私が晴夢に会ってから、あと二千万年ほどすれば九億年がたつ。
思えば随分と長い付き合いになったものだ。
晴夢との付き合いの長さで言えばこの世界で一番だ。
とても些細なことだが、晴夢との付き合いの長さが一番だと考えるとなんだか嬉しくなってしまうな。
だが、最近晴夢の様子がおかしい。
私たちの住むこの建物から誰にも見つからないように度々出て行っているようなのだ。
それに時々苦しそうな表情を浮かべている時もある。
晴夢は何も言ってくれない、言ってくれなきゃわからないのに、いつも一人で抱え込む。
「はぁ… 」
「ため息をつくと幸せが逃げるんだぞ、龍桜。」
「ふきゃっ!?」
晴夢のことを考えていたら突然晴夢に話しかけられた。
驚かない方が難しいだろう。
少なくとも私はとても驚いた、とてもな!
「随分可愛らしい声だな」
晴夢は苦笑しながら私に言う。
「け、気配を消しながら近づくなとあれほど!」
私は少しだけ憤りながら晴夢を怒鳴りつける。
まぁ、私が怒ったところで大して怖くも無いだろうが…。
それでも驚かされたら少しは憤りを感じるのも当然だろう。
そう思って怒鳴りつけると途中で唇に指を添えられて黙ってしまった。
「おっと龍桜、その話は長くなりそうだからその辺でやめといてくれ。今日は久しぶりに二人でデートと洒落込もうぜ」
「え…? え?」
気付いたら足と肩を抱えられていた。お姫様抱っこと言うやつだ。
速すぎて見えなかった。晴夢の顔がいつもより少し近く見える。
晴夢の体温も感じれる…。
だがこの体制はとても恥ずかしい。こんなに晴夢に引っ付くなど…!
どうしようか、顔から湯気が出そうなほどに熱い。
今私の顔は真っ赤なのだろう…。頭の中では意外と冷静でも外面は違う。さっきも考えたように顔は真っ赤だし、恥ずかしい!
「や、やめろ晴夢! 恥ずかしい!」
「恥ずかしい? おいおい、俺がこんな役得を逃すとでも? 離さないぜ? こんな近くに龍桜を置いていられるんだからな。んじゃあ行くか」
――行くってどこに?
そう口にする前に景色が変わる。
認識が追いつかないほどの速度での移動をしたのに私には何も害がない。晴夢が何とかしてくれたのだろうが、びっくりするので言ってから移動してほしい。
そう思って晴夢に非難の目を向けるが、晴夢はどこ吹く風と言った感じで飄々としている。
「なぁ、龍桜。ここがどこかわかるか?」
「…? ここは…」
晴夢と私が初めて出会ったところ、晴夢と私が争った戦場。
そこには今でも消えずに燃え続ける私の炎と晴夢の捕食の力による食い荒らされたような不自然な地形が広がっている。
周囲の山には風穴があき、空はここだけに雲がかかっていない。
私と晴夢の力の爪痕がそのまま残っている。あれから幾億という年月を重ねてきたのにだ。
「私と晴夢の、初めて会ったところ…か」
「ああ、そうだよ。ここな、今でも俺と龍桜の力の影響が残ってるっつって環境が厳しすぎて生物が住めないんだってよ」
「そ、そうなのか…」
思えばあの時の私はかなりの強者だったのだな。
随分と長い間力を失っているからそんなことは忘れていた。
あの頃の私も普段は周りに気を付けて力を振るっていたのだ。ただ晴夢が相手だと周りを気にしている余裕がなかっただけで…。
だからここまでの被害になってしまった。うぅ…なんだか悪いことをした気分だ…。
いや、悪いことをしたんだ。ちゃんと反省しよう。
「ありゃあ楽しかったなァ…。もしかすると今までで一番楽しい戦だったかもしれねぇ。いや、鏡夜との戦も楽しかったし、どっこいどっこいだな」
晴夢が小声で何か言っている。
私には聞き取れないが、なんだか懐かしそうにしみじみと言っている。
「まぁ、なんにせよ。ここで龍桜と出会わなかったら…多分俺は壊れてたままだったんだろうな」
「晴夢?」
「龍桜。俺は何があってもお前らを守るし、何があっても
「晴夢…?」
なんだ? 晴夢の様子がおかしい。
どうしたんだ?
「だから、ごめんな。しばらく帰れそうにない。俺の居場所を食い潰してしまいたくないからな。またいつもみたいにすぐに帰ってくる。待っててくれ、みんなでさ」
「晴夢…? 何を言っている? まるで今からいなくなるみたいじゃないか…」
理解している、何を言ってるかわかってる。
晴夢は…私たちから離れるつもりだ。
またいつもと同じように自分一人で抱え込んで、一人で何とかしようとしている。
そして今度は本当は一人じゃどうにもでいないことを一人でなんとかしようとしている。
また晴夢に何もしてやれなくて、何も返せなくて…
嫌だ。そんなのは…嫌だ!
「なーんてな、冗談だ。驚いたかよ」
「なっ…晴夢ッ!! はぁ…。まったく、冗談はいいが、嘘だけは付くなよ? これでも、私は心配してるんだ」
「悪い悪い、んじゃあ、帰ろうか」
「ああ、そうだな」
一瞬、一瞬だけ晴夢の表情に陰りが見えた。
私の気のせいだろうか?
もし本当に晴夢の表情が陰っていたとしても、そしてそれを私が晴夢に尋ねたとしても晴夢ははぐらかすだけだろう。
だから、私は少しでも晴夢の負担がのぞけるように、支えていきたい…。
今私には何が出来るのだろうか……?
そう考えてもあまり出来ることはなくて、想像以上に晴夢の世話になっていることを思い知った。
私に出来ることを考えながら布団に入り。
そしてまどろみに落ちて行った…。
―――悪いな、嘘…。ついちまったぜ――
――翌朝、晴夢は私たちの前から姿を消した…。
月すら出てない、あかりの無い夜。
とある森で、妖怪たちは集まっていた。
近くにあった村を襲い、村人を喰おうと…。
あかりの無い夜は普通の人間では何も見えない。
だが妖怪は別だ。光がなくとも見える、もしくは感じ取れる。
――だから、気付くのは速かった。
何かがおかしいと、村から人間の気配がしない、と。
だが感覚が鋭い妖怪は気付いた。村に一人だけ人間がいる。
ほかに村人がいないのはどういうことか、そう疑問に思った瞬間、人狼のような風貌をした妖怪の首が飛ぶ。
「――は」
突然のことで理解できない、と言った顔で、今の声も誰が漏らしたものかわからない。
飛んでいる妖怪の首は斬られる直前とまったく変わらない表情をしていた。
――そして最初に殺された妖怪の首が落ちる、その音がしたとき、その場に生きている妖怪は残っていなかった。
『不味いなァ。腹が減った、人を喰っても妖怪喰っても腹が満たされねェ。次は、神でも喰おうか』