螺旋と星と雷と    作:螺旋

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第6話 男と少女、魔法に出会う

 

------ブォン ブォン

 

 

 

 

 

重く低い音を響かせ、ソレは淡い緑色の光を放つ。明滅する光は力への反応を示している。本来ならばソレはその素材となったある力にのみ反応するはずなのだが、一回だけ例外があった。その例外は一人と一匹、いや二人を巻き込み、本来いるべき世界からこの世界へといざなった。そしていま、男の胸にぶら下げられたソレは再びその本質から外れ、追いかけてくる化け物に反応を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、あの化け物はなんなんだ?あれくらいでかい生き物なら俺の世界にもいるけど、あんな姿したヤツは見たことねぇ。体のわりに目でかすぎるし」

 

なのはを背負って走るシモンは、なのはの肩に乗るフェレットに尋ねる。建物に被害がないようにと病院の敷地内で戦うことは避け、どこか広い場所を探しつつ、そこへ化け物を誘導しようとしていた。

 

「すみません、それについては後で説明します。それより先に君と話がしたいんです」

「わ、私?」

「はい」

 

しゃべるフェレットは焦っているのか、口早になのはとの会話を願う。

 

「君には資質がある。お願い、僕に少しだけ力を貸して」

「資質?」

「僕はある探し物のためにここではない世界から来ました。でも、僕一人の力では思いを遂げられないかもしれない。だから、今回だけでいいんです。迷惑だと分かってはいるんですが資質を持っている人に協力してほしくて……」

「それでさっきの頭に響く声で助けを求めたってことか。資質を持ってない人間には聞こえないようだったしな」

 

全員聞こえるような声だったら今頃たくさんの人が外に出ているはずだがその様子はない。それ以前になのは以外の高町家のみんなは、シモンが準備している間も特に変わった様子はなかったから、まずその可能性は消える。特定の人間に届けようとした声であっても、面識のあるなのはならまだしも、一度も会ったことのないシモンやブータにも聞こえるのはおかしい。とすると、あの声は不特定の資質を持った人間にしか聞き取れない声ということになる。

 

「お礼は必ずします。僕の持っている力をあなたに使ってほしいんです。魔法の力を」

「魔法……?」

 

 

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」

 

 

「っ!?っと間一髪!」

 

後ろから追いかけてくる様子のなかった化け物はなんと上から降ってきた。シモンたちを狙って勢いよく飛び込んできたが、シモンが紙一重で横にジャンプしたことで化け物は地面に激突する。体の大きさにふさわしい重量を持っているようで、着地した地面からは砂煙が舞い、アスファルトの地面は陥没している。

 

「結構走ったつもりだったが一気に詰められちまった。まだ周りに建物あるけど、ここで戦うしかないか。お前ら、どっか隠れてろ!ブータはこいつらを頼む!」

「ブィ!」

「えっ、は、はい!」

 

背負っていたなのはを降ろして下がるように伝え、ブータになのはたちのことを任せる。ブータは力強くうなづき、なのはたちのほうへ向かった。なのはたちが離れたのを確認すると、シモンは化け物に向き直し、構える。

 

「おうおうおうおう!耳の穴かっぽじってよぉく聞きやがれ、毛むくじゃら野郎!異なる世界に飛ばされようと、意地と気合で困難破る!穴掘りシモンたぁ俺のこ「ヴォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」どわっ?!」

 

シモンは化け物に向かってかつてのように名乗りをしようとしていたのだが、化け物にはそんなことは関係なく、ジャンプして上からシモンを押しつぶそうとした。シモンは前に跳ぶことで回避する。

 

「名乗りは最後まで聞きやがれ!」

 

地面を踏みしめ、腰をひねり、右腕を振るう。体重の乗った右ストレートが化け物の眉間にぶつけられた。が、

 

 

     ボスン!

 

 

「なっ?!」

「ヴオアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ガハッ?!」

 

シモンの渾身の拳は特別な力も込められていないただのパンチ。化け物の濃い毛に衝撃を吸収され、本体に届くこともなかった。化け物はがら空きになったシモンの胴体に勢いよく突進し、シモンを壁にたたきつけ、めり込ませた。

 

「お兄さん!」

「……ゲホッ!ったく、やってくれるぜ……!」

 

全身を打ち付けられたがどこかが折れたというようでもないと分かり、再び化け物に向かう。

 

「もう一度だ!うおおおおおおおおおおお!」

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「前がだめならっ、横だああああああああ!」

 

まっすぐ向かってくる化け物に対し、体を回転させて受け流し、顔の横からぶん殴る。直線的に進む物体は正反対の方向の力に対しては強いが横からの力に弱く、突進の勢いも合わさって、その巨体は斜め前に吹っ飛んだ。壁に激突した化け物は唸り声をあげてこちらをにらんでくる。

 

「はぁ、はぁ、あんま建物、壊したくないのにな。はぁ、ってそんなこと言ってる場合でも、ないか!」

 

乱れた息を治すこともせず、再びシモンは走りだす。それに気づいた化け物は同じくシモンに向かって跳んでくる。シモンはぶつかる直前で今度は思い切りしゃがんでからジャンプし、化け物の頭上をとる。

 

「うおりゃああああああああああああ!」

 

ジャンプする前にすでに右手は構えており、上から全力でたたきつけた。

 

「ヴアアアアアアアアア!」

 

拳を食らった化け物は地面を滑るようにその体で地面をえぐっていく。

 

「……すごい……」

 

なのはの口から出たのは感嘆の声。自分の体の何倍もの大きさと体重を持つ相手を、攻撃をかわしながら反撃する、何度も決まるカウンターに、少女はくぎ付けになった。

 

「これなら倒せるんじゃ……」

「……ダメなんです、あいつは普通の攻撃じゃ何度倒しても復活する。それに、あの程度じゃダメージなんてほとんど入ってません……」

 

その言葉の通り、化け物が息を切らしている様子はなく、次第にシモンに突進が当たるようになってきた。

 

「はぁ、くそ、こいつ!」

 

守りと攻めを両立するカウンターは集中力と体力を著しく消耗する。こちらの攻撃が通らない以上、カウンターを繰り返してしていくうちに、シモンの集中力と体力は削られ、突進を食らうようになっていった。

 

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「っ!?があああああああああっ!!」

 

一瞬の隙を突かれ、化け物から伸びた四本の触手がシモンの腹を貫き、まともに突進を受けたシモンは空き家の壁ごと吹っ飛ばされる。

 

「ブィ!?」

「ああっ!」

「……このままじゃあの人もまずい。お願いです、お礼は必ずします。だから早く魔法の力を!」

「っ…でも、どうすればいいの?」

「これを使って!」

 

そう言ってフェレットは首輪についていた赤い玉をなのはに渡す。赤い玉はわずかに熱を帯び、神秘的に輝いていた。

 

「それを手に、目を閉じて心を澄ませて。僕の言うことを繰り返して」

「う、うん」

「いい?いくよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……痛ってぇ……最後の一発、今までとは威力が全然ちがった……。本気じゃなかったってことかよ……)

 

吹っ飛ばされた先の空き家の庭で、シモンは全身の痛みで動けずに倒れていた。

 

 

 

 

 

「「我、使命を受けし者なり」」

 

 

 

 

 

(……あいつを倒すって息巻いてたくせに、いざ戦ってみたらこのざま……俺は本当に穴を掘るかグレンラガンで戦うかしか能がないよなぁ……)

 

 

 

 

 

 

「「契約の元、その力を解き放て」」

 

 

 

 

 

 

かつて仲間から言われた言葉を思い出し、自虐的になっていく。腹の傷口からは出血していて、どんどんシャツを赤く染めていった。だんだんとシモンの意識は遠のいていく。だが、

 

(でもさ……かなわなくても…あきらめたくはないんだよ。…あいつを放っておいたら大変なことになる。士郎たちはもとより……今そこにいるなのはが危ない)

 

……ドクン

 

 

 

 

 

 

「「風は空に、星は天に」」

 

 

 

 

 

 

(だから、まだなんだ。まだ俺はすべてを出し切っちゃいねぇ。だからまだ倒れるわけにはいかねぇ!)

 

……ドクン……ドクン

 

 

 

 

 

 

「「そして不屈の心は「ヴォオオオオオオオオオオ!!!!!!!」っ!?」」

 

電信柱の陰に隠れていたなのはたちに気づいた化け物は、唸り声をあげてなのはに向かって突進してくる。なのはが振り向いた瞬間にはすでに目の前に迫ってきており、どう動いても避けられはしなかった。

 

「ブミュウ!」

「ブータ君!?」

「だめだ、君の小さい体じゃ、どうやっても止められない!」

 

なのはの肩に乗っていたブータはシモンの言いつけ通り、なのはたちを守ろうとその身を盾にしようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな絶体絶命の時、彼は何と言っていたか。何と言って自分たちを鼓舞してくれたのか。幾度となく自分たちを助け、支え続けてきたその言葉を、シモンは腹の底から思いっきり叫んだ。

 

 

「無理を通して道理を蹴っ飛ばすんだよぉ!!!」

 

 

……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン…ドクン……ドクン……ドクン…ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……

 

シモンの想いに比例して、シモンの中で眠っていた力が目を覚ます。脈打つように大きくなっていく力はシモンの体からあふれ出して、暗闇の中で淡い緑色の光を発し、はたからみればシモン自身が輝いているようにも見えた。するとすぐに光はシモンの腕と脚の周りに収束しはじめる。

 

満身創痍のはずのシモンは立ち上がり、なのはに突進しようとしている化け物をにらみつける。そして足に力をこめ、全力で地面を蹴った。

 

「てめぇの相手は、俺だぁあああああああああああああああ!」

「ヴォオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

一瞬で化け物の前に回り込み、顔面を思いっきりぶん殴った。シモンの突然の出現に驚いた化け物は避ける暇もなくシモンの拳に打ち上げられ、3ブロック先のT字路まで吹っ飛ばされた。

 

「なのは、いまのうちだ!」

「えっ、あ、はい!」

 

 

「「そして不屈の心は、この胸に!」」

 

 

 

「「レイジングハート、セットアップ!」」

 

[standby ready,setup]

 

宝玉には似つかわしくない電子音が響くと、玉からは桃色の光があふれ出す。膨らみ続ける光は光の柱を作りだし、雲をも貫いた。

 

「まずは落ち着いて。それからイメージして。魔法を制御する杖を。そしてその身を守る強い戦衣を」

「せ、センイって…」

「戦うための服ってことだ!」

「そ、それじゃあ、とりあえずこれでお願いします!」

 

光はなのはを包み込み、なのはの衣服を分解、再構築していく。光がおさまるとそこには、さきほどまでの服とはまったく印象の異なった白い衣装を身にまとい、右手にはいかにもというべき魔法の杖を携えたなのはの姿があった。

 

「これが、マホウってやつか……まだ早着替えにしか思えないけど」

「早着替えって……でもイメージした私が言うのもアレだけど、これって本当にそんなすごい服なの?どうみてもアレンジした制服みたいなんだけど……」

「大丈夫。外見はなんであれ、そのバリアジャケットは君の身を守る最強の鎧となる。ちょっとやそっとの攻撃じゃびくともしない」

 

なのはの身にまとう戦闘服はなのはがいつも着ている制服をいじったようなものだった。その見た目に不安になったなのははフェレットに尋ねるが、フェレットは自信をもってその頑強さを肯定した。

 

「それで、私は何をすればいいの?」

「ジュエルシードを封印するんだ。あの化け物はそのジュエルシードが暴走して生まれたものだから、封印してしまえばもう復活することはなくなる」

「じゅえるしーど?」

「ジュエルって確か宝石のことだよね?そんなきれいなものあの体のどこに……」

 

 

「来ます!」

 

 

話をしている間の隙を狙い、化け物は体を回転させ、シモンたちに突っ込んでくる。

 

「ならもう一発!」

 

なのはたちにぶつかる前にシモンは迎撃しようとする。しかし、

 

「うおあああああああああ!?」

「って何やってるんですか?!」

 

先ほどと同じように脚に力を入れたのだが、今度は勢いあまって化け物を通り過ぎてしまう。

 

「力の制御が……っ、やべぇ、なのは!」

 

化け物はシモンをかわし、今度こそなのはへと体当たりを決めようとする。

 

「身を守ることをイメージして!」

「えぇと、えと、はい!」

 

[protection]

 

杖の先端に付いた玉の部分から電子音が響くと、杖を中心にドーム状のバリアが展開される。けたたましい衝撃音を響かせながら衝突した化け物は、しばらく拮抗したあと、ばらばらにはじけ飛んだ。その威力はすさまじく、破片は壁や道路に突き刺さり、電信柱に至ってはぽっきりと折れてしまった。

 

 

「すっげぇな。俺があれだけ苦労した相手を一発で……」

「あの、私にも何が何だか……」

 

力の暴発で吹っ飛んだシモンが走って戻ってきた。シモンはその威力に驚くが、なのは自身、自分が何をしたのか理解が追いついていないようだった。

 

「それで、封印なんだけど、さっきみたいに基本的な防御魔法や攻撃魔法は心に願うだけで発動します。けど、より大きな力を必要とする魔法、つまりこの場合は封印魔法なんだけど、それには呪文が必要なんです」

「呪文?」

「心を澄ませて。心の中にあなたの呪文が浮かぶはずです」

 

(こころの中に浮かんでくる、か。懐かしいな。俺が初めてラガンを動かしたときもそんな感じだったっけか)

 

目を閉じて集中するなのは。はるか昔、初めてラガンに乗った自分を見ているようで、シモンは無性に懐かしさを感じる。しかし、話しているうちに、ばらばらになったはずの化け物の欠片はそれぞれが動いて集まり、今にも復活しようとしていた。

 

「さて、と。そろそろお出ましのようだぜ。準備はいいか、なのは!」

「……はい!」

 

「ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

目を見開き、今までよりもさらに加速して接近してくる。と、思ったら、

 

「えっ!?」

「何っ!?」

 

化け物はシモンたちを飛び越え、反対方向へ逃げようとしていた。

 

「どうしよう、逃げられちゃう!」

「任せろ!」

 

(制御がきかない今、細かな方向転換はできない。まっすぐ跳ぶことだけ考えろ!)

 

跳んで逃げる化け物を見据え、三度目の全力立ち幅跳び。シモンが脚に意識を集中させると、淡い光が集まり、収束して輝き始める。そして、

 

「いっけぇええええええええ!!!」

 

地面を蹴る。爆発的な速度で飛んでいくそのさまはまさに砲弾。そのスピードは音速を越え、シモンは文字通り、音を置き去りにした。

 

「つううううかああああまああああえええええたああああああ!!!!!」

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

飛んで行ったシモンの体は化け物にクリーンヒットし、勢いを殺された化け物は地面へと落下していく。シモンは化け物の体にがっちりとしがみつき、その自由を奪う。化け物は抵抗して振り落とそうとするが、腕に力を集中させたシモンを振り払うことはできなかった。

 

「あとは任せた!」

「はい、まかされました!」

 

魔法の杖、レイジングハートを構え、なのはは封印の呪文を唱える。

 

「リリカル、マジカル」

「封印されしは忌まわしき器、ジュエルシード!」

「ジュエルシード封印!」

 

[sealing mode setup]

 

レイジングハートから光の羽が出現し、化け物に向かって伸びると、その体をがんじがらめにし、化け物の額にはローマ数字が浮かび上がる。

 

[standby ready]

 

「リリカルマジカル、ジュエルシード、シリアル21、封印!」

 

[sealing]

 

光の羽は槍のように化け物の全身を貫き、浄化されたように化け物の体は消えていく。

 

「っ!……これって!?」

「ああ、そっくりだな……」

「これがジュエルシードです」

 

化け物の体が消え去った後に残った石。それはシモンが持っているものとそっくりだった。

 

「レイジングハートでジュエルシードに触れて。それで回収できるから」

 

なのはがレイジングハートを近づけると、ジュエルシードは浮き上がり、レイジングハートの赤い球状の部分に触れ、内部に回収される。それと同時に、なのはのバリアジャケットが解け、普段着に戻った。

 

「これで一応一件落着ってとこか?」

「はい、あなたたちのおかげで。…ありがとう…ござい…まし…た……」

「あ、ちょ、ちょっと、大丈夫!?」

 

ケガが治っていないのに無理をしたせいか、フェレットは気絶してしまう。慌てるなのはだが、すぐにパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 

「けっこう注意して戦ったつもりだったけど、家の壁とかぶっ壊しちまったもんな。仕方ないか」

「なんて言ってる場合じゃないですよ!?私たちここにいるとかなりまずいんじゃ……」

「ははっ、そうだな。じゃあ警察には悪いけどここでおさらばさせてもらおう」

「え、あ、あのー!?」

 

シモンはなのはたちを背負い、早々に現場を去っていく。こうして、シモンたちにとって初めてのこの世界の未知との戦いは終わったのであった。

 

 

 

 




何とか第1話終了できました。なんかシモンが超人になってますが気にしない!(白目
ガンメンとの戦闘経験は豊富だし、ヴィラルとケンカした時も跳んだり跳ねたりしてるからこれくらいできるんじゃないかなぁ(汗。
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