螺旋と星と雷と    作:螺旋

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第12話 少女の悩み

「とうとう来たわね、この居候男!この私、アリサ・バニングスがいるからには、なのはに手は出させないんだから!」

「むっ?!」「ブミッ?!」

「ア、アリサちゃん……?」

 

ドドン!と音が聞こえてきそうな仁王立ちで待ち構えていたのは、今日なのはと約束をしていたアリサだ。事前になのはからシモンが一緒に来ることは聞いており、シモンに会うなりこの啖呵である。アリサとしてはこれで少しはシモンがビビってくれるのを期待していたのだが、

 

「あんまり効いてないみたいね……」

「いやまぁ、あんな見事に啖呵切られたらな、ビビるよりはむしろ感心するだろ……」

「何よそれ?はぁ……とにかく、なのはに何かあったらただじゃすまないってこと、覚えておきなさいよ!」

 

シモンは気圧されるどころか感心する始末だ。それに呆れたアリサはシモンに改めて釘をさす。

 

「月村すずかです。今日はよろしくお願いします」

「おう、よろしく。なのはから聞いてると思うけど、俺はシモン。で、こっちがブータだ」

「ブゥブ!」

((……モグラなのに鳴き声が豚?))

 

同じく約束をして来ていたすずかは、特にシモンに警戒することもなく自己紹介をする。シモンとブータも自己紹介するが、二人は見た目がモグラで鳴き声が豚のブータを不思議がっていた。

 

「まぁでも今日は俺が何かやるわけでもないけどな。今日の主役はあいつらだから」

「……」

「……?俺の顔に何かついてるか?」

「あ、すみません、何でもないです」

 

すずかが自分の顔を見ていることに気付いたシモンがすずかに聞くと、すずかははっとした様子の後、シモンに謝る。なぜ自分がシモンの顔を見つめていたのか、すずか自身もよくわかっていないようだった。

シモンはそのまま3人を連れて目的の場所へ向かう。そこではすでに準備を始めている士郎と、アップをしている子供たちの姿があった。

 

(……このお兄さん、やっぱり不思議な感じがする……なのはちゃんも言ってたけど、普通の人じゃないのかも……?)

 

そのとき、後ろからシモンの背中に向け続けられている視線に、シモンは気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて!お前らっ、気合入れていくぞぉおおおおおお!!!」

「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」」」」」

 

その一声がビリビリと空気を震わせ、11人の選手たちの闘志を掻き立てる。こころなしか選手たちの顔つきもよくなった気がした。

 

「士郎さんが連れてきたあの子、なかなかの気迫ですね。近頃の子には珍しい……」

「はは、彼は自分のすることには常に全力投球なので……(まぁ実際は俺より年上なんですけどね……若返っているとはいえ、どこにあれほどの気力があるのやら……)」

 

シモンの怒声にも似た発破に、相手チームのコーチが感心する。一方の士郎は自分より年上のはずのシモンが、選手以上にやる気になっていることに驚いていた。

 

今なのはたちがいるのはサッカーコート。今日ある二人の予定とは、士郎がコーチをしているサッカーチーム、翠屋JFCの試合の応援だった。もともと士郎のチームを応援する約束をしていたなのはたち3人はコート脇のベンチに座っていた。

 

「~~~~~~っ!!なんて声出すのよ、あいつは…!!これだけ離れているのに耳がガンガンするわ……」

「そうだね~……でも今のでみんなやる気になったみたい。ほら、みんなさっきよりも顔が引き締まってるし」

「にゃはは、もしかしたら選手のみんなよりも気合が入ってるかも……」

 

シモンの大声に各々反応していたが、すずか以外の二人は選手よりも目をギラつかせて選手たちを鼓舞するシモンに少々呆れていた。

 

「っていうか、なんであいつがサッカーチームのジャージ着て応援なんかしてるの?この一週間何があったのよ?」

「それがね、お父さんが喫茶店の仕事をお兄さんに手伝ってもらうついでに、サッカーチームの練習にも顔を出してもらってたんだって。それでチームのみんなといつの間にか打ち解けていて……」

「へぇ~。けどあのお兄さん…えーっと、シモンさん、だっけ?サッカーは上手なの?」

 

サッカーチームの練習に顔を出すなら、それ相応にサッカーも上手いはずだと思ったすずかがなのはに聞くが、なのはは首を横に振った。

 

「ううん、全然。でも練習の手伝いをしたり、チームのみんなと話したりして、結構楽しいってお兄さんが言ってたから、打ち解けられたのはたぶんそのせいじゃないかな」

 

シモンはサッカーのみならずスポーツの経験が全くと言っていいほどない。それゆえサッカーの練習では技術的に選手に教えられることなど何もなかったのだが、練習を手伝ったり、休憩時間に選手と他愛のない話をしたりするなどして、この一週間でぐっと選手たちとの距離を縮めていた。若い時からの気前のいい性格から、シモンはチームの中で気のいいアンちゃんポジにおさまっていた。

 

「でも、結局教えられることは何もないんじゃない。ただのお荷物になってなければいいんだけど?」

「っ!……やっぱり、そうなのかな……」

「なのはちゃん、どうかしたの?」

「……ううん、大丈夫。それよりほら、もう試合が始まるみたい。私たちも応援しよう?」

「そうね。これでもし負けたりなんかしたら、あいつをとっちめてやるんだから!」

 

一瞬なのはの表情が落ち込んだことにすずかが気づく。しかし、なのはは大丈夫と答え、はぐらかすように試合に二人の目を向けさせた。そのままつつがなく試合は進行していき、試合は翠屋JFCの勝利に終わった。ちなみに試合中、アリサの鋭い視線がシモンの背中に何度も刺さっており、シモン曰く、「なんか背中がチクチクした」らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホットケーキ3つ、お待ちどうさま!」

「「ありがとうございます!」」

 

ところ変わって喫茶翠屋。テラス席でおしゃべりをしていた3人に、翠屋のエプロンを付けたシモンが注文されたホットケーキを持ってくる。14歳のころのシモンはあまり身長が高いほうではなかったためにサイズの合う制服がなく、エプロンの下はいつもの服装だ。

 

「ふ~ん、翠屋の手伝いをしてるっていうのは本当らしいわね。あまり仕事が雑だったら文句の一つもつけようと思ったけど。まぁ及第点かしら」

「アリサちゃん、手厳しい……」

 

ホットケーキを届けるとすぐに店内に戻って働くシモンを見てアリサはそうつぶやく。

試合が終わってから、士郎の提案で祝勝会を喫茶翠屋で行うことになり、翠屋に着いてからシモンは選手のみんなから注文を取ったり、料理を運んだりとせわしなく動いていた。

 

「シモン兄、こっちも!」

「OK。すぐ持ってくる」

 

料理を運んでいる最中にもほかの選手から注文が入り、シモンはすぐに返事を返して奥のキッチンへと戻る。

 

「お兄さん、忙しそうだね。しばらくは休めないかな」

「すずかちゃん、お兄さんに聞きたいことでもあるの?」

 

すずかが働くシモンの姿を見ながら言った言葉になのはは質問する。

 

「えぇっと、ちょっと気になることがあって……」

「そう?よかったら私が後でお兄さんに聞いてあげようか」

「うぅん、大丈夫!別に大したことじゃないから……」

 

少し慌てたようにごまかすすずかになのはは若干疑問を持ったものの、すぐに落ち着いたようなのでなのははあまり気に留めることもなかった。

 

「それにしても、この子、ユーノだっけ。改めて見ると、普通のフェレットとはちょっと違わない?」

「そういえばそうだね。動物病院の先生もちょっと変わった子だねって言ってたし」

「うぇっ!?えっ、えぇと、ちょっと変わったフェレットってことで……ほら、こんなことだってできるんだよ。お手!」

「キュ!」

「わぁ、賢~い!」

「かわいいね~!」

 

急にユーノが話題に上がり、怪しまれそうだったのでなのはとユーノは何とかごまかす。そのおかげか、二人はユーノはあくまでちょっと変わっているだけのフェレットだと納得してくれたようで、二人はユーノにお手やお座りをさせてはユーノを可愛がっていた。

 

〈ユーノくん、ごめんね……〉

〈だ、大丈夫……〉

 

二人にもみくちゃにされているユーノになのはは念話で謝る。ユーノもただ可愛がりたいだけの二人に、嫌がって機嫌を損なわれるのも嫌なので、抵抗することもなくされるがままとなっていた。

 

〈お兄さんもこうやってお話しできればいいのに……〉

〈それはしょうがないよ。シモンさんが使っている螺旋力は魔法とは全く別の力なんだ。念話を聞くことができるだけでもすごいことなんだから〉

〈そうだけど……〉

 

魔法使いになってしばらくしてからわかったことだが、シモンは念話が使えない。いや、正しくは()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それは電話でいうところの盗聴に近い。例えばなのはがユーノに念話を送ったとき、送る側のなのはか送られる側のユーノのそばにいる場合に、その内容を聞き取れると言った感じだ。しかもシモンの意思に関わらず常に念話を拾うものだから、それを知ったなのはは、

 

(念話するときも内容に気を付けないと……)

 

と思ったらしい。とにかく念話で話すことができないというのはいろいろと不便で、士郎やアリサたちのいる前でユーノと話したいときも、なのはとユーノの間でしか念話ができず、後々シモンと改めて話さなければならないという二度手間になってしまうことが多い。そのために、なのははシモンともっと自由に話せればいいと思ったのだが、未知の力である螺旋力で魔法と同じことができるわけもなく、今のところシモンとブータは念話について不自由であった。

 

〈あ、でもそれじゃあ……ユーノくんと最初に出会った時のあの念話って、もしかして……〉

〈……うん、あれは本当はなのはだけに送ったものだったんだ。けがをして動物病院に連れて行ってもらった時に、なのはの持つ魔法の資質が大きいことに気づいてたからね。暴走体と戦った時、なのはと一緒にシモンさんたちが来たときはすごく驚いたよ〉

〈でもそのおかげでお兄さんも手伝ってくれて、ジュエルシードも順調に集まってるんだし……私ひとりじゃやっぱり難しかったと思う〉

〈……なのは?〉

 

「で、結局あんたは豚なの?モグラなの?まぁころころしててかわいいからそれは別にいいけどね♪」

「ブ、ブミュー……」

 

そんな二人の会話はつゆ知らず、アリサはテーブルの上にいるブータとにらめっこ。シモンが翠屋で働きだしてから、何気にブータは「豚だかモグラだかわからない生き物」として緑屋のマスコットになっていた。もちろんブータはこちら側の世界には存在しないブタモグラという向こう側の固有種であるのだが、アリサには知る由もなく、話ができないブータも答えられずにこのにらめっこというわけだ。

 

「観念してお・と・な・し・く、私に触らせなさい!」

「ブ、ブ、ブィ……」

 

かわいいものには目がない女子たちの次なる標的としてロックオンされてしまったブータ。アリサが一歩近づけば、ブータは一歩後ずさる。そのままじりじりとテーブル脇まで追い詰められていくブータ。両手を広げて目を光らせ詰め寄っていくアリサの様は、まるで壁際にネズミを追い詰めた猫のようだったそうな。

 

「よいしょっと」

「ブッ!?」

「さっきもお兄さんの肩に乗ってたから、お兄さんが飼ってるのかな。毛がふさふさしてて気持ちいいよ、アリサちゃん」

「あ、ほんとだ。ユーノとは違うけどこれはこれでアリね」

「ブミ~~!?」

 

テーブルの反対側に回り込んできたすずかについにブータは捕まえられてしまう。何とかじたばたしてみるものの、小さい手足が虚しく空を切るだけで、逃がさぬようにホールドされたすずかの手を振りほどくことはできない。ブータ、南無三。

ブータは手のひらサイズであるため、二人は手に乗せてみたり、触って毛並みを楽しんだりと、ブータはもみくちゃにされることとなった。

 

(ブータさん、頑張ってください!ぼ、僕も頑張りますか、らぁああああああああああああ!?)

「うふふ、かわいい」

 

同じ目にあっているブータに心の中で応援を送るユーノであったが、それもつかの間、再び二人の魔の手(?)がユーノに伸びる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「ごちそうさまでした!!」」」」」」」」」」」

 

しばらくして店の中で食事をしていた選手たちも食事を終えたらしく、入口から出てくる。そんな時、

 

(えっ?もしかしてあの子……)

 

なのはは解散する選手の中の一人がジュエルシードらしきものをポケットに入れるのを横目で目撃する。しかし、

 

(気のせい……だよね……?あの子がジュエルシードを持っていたなんて……。お兄さんは……気づいてない……?じゃあやっぱり……)

 

士郎と一緒に選手を見送っていたシモンはすぐさま店内に戻って片づけを始めていて、特に異常を感じた様子もない。それを見たなのははそれが自分の勘違いだと思いなおした。

 

「あぁ~面白かった。はい、なのは」

「へっ?あっ、ユーノくん、ブータくん!?」

「ギュ……キュ~……」

「ブ、ブミ~……」

「大丈夫……じゃなさそうだね……」

「ごめんね、ユーノくん、ブータくん」

 

アリサたちはユーノとブータを愛でてそのもふもふ&ふさふさを十分に堪能したようで、なのはにユーノたちを返す。満足そうな表情をしているアリサと申し訳なさそうにしながらも楽しんでいたすずかに対して、アリサたちにひたすら愛でられていた二人はそろって目を回してぐったりしていた。その様子を見たなのはは慌ててアリサから二人を受け取る。

 

「それじゃあ私たちも解散しましょうか。なのは、もし何かあったら迷いなく私に言うのよ?」

「あ、う、うん。わかった……。そうだ、すずかちゃんはいいの?お兄さん、今ならお話しできると思うけど」

「うん、大丈夫。また今度にするから。じゃあね、なのはちゃん」

「また学校で」

「うん、またね」

 

アリサが言っているのは紛れもなくシモンのことだ。一応シモンの人となりは分ってもらったみたいだが、それでもまだ信用しきれないらしい。最初ほどの警戒はなくなったが、そうやって忠告を残していくあたり、疑いが残っているのは確かだった。対してすずかはシモンがフリーになっても聞きに行く様子もなく、気になったなのはが聞くが、本人は別の機会に聞くことにしたようだ。二人はテラス席を後にして、一人になったなのはは未だ目を回しているユーノとブータを介抱することにした。

 

 

 

「なんだ、二人は帰っちまったのか。ブータとユーノは相当いじられたな、こりゃ」

「はい……」「ブミュ~……」

「あはははは……二人ともこれから予定があるみたいでしたから。……それで……あの、その……」

「どうした?」

「……えと、お兄さんはさっき…………(『お荷物……』)っ!?」

 

二人が帰った後、テラス席にいるなのはのところに清掃中のシモンが来る。なのははさっきのジュエルシードのことについてシモンに尋ねようとしたのだが、不意にアリサの言っていた一言を思い出し、とっさに口を噤む。

 

 

「い、いえ、やっぱり何でもないです……」

「……?そうか……。俺は今から店の片づけとかいろいろあるから、先に家に帰ったらどうだ?ジュエルシード集めは休むにしても、今日は応援で疲れただろ?」

「……じゃあ、そうさせてもらいます。お兄さん、またあとで。それとブータくん、さっきはありがとう」

「ああ」

「ブゥブ!」

 

なのはの様子が少し変だと思ったシモンだったが、それがジュエルシード集めによる疲労のせいだと考え、シモンはなのはに先に帰るように促した。

そうしてなのはは二人と別れ、シモンたちより先にユーノを連れて自宅へと戻る。

 

 

 

「ふ~、疲れたぁ。夕飯まで寝ちゃおっか。ね、ユーノくん」

「うん、そうだね。けどなのは、ちょっといい?」

「なに?」

 

家に戻ったなのはは寝間着に着替え、そのままベッドにダイブした。今日の応援とジュエルシード集めの疲労が相まってなのはの瞼は今にも閉じそうなほどに重い。だがユーノにはなのはが眠ってしまう前に少し聞きたいことがあった。

 

「さっき少し様子が変だったけど、どうしたの?魔法で悩んでることがあるなら、相談に乗るけど……」

「……うん……悩み、っていうほどじゃないんだけど、でもなんかもやもやしてて……けど、もうちょっとだけ自分の中で考えて見たいんだ。それでもすっきりしなかったら、相談させてもらうね」

「……わかった。なのはがそれでいいなら」

 

なのはの中にあるもやもやした感情。ユーノは相談に乗ってくれると言ったが、なのははそれが自分の身勝手を押し付けるように感じられて、ユーノに話すことができなかった。ユーノはなのはが話してくれるまで待つようにしたが、それが後々、大きな失敗をもたらすことになる……。

 




第3話の2/3終了です。残り1/3は……お察しください(泣。
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