六月十四日
小学四年生だった。
友達は多い方だったけど、
休みの日はほとんど一人で、適当に自転車で何処か遠くには行かないように走った。
「…今日こそ、あそこに行ってみよう。」
以前、僕は大きい館にたどり着いたときがある。
長い間手入れが…という訳ではなく、少し汚れてるくらいの建物だった。
でも、いつ来ても人影は見えなかった。
ので侵入してみる。
案外楽に窓から廊下に入れた。
靴を脱いで持ち歩きながら探検した。
屋根裏まで来てひと休みしようとした。
本当に誰もいなかった。
一体、誰が住んでいたんだろう。
すると、
何もないところから、女の子が現れた。
「ねぇ、貴方。この家に何の用?」
言葉が出なかった。
黒いショートカットで、目が大きい。
「ねぇってば」
「…あ、いや中に誰もいなかったからつい…」
「ふーん、でも、私は住んでるよ。貴方、どこからきたの?」
「◯◯町の◯◯◯ってところ」
いきなり彼女は大きな目をきらきらさせた。
「貴方、自転車できたのね!?」
「う、うん」
一気に顔を近づけてきたので驚いた。
と思ったら、鼻歌交じりにクルクル回った。
なんだか、嬉しそうだ。
「ねぇ、貴方。私の願いを聞いてちょうだい」
「僕に出来ることなら」
「きっとできるわ、私を…」
☆★☆★
商店街に連れて行って。
それが彼女の願いだ。
『自転車は、無いの?』
『乗れないの、ねぇ、早く私を連れて行って!』
元気な子だ。そう思い、彼女を自転車の後ろに乗せて、走った。
少し違和感があった。あまり、いつもと変わらずに走れた。女の子が後ろに乗っているのに。
そして、何の苦労もなく、商店街にたどり着いた。
自転車を降りると彼女は、とても嬉しそうだった。
この世の幸せを体現したような笑顔だ。
「君、もしかして初めて?」
「えぇ、そうよ。ここに来てみたかったの」
「変わっているね」
「どうして?」
「普通なら、アミューズメントパークとかだと思うよ。そういうのは」
「いいじゃない、私にとって特別なのよ」
「そっか、案内しようか?初めてなんでしょう」
「…!貴方優しいのね!ありがとう、大好き!」
いきなり抱きつかれて、バランスを崩しかけた。
「危ないじゃないか。怪我でもしたらどうするのさ」
「いいえ、貴方は優しいから、受け止めてくれるとわかってたわ」
「…知ってる人に見られたら?」
「それは、ちょっと嫌ね」
ようやく離れてくれると思った矢先、次は手を握りしめた。
「案内してくれるんでしょ?私は初めてだから、迷子なっちゃうわ。エスコートよろしくね」
その笑顔はかわいくて、とても憎めなかった。
「僕は、エスコートなんてしたこと無いからね?」
「じゃあ、しっかりエスコートできたら、頭を撫でてあげるわ」
「それは…とても魅力的だね」
☆★☆★
揚げ物屋さんにのおせっかいでもらったパピコを、近くの公園で食べることにした。
「ねぇ、片方ちょうだい」
「これは、誰かと分けるために二つあるんだよ」
パキッといい音を感じながら彼女に渡した。
「ひゃっ冷たい!」
「これは、そういう食べ物なんだよ。冷たいから、夏には人気が高くなるんだ」
「なるほど」
「こうやって開けるんだ」
彼女にやり方を見せると見よう見真似であけた。
「面白いけど、指が痛いわ」
「これは食べ物だよ。評価は食べた後にするべきだ」
「それもそうね。どうやって食べるの?」
同じように、食べ方を見せる。
彼女は、それを真似る。
「…うふふっおいしいわ」
「ゆっくり味わうんだね」
「当たり前じゃない、初めてなんだもの」
「なるほど、なら僕もじっくり味わおう」
「それはどうして?」
「これは、誰かと一緒に食べるものだからだよ」
「素敵な食べ物なのね、パピコで合ってるかしら」
「うん、合ってるよ」
ゆっくり食べながら彼女と会話した。
なぜ、あの館に住んでるのか。
なぜ、その館に入ったのか。(とても後ろめたかった)
何年生なのか、どこに通っているのか。
「あのさ」
「何かしら」
「君は、どうしてあの時、何もないところから、出てきたのかな」
彼女は、少し間を開けてから、答えた。
「私はね、未来に行けるの」
驚いた。
「そんな便利なものじゃないわ、私の意思とはべつに、未来に行けるのよ…いいえ、正確には“入れ替わる”。だから未来の私か過去の私と入れ替わる。ほんの数分だけれどね」
そして、困惑した。
同時に、何か引っかかった。
「おかしいね、入れ替わるなら、あの時、未来の君か、過去の君がいるはずだ。でも、あの時、君はいなかった。どうしてだろう」
「意地悪な言い方ね。でも、少し考えれば分かるわ」
「死んでしまった後の私と入れ替わるなら可能よ」
なんて、強い力なのだろう。
死んだ後でもその力の影響を受ける。
「じゃあ、君はあの時、死んだ君と入れ替わっていたんだね」
死後の世界がどんな場所なのか、聞いてよさそうなんて、あり得ない。
僕は、彼女に、言った。
「人はいつか死ぬんだ。例外なく、死んでしまう。人だけじゃない。ありとあらゆるものがこの世で終わりを迎えるんだ」
「ありがとう、なぐさめようとしてくれて」
そのあと、館へ送り約束をした
「また会いましょう」
「それが約束?」
「貴方がうなずけば約束よ」