晴れ晴れとした快晴で気球が飛び交う中、ベルナ村の村長の所へ一人の青年がやって来る。
眼鏡をかけているが、好青年ではある。
分厚い本を一冊持ち、何か研究しているようでもあった。まあ、龍暦院の制服を着ていると言えば、本の中身はおおよそ見当がつくだろうか…。
その青年はアルビナ達が決意を固めた2日後にやってきた。
「村長!」
「おお、君か。どうかね、作業の方は。」
「はい、まずこちらで話をしましょう。」
と青年は猫飯屋へ招く。
「あら、いらっしゃいニャー。珍しいお客さんが2人も来るニャンて,明日は竜巻かニャー?」
女主人が、冗談と皮肉を込めて笑いながら2人に話しかける。2人も苦笑いしながら、それぞれ料理を注文し、女主人に話しかける。
「済まない。大事な話があってな。すぐに終わるとは思うが、しばし貸し切りにしてはくれんか?頼む。」
と深々と村長に頭を下げられ、ただ事ではないと察知した女主人は、
「了解ですニャ。お二人の話が終わるまで休業ニャ。お礼はしっかりと貰いますニャよ。」とニコッとしながら、調理場から離れていった。
「すまんな、ありがとう。」
村長は離れていく女主人にそう言うと早速青年の方を向き、話を再開する。
「で、完成したのかね?」
眼鏡をくいっと持ち上げて、ドヤ顔で話し出す。
「はい、完成しました。彼らのチェストの持ち物をそれぞれ移動し、道具屋、武具屋等々準備中です。ですがもう少しで完了するかと。」
「おお、そうかね。ならば彼女たちを迎えに行かねばな。了解した。引き続きよろしく頼みますぞ。」
「分かりました。お待ちしています。」と料理を平らげて船の完成のために足早に戻って行った。
村長は料理を食べた後、アルビナ達の家へ。扉の前に着くと、ノックをする前に、改めて深呼吸をする。
(非公開での旅路になってしまったが、それでも無事に送り出してやるのが親心というもの。誘った私の責任でもあるが、沙耶殿を含めて全員が帰還できることを切に祈ろう。)
扉を見据えたまま、ゆっくりと扉をノックした。
それは、アルビナ達にとっても新たな旅路となるのだった…。
「は~い、ど~ぞ~。」とリシェルの返事がして、扉が開かれる。
「お邪魔するよ。」と中に一歩踏み入る。
アルビナ、リシェル、リックスの3人は既に準備を終えて、村長が来るのを待ち構えていた。
「準備は整ったようじゃな。」
「はい、船の方はどうですか?」とアルビナが聞き返す。
「うむ。まもなく完成じゃ。なのでそなたたちを呼びに来たところじゃ。」
「そうでしたか、ありがとうございます。」
「今から私と共に船の方へ移動願いたい。」
そう、促すとアルビナは二人に向かって、
「分かりました。よし、行こうか二人共。」
「うん。」「おうよ!」
と勢い良く返事を返す。3人とも気合は十分だった。
目的や、やろうとしていることは山積みではあるが、きっかけをくれた村長には感謝していた。しかも別の専用の船まで用意してくれているのだ。
3人は村長と共に、造船所………。ではなく、村から龍暦院まで向かう途中の道から逸れて谷あいのある方へと足を運ぶ。アルビナ達も不思議に思いながらも誰も通ることのない道を後をついていく。
やがて人が1人通れるほどの洞窟があり、村長はそのまま中へと進んでいく。3人も村長に続く。300メートル程だろうか。急に視界が開ける。
「『《 おお!! 》』」
3人は感嘆の息を漏らす。
「すげぇ………。」
「初めてだよ、こんな船は。」
3人共、驚きを隠せずにいる。
「ほれ、こっちじゃ。」と船長の元へと連れていく。
「キャプテン!」
そう呼ばれた男は声のする方に振り向く。
「はい?あぁ、村長さん、あっ、そちらはアルビナさんとリシェルさんとリックスさんですね。初めまして、この船の船長をさせてもらいます。キャプテンで通っています。よろしくお願いします。」
若い青年である。もっと年齢が上の人物かと思い込んでいたので、少々驚いた。しかも誠実そうだった。
「よろしくお願いします。」
アルビナもお辞儀を返す。誠実には誠実を持って。
「では、私が船内へご案内します。」
とキャプテンが船へと入って行く。
「では私はここまでじゃ。皆の無事と武運を祈っておりますぞ。」
と村長はそう言い残すと村の方へと戻って行く。
「ありがとうございました。全員で、必ず帰って来ます!」
と村長へ深くお辞儀をするのだった。
3人は、キャプテンの後をついていき甲板のところで止まった。
「まず、この船の説明をさせてください。この船自体は龍識船のように飛行船の形態をとっていますが、大きさは2回り以上あります。が、集会場はありません。なので、ハンターは今のところあなた方3人になります。
ここ、甲板やデッキには古龍やモンスター調査ではないので、あくまで討伐という意を込めて、バリスタが左右に3門ずつ、地下1階には大砲が左右3門ずつ、船首部には激龍槍が備えられています。
2Fはそれぞれのお部屋4部屋と武具屋、猫飯屋、道具屋、オトモ武具屋、あと…そうそう猫嬢さんが。それとココット村から受付嬢さんが乗り込んでいます。
3Fはそれぞれのお店の倉庫だったり、作業場になってます。
最下層はクルーたちの部屋で、後方は全般的に駆動部関係や、燥舵があり、私の部屋もあります。用がある時は何なりと言ってください。
私はこの船を動かすためのキャプテンですが、行先や行動を決めるのはリーダーの役目ですよ。」
と、アルビナの方を見る。
アルビナは驚いてキャプテンや2人や2匹を見回す。皆、納得とばかりにうんうんと頷く。
「私が……なぜ……。」
「当然だろ、リーダーは冷静じゃなきゃいけない。」とリックス。
「そうだね、この中で1番落ち着いて行動出来そうなのはアルビナだよね。」とリシェル。
「そうですニャ。」とオトモ2匹。
「だそうですが、どうされます?」とニコニコ顔のキャプテン。
ここまで言われてはとアルビナも覚悟を決める。
「分かりました。よろしくお願いします。」と頭を下げる。
「では、リーダー・アルビナ。1Fへご案内します。」と階段の方へ。
皆もそれについていく。1Fは本当に戦闘のために作られたと言っても過言ではない程の装備がなされていた。
キャプテンが話していたように、大砲や激龍槍が配置され、中央には、弾薬やバリスタ用の球などが多数用意されていた。戦争でも起きるのかと思わんばかりの物々しさでクルーたちもテキパキと準備に追われていた。
3人とも驚くばかりで声を掛けることもできない。
「1Fとデッキ等は戦いの場になります。あなた方にももちろん参戦してもらうことが多々あると思いますが、よろしくお願いします。」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。こんな凄い装備は心強いです。感謝します。」
「良かった。では、2Fへ行きましょう。」と1Fを後にする。
2Fへ降りると両側にお店が並んでいる。店の者達は一斉にアルビナ達の方を見た。
1件ずつ挨拶をしていく。
「よろしくお願いします。武具についてはお任せしますので。」
「おう、話は聞いてるよ。強敵なんだってな。任せてくれ、そいつらに負けない武具を作ってやるよ。」
「頼りにしています。」と礼をして次のお店へ。
「あれ?」
リックスが不思議そうな声を上げる。が、リシェルもそうだった。
「あれ?集会場にいる道具屋のお姉さんじゃない?」
「は~ン、私って意外と有名人かしら~ん。」
相変わらずの口調はやはりそうらしい。
「よろしくお願いします。材料は採取するより手に入れやすいので重宝なんです。」
「任せて、大抵の物は用意したから。必要なものがあれば言ってちょうだい。」
「ありがとうございます。」
と道具屋を後にして、次のお店に。ぷ~~~んといい匂いが周りに漂う。猫飯屋であった。
「いらっしゃいニャ!やっと主役たちのお出ましだニャ。」
「よろしくお願いします。食事が出来ないとスタミナや体力の充実が図れないので、頼りなのです。」
「分かってるニャ。全力で腕を振るわせてもらうニャ。」
「助かります。」
更に次のお店へ。小さい店の構えではあるがアイルーが一匹店番をしていた。
「いらっしゃいニャ!オトモ武具屋へようこそニャ!」
「良かったニャ。私達の武具屋さんも来ていたニャ。」
「そうニャ。ハンターさん達のサポートの為にはオトモも強くならなければいけないニャ。僕も全力でサポートするニャ。」
「ありがとう。よろしくお願いします。」
そして更に次のお店……へ?
「あっ猫嬢!!」
「あ~!アルビナさんとリシェルさんとリックスさんですか。よろしくお願いします。」
「ご無沙汰ですね。村長さんから話は聞きました。危険な旅路になるかと思いますが、良いのですか?」
アルビナも申し訳なさそうに話しかける。すると、猫嬢はアルビナをじ~~~っと見つめてからニッコリと笑い、
「アルビナさん達が守ってくれるのでしょう?それなら私も安心です。それに全滅した捜査隊の中にも、私が斡旋したオトモちゃん達も居て…。私にとっても敵が討ちたくて…。どうかその子たちの無念を晴らしてください。
今でもその子たちの苦しい声が聞こえて来るようで……。」と涙がポロリと頬を伝う。
「分かります。大事な者達を失う悲しみは凄く痛いほど。なので、かたき討ちを含めて奴らを討伐します。
その為には力を貸してください。」
それを聞いて安心したのか、猫嬢はニコッと涙を拭い、
「分かりました。よろしくお願いします。」と返事を返してくれた。
また後でと手を振って、その次のお店…。ではない。
「はぁ…。やっぱり先輩の手紙もムカつく。やっぱりグーで一発殴っとくんだった…。」
とガックリしている女性が一人…。
「ココット村の受付嬢さんですよね?」
「はっそ、そうです。い、今の聞こえてましたか?」と恐るおそる聞いてくる。アルビナ達も静かに頷く。
「な、内緒にしておいてくださいね。これでも先輩怖いんです。」
と可愛い面も見せる彼女。
「よろしくお願いしますね。通常ではないクエストも多数ありそうなので。」
「あ、はい。存じております。先輩のわがままにもウンザリしていたので、この話が来たときはチャンスとばかりに引き受けました。ですので行きたいクエストがあればどんどん言ってください。通常以外も出てきたときはお声を掛けますので。」
「了解です。助かります。」
「あと、こちらはそれぞれのお部屋になります。」と案内され、3Fへと降りる。その階は武具屋の作業場があり、道具屋さんの在庫が。その他食料品等々、必需品が満載だった。
4Fへと降りると、真ん中が真っすぐな廊下になっていて、両側はクルーたちの部屋が後方はもちろん駆動部等がある。
その廊下にクルーを含め、店の者やその他の乗り込んだ人たちも集まっていて、全員がアルビナ達を迎えてくれていた。3人とも驚き、笑みがこぼれる。
「こ、これは…。」
「ようこそ!龍騎船へ!!」とキャプテンが叫ぶ。わぁ…と全員が3人に拍手を贈る。突然だったので3人とも照れてしまう。
「皆それぞれの思いを持って自ら名乗り出てくれた人達です。その気持ちに応えてあげてください。」
とキャプテンがアルビナを一歩前に勧める。アルビナも頷いてみんなの前に。全員静かにアルビナを見入る。
「みんな危険な旅路を分かっていて、それでも志願してくれた事に礼を言います。ありがとう。私も人探しと、危険な者達の討伐するという任務を必ず完遂するつもりです。みんなの力を貸してください。そして全員、無事で、生きて、1人も漏れることなく、凱旋しましょう。私が必ずみんなを守る、いや守ってみせる!よろしく頼みます!!」
と深々と頭を下げる。逆に全員が少し面食らったが、1人、2人と徐々に拍手が沸き起こりやがて全員が拍手の渦に。
「よ~~し!!全員配置につけ!!これより出航する!!」とキャプテンが右腕を高らかに振り上げる。
「おお!!」と全員も拳を振り上げて、足早に持ち場に戻っていく。
「やはり貴方がリーダーですね。1発で全員の心を掴んでしまった。」
キャプテンがアルビナと握手する。
「で、しょう!あたしらが認めてるぐらいだからね。ねえ、リックス。」
「当然だな。じゃなきゃ誰もついては来ないぜ。」
キャプテンも納得とばかりに頷く。褒められっぱなしのアルビナな照れてうつむいてしまう。
キャプテンたちはデッキへ上がり、操舵の所へ。見送りは無いものの、しかし全員の意気込みは充分であった。
「よし!出航だ!!」
抑えられていた何本ものロープが切られ、後方部の大型プロペラ2基と小型のプロペラ4基が回り出す。
すると船がゆっくりと前進する。巨大な岩山をくりぬいて作られた洞窟内を進み、やがて視界が広がって来る。
広大な大海原が出現し、その上空へ。
「全速前進!!」
キャプテンの掛け声とともに、プロペラ全基も高速回転へ。速度を上げて前進してゆく。
雲1つ無い快晴の中を堂々と進んでいく。
その周りの景色を見ながら3人はそれぞれ心の中で改めて誓いをするのだった…。