號熱鋼神インフィニット・ストラトス~獅子王者伝説~   作:バルバトスルプスレクス

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前々から構想していました

自分なりのスパロボ系胸ライオンISをお楽しみに


第一章 入学、IS学園

 

 それは、始まりでもなければ終わりでもない。むしろ切っ掛けに過ぎなかったのだ。

 突如として各国の軍事施設等で2341発の弾道ミサイルが一斉に日本に向けて発射された。各国の軍事施設の殆どが何者かによってハッキングされて起きた事なのだが、この事件に於いて重要なのは、問題なのは、厄介なのはそこではない。

 日本の上空に、それはいた。

 白い装甲に身の丈ほどの剣を手に滞空していたそれは、旧来の軍事兵器よりも速く、より強く、それでいて美しい姿をしてミサイルを総ていともたやすく、瞬く間に切り捨てたのだ。

 その鎧の正体は、宇宙開発用マルチフォームスーツその名をインフィニット・ストラトス。通称ISとするそれは、自称天才と豪語する篠ノ之(しののの)(たばね)当時十代後半の少女が考案し、学会にて提唱されていた。しかしその際に欠点として女性にしか扱えないと言う事実があり当初は見向きもされなかった代物だったが、この事件に於いてその有用性を見出されるのだった。皮肉にもそれは、当初の使い道であった宇宙開発ではなく、旧来の軍事兵器を圧倒的に凌駕する性能を有している為に軍事用としての評価をされてしまった。

 後に、『白騎士事件』と称されるようになったこの事件は、後年に更なる影響を与えるのだった。

 これは人にとって良い影響でもあれば、悪い影響でもあるのだった。

 

 

 その白騎士事件から、十年近い年月が経った。世界はISの女性にしか扱えないという最高な欠点により、女尊男卑の時代に突入していた。その以前から匂わせていたそれは、ISの登場により爆発。一気に男女のパワーバランスが変わってしまったのだった。

 現にISは今までの兵器を鉄くず同然の扱いに出来るほどの高い性能を有しているせいで、それが扱えるのは女性だけ、つまりは女が最強など世間は言う。

 しかしそれはあくまでも都心部での話。郊外や田舎などの山間部等には昔から男女間の助け合い精神があってか、そんな思想はどちらかと言えば排他的であった。

 人口は決して多くない約1700人ほどが生活するこの町、(あか)(つき)町。この町は数百年前に隕石と共に巨大な虫のようなバケモノが現れ、当時の住民が知恵を出し合って対峙したと言う伝説が残っているが、文献以外の証拠が一つも残っていないため、真実かどうかも疑わしい。

 その町立中学校に通う三年生の少年遊薙(ゆうなぎ)(ゆき)と双子の弟の咲羅(さくら)は自宅の部屋で十年来の友人門哉(かどや)慎也(しんや)と三人でテレビに映った緊急速報に目を奪われていた。

 元々は地元の県立高校の受験を終えて後は合否を待つだけだったのだが、三人でテレビゲームの休憩がてらに付けた番組に『世界初、ISを起動させた男子中学生織斑一夏』という見出しと内容に三人は終始唖然としていた。更には明日以降から全世界一斉に可動テストが行われる旨が発表された。

 ニュースが終わった所で、雪が眼をぱちくりとさせながら呟く。

 

「なぁにこれぇ……」

 

「ちょっと待てよ…全国一斉の可動テストって明日……だったよな兄貴」

 

「う、うん……」

 

 弟の咲羅も雪と顔を見合わせて言った。

 

「……面倒な事になったな」

 

 慎也が言った。それは織斑一夏に言ったのか、それは明日自分らが受ける検査の事を指しているのだろうかわからない。

 何はともあれ当日にならなければ分からない事だけだ確かなのだ。

 

 

 翌日は一時間目から雪たちが通う中学校で適性検査が体育館で始まった。

 検査する為に使用するIS打鉄が三機並べられており、この中学校に通っている男子生徒が学年順に並んでいた。向かって右から一年、二年、三年生の順に別れるのだが、この中学校は一学年一クラスしかない。その三年生の列の中で雪は内心緊張していた。

 

「(周りの皆は受かればハーレムだとか言ってたなぁ……まぁ確かにそれはそれで良いかもしれないけど…いざこうして本物のISを見ると……何だか緊張しちゃうなぁ)」

 

 緊張はしてはいるが、雪の検査までは時間がある。まずは落ち着こうと深呼吸した矢先だった。先頭の方がやけに騒がしくなって気になった雪が視線を向けると、何と慎也が打鉄を起動装着していたのだ。雪や彼のの前に並んだ咲羅だけでなく、この場に居た全員が驚きに満ちていた。

 慎也も自分が今どういう状況にあるかを理解しておらず、装着解除した後は先生か係員の人に別室に連れて行かれるのであった。

 それから波一つ立てない水面のような静けさが続いたが、一転して歓声に包まれた。野太く響くその歓声に雪は即座に両手で耳を塞ぎ、咲羅は呆れたと言わんばかりに溜息を一つ。周囲の口々からは「可能性はある」だの「ハーレムも夢じゃねぇ!」だのと断片的に聞こえてはくるが、慎也が適合したとして自分らも適合してかのIS学園に行けるとは限らない。それとは別に雪や咲羅と同じように騒ぐ彼らに呆れる者も少なくない。

 しかしそれからは何処からも誰も適合者は出なかった。

 そもそもポンポンとガチャガチャの様に簡単に男性IS適合者が出たら、女性にしか使えないISの常識を完全否定する事になる。もしそうなればまた世界は違うものに生まれ変わるのだろうか。そう思いながら雪が視線を向き直すと、次は咲羅の番だった。

 もうそんな頃合いなのか、あっという間だな。と、雪がそう思った瞬間の事だった。

 

「あ、兄貴……!!」

 

「ん、どうし……え?」

 

 それは紛れもない事実。今この場で二人目の、世間からしたら三番目の男性IS操縦者が誕生したのだから、慎也の時と同じようにまた周囲が騒めきだした。今度は呆れていた者でさえも流石に声を上げてしまっていたのだから事の重大さが良く解る。

 その後は咲羅も装着を解除されると慎也と同じように別室に連れて行かれた。

 ここまで来ると、周囲の目が一気に雪に注がれる。適合できなかった者とこれから検査する者の幾多の視線を受けている雪は急に胃が痛くなるのを感じた。一気に突き刺さる様に集中する視線は期待の表れか妬みや嫉妬の表れなのかは分からない。

 

「えっと…次はお兄さん……かな、さっきの子の」

 

 打鉄の脇に居た係員の女性が、名簿と雪の顔を交互に見ながらそう言った。さっきの子と言うのは咲羅の事を指している事は明らかなので、「あ、はい」と短く言った。雪もまさか弟さえも適合出来た事実に呆気にとられつつも、ゆっくりと打鉄に触れる。

 次の瞬間、雪の視線は全く別の世界を映していた。

 その世界は一言でいえば『サイバー空間』と言ったところか。黒や緑を基調とした空間に数字や文字の羅列が上下左右と一斉に流水の如く流れていく。それらは雪の脳内に入り込み、徐々にその意味を示し始めて行った。

 最後に雪の視界に映ったのは、『シールドエネルギー残量650』『システム異常無し』『搭乗者の生体状況を確認』の三項の文字と見慣れた体育館の内装と、息をするのも忘れた学友たちのマヌケ面だった。

 

 

 全世界一斉IS適合テストから数か月が経った四月上旬。

 桜が舞い散る季節はこれから新生活を送る学生や社会人を祝う季節とも言えよう。暖かく心地よい風と澄みきった青空の下は例年通りなら学校や会社にて、新入生や新社会人の期待や不安で満ち満ちている筈なのだが、現在雪と咲羅、慎也だけでなく織斑一夏の四人がいる場所には期待すらなかった。

 

「それでは皆さん、私がこのクラスの副担任の山田真耶です。これから一年間、よろしくお願いしますね?」

 

 子供が無理して大人の服を着た様な、眼鏡と豊満な胸が印象的な彼女の言葉に誰も答えなかった。いや、答える余裕は無いと言ったところだろう。

 教卓前の縦横二マスを陣取った雪たちに、周囲の女子生徒達が注目しているのだから。

 ここIS学園の一年一組の教室内。そこに雪たちはいた。彼らは世界で四人しかいないIS装着者で、半ば強制的に入学させられたのだ。

 

「あ、え……えっと、それじゃあ皆さん一人一人自己紹介をお願いしますね」

 

 充分な反応が返ってこない事に若干の苦笑いを浮かべる真耶。そのまま待っても返事が返ってくることはまずないので、そのまま次の段階へ進めた。

 そうして、世界で一番目にISを装着した男、織斑一夏の自己紹介の番が始まる。やっと自分の番であることを理解し、起立したは良いのだが誰がどう見ても緊張しきっている顔をしていた。

 

「織斑一夏…です……以上!!」

 

 その瞬間、誰かがこける様なアクションを取る前に、出席簿が落ちた。大凡紙などでは起きない衝撃音に、思わず咲羅は(おのの)き、慎也は動じず、さらに衝撃を受けた一夏の隣にいた雪は思わず耳を塞いでしまう。それ程の衝撃だった。

 打たれた一夏は何故か煙を立てている頭を両手で押さえながら、視線を上げる。

 

「げぇっ、関羽!」

 

 その瞬間、二度目の衝撃が一夏の頭部を襲った。この二度の衝撃によって一体一夏の脳細胞はどれ程死滅したのだろうか。叩き過ぎは良くないのだが、この場合はどう鑑みても一夏に責任が多い様で同情の余地はない。何一つない。例え、威圧感が似ていたとしても言葉にするのは無粋である。

 尚も煙を上げる一夏の頭を尻目に千冬は得物の出席簿を教卓に置き、一組生徒達を見渡した。日本全国は兎も角世界各国から狭き門を潜り抜けてここに居る生徒達の眼を。しかし、その中で強く鋭く光る眼はほんの僅か。それ以外は意志の強さが見受けられなかった。

 

「諸君、まずは入学おめでとう。私がこの一年一組を受け持つ、織斑千冬だ。私の役目は諸君ら若干一五歳を十六歳までにまともな操縦者にさせる事。これからの学園生活では意見を言っても良いが、出来る限り私の言う事はイエスで答えろ。良いな?」

 

 教室の奥までしっかりと届くその凛とした声は次の瞬間、黄色い歓声と言う衝撃波になって返ってきた。

 彼女たちの口から出るのは自身らが織斑千冬の生徒に対する想いの言葉だけ。これに千冬は頭を抑えてしまう。

 

「何故こうも私の受け持つクラスにまともな奴が少ないんだ……!」

 

 理由があるとするならば、やはり織斑千冬のネームバリューと言うやつなのだろう。かのブリュンヒルデの生徒になる事が彼女たちの第一目標でもある為、千冬を慕う彼女たちは叫ばずにはいられないのだ。

 気を取り直した千冬は今度は一夏に顔を向けた。

 

「――で、お前はマトモに自己紹介も出来んのか?」

 

「いや千冬ね…あだっ!」

 

「ここは学校だ。織斑先生…と呼べ」

 

 二度あることは三度あるとは正にこの事だ、と雪は苦笑いを浮かべながらそう思った。後ろの咲羅と慎也はため息をついている。

 そんな姉弟のやり取りを見て、次第に周囲の女子生徒達がこそこそと話し始めた。

 

「え、千冬様と織斑君って姉弟なの?」

 

「じゃあ織斑君がISを動かせるのもそうなのかな?」

 

「いや、でも待ってあのほかの三人は多分違うんじゃない?」

 

 確かにその通りだ。今度は一夏に向けられた視線は雪たちに集中しだして一気に騒ぎは沈静化する。

 その注目の的になってしまった三人、はねっ毛の無い焦げ茶色で耳に掛からない程の髪から覗く優しい丸い眼をして穏やかな印象を持つ雪、その弟で同じくこげ茶ではあるがはねっ毛のある耳の一部が隠れるほどの髪に雪より強めの眼をした咲羅、そして一部逆立った赤黒い髪と切れ長の眼をした平均より整った慎也。彼らの自己紹介を見本にするよう千冬が一夏に言った。

 

「門哉慎也だ。趣味は特にない!が、常識の範囲内の事であれば出来ないことは無い!」

 

「遊薙咲羅です。趣味は同じく特になし!特技も特にないけど、風を感じることが好きです」

 

「えっと、遊薙雪です…。咲羅の双子の兄で趣味は機械いじりで、僕も特技は特に無いです」

 

 三者三様の自己紹介。反応も様々なもので、慎也と咲羅に対しては好印象のそれだが、雪に至っては良いとも悪いとも言えない微妙な反応だった。初日のホームルームはそれから少しして終了し、早速男四人は意気投合。今の現状に困惑するのは勿論これからの事を心配するところに、長い黒髪をポニーテールに結った女子生徒が雪たちに近づいてきた。どうやら一夏とは顔見知りらしい。

 どこかで見た顔だと咲羅は首をかしげつつ慎也は邪推な観察をする。

 

「(ふむ……Fは軽く超えているな。いや、もしかしたらそれ以上か?)」

 

「取り込み中だったらすまないが、少しの間だけ一夏を借りていいか?」

 

「あー、お知り合いならどうぞ。良かったね一夏。知ってる人がいてさ」

 

「お、おう…」

 

 二人を送り出した雪が席に戻るとまだ咲羅が首をかしげていた。雪が声を掛けても反応は無く、とりあえず放置を決めた。慎也は慎也で声を掛けて来た女子生徒たちの質問をご丁寧に雪と咲羅の分まで答えていた。

 昔から慎也は社交性はある方で、マイナス面であるムッツリスケベな一面を除けば結構人当たりは良い方だ。むしろマイナス面をよく見ている雪はここでその話題を出すのをやめる。

 

「織斑はどうしたんだ?」

 

「さっきの人とどっかに行ったみたい」

 

 あの二人の関係を雪は知らないが、今は知らない人間よりも知っている人間と触れ合った方が精神的に安心できることだろう。現に、雪も弟の咲羅と友人の慎也が居なかったらストレスで胃潰瘍になっていたかもしれない。

 話しかけて来る女子生徒たちは思っていたよりもフレンドリーで、それでいて高圧的な態度を取る訳もなく接してくる。今の風潮に染まり切っているのは女性全体の何割なのだろうか、と雪は内心そう思いつつ鳴り響く予冷に気が付いて席に戻った。しかし、遅れて戻って来た一夏と、彼を連れて行った少女は千冬の制裁を受けたのだった。人それを、因果応報と言う。

 一夏が配布された電話帳並みの分厚さを誇る参考書を間違えて捨ててしまったと言う大ポカをやらかした二時間目の休み時間に雪たちに紹介した。彼女は自分と千冬の幼馴染だと言う。少女の名は篠ノ之箒と言い、小学校四年生の終わりごろに引っ越して以来で約6年ぶりだそうだ。

 

「それに中学時代は剣道の全国大会で優勝してたんだぜ」

 

「あー、じゃあ咲羅が唸ってたのはそれなのかな?」

 

「どうなんだ?」

 

 兄と友人から話題を振られた当人は「そう言えばそうだった」と手を打って納得する。因みに、雪たち三人は当たり前だが一夏のような大ポカはしなかった。

 悩みも解決しスッキリした咲羅は先程一夏を連れだったのとは別の女子生徒が近づいてきたのに気が付いた。金髪ロールでヘッドドレスだかカチューシャだか咲羅には到底縁が無い装飾品を付けたその彼女は、現代の風潮に見事染まり切っている様だった。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「ん、何だ?何か用か?」

 

「まぁ、何なんですのその態度は!」

 

 至極普通に返したつもりの咲羅の返事が余程気に入らないのか、その女子生徒は突然声を荒げてしまう。雪や慎也だけでなく、一夏もそれに気が付いてその女子生徒の方に視線を向けた。

 両手を腰に当て、不機嫌な表情を浮かべている女子生徒の高圧的なその姿勢に雪は圧倒しながらも理由を聞き出した。

 

「えっと……どうかしたんですか?」

 

「どうかしたですって?解らないんですの?!」

 

「いいえ、全く分かりませんが……咲羅この人何で怒ってるの?」

 

「俺もさっぱりだよ兄貴。ただ声かけられたから返事しただけなんだけどなぁ」

 

「解らないですって?!イギリス代表候補にしてこの学園に首席で合格したこのセシリア・オルコットが直々に声を掛けたのですわよ!でしたら相応の態度を示すべきなのではありませんの?」

 

 初めて遭遇する女尊男卑派の人間に圧倒される雪だったが、慎也が前に出てセシリアと名乗った女子生徒に会釈する。

 

「そうか、貴女があのセシリア・オルコットでしたか。お噂は耳にしておりますが、よもやここで会えるとは何たる偶然」

 

「あら、貴方はそこのお三方よりもしっかりしてらっしゃるのね。ええ、いかにもそうですわ」

 

 慎也の話術で彼女の怒りの矛先は一旦だが納められた。その事に雪は胸を撫で下ろし、そう言えばとニュースで同じ名前を聞いた事を思い出す。あの時は確か一夏のニュースの前後で、咲羅が寝ぼけて納豆に間違えてワサビを入れてしまって小さな騒ぎにまで発展していた朝に観たニュースに出ていた。

 冷静に考えてみればそれ程の有名人と同じクラスなのだから、この状況はある意味奇跡と言えよう。

 落ち着きを見せ始めたセシリアを見て、また爆発して色々と言われることは避けたい雪だったが、どうも人生と言うのは都合良く出来ていない。

 

「なぁ、ちょっと質問あるんだけど良いか?」

 

 先程まで席に座っていた一夏が手を挙げた。

 

「何でしょう。下々の人間に手を差し伸べるのも貴族の嗜み、どんなことでもお答えいたしますわ」

 

「じゃ、代表候補って何だ?」

 

 刹那、教室内が一旦静まり返ったかと思えば、水を打ったかのように驚愕の声で充満し、雪は目が点になり、咲羅は呆然とし、慎也に至っては頭を抱えていた。そして「どんなことでも答える」と豪語したセシリアは、壊れかけたラジオの様な途切れ途切れの声を漏らし爆発した。

 

「あ、貴方代表候補が何たるかを知りませんの?!」

 

「おう!」

 

「胸を張って言う事ですか!まさか貴方方も知らないと仰るつもりですの?!」

 

「僕はニュースとかでたまにやってるから聞いた事はあるけど…それ以上は特に……」

 

「俺もだ」

 

「いや、理解している。確かモンド・グロッソに出場する見込みのある技量を持ったIS操縦者に送られる称号だったと記憶している。たしか、ミスオルコット、貴女を除けば一年には別クラスだがもう一人はいた筈だ」

 

 予想もしなかった一夏の爆弾発言。姉である千冬はそのモンド・グロッソに出場し優勝しているのでそれくらいは知っているはずなのだが、どうして彼はそれを知りえていないのだろうか。この時点で一夏に対するセシリアの印象はハッキリ言ってダダ下がりなのは目に見えている。

 突然降られた側の雪たちは一夏とは違い、言葉の意味も(何となくではあるが)理解しており、慎也に至っては独自の解釈で解説する程だ。これに気を良くしたセシリアはまた落ち着きを取り戻す。

 

「つまり、(わたくし)はエリートなのですわ!そのエリートから声を掛けられるのはとても幸福なのですわよ?」

 

「おう、そりゃあラッキーだな」

 

「一夏。君ってさ、無意識に人をおちょくってるんだね」

 

「そして炎上する始末ときた」

 

「もう俺の手には負えん」

 

 火に油を注ぐ一夏の発言に本日三度目のセシリアの憤慨。地雷が地雷である事を認知していないのか、それとも踏み抜いてから地雷と認知する一夏のスタンスに少しずつ慣れて来てはいるが、それでもやはりこれ以上セシリアの胃を悪化させるべきではない。

 やがてまた落ち着きを取り戻したセシリア。今度は自分が如何にエリートであるかを証明する科の様に、腰に手を当て胸を張った。

 

「何せ、この私は試験で唯一(・・)試験官を倒したんですのよ!驚きまして?」

 

 尚も己の威光を晒す彼女に、懲りずに一夏はまた地雷を踏んだ。しかも、雪たちが止める前に。

 

「試験って、ISを纏って試験と戦うやつ……でいいんだよな?」

 

「ええ、そうですわよ。それ以外に何がありますか」

 

「なら俺も倒したぞ、試験官」

 

「ばっ、バカ野郎……!」

 

「え、何だよ慎也いきなり…」

 

「…あ……あ、……ああ…………!」

 

 火山は噴火する際に様々な前兆を見せると言う。例えば地下水の温度の上昇や、火山ガスの化学組成の変化が見られるだけでなく、火口付近が急激に隆起するなど様々な現象が現れると言う。地震の場合は直前に杉の花粉が大量に放出する現象もある。

 つまり、何が言いたいかと言うと――

 

「もう………、もう我慢なりませんわッ!!!」

 

 セシリアの堪忍袋の緒が切れたと言う事だ。我慢ならないと彼女は言うが、先程までムキになっていたのはまだ我慢していると言う事なのだろうか。

 何を言っているのか分からない程騒ぎ立てる彼女は、一夏だけでなく雪たちにもその刃を向けた。理不尽ながらも答えるしかなく、咲羅と慎也の視線が雪に「言え」と言わんばかりに注がれている。

 

「えっとね、僕ら三人は……その、三人いっぺんに試験受けて…三人がかりで倒しました…」

 

「さ……、三人いっぺんですって?!冗談を言うのも……!!!」

 

「ホントだって!僕らが受ける時、試験官の人が一人一人相手するのも面倒だって言ってたんだ!っていうか、僕自身今でもホント色々と戸惑ってるほうなんだけど!」

 

 だから言いたくなかったんだ。雪のその最後の呟きには誰も気が付かなかったが、それでもセシリアの怒りは収まらない。このまま更に酷くなりでもしたら一夏だけでなく雪にも最悪被害が被る恐れがある。それが肉体的であれ精神的であれ、どの様な傷を作るのだろうか。そんなものはまっぴらごめんだ。

 しかしそれ以上酷くなる前に予鈴が鳴った。主席合格のセシリアだけでなく、面倒ごとに巻き込まれた雪たちも大人しく席に着いた。だれも、千冬の出席簿は喰らいたくはないのだ。

 程なくして始まる授業のその触り、千冬が何かを思い出したかのようにクラス代表の話題を挙げた。

 

「ま、簡単に言えばクラス長や学級委員の様な物だ。決ったら一年の変更は効かないから覚悟するように。自薦他薦は問わんが、他薦された場合の辞退は認められていない」

 

「じゃ、織斑君を推薦しまーす!」

 

「私は門哉君を!!」

 

「なら私は咲羅君を!」

 

 気が付けば一夏、慎也そして咲羅に票が集中……しているのだが、残った雪には誰も推薦しなかった。これに果たして喜んでいいのかわからない雪だったが、やはり腹の中では安心が支配しきっていた。それでいて寂しさもある矛盾した気持ちでいっぱいだ。

 ともあれ、肩書から察するに面倒な仕事を任されそうだと予想する雪だったが、次の瞬間油断ならない事態になってしまった。

 

「な、なら俺は雪に!遊薙雪を推薦します!」

 

「俺も雪を推薦する」

 

「あ、俺も兄貴に!」

 

「……えぇぇー!」

 

 クラス代表の座をいただくのがただでさえ面倒なのか、それともその場のノリで推薦された事に納得がいかなかったのか、結託する一夏と慎也そして実の弟の咲羅からも巻き添えを喰らってしまい不意に声を漏らしてしまった雪。まさか自分にまでこんなとばっちりに近い扱いを受けてしまい、苦笑いを浮かべるしか出来なくなった。

 物珍しさと顔の好みで選出されている事に気が付いた時には、セシリアが机を強くたたいて立っていた。

 

「その選出など認められませんわ!大体この私イギリス代表候補であるセシリア・オルコットが居ながら、男などにクラス代表を一任させるなど言語道断、いい恥さらしですわ!私はわざわざイギリス本国からこんな島国にまで来てISの修練に来ているのであって、サーカスをする為に私はここに来ているのではありません!それに……」

 

 暴論を吐き出して憤りを見せるセシリア。これに対し一夏が反論しようと立ち上がるが、慎也と咲羅が抑え込んだ。ここで激昂したとしても良い方には傾かない。言わせておけばいいと、慎也は一夏に耳打ちして落ち着かせる。

 そして、尚もずけずけと不満を放ち続けるセシリアを遮って雪が突然挙手をした。

 

「あのさ、オルコットさん。少しいいかな?」

 

「ふん、一体なんですの?」

 

「さっきから君が言っていたことをよーく聞いているとさちょっと気になったんだ……ISを開発した人って誰だっけ?」

 

「はぁ……貴方は一体何を言ってますの?ISを開発しましたのは、篠ノ之束博士で――」

 

「じゃあさ、その博士の国籍は何処だっけ?」

 

「貴方は私をバカにして……はっ!」

 

「じゃあ最後。最後にもう一つだけいいかな。このクラスの担任の先生の…織斑先生の国籍ってさ……何処だっけ?」

 

 一瞬にして背筋が凍りついたかのような錯覚がセシリアを襲った。きっかけとなった雪のその言葉を誰もが聞いており、それぞれハッとした表情でセシリアを見た。

 セシリアは無意識の内にISの生みの親とモンド・グロッソ初代王者を侮辱してしまったのだ。もし雪が彼女を止めなかったら、更に酷くなっていたのかもしれない。反対にもし一夏を止めなかったらどうなっていただろうか。

 

「……くっ、貴方卑怯ですわよ!」

 

「はへっ?!」

 

「先程の私の発言に問題があったことは認めます。ですが、貴方はこの私にそれを引き合いに出して…こんな事!」

 

「…えぇーっ?!」

 

 確かにセシリアの言う事も一理ある。そう思いながら頷いて見せたのは周囲の一部の女子生徒達。

 だが、雪が止めに入らなければセシリアの立場は更に危うくなっていたことは間違い無い筈だ。しかし、逆にそれが仇となりセシリアの堪忍袋の緒を斬ってしまう事態になってしまったとは何と言うべきか。

 既に宥める事は不可能になってしまっており、文字通りお手上げ状態だ。

 

「もう貴方を、いえ貴方方を絶対に許しておけませんわ!偶然ISを起動させただけの男がここに居るだけでも気に入りませんわ!こうなれば決闘ですわ!!」

 

「お前なぁいい加減しろよッ!」

 

 ここでついに一夏がキレた。先程まで彼を押さえていた慎也と咲羅を払ってまで彼は更に自分の思っている事を続けるように言葉を吐こうとするが、千冬がそれを制した。

 

「そうキャンキャン吠えるな。勝負は一週間後のアリーナで行う。五人とも異論は無いな?無いなら授業を始めるぞ」

 

 かくして、推薦された雪ら四人とセシリアのクラス代表を決める決闘が組まれてしまったのだった。

 

 

 四時限目の頭に一週間後のクラス代表決定戦において、一夏達が使う予定だった量産機の使用申請が通らなかったため、一夏には専用機を学園側から用意するのだが、他の三人については未だ決まっていないという。異例ではあるのだが、一年生のこの時期に、しかも素人の上に男に専用機が回されることにポカンとしている一夏以外は驚愕の表情を浮かべたり、苦悶の表情や憤りを見せる者もいた。

 それに対し、雪達のISについてなのだが、当日まで未定だそうだ。

 

「確か遊薙達は機業の所属だったな」

 

 その千冬の問いに慎也が答える。

 

「確かに俺たちはその所属ですが、専用機については調整中とだけ言っておきます」

 

「と言っても、まだ八割ぐらいしか済んでないんですけどね」

 

 後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべる雪が補足して咲羅が二度頷いた。彼らの出番は一夏より後になりそうだろうが、その一夏はまだ頭をかしげていて疑問符を頭の上で浮べているようだった。

 

「いいか織斑。今、世界には467ものISのコアが存在してそれら個数に限りがある。だからこそ、個人にISのコアつまりISが割り振られることは極めて稀で、主に国家・企業・組織などに割り振られている」

 

 実の姉でありこのクラスの担任の千冬の言葉に一夏は納得する。

 

「そして製作者の篠ノ之束は以降世間から姿を消し、尚且つISのコアを新造していないとされているが…」

 

「あの、織斑先生!もしかしてこのクラスの篠ノ之さんて」

 

「ん?ああ、奴の妹だが…」

 

 その瞬間、千冬が最後まで言い切る前にこのクラスの八割近くの女子生徒たちが一気に箒に詰め寄った。ISの生みの親の血縁者である箒の暗い表情を見ず、誰もが構い無しに無遠慮に篠ノ之束についての質問や、箒の持つIS知識の程を知りたがっていた。

 人の好奇心と言う物は時に無自覚な悪意と化す。言葉は刃物に、視線は銃弾となって箒に矢継ぎ早に襲い掛かった。問いかけて来る彼女たちに悪気はない。悪気はないのだが、それは無自覚なので尚の事性質が悪い。だからこそ、箒は声を荒げてしまう。

 

「私は姉さんとは違う!」

 

「……!」

 

 一拍おいて、冷静を取り戻した箒は周囲の反応を確認すると途端にしおらしくなった。

 

「す、すまない。だが私と姉さんは違う……違うんだ……」

 

「あ、その……篠ノ之さん、こっちこそ…その…」

 

 入学初日で彼女らに溝が出来てしまった瞬間だった。

 

 

 午前中の授業が終わって昼休みの時間。食堂に向かう雪たち三人は道中から刺さる視線に若干怯みつつあった。

 今までにこのような経験とは無縁だった為か、初日からストレスが積もっていく。

 到着して雪はつゆだく牛丼大盛り、咲羅は焼肉定食、そして慎也はドライカレーをそれぞれ注文し、偶然空いていたボックス席にありつけた。

 初日の午前中を終えてやっと一息つけた雪は、箸を手に取って一心不乱に牛丼を貪った。その脇では咲羅がジト目で己の兄を睨んでいた。

 

「ったく、兄貴のせいで面倒な目に遭ったな」

 

「いや、どの道ああいう結果になっていたさ。雪が悪い訳じゃあない」

 

 咲羅のボヤキに慎也がいつものようにフォローを入れる。

 確かにその通りなのかもしれない。あの時一夏の止めに入らなければ、よりひどい結果になっていたかもしれない。しかし、どの道自分たちに厄介ごとが降ってくることは変わらないだろう。

 その後は何も問題は起きず、放課後を迎えたのだった。

 

 

 慎也指導の下、教本を捨ててしまった一夏に対して小さな勉強会が行われていた。

 雪と咲羅も一夏と同じように教科書を開き、それだけでなく必読と書かれている教本も用意している。

 

「――つまり今はそれがどんな物かを無理に理解しない方がいい。 教本を捨てたなら尚更だ」

 

「うぐっ!」

 

「自業自得だダメージを受けてる場合か」

 

「うぐぐっ!!」

 

「えーっと……ごめん、僕からはノーコメントで」

 

「せめて雪は何か言ってくれよ」

 

 やはり一夏には復習しか今のところ他に道はないようである。そもそも古い電話帳と間違えて捨てた一夏自身の責任なのだから仕方がない。

 そんな勉強会中の彼らに副担の真耶が声を掛けてきた。部屋割りの件だと言うが、四人中二人は部屋割りの調整に不具合が生じてしまい、急遽女子生徒との同室が決定されたと言う。そして差し出されたその部屋の鍵が四人に行き渡る。その鍵の部屋番号を確認すると、一夏と雪が女子と相部屋で、咲羅と慎也が相部屋と言う事になった。それぞれ番号を確認せずに一気に取った結果だ。因みに着替えなどの荷物に関しては遅れてやって来た千冬が既に手配していると言った。一夏の分は千冬自身が纏めて、雪たち三人の分は自宅から今朝方郵送されており、すでに寮の方に届いているという。

 更に真耶が言うには一夏や雪たちの寮生活の理由は彼ら自身にあるとも言う。

 ISが扱えるというだけでも悪い意味で引く手あまただというのに、それが四人もいるのだ。そんな彼らが自宅通学もしくは近隣のホテルから通学すれば、その道中で誘拐されてしまうだろう。これはそうならないための措置である。

 

「夕食は午後六時から七時までに食堂で食べてくださいね。部屋にはユニットバス、その他に大浴場はあるんですが、織斑君たちは今のところまだ入れませんよ」

 

「入れないって事は、もしかして調整中とかですか?」

 

「え、何でなんだ?」

 

 雪の予想を理解できていない一夏の爆弾発言に、真耶は慌てふためいていた。

 この後面倒ながらも小さなトラブルは起こりはしたが、取り敢えず雪たちは勉強会もそこそこにして荷物を纏めて寮へと向かう事にした。

 その道中では、やはり彼らは好奇の視線にさらされる羽目になりながらも、どうにか目的地の寮に到着して各々の部屋へと向かう。荷物は寮の入り口で受け取って、それぞれの鍵に記された部屋番号を頼りに雪たちは夕食時までしばしの別れとなった。

 雪がたどり付いた場所は、教室と食堂のほぼ中間に位置しており、日当たりなどの問題は特にない。

 相部屋の相手がいるかどうかもわからない為、ドアをノックして声を掛ける。

 

「すみませーん、今日から相部屋になる物ですがー…?」

 

「……どうぞ、鍵は開いてるから…」

 

 部屋の主の入室を促され、ドアノブに手をかける。

 部屋の内装はシングルベッドが二つ間を開けて並んでおり、反対側は壁付けのデスクに椅子が二人分。うち一つには先程の声の主が予習だろうかノートと教本を交互に見ながらペンを走らせていた。

 蒼い髪に特徴的な髪留めを付けた眼鏡の少女は、入室してきた雪に気が付くと目を見開いて手からペンが落ちてしまった。

 

「あ、えと…き、今日から相部屋になります……遊薙雪です」

 

「あ、……簪、です。相部屋の件聞いてます」

 

 これが、相部屋が異性であることに戸惑いを隠せない遊薙雪と更識簪の出会いの瞬間であった。

 

続く




次回予告

突然の入学と突然の異性との相部屋にたじろぐ僕だけど、まだまだ序章でもなかった

アリーナで一夏とオルコットさんの試合に、空から隕石と共に謎の生命体が出たんだ!

皆を守る為にも、一緒に戦ってくれるよね、ライガー!

次回獅子王者伝説第二章『真っ赤な太陽、その身に受けて』

次回も一緒に、GO!獅子王!!
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