螺旋と星と雷と    作:螺旋

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第8話 4人の秘密、男の「力」

 化け物が暴れた住宅街を避けるために大きく迂回しながら、なのはとシモンは家に向かっていた。だがその足はやや重い。その理由はと言えば、

 

((絶対怒ってるだろうなぁ…………))

 

 士郎たちに無断で外出してしまったことだ。そもそもシモンはなのはに伝言を頼んでユーノの助けに行くつもりだったのだが、なのはといっしょに行くことになり、事の重大さも相まって伝え損ねてしまった。それをついさっきまで二人とも忘れていたのだ。もうかれこれ2時間は過ぎている。士郎たちに怒られるのはまず間違いないだろう。

 

「まぁ心配するなって。結局お前を連れ出したのは俺みたいなもんだったしな。お前が怒られることはないと思う」

「あの、それについてはいいんです。私も怒られるのは覚悟してますから。ただ、お父さんたちには魔法を内緒にすること、お兄さんにも押し付けちゃって、その……」

「あぁ、それくらいどうってことねぇよ。そもそも俺もお前たちに話してないことは山ほどあるんだ。一つや二つ隠し事が増えたって変わらないだろ」

「それはそれでどうかと思いますけど?」

「うっ……ま、まぁ、それはおいおい、な?」

「もう……絶対ですよ?」

 

 ユーノの手伝いをするとは言ったが、やはり家族のみんなに心配はかけたくないということで、とりあえずジュエルシードを集め終わるまでは、なのはは魔法のことを4人の間だけの秘密にすることにした。そのためにはシモンにも魔法に関することは黙ってもらわなければならない。なのははそのことがシモンの負担になっていないか気になっていたが、やはりというべきか、男は全く気にしていなかった。それはそれでいいのだが、そのあとの発言が気に障ったようで、なのはは頬を膨らませてシモンに抗議した。

 

「いいんですか?僕もいっしょにっていうのは。やっぱり動物病院に戻してもらったほうが……」

「大丈夫だよ。もともとユーノくんを預かるのは決まってたことだから」

「それに今戻るわけにもいかないだろ?たぶんもう警察が捜査始めてるだろうし」

 

 ユーノはユーノで自分がいっしょになのはの家に行くことが迷惑になりはしないかと心配していたが、夕飯の話の通りユーノを一時的に受け入れることは決まり切っていたので、その心配はすぐに解消された。また、今動物病院に戻るということは自分たちから警察に近づくことになり、さらに面倒なことになりそうなので、どちらにしろなのはの家で預かったほうが都合がいいことに変わりなかった。

 

「さて」

「「どうかばれませんように……」」

   

 そうこうしているうちに家の玄関にたどりついた二人。神社にお参りするかのように手を合わせてばれないことを祈る。そして、士郎たちに聞こえないようにそーっと戸を開けて中に入ろうとするが、

 

「こんな遅くに三人でどこへおでかけだ?」

「「いっ?!」」「ブッ!?」

 

希望は一瞬にして崩れ去る。

 

 そこには腕を組んで仁王立ちした恭也がいた。こころなしかやや眉が上がっている。恭也が怒っているのは明らかだった。

 

「お兄ちゃん、あ、あの、えと、その……」

「あ、お、俺がフェレットを見たくてさ、なのはに頼んで動物病院まで案内してもらったんだ」

「フェレット?」

「そ、そうなの!」

 

 なのははシモンの話に合わせ、後ろ手で隠していたユーノを恭也に見せる。

 

「だけどシモン、なんでこんな時間に?明日でもよかっただろう?夜は危ないってのは向こうでも同じなんじゃないのか?」

「あ、あぁ、悪ぃ、それはわかってたんだが、夕食の時の話でどうしても気になってな……」

「……本当にそうか?」

「あの、お兄さんのお願いもあったけど、私もこの子のケガが心配だったし、お兄さんがいれば夜でも安心かなって……」

 

 シモンのたどたどしい様子を見て、なのははとっさにカバーした。

 

「お前の気持ちもわからんではないが、シモンもいっしょとはいえ、せめて俺たちに一言言ってから出かけてくれ。お前のことだから面白半分で出かけることはないとわかってはいるが、やっぱり心配なんだよ」

「う、うん……ごめんなさい」

「シモンも!こんな夜遅くになのはを外へ連れ出すようなことは控えること。あんまり癖になってもいけないからな」

「あ、あぁ、すまん、恭也……」

 

 恭也はシモンとなのはに注意する。それでもまだ恭也の腹の虫はおさまりそうになかった。

 

「まあまあいいじゃない。こうしてみんな無事に戻ってきてるんだし、なのはは良い子だからもうこんなことしないもんね?」

「お姉ちゃん……うん」

「それと、私からもシモン君とブータ君にお願い。いくらあなたが中身は大人とは言っても急にいなくなるとこっちも心配になるから、出かけるときはちゃんと家の誰かに言うか書置きを残すこと。わかった?」

「わかったよ、美由希。次からは気を付ける」「ブーム!」

「よろしい♪ねっ、これでいいでしょ、恭ちゃん?」

「ったく、しょうがないな」

「はい、これで解決!」

 

 後ろから顔をのぞかせて間に入ってきた美由希が二人に助け舟を出す。それを見てやれやれという感じで恭也もやっと納得した。

 

「それにしてもやっぱりかわいいわね、フェレットって」

「ユーノくんっていうんだって」

「あ、名前わかってたんだ」

 

 美由希はなのはからユーノを受け取り、両手で持ちあげてまじまじと見ていた。

 

「あ~、写真とかで見るよりも10倍かわいいかも。母さんなんかこの子見ただけで悶絶しちゃうね、絶対」

「まぁその可能性は否定できないな」

 

 美由希の予想に恭也は賛同する。かわいいもの好きな母ならばこのフェレットを気に入るのは目に見えていた。だが当のフェレット本人はというと

 

(えっと、もしかして、僕これから……)

((その……がんばれ(って)……))

 

 高町家の母にフェレットとしていろいろとスキンシップをとられるだろうことに、ユーノはちょっとげんなりしていた。シモンとなのはは心の中でがんばれと言うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっと終わった……」

「お疲れさま、ユーノくん」

「ブ~ブ」

 

 一度4人はシモンの部屋となった書斎に集まった。

 家に上がった後、シモンたちは意外にも士郎たちに怒られることはなかったが、恭也たちと同じようにちゃんと出かけるときは言伝を残すことを約束するように言われた。それから士郎と桃子、特に桃子のほうがユーノのことを気に入ったようで、ユーノを抱っこしたり、お手をさせたりしては悶えていた。そのたびにユーノの体が揺さぶられるものだから、ユーノにとっては軽い絶叫アトラクションのようなもので、結構体力が削られたようだ。そして

 

「こっちはどうにかばれずにすんだな。このまま見つからないようにどこかに隠しておかないと」

 

そういうシモンはパーカーを脱ぐと、その下に着ていたボロボロのシャツを脱いでタンスの一番下の奥にしまう。問題のシャツはパーカーの前のファスナーを閉じてシャツを見えなくすることで士郎たちの目を乗り切った。昼間は開けっ放しだったので不自然に思われなくもないが、まだ春の始めで夜が肌寒かったことが幸いして、ファスナーを閉じても疑問に思われなかったのだ。家に入る前にばれるのを気にしていたのはシャツのことのほうが結構大きかったりする。

 そして、このボロボロのシャツが士郎たちに見つかれば、さすがにそれ以上ごまかすことはできない。必ず問い詰められ、魔法について話さなければならなくなるだろう。それを防ぐために、このシャツを見つからない場所に隠すことが最優先事項だった。

 

「もしかしてお兄さん、嘘つくの苦手だったりします?さっきちょっとお兄ちゃんにばれそうだったので……」

「ははは、悪い、昔からあんまり得意じゃなくてな。そもそも嘘をつかなきゃいけない時も少なかったし」

 

 恭也に問いただされたとき、シモンのぎこちない様子に恭也に怪しまれかけたことがちょっと気になっていた。

 

「いつか士郎たちにこんな嘘つかなくてもよくなる日がくるさ」

「…そうですね。私もずっとお父さんたちに隠し事を続けるなんて嫌ですから」

 

 やはり二人とも後ろめたさは感じていて、気持ちの良いものではない。それでもやると決めた以上、最後までやり切る意思もあった。

 

「それで、シモンさん。質問したいことがあるんですけど、いいですか?」

「あぁ、いいぜ。って言っても、お前の聞きたいことってのはあの力のことだろ?」

「はい。シモンさんが使っていた力が魔法でないことはなんとなくわかります。ただ、魔法以外にあんなことができる力があるなんて聞いたことがないので、すごく気になって……」

 

 ユーノは戦いが終わってからシモンの使った力の正体について質問したかったのだが、魔法やジュエルシードの説明等に時間を割いてしまい、今まで質問できずにいた。今後の方針も決まって今度こそ落ち着いて話をできるようになったので、シモンに力について尋ねようとしたが、その質問が来ることはシモンも想定の内だった。

 

「その前に俺もお前に聞きたいことがある。さっきお前は『この世界』と言っていたけど、異世界っていうのはあるものなのか?」

「はい、あります。次元世界と呼ばれていて、無数に存在するんです。それが何か?」

「あぁ、ちょっとな。じゃあ、この世界以外の次元世界で『地球』って名前の星はいくつある?」

「この世界以外で、ですか?うーん…………聞いたことはありませんね。無数に世界が存在するので、同じ名前が付けられた星があるというのはごくまれにありますが、おそらく地球という星があるのはこの世界だけだと思います」

「そうか、わかった」

「?」

 

(ユーノが言うところの異世界と多元宇宙はまったくの別物っていうことか。そうするとやっぱ帰る方法は自力で見つけるしかないな)

 

 シモンとしては一応確認しておきたいことだった。異世界というものがあるのならば、自分のいた地球はその中のどれかに属しているかもしれない。だがユーノがそれを否定したことで、この宇宙で言う次元世界と多元宇宙が異なるものであることがわかり、その可能性はなくなった。

 

「で、あの力についてだったな。あれは正直言って俺にもよくわからない」

「えっ、わからないんですか?」

「あぁ、今まで生きてきた中であんな風にすげぇ速く動けたり、力が出せたりってのはなかったからな。ただ思い当たる節がないわけじゃない。それが螺旋力っていう力だ」

「「螺旋力……?」」

 

 まったく聞き覚えのない名前の力になのはとユーノは首をかしげる。

 

「お前が聞いたことないのは当たり前だ。おそらくどの次元世界にも存在しない力だろうし」

「どの次元世界にも存在しない?そんな力をどうしてシモンさんが……」

「それなんだけどな。なのはたちにはもう話してるんだが、俺は多元宇宙っていう、まぁつまりは別の宇宙の地球の人間なんだ」

「べ、別の宇宙!?だからさっき……」

 

 シモンの話にユーノは最初に話を聞いた士郎たち以上に驚いていた。魔法という力や次元世界の存在を知っているからこそ、いまいち異世界について実感のなかった士郎たちよりも衝撃が大きかったのだろう。

 

「あぁ、そして俺の住む宇宙にいる人間はみんな螺旋族って呼ばれてる」

「お兄さんが夕べ話してくれたことですね。それじゃあもしかして、螺旋族が使うことができる力が螺旋力ってことなんですか?」

「そういうこと。正確には螺旋力を使えるから螺旋族って呼ばれてるんだよ」

 

 特徴的すぎる種族と力の名前から、この2つが何らかの強い結びつきがあることを推測するのは、なのはにも容易であった。

 

「螺旋力を使うと螺旋族は進化することができるらしい。昔そういう専門的なことをよく知ってる仲間がそう言っていた。俺には詳しいことはよくわからないが、この力は力を使う本人の気持ちが熱くなればなるほど大きくなる。要するに気合と同じようなものだ」

「気合って……そんな簡単に済ませられるものじゃないと思うんですけど……」

 

 ユーノはとてつもない力を気合の一言で片づけるシモンに少々呆れていた。

 

「けどあんな力の使い方は俺自身したことがないからなぁ。なんで螺旋力であんなパワーアップしたかなんて心当たりないぞ?」

「じゃあ、お兄さん以外であんな風になることができる人はいなかったんですか?お友達とか知り合いとかに」

「友達……知り合い、ねぇ………………あっ………………」

「ちょっ、ど、どうかしたんですか?」

 

 なのはの言葉を受けていろいろ思い出そうとしていたシモンは、急に何かを思い出すとみるみる顔が青ざめていく。その様子に声をかけるなのは。すると、

 

「あった…。そういやあったなぁ、そんなこと……。あのとき俺死にかけたっけ……」

「「死にかけた!?」」

 

 まさかの死にかけた発言が飛び出し、驚くユーノとなのは。

 シモンがそのとき思い出していたのは、ちょうど今の姿と同じとき、つまり14歳の時の、螺旋王ロージェノムと戦った時の記憶。ロージェノムのガンメン・ラゼンガンを打ち破り、勝負がついたと思われたそのとき、ラゼンガンを乗り捨て、頭に螺旋力の炎を灯したロージェノムが、シモンたちの乗るラガンを圧倒したのだ。螺旋力によって大幅に力を増したロージェノムは、それまで何物にも傷つけられることがなかったラガンを機能停止まで追いやり、パイロットであるシモンをも殺しかねないほどの力を見せた。

 そのときの螺旋力の使い方とそっくりだったのだ。シモンの場合はパワー重視ではなく、パワーとスピードのバランスが取れてはいたが。

 

「そう考えると螺旋力ならあれくらいできても不思議じゃないか。それに螺旋力は生命エネルギーみたいなものだから、あの腹の傷の修復も螺旋力のおかげってことで間違いないだろう」

「本当に不思議な力ですね。魔法とは根本的に異なる力みたいですし」

 

「ふわぁ~ぁ、あ、ごめんなさい……」

 

 シモンとユーノが話に夢中になっているうちに、なのはは舟をこぎ出していた。やや涙目になっていて目をこすっているのを見ると、相当眠そうだ。

 

「っと、でかいあくびだな。そうだな、難しい話はこれくらいにして、もう寝ようぜ。今日一日いろいろあって大変だったし、なのはも疲れたろ」

 

「は~い。それじゃあおやすみなさい、お兄さん、ブータ君」

「おやすみなさい、シモンさん、ブータさん」

 

「あぁ、お休み」

「ブミュイ」

 

 そう言って二人は書斎を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ユーノくん」

「どうしたんですか、なのはさん?」

「あ、できれば『さん』は付けないでほしいな。それと敬語じゃなくていいよ」

「わかり、いや、わかったよ。えっと、じゃあ、どうしたの、なのは?」

「お兄さんって、不思議っていうか、なんかこう、変わってる、よね?」

「シモンさんのこと?確かに螺旋力っていう力が使えるから、他の人とは違うと思うけど」

「ううん、そういうことじゃなくて。なんていうかこう、雰囲気、みたいな?」

 

 ベッドの中でシモンのことを思い返すと、やっぱりどこか変わっている人だと思う。見た目が子どもで中身が大人ということもあるが、なのはの知っている大人というものとシモンは決定的に何かが違う。

それが何なのか、考えを巡らせていくうちになのははそのまま深い眠りに落ちていった。

 

(私の素直な気持ち…か……。そんなこと言ってくれたのは、お兄さんが初めてかも……)

 

 こうして、なのはにとって最も長く不思議な一日は終わりを告げたのだった。

 

 

 

 




えー、読んでくださった皆様に向けて一言。

ナズェミテルンディス!? Σ(0w0;)




お気に入り登録者数とかUAとかが急に増えたことにめちゃくちゃ驚きました。もちろん大変うれしいです。しかし、それ以上に驚きのほうが大きかったですね。時間はかかりますが、これからも読んでいただけるとありがたいです。
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