

少女が杖を振り呪文を唱えると、桃色の光が辺りを包みこむ。その光は男が押さえつけていた怪物を、一瞬にして青く光る宝石へと姿を変えてしまった。光がおさまると、仕事を終えた杖は先端部のシリンダーを開き、封印魔法の使用により発生した熱を排出する。

 

「はぁ、はぁ……ふぅ……」

「なのは、お疲れさま」

「ブム!」

「ありがとう、ユーノくん、ブータくん。でもまさか学校にも出るなんて思わなかったよ。夜の学校なんて初めて来たし、昼間と違って不気味で、ちょ、ちょっと怖いね……」

「大丈夫だって。ユーレイとかオバケとか、そんなもんが出ても俺が追っ払ってやるさ。それになのはなら魔法で何とかできるんじゃないか?」

「で、でも怖いものはやっぱり怖いです。魔法が使えても、もし出会っちゃったら全速力で逃げちゃうと思うし……」

 

封印を終えて一同は一息つく。夜の小学校など普通に暮らしていればまず出会わない状況であって、外から見ていても何かが出そうな雰囲気は十分に漂っていた。

しかしそれもまた人の持つイメージのせいで、学校というものをよく知らないシモンは特に不気味さは感じなかったのだが、テレビ番組などで夜の学校にまつわる怖い話を知っているなのはは、そんな雰囲気にのまれて怖がっていた。

 そんな時、

 

「……お兄さん、どうかしました?」

「え?あぁ、まだまだだなと思ってさ」

 

シモンがグラウンドの方を見渡した後、自分の拳を握り、閉じたり開いたりして何かを確認していることにユーノとなのはが気づく。

 

「やっぱり難しいですか、螺旋力を安定させるのは?」

「そうだな……螺旋力ってのは前に言ったように使う者の感情によって大きくなるんだ。常に全開ならまだしも、全開じゃない安定した状態を作るってのは難しいだろうな。戦いを続けていけば気持ちは高ぶってくるし、だからと言って安定させることを意識すると逆に感情が殺されるから力は発揮できなくなる。今回だってちょっと加減間違えてああなっちまったし……」

「「あぁー……」」「ブミー……」

 

苦笑いのシモンが指さす方を見て、三人は納得する。そこには、きれいにグラウンドに残った複数の足跡があった。前の陥没足跡ほどの破壊はなかったものの、見つかると厄介なことになるのは間違いない。誰かに見つからないうちに後始末をする必要があった。

 

「螺旋力の性質からして、安定して力を出せる状態を作るのは不可能に近いかもしれませんね……」

「それでもやるさ。後々面倒なことにならないようにな。けど……」

 

足跡の一件からシモンはいろいろと戦い方を工夫して暴走体と戦っていた。しかし螺旋力の性質上、力を出しすぎず、かつ安定して発動するというのはブランクがあるとはいえ、螺旋力に長けたシモンにさえ難しかった。考えついた方法をいろいろ試してはいるのだが、どれもこれもいまいちで、なかなか安定した螺旋力の使い方が思いつかなかった。

 

「う~ん、わっかんねぇなぁ。全開にするのは簡単なんだが、それだと後のことが大変になっちまうし、何より自分が力に振り回されてるんじゃな……何かいい方法はないか……」

「今はとにかく帰りましょう、お兄さん。早く帰らないとお兄ちゃん…たち…が……うぐ……」

「おおっと!?大丈夫かよ、なのは……?」

「…大丈夫、じゃないかなぁ……」

 

なのはは頭を押さえて何とかいい方法をひねりだそうとするシモンを止めようとするも、その途中で突然糸が切れたかのように倒れかけてしまう。とっさにシモンが体を支えたからよかったが、シモンに抱えられたなのはの顔には疲労の色が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、お兄さん……」

「気にすんな。それより今日はもうゆっくり休め。着替えとかは美由希たちに頼んでおいてやるから」

「うん……」

 

シモンはなのはを背負い、家へと向かう。かなり疲れていたのだろう、返事を返すとすぐになのははシモンの背中で眠ってしまった。そんななのはを見てシモンははぁ、と小さくため息をこぼす。

 

「ジュエルシード集めを始めてからまる一週間か……昼間学校へ行って夜はこうやって街中散策するんだ。そりゃ疲れるはずだよな。俺ももうちょっと力になれればいいんだが……」

「シモンさんは十分力になってくれていますよ。シモンさんがいてくれるからこそ、なのはも封印に集中できるんです。そうでなかったら今よりもっとなのはへの負担が大きくなって、本当に倒れてしまってたかもしれません」

「でもな……結局なのははこうやって倒れかけたわけだし……魔法を使うってのはやっぱりかなり体力を使うものなんだな」

 

シモンは魔法を使うたびに消耗しているなのはの様子が気になっていた。今なのはが使える魔法は暴走体の攻撃を受けてもビクともしない堅牢さを持つ防御魔法と、凶暴な暴走体を封じる封印魔法。シモンからすれば両方とも強力な魔法に見える。魔法が強ければ強いほど体力を消耗すると考えると、なのははかなり高燃費ということになり、封印はできてもモチベーションの持続が困難だというのは想像に難くない。

 

「本来はそんなことはないんですけど、なのは本人がまだ魔法に慣れていないせいだと思います」

「慣れ?」

「はい。なのはが持つ魔力はおそらく他に類を見ないほど強力です。その大きな力になのは自身の体がついてきていないんです」

「おいおい、それってまずくないのか?このまま戦い続けたら自滅しかねないってことだろ?」

 

シモンの口から出た心配をユーノは否定した。しかし、『体が力に耐えられない』、魔力の性質をよくわかっていないシモンは、魔法を螺旋力と重ねて見てしまい、なのはの戦い方に別の不安を覚える。

 

「でも慣れてくればある程度の魔法なら体力の消耗なしに扱えるはずです。なのははかなりの才能を持っていますから」

「そういうものなのか……それなら安心だけど、それはそれで末恐ろしいな……」

 

ユーノの説明を聞いて安心すると同時に、シモンは少し驚いた。あんな強力なものをノーリスクでバンバン打てるようになるのなら、だれもなのはには太刀打ちできないだろうとシモンは思った。

 

「つってもまだ子どもには変わりねぇ。まだ先は長いんだ。無理しすぎてぶっ倒れる前に少し休ませたらどうだろう」

「……そう、ですね。じゃあ明日は休みということにしましょうか」

「あぁ、ちょうど明日は俺もなのはも用事があるし、そろそろ普通に帰らないと、散歩じゃないってバレるかもしれない」

 

明日は二人とも同じ外出の予定が入っていた。それに、今はユーノの散歩と言う体でなんとか夜間の外出を認めてもらっているが、暴走体との戦闘が長引くことが多く、士郎たちに怪しまれる可能性も大きい。なのはが倒れないために、ジュエルシード探しを休むちょうどいい頃合いだった。

 

「でもシモンさんも昼間は働いてるのに、全然疲れているように見えませんが……」

「そりゃずっと旅をしてきて、そのおかげで体力はそこそこある方だからな。そのせいじゃないのか?」

「それでもです。最初こそ息切れを起こしていたみたいですけど、今では戦闘後も平然としていますし」

「そういえばそうか……」

 

ユーノはシモンが戦った後も特に疲れた様子を見せなくなったことを不思議がっていた。初めて暴走体と戦った後は息切れするほど体力を消耗していたのに対し、今では多少汗はかくものの、戦闘後でもシモンには特に疲れた様子もない。シモン自身も気づいていなかった変化にシモンは言われてみればそうだな、と顎に片手を当てて考え始める。

 

「う~ん……さっきのユーノの言葉を借りるなら、今の使い方に慣れてきたってことだろうな」

「今の使い方、ですか……?」

「あぁ。力を使うって意味じゃ俺の方がなのはより長いんだ。だったら、力そのものじゃなく力の使い方に体が追いついたってことになるんじゃないか?」

 

それは考えたというよりは直感だった。シモンは今までとは異なる力の使い方であるためについていけなかった体が、戦いを繰り返していくうちに新しい力の使い方に適応してきたと思った。それ以外にとりわけ特別なことをしたわけでもないので、シモンにはそれが一番しっくりきた。

 

「なるほど……でもそれじゃあ……」

「ん?」

 

ユーノはシモンの言葉に何か引っかかったらしく、顎に手を当てて何かを考え始める。少しの間の後、シモンの方を向いてユーノが口を開く。

 

「シモンさん、螺旋力っていったい……」

「……んんっ、う~ん……」

 

ユーノが質問しようとしたとき、寝ているはずのなのはの声がそれをさえぎってしまう。

 

「起こしちまった……ってわけでもないか。早く帰って休ませてやらないと」

「そ、そうですね……」

 

なのはが身じろいだので起こしてしまったと思ったシモンは背負っているなのはを確認するが、なのはのまぶたは閉じられたままであった。その様子を確認すると、改めてシモンたちは高町家へと足を進めていく。しかし、質問をし損ねたユーノの頭の中にはある一つの疑念が生まれていた。

 

(……シモンさんはやけに戦い慣れてるし、本来の使い方でなくても螺旋力での戦い方がわかっていたようだった……螺旋力にはやっぱり、進化とは別の使い方があるんじゃないだろうか。そしてそれをシモンさんは……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……のは。お~い、なのは」

「……ん~……」

 

部屋をノックする音とともになのはを呼ぶ声が部屋の中に響く。その声に反応はない。布団の中のなのはは寝ぼけ眼でまどろんでいた。

 

「起きてこないか。まぁまだ時間もあるわけだし、もう少し寝かせてやってもいいだろう」

 

ノックの主であるシモンはそう言って階段を下りていく。

 

「なのは、大丈夫?」

「……う~ん……ユーノくん?」

「おはよう、なのは」

 

なかなか起きないなのはを心配したユーノがなのはの枕元まで来ると、なのははやっと目を覚ました。

 

「あれ、私昨日は確かジュエルシードを封印した後……どうしたんだっけ……?」

「覚えてない?シモンさんが家までなのはを背負ってくれたんだ」

「そっか。あとでお兄さんにお礼を言っとかなきゃね」

 

倒れかけた後すぐに寝てしまったせいか、昨日なのはが眠る前のことがおぼろげだった。ユーノに聞いても頭の中がぼんやりとして思い出せず、とりあえずなのはは後でシモンに礼を言うことにした。

 

「さっきシモンさんが呼びに来てたよ。今日何か用事があるんじゃなかったの?」

「……うん、そうなんだけど……今日はお休みなんだし、もうちょっとだけ……ね?」

 

そう言うなのはの顔は若干赤くなっていた。ここ一週間なのはの生活を見てきたユーノから見ても、目覚ましが鳴ってもなかなか布団から出てこないなのはの様子から、疲れがたまっているのは目に見えていた。

 

「なのは、今日はジュエルシード集めはお休みにしよう」

「ふぇ?どうして?」

「昨日シモンさんと話したんだ。ジュエルシード集めを始めてからずっとなのはは休んでないじゃないか。きちんと休みを取らないと昨日みたいに倒れちゃうかもしれないから、今日はゆっくり休もう?」

 

なのはの様子を心配してユーノは、昨日シモンと決めたようになのはに今日は休んでもらおうとする。

 

「けどユーノくんはそれでいいの?早く集め終わった方がいいんじゃない?」

「早く集まってくれればもちろんそれが一番だと思う。だけどそれでなのはが倒れたらダメだ。……大丈夫。もう6個も集めてくれてるんだ。休むべき時にしっかり休む。これも、魔法使いには大切なことなんだよ?」

 

このままだとなのはは不調なまま暴走体と戦うことになりかねない。ユーノのことを気にするなのはに、言い聞かせるようにユーノは休むことを促した。

 

「……わかった。じゃあ今日はジュエルシード集めはお休みってことで」

「うん、そうしよう」

 

ユーノの言葉を受け、なのはは今日だけ魔法使いを休むことにした。

 

そんなとき、コンコン、と部屋のドアをノックする音が聞こえてくる。

 

「なのは、起きてるか?」

「お兄さん?はい、起きてます」

 

ガチャリとドアノブをひねる音がすると、何やらお盆を持ったシモンが部屋に入ってくる。

 

「あの、それは?」

「あぁ、桃子に頼んで作ってもらったんだ。疲れている時には消化がいいものを食べたほうがいいんだとさ」

 

お盆の上には湯気の立ったお粥が載っていた。ゆらゆらと沸き立つ白い蒸気とともに、白米を煮た時のやんわりとした甘い匂いがなのはの鼻をくすぐってくる。すると、

 

 

    ぐうぅぅうううう~~~~~~~

 

 

「あ…………えっと、これはその……」

「はは、やっぱ疲れてても腹は減ってんだな。ほら、まだ時間はあるから急いで食べなくていいぞ」

「……あ、ありがとうございます……」

 

体は正直なもので、匂いにつられ、なのはのお腹は早く食べたいと催促してきた。恥ずかしくなって縮こまるなのはにシモンはお盆を渡す。お礼を言うなのはは顔をさらに赤くしてうつむいたままそのお盆を受け取った。

 

「じゃ、俺はもう行くよ。もしまだ辛いなら無理はするなよ?」

「……はい」

 

シモンはなのはにそう言うと部屋を出ていく。が、なのはがその後ろ姿をぼーっと見たまま動かないので、気になったユーノが声をかける。

 

「どうしたの、なのは?」

「えっ?あっ、ううん、なんでもない……やっぱりちょっと疲れちゃってるのかな」

「それならまだ時間はあるみたいだし、もうちょっと休もう?」

「……わかった、そうするね」

 

ユーノは返ってきた答えに特に違和感を感じることもなく、なのはは受け取ったお粥をもくもくと食べ進めていく。その間なのはが少し思いつめたような顔をしていたことに、ユーノが気づくこともなく……。

 




またかなり遅れてしまった……。8月中に投稿しようと思ったら、ノートパソコンのバッテリーが寿命で修理に出し、9月にはパソコンが原因不明の不調で初期化したりと、パソコン関係でいろいろありまして、書くことができずに10月を迎えてしまいました。今のところ第3話は2/3まで書けてるんですけど、完成するまでまだかかりそうです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。