2018年4月4日
僕たちが恋人同士になってから3年経った。
「お帰りなさい、貴方」
「僕の家はここではないはずだよ」
「んもう、ロマンがないわね。貴方の家じゃなくても、私たちの家でしょ?」
「そうだね、僕たちの家だ」
「紅茶と、クッキーができてるから早く来て」
「わかった。ただいま、だね」
「そう、そうよ。それがいいわ」
彼女は僕の言った通りに髪を伸ばしてくれている。
今もう、膝のあたりまで伸びていた。
とても、綺麗で魅力的で人間味がなく、美しい。
目の保養になる。
「ねぇ、さすがに伸ばしすぎてはいないかい?」
「貴方が伸ばして欲しいって」
「そうだけど、君は邪魔に思っているならどうにかしてもいんだよ」
「べつに、というか、まさかでしょ。貴方は気に入らないの?」
「もしうなずいたらどうする気なのかな」
「切るわ」
「……君はもう少し自分を大事にした方がいいよ」
「貴方がそういうなら」
「まず、その考え方をどうにかしようか」
「難しいこと言うわね」
そして彼女は紅茶と、クッキーを持ってきた。
おいしい。彼女は料理が得意だ。
まず、失敗しない。彼女は常に失敗することを前提に作るから失敗しないのだ。
「どう?」
「とても、おいしいよ」
「貴方はいつもそれね。味覚が壊れたのかしら」
「君の料理はいつもおいしいからだよ」
「また、同じ内容」
「うん、前にも言った気がする」
「変わらないわね、昔から」
「君に言われたくないね」
そんな会話をして笑った。
変わらない。それは、確認のようなものだ。
何の、と言うのはもはや野暮というものだ。
「たまには、貴方が何か作ってよ」
「僕は、料理をしたことがないんだよ」
「なら、教えてあげる。貴方に私のエプロン姿をお披露目してあげるわ」
彼女はいつ買ったのだろうか男性用よ、と言って僕にエプロンを渡し、自分もエプロン姿になった。
「どう?カワイイ?」
「似合っているよ。なんだか、家庭科の調理実習みたいだ」
「それって褒め言葉?」
「家庭的って言った方がよかった?」
「む、まぁいいわ。さて、何を作りましょうか」
「カヌレがいいな」
「か、カヌレ!?時間かかるわよ、あれ」
「だからだよ」
「…なるほど、私と初めて作るから、時間かけたいのね。いいわ、足りない材料があったら買い出しよろしく」
☆★☆★
カヌレができた。
「どうかな?」
「とても、おいしいわね」
「よかった。僕と同じ内容を言ってくれなかったら萎えるところだったよ」
「貴方の気持ちが少しわかったわ」
「ん?君!?指を切っているじゃないか!?」
「えぇ、さっきちょっとしくじったわ…って絆創膏かわいいわね」
クマのマークが入っている絆創膏を彼女の薬指のつけて少しだけ撫でた。
そこでふと、気づきかける。
彼女の顔を見ようと僕の顔を上げた。
彼女は、顔を驚いたように、また、恥ずかしがるような顔をしていた。
そうだ、この体勢は、
僕が彼女の指を両手で包み、ひざまずいている。
つまりおとぎ話の王子様とお姫様のイメージが今ここに顕現している。
「貴方にも、そんなロマンチックな面があったのね。それで、ここからどうするのかしら」
「…何をされたいのですか、お姫様」
「貴方の好きなようにしてほしいの」
「仰せのままに」
そう言って、口づけした。
「ん、ここで発動するのね」
「そっか、じゃあ続きはまた後で」
彼女が“入れ替わる”
彼女は、過去の彼女になっていた。
とても驚いていた。
「あなたは…?」
「…そうか、まだ僕に出会う前なんだね。ここは2018年4月。君はいつだい?」
「…2005年7月です」
「そうか……いつか、君の館に王子様が訪れる。馬に乗ってではなく、自転車に乗っているんだ。好きな場所に連れて行ってもらいなさい」
「………わかりました。貴方に出会うまでに考えておきます」
彼女が“戻る”
「さっき、君に会う前の君に会ったよ」
「え?本当?恥ずかしい…」
「かわいかったなぁ」
「貴方は確かあの時…私のもとに王子様が訪れるって…」
「ああ、言ったね」
「うふふ!このロマンチストめ!まったくもってその通り、あの後貴方は私のもとに来てくれた。ありがとう!大好き!」
「君にそれを言われるのは久しぶりだね」
「ならこれからはたくさんいわないとね!大好きよ!愛してるぅー!!」
この時、僕は、あることを確認してしまった。
彼女が訪れる未来は変えられない。
それを確認してしまった。
ということは、彼女がいなくなってしまうまで、
あと…………。