続き
「愛の概念」
2027年3月9日
「………」
「どうしたのよ。黙り込んで」
「………ちょっと考え事をね」
「悲しいの?」
彼女の最後まで、あと約1年となった。
僕はずっと考えてきた。
彼女の最後を回避する方法を、ずっと。
彼女にとっての最後は、一般人の最後とあまりにも違う。
一般人はあらゆる努力で延命ができる。
でも、彼女にはあらゆる延命が意味をなさない。
ひどい。ひどすぎる。
確定されている未来なんかくそ食らえ。
変えられない未来なんて、それが悲しい未来ならなおさら、意味なんかない。
僕は、怒っている。
僕は、悲しんでいる。
僕は、きっと…。
「泣いていたいんだ。僕は」
「……私は今たくさん感情を抱えている。どれから聞きたい?」
「…………君の好きなようにしてほしい」
「あっそ…」
彼女は僕の隣から、目の前に移った。
「ふざけないでくれる?」
「私は怒っているわ、なぜだと思う?」
「………わからない。なんでだろう」
「貴方がうだうだしているからよ。大馬鹿者」
「ごめん。ごめんなさい」
「っ!そういう態度が、気に入らないの!」
彼女は息を上げて、僕の胸ぐらを掴み、壁に押しつけた。
珍しく、いいや、初めて彼女は僕に暴力を振るった。
「わかった!?
私は、とても怒っているの。
私のせいで、貴方は悲しんでいる。
私が、私がぁっ………。
私が
死んでしまう
から、
貴方は悲しむ!
貴方が泣いていて、泣いてしまうっ…!
私はそれをぬぐうことができても、ぬぐいきれないのよ!」
なぜだ。
僕が悲しんでいることになぜ、君が悲しんでいるんだろう。
違う。逆だ。
僕が悲しんでいるから、彼女が悲しんでいるんだ。
僕が、泣いていたいと言ったから、代わりに泣いてくれて、いるんだ。
とても君は優しくて、とても素直で、他人主義で、自分を大事にしない。
「ふざけないで、ふざけないでよ!
私が貴方にとってどんな存在なのか知っているわ。
だから、貴方もわかってよ!
私にとっての貴方は貴方なんかじゃないわ。
貴方が貴方だったから、私は私でいられたのに。
ねぇ、ねぇ、いつもみたいに、
いいえ、いつも以上に笑いなさいよ」
ほら、こんなにも君は、
自分よりも他人を大事にする、偽善者で。
こんなにも僕の目には、美しく見える。
そんな君が素晴らしい。
素晴らしい。涙を流すのを止められないくらいに。
「私のせいで泣かないで!
いつか貴方が言ったの。
あらゆるものはいつか、消えて無くなってしまう。
私も、いつか消えて亡くなってしまう。
もしかしたら……!
貴方の方が早く…!
あぁっ!言わせないで!言わないで…!
言いなくない…!言ってしまいたくないぃ!!
聞きたくない!聞いてしまいたくない…!!」
来ないはずの未来。
僕が彼女の最後に立ち会えない可能性。
彼女は頬をたくさん濡らして、
まるで、僕の心臓の鼓動を聴くように、頭を胸に押しつける。
「貴方のあの慰め言葉を受け入れたくない…!
嫌!嫌よ!
いつか終わるのなら、
この感情は、嘘よ!
いつか終わって、生まれ変わったとしても、
貴方を思い出せなければ、私のこの感情は、
たった一生のみの本当…!
終われば、全てが嘘になる、なってしまう!!」
彼女は、一人で泣いている。
「お願いよ。
もう神様でも、悪魔でもいいわ。
『私』にこの記憶を定着を…!!!
忘れたくないの、嘘にしたくないの!!
なんで………!
『お前たちは無意味になることを割り切った上でこの心を授けてくれたのよ!!!!』」
そして彼女は、
お腹をすかせた赤子のように、
夜が怖くて誰かに救いを願うように、
僕への、愛を泣き叫ぶ。
子供じみたそれの止め方を
知るよしも...
それは違う。
僕はそれを知っている。
「商店街、行こうか」
「...パピコを食べに?」
涙混じりに応える。
「君の笑顔を見に。
そして、君と離ればなれにならないような約束をしに。」
わがままなことなんだ。きっと。
でも、僕はこの願いが正しい願いだと
信じていたっかったんだ。
「...ふふっ、そうね。そういうのが、良いわ。
そういう生き方を私はしたいな」
彼女の死まであと...