バレンタインデーも終わり、まだ肌寒い日が続いている時期、秋宗は町中を歩いていた。
今日は日曜日で学校もないため、秋宗は気分転換に町中を歩くことにしたのだ。
いつもならゲームをして1日を過ごすのだが、たまには外に出るのも悪くないかもしれないと考えた。
秋宗「あぁ~、腹減ったなぁ~」
時刻は正午前、昼食を取るにはいい時間帯だ。
どこで食べようかと考えていると、ふとファミレスが目に入った。
しかもそのファミレスは今日のコガラシのバイト先でもあった。
秋宗「・・・ま、コガラシのバイト活動をお嬢に報告するのも悪くないかもな」
秋宗は考えた末、ファミレスで昼食を取ることに決めた。
秋宗がファミレスへ歩いて中へ入ると、
かるら「いらっしゃいませー!」
出迎えた従業員が元気よく挨拶してきたのだが、秋宗は絶句してしまった。
なぜなら、その従業員が自分の幼なじみにそっくりだったからなのである。
秋宗(・・・え?お嬢?いやいやいや!あり得ない!だってお嬢がこんなところにいる訳ねぇし!ましてやバイトなんてあり得ねぇだろ!きっとお嬢にそっくりな従業員だ!)
秋宗は頭をフル回転させて、かるらではないと断定したのだが、
かるら「おぉ秋宗ではないか!」
従業員が自分の名前を呼んだため、緋扇かるらだと決定づけてしまった。
秋宗は複雑な表情を浮かべながら、かるらに話し出した。
秋宗「何やってんの、お嬢?」
かるら「見て分からんのか?バイトに決まっとるじゃろ」
かるらは胸を張りながら、秋宗の質問に答えた。
秋宗「・・・はぁ、このファミレス、明日にはお嬢のせいで潰れてしまう」
かるら「どういう意味じゃ!?」
秋宗が頭を抱えて思わず漏らした言葉に、かるらがつっこんだ。
かるらは普段から口調が上から目線で、かるらの父親以外でかるらが敬語を使っているところを秋宗は見たことがなかったのだ。
だから、かるらがお客に対して上から目線で注文をとっている場面が秋宗には目に浮かんでしまう。
コガラシ「おい緋扇、どうかしたのか?」
すると、入り口での秋宗とかるらの話し声が店内まで響いており、バイトのコガラシが何事かと思い確認に来た。
コガラシ「って、西条?何でここに?」
秋宗「あ、コガラシ。いや、ちょっと腹減ったから昼飯でもと思ったら、何故かお嬢がここにいて」
コガラシは秋宗がいることに驚いて、秋宗はいきさつをコガラシに説明した。
コガラシ「あー、そうか。緋扇、お前注文取ってきてくれ。西条は俺が席まで案内しとくから」
かるら「わ、わかったのじゃ」
コガラシはかるらに注文をとってくるよう促して、かるらはお客の注文を取りに行った。
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コガラシ「お待たせいたしました。こちらお冷やになります」
コガラシは秋宗を席まで案内した後、秋宗のテーブルにお冷やを置いた。
秋宗「サンキュー。で、お嬢いつからここに来てるんだ?」
コガラシ「今日からだ。流石に俺も驚いたな。まさか緋扇がバイトに来るなんて」
店長から新入りのバイトを紹介された時に、それがかるらだったのだから、コガラシも驚いた。
秋宗「まぁ、それ以上に驚いてることがあるんだよな」
秋宗はチラリとかるらの方を見ると、
かるら「お待たせいたしましたー!こちらデミグラスハンバーグでーす!鉄板がお熱くなっておりますのでご注意下さーい!」
かるらが営業スマイルで接客をしていたのだ。
更には、お客への配慮までも怠っていなかった。
秋宗「まさかあのお嬢がマトモに接客できるなんて、今世紀最大の驚きかもしれない」
コガラシ「それは言い過ぎだろ」
コガラシは思わず苦笑いをした。
まぁ、コガラシも秋宗と同様、かるらがマトモに接客できるのかと不安だったのだが、秋宗が来るまで、かるらはミス一つなく仕事をこなしていたことに大変驚いていた。
秋宗「まぁ、お嬢のことだし、何か裏があるとは思うが、とりあえずはいいや。コガラシ、このチキンステーキのアメリカンソース頼む。あとドリンクバーも」
コガラシ「かしこまりました。少々お待ち下さい」
秋宗はメニューのチキンステーキを指さして注文して、コガラシは仕事モードに入り厨房へと向かっていった。
一方かるらはというと、
かるら(ふ、悪くないではないか!『一緒にラブラブバイト大作戦』!出だしは好調と言えよう!)
秋宗の言った通り、やはり裏があった。
秋宗からの監視の報告を元に考案したこの作戦は、コガラシとの距離を一気に縮めるためのものであった。
そして、コガラシを惚れさせて、愛し合った結婚をしようと企んでいたのだ。
かるら「くふふ・・・ふふ・・・」
かるらは仕事中にも関わらず、作戦の出だしが好調なことに浮かれてしまっていた。
秋宗「お嬢!」
かるら「っ!?あ、秋宗!?何じゃいきなり!」
かるらが我にかえると、いつの間にか目の前に秋宗が立っていた。
秋宗「何じゃいきなりじゃねぇよ。仕事に集中しろよ。ほら、注文取っておいたから」
秋宗はかるらにオーダー端末を渡した。
かるらが浮かれている時、秋宗はかるらの腰に差してあるオーダー端末を取り、代わりに注文を取ったのである。
お客は戸惑ったものの、取り敢えず注文をした。
かるら「も、申し訳ない。じゃなくて!何故客である主が他の客の注文を取っとるのじゃ!これは妾の仕事じゃぞ!」
秋宗「だったら、浮かれてないでちゃんと自分の仕事をこなしとけ」
かるら「ぬ、ぬうぅ~!」
秋宗はかるらを論破して席に戻り、かるらは秋宗の後ろ姿を睨んでいた。
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秋宗が注文しておいたチキンステーキを食べている時、かるらはミートスパゲティとチキンドリアを運んでいた。
かるら(全く!折角よい気分じゃったのに秋宗のせいで台無しじゃ!)
かるらは秋宗に言われてから、ずっと不機嫌な状態が続いていた。
かるら(まぁ良い。妾の目的はコガラシ殿との距離を縮めること!いつまでも引きずってしもうてはかえって失敗してしまうかもしれんからのう!)
かるらは気持ちを切り替えて仕事に望もうとした。
しかし、コガラシにアタックは試みてはみるものの、いざ至近距離で会話をすると緊張して言葉が出なくなってしまう。
かるら(何をしておるのじゃ妾は!折角コガラシ殿が近くまでおるのに!緋扇邸ではあんなにコガラシに近づけた・の・・に・・・)
かるらは緋扇邸でのコガラシとの出来事を思い出して冷静になって考えてみた。
椅子に縛り付けられているコガラシに、バスタオル一枚姿で身を重ねていた光景を。
かるら(今、あの時のことを思い返してみれば、わ、妾は、なんと大胆なことをおぉ・・・!?///)
かるらは当時のことを思い出して、顔が真っ赤になっていった。
ガツッ
そして、集中が途切れてしまい、かるらはつまづいてしまった。
かるら(し、しまった!妾としたことが!)
お盆に乗っていたミートスパゲティとチキンドリアが床に落ちてしまう。
その時、
ガシッ
秋宗「熱っ!!」
たまたまトイレに行こうとして、近くにいた秋宗がミートスパゲティとチキンドリアの皿をキャッチした。
だが、チキンドリアの皿が鉄板並みに熱く、今にも離したいのだが、秋宗は落とさないようちしっかり掴んでいた。
かるら「あ、秋宗!?」
秋宗「お嬢!早くお盆を!早くしてくれ!」
かるら「わ、分かったのじゃ!」
かるらはお盆を秋宗に差し出し、秋宗は掴んでいたミートスパゲティとチキンドリアの皿をお盆に乗せた。
お客一同「おぉ~!」(パチパチ)
一部始終を見ていたお客たちは思わず拍手をしてまう。
かるら「秋宗!手は大丈夫か!?火傷しとらんか!?」
秋宗「大丈夫だ。お嬢の方こそ怪我とかないか?」
かるらは秋宗の手を見ながら心配するが、秋宗は何事もないように手の平を見せるが、手は赤くなっていた。
コガラシ「おい二人とも!大丈夫か!?って西条!その手!」
騒ぎを見ていたコガラシも駆け寄り、秋宗の手を見て火傷していると思った。
秋宗「心配いらねぇって。洗面所で冷やしとけば大丈夫だから」
かるら「し、しかしじゃな秋宗!」
秋宗「お嬢は早くその料理をお客に運んどけ。ここのバイトなんだから」
秋宗は心配してくれている二人をよそに、1人御手洗いの方へと向かっていった。
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時刻も6時を過ぎ、外も暗くなり、街灯が点いていた。
あの後はというと、かるらがミスをどんどん増やしてしまい、その度に秋宗がフォローしていき、てんてこ舞いであった。
今は客足も落ち着いてきていた。
秋宗「あ~、疲れたぁ~・・・」
秋宗はかるらのフォローで疲労が溜まり、テーブルに頭を乗せてぐったりしていた。
コガラシ「何でバイトでもないお前が疲れてんだよ」
秋宗「うるせぇ。少し黙ってろバイト中毒者」
コガラシは半ば呆れながら秋宗を見て、秋宗はコガラシに毒を吐いた。
秋宗「で、どうだった?お前から見たお嬢の仕事ぶりは」
秋宗はコガラシにかるらの仕事の様子を聞いた。
コガラシ「まぁ、ちょっと失敗しがちだけど、初日だからな。いい働きぶりだとは思うが」
秋宗「・・・そうか」
コガラシからの評価を聞いて、秋宗は頭を上げて、笑顔で接客しているかるらを見た。
店長「あ、冬空くん!そこの君も!ちょっといいかな?」
コガラシ「あ、店長。お疲れ様っす!」
秋宗「て、店長?」
このファミレスの店長が、コガラシと秋宗に話しかけて来た。
店長「いや、緋扇さんのことで二人が話してたからさ。彼女、お偉いさんのとこの子なんでしょ?で、西条くんだっけ?君も緋扇さんの家の人だよね?」
秋宗「えっと、まぁ、俺はお嬢の執事みたいなもんすけど」
秋宗の説明にコガラシはあながち間違ってはないと思った。
店長「いや~、彼女の研修大変だったからねぇ」
コガラシ「大変?」
秋宗「・・・やっぱりお嬢が何かご迷惑を?」
店長は緋扇の研修について二人に話した。
最初の挨拶の段階では、明らかに上から目線で対応してしまい、なおる気配が全くしなかったのだ。
店長はもう研修を打ちきりにしようと言ったが、なんとかるらが頭を下げて、態度をなおすから研修を続けて欲しいとお願いしたらしい。
秋宗にはとても信じられない話だった。
かるらはオオカミ人間並みにプライドが高く、誰かに頭を下げるなんて考えられなかったのだ。
店長「まぁ、あんな風に頭下げられたら、続けざるを得ないからね。これから先輩として頼むよ、冬空くん」
そう言って、店長は厨房へ戻って行った。
秋宗「・・・なぁコガラシ」
コガラシ「ん?」
コガラシは秋宗に呼ばれて、秋宗の方を見た。
秋宗「お嬢はプライドが高くてさ、誰かに頭下げるなんて考えられねぇけど、そこまでしてお前と一緒にいたいっていう気持ちがあるんだ。別に好きになってくれとは言わねぇけど、お嬢の気持ちには答えてくれねぇか?」
コガラシ「・・・あぁ、分かってる」
秋宗は立ち上がり、
秋宗「じゃあ俺帰るわ。会計頼む」
コガラシ「おう、分かった。じゃあレジの方に・・・」
かるら「待ってくれコガラシ殿!妾がやろう!」
コガラシがレジの方へ行こうとした時、かるらがレジ打ちをすると言って来たのだ。
コガラシ「そ、そうか。じゃあ任せるぞ」
コガラシはかるらにレジを任せて、空いている皿を下げに向かった。
かるらと秋宗はレジへ向かい、かるらはレジ打ちを始めた。
かるら「・・・あ、秋宗」
秋宗「ん?」
かるらは手を止めて、秋宗の方を見た。
かるら「その、すまなかったのじゃ。今日はお主とコガラシ殿にたくさん迷惑をかけてしもうて・・・」
かるらは申し訳なさそうに顔をうつむせて、表情も暗いままであった。
そんな様子を見て秋宗は、
秋宗「・・・お嬢、俺が緋扇邸に来て1週間経った時にお嬢が俺に言ったこと覚えてるか?」
かるら「え?」
かるらは思わず顔を上げた。
秋宗「笑えばいいって言っただろ?お嬢が暗いままじゃあ、俺も姐さんも暗くなっちまうんだよ。だからさ、笑ってくれよ」
秋宗は笑顔でかるらの顔を見た。
かるら「・・・そうじゃったのう」
かるらは暗い表情から一気に明るい表情になった。
秋宗「やっぱりお嬢は笑顔が似合ってる」
かるら「そういうお主もじゃぞ」
秋宗は代金を支払って、ファミレスを出ようとした。
かるら「秋宗、また来てもよいぞ!」
秋宗は立ち止まり、振り向いて、
秋宗「お嬢、違うだろ」
かるら「あっ。そうじゃった。ありがとうございましたー!またお越し下さいませー!」
かるらは訂正して挨拶して、秋宗はファミレスを後にした。
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