やんでれかるであ!   作:織葉 黎旺

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下準備フェイズ


召喚したての邪ンヌちゃんが妙に突っかかってくる四夜目

 

 

 ──トレーニングルーム。

 

「ジャンヌ、宝具頼んだ!」

 

「……これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮──『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!」

 

 燃え盛る怨念の炎が、犬型のエネミーを燃やし、焼き尽くす。その様子をつまらなそうな瞳で見つめるのはジャンヌ・ダルク・オルタ。エネミーの戦闘不能と共に立体映像(ホログラム)が解除され、先程まで見えていた森の映像は消える。無機質な白くだだっ広い空間に戻ったところで、藤丸立夏は彼女に歩み寄った。

 

「お疲れ、ジャンヌ。今日もキレキレだったね!」

 

「ふん、当然よ。まあ貴方の指示が足りてないせいで、全力は出せてないんですけど?」

 

 オルタは顔を歪めて笑う。それに対して、立夏はまっすぐに答えた。

 

「つまり、俺が頑張ればジャンヌはまだまだ強くなれるんだね? 気をつけるよ!」

 

「え、ええ……折角召喚に応じたのだから、精々私を上手く使うことね、マスター」

 

 それじゃあ失礼するわよ、とオルタは部屋を後にして歩き出す。「お疲れー」とそれを見送って、立夏は小さく息を吐いた。

 

「失礼します。ドリンクとタオルを持ってきたのですが、よろしければ如何ですか?」

 

「ん、ありがとうマシュ」

 

 オルタとほぼ入れ違いにトレーニングルームの扉が開き、タオルとドリンクを二個ずつ抱えたマシュが入ってきた。

 

「ジャンヌさんの分もお持ちしたんですが、今日もですか……」

 

「そうなんだよねぇ……」

 

 受け取ったタオルで汗を吹き、スポーツドリンクを飲む立夏。彼とジャンヌがこうしてトレーニングルームで訓練をするのはもう四回目。召喚してから毎日行っているのだが、どうにも彼女の心が読めない。別に指示を効かないとか反抗的だとかそういうことではなく、どうにも集団行動──というか、人との交流を避けているように見える。戦闘時以外どう過ごそうがサーヴァントの自由ではあるのだが、それでも、出来れば職業義務的な関係ではなく、真の意味での信頼関係を持って仲良くしたいなあ──と思う立夏なのだった。

 

「ありがと、マシュ。俺、ちょっとジャンヌに届けてくるよ」

 

「わかりました。よろしくお願いします、先輩」

 

 

 

 

 ジャンヌの部屋の前まで辿り着いて、立夏は小さく息を吐いた。一呼吸置いてコンコンとノックする。

 

「ジャンヌ、いる?」

 

 返事はない。はて、出かけているのだろうか。それなら仕方ないか、と思いながら、もう一度。

 

「ジャンヌー?」

 

 どうやら留守のようだ。出直すことにしよう──部屋を後にしようとしたその時、扉に鍵がかかってないことに気がつく。駄目元で一応、扉を開けてから呼びかけてみることにする。

 

「ジャンヌー!」

 

 やはり返事はない。立夏の声が消えて、後に聞こえたのはシャワーの音だった。それが消え、次いで、上機嫌そうな鼻唄が響いてくる。つまり今ジャンヌは──

 

「♪〜」

 

「ちょ、ちょっと待ってジャンヌ! 今来ちゃダメだ!」

 

「え」

 

 浴室の扉が開く。そこから、一糸纏わぬ姿のジャンヌが現れる。一瞬で顔を林檎にした二人はゼロコンマ三秒ほど固まって、立夏は目を背けて顔を覆い、ジャンヌは(たらい)を手に持って構えた。

 

「こ、このヘンタイっ!!」

 

「ぎゃあっ!?」

 

 盥は筋力Aの腕力で放たれ、正確に立夏の脳天を射抜いた。その衝撃に小悪党みたいな悲鳴を上げて、立夏は倒れる。薄れる意識の脳裏に、ジャンヌの姿が浮かんで──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

「………………ん…………?」

 

「……フン、ようやく気がついた?」

 

 側頭部に鈍い痛みを感じながら、立夏は目を覚ました。ジャンヌが不満そうに覗き込んできている。起きるのが遅かったことに対してか、さっき起きたことに対してかは分からなかったが。

 

「あ、そうだ……ジャンヌ、さっきはごめん! いくらノックしても気づかないから、鍵開いてたし一応中に入って声かけようとして、それで……」

 

「そんなこと言って、本当は私の部屋を漁ろうとしてたんじゃないの?」

 

 ジトーっ、と冷たい視線が立夏の心を刺す。軽蔑するような瞳が辛い。信頼関係を改善しようと来たのに、むしろ悪化しそうである。頭を抱えたくなった。

 

「違うよ、俺はただ、これを届けようと思って……」

 

「……スポーツドリンクとタオル?」

 

 差し出された二つを、目を丸くしたジャンヌが見つめる。

 

「ジャンヌ、いつもトレーニング終わるとすぐどこかに行っちゃうじゃん。だから渡しそびれてたんだけど、今日は絶対届けたいなって思って」

 

「……ハッ、わざわざ貰わなくても、そのくらい自分で用意してるわよ」

 

「……そっか、余計なお世話……だったかな」

 

 少し悲しそうに笑う立夏を見て、ジャンヌは目を逸らしながらチッ、とあからさまに舌打ちした。

 

「そうね、余計なお世話」

 

「…………」

 

「でも頂いておくわ。生憎、お風呂上がりだから喉が乾いてるの」

 

 ノールックで乱雑にボトルを取り、ごくごくと勢いよく飲み始めるジャンヌ。立夏は「あっ」と一言何かを言いかけて、しかし止めた。

 

「ご馳走様。量が足りてないんじゃなくて? 運動後に飲むなら、もうちょっと多い方がいいでしょ」

 

「えーっと……それは俺がさっきまで飲んでた方で、ジャンヌに持ってきたのはコッチなんだけど……」

 

 立夏が手に持つ、中身の入っていそうなボトルを見て、ジャンヌの表情が固まった。ついで、その意味を理解した頬が緩やかに紅潮していく。つまり今のは立夏の飲んでいたボトルで、それってつまり──

 

「ば……馬鹿っ! それ置いて早く出て行きなさいよ!」

 

「え、ええっ!?」

 

「紛らわしいところに置く方が悪いのよ! まあこの程度、別に私は気にしてませんけど!?」

 

 どう見ても気にしてない人間の発言ではなかったが、下手につついて蛇を出すのは立夏としても嫌だった。「あ、ああ。色々とごめんね」とだけ言って、そそくさと部屋を出ていった。

 

「……ふん」

 

 静かになった部屋の中。ジャンヌはベッドに寝転んだ。二つのボトルを照明に翳し、重力に任せて重い方を手放す。残った、まだ少し中身の入っているボトルの口を見つめて、そっと──

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