緋扇邸のオオカミくん   作:アニアス

27 / 58
第26話 宣戦布告

~ゆらぎ荘~ 午後7時

 

みんなで夕食を食べている時、仲居さんがある話を切り出した。

 

 

 

幽奈「湯煙温泉郷フェス?」

 

 

 

仲居さんから渡されたイベントのポスターを幽奈たちは興味深く見ていた。

 

湯煙温泉郷フェスとは、ゴールデンウィークに開催される日本各地から有名なバンドやアイドルたちがこの湯煙温泉郷へ集まって音楽ライブをする企画であり、地元のPRにも繋がる大切なイベントでもある。

 

みんながワイワイ盛り上がっていると、仲居さんは気まずそうに本題を話した。

 

 

 

仲居さん「それでその、ご相談なんですけど・・・。皆さんで、出てみませんか?」

 

 

幽奈たち『・・・えっ?』

 

 

 

仲居さんの話によると、フェスに出演予定だった高校生バンドが方向性の違いで解散してしまったらしく、その代理で幽奈たちに出てほしいということらしい。

 

 

 

幽奈「む、無理ですよ・・・!舞台で歌うなんて・・・!」

 

 

雲雀「そうだよ!雲雀たちなんて普通の高校生なんだよ!?」

 

 

秋宗・コガラシ『普通の・・・?』

 

 

 

クナイやら手裏剣やらを飛ばす高校生のどこが普通なのだろうと秋宗とコガラシは疑問に思うが、幽奈たちはいくらなんでも無理があると言いきっていた。

 

確かに素人がいきなりフェスに参加するというのは流石に無理があるだろう。

 

幽奈たちが反対したことで、人見知りがある狭霧はフェスに出られないと思いホッとした。

 

 

 

狭霧「まったくもってその通りだ!仲居さん!申し訳ありませんがこの件は・・・」

 

 

仲居さん「・・・そう、ですか」

 

 

 

狭霧が断ろうとした時、仲居さんは俯いてしまった。

 

 

 

仲居さん「温泉郷フェス実行委員会の会長さんは昔から私の戸籍等で大変お世話になっている方なので、ご協力いただけるとありがたかったのですが・・・」(しゅん・・・

 

 

幽奈『!!』(ズキーン!!

 

 

 

仲居さんは深いため息をついて困った表情になり、それを見た幽奈たちは心にハンマーをぶつけられたような気持ちになった。

仲居さんは本当に落ち込んでいるのか、それともわざとやっているのかは誰にも分からないだろう。

 

仲居さんの様子を見た幽奈は、

 

 

 

幽奈「・・・わ、私やります!」

 

 

狭霧「幽奈!?」

 

 

 

フェスに参加することを決めた。

狭霧は無謀なことだと幽奈を説得しようとするが、

 

 

 

幽奈「だって!仲居さんからこんなお願いをされることなんて滅多にありませんよ!?日頃お世話になっている仲居さんのためなら私・・・!」

 

 

 

確かに仲居さんには普段から食事やら家事やらなんやらで大変お世話になっている。

その仲居さんからお願いされて引き受けない訳にもいかないだろう。

 

そう考えた夜々と雲雀は、

 

 

 

夜々「・・・夜々もやる」

 

 

雲雀「雲雀も!」

 

 

 

幽奈と同じくフェスに出ることを決めた。

 

 

 

狭霧「ま、待て待て!気持ちは分かるが落ち着け!ライブに出るといっても何を歌うんだ!?楽器の演奏はできないだろう!?練習するにしたってこのフェスはゴールデンウィークだぞ!?もう1週間しかない!」

 

 

 

狭霧の言う通り、ゴールデンウィークまでそんなに時間がなく、楽器を演奏する人を探すことや必要な機材や衣装を用意することなどに多大な時間と出費がかかってしまう。

そうなってしまえば、練習する時間などなくなってしまう。

 

しかし、それはすぐに解決した。

 

 

 

コガラシ「ドラムなら任せとけ!」

 

 

朧「私も竜笛なら任せとけ」

 

 

秋宗「ギターならいけるぞ」

 

 

呑子「衣装は私がデザインしてあげるわ~!」

 

 

こゆず「必要な機材はボクが葉札術で出してあげる!」

 

 

 

コガラシと朧と秋宗が演奏、呑子が衣装のデザイン、こゆずが機材の準備を担当することになった。

みんな仲居さんのために協力しようと一丸となった。

 

しかし、狭霧だけはフェスに出ることを躊躇していた。

それを見た秋宗は狭霧にこう言った。

 

 

 

秋宗「・・・狭霧、無理して出なくていいんだぞ?」

 

 

狭霧「なっ?」

 

 

 

秋宗から出なくてもいいと言われた狭霧は目を丸くしてしまう。

これはあくまで強制参加という訳ではないため、狭霧が出る必要はないのである。

そして秋宗はこう付け加えた。

 

 

 

秋宗「・・・ただ、七海がフェスを見に来て、狭霧が出てないと分かったら、あいつはお前になんて言うだろうなぁ?」

 

 

 

秋宗に言われて、狭霧は顎に手を当てて考えてみた。

 

 

 

 

 

七海『ねぇ?どうして貴女フェスに出なかったの?もしかして恥ずかしかったから出なかったのかしら?だとしたらとんだ笑い話ねぇ!誅魔忍である貴女が恥ずかしがってフェスに出なかったって他の誅魔忍に知られたら何て言われるでしょうねぇ?』

 

 

 

 

 

七海が自分を嘲笑い見下しているのを想像した狭霧は、

 

 

 

狭霧「・・・・・私も出るぞ!!」

 

 

 

そうなりたくないと思いフェスに出ることを決めた。

 

 

 

秋宗「よし、これで全員参加は決まったな」

 

 

 

上手い具合に狭霧をフェスに参加させるように誘導した秋宗は思い通りにことが進んだことをクックックッと笑っていた。

 

こうして、ゴールデンウィークまでの1週間、フェスへの猛特訓が始まった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~フェス前日~

 

本番を明日に向かえた秋宗は七海と一緒にフェス会場の下見に向かっていた。

 

何故七海と一緒にいるのかというと、今日は七海の買い物に付き合う約束をしていたため、その帰りに寄る形になったのだ。

七海との関係は良くなり、幽奈たちとも仲良くなっていた。

たまにゆらぎ荘へ赴いてパンツを見たりするが、直に胸を見たがるこゆずに比べればかわいいものだろう。

 

 

 

七海「いよいよ明日ね。それで練習の成果はどんな感じなの?」

 

 

秋宗「まぁ短い時間でよく頑張った方だと思うが、あとは明日に臨むだけさ」

 

 

 

七海はフェスを楽しみにしており、秋宗は少しだけ緊張していた。

 

実際秋宗を始め、幽奈たちも寝る間も惜しんで猛特訓してきたため、いいものにはなるだろう。

千紗希と紫音と柳沢も楽器の演奏で出ることになり彼女たちも一緒に特訓してくれた。

 

すると七海はふと思った。

 

 

 

七海「そういえば、幽霊さんもフェスに出るって聞いたけど、幽霊さん観客からは見えないはずでしょ?」

 

 

 

幽奈は地縛霊のため、霊力の高い人にしか見えないため、舞台に立ってもほとんどの観客からは幽奈が見えないだろう。

 

 

 

秋宗「そこは大丈夫だ。こゆずがなんとかしてくれる」

 

 

 

こゆずはゆらぎ荘で特殊な葉札を育てているため、それで幽奈の身体を作れることができるのである。

一度幽奈はこの方法でコガラシとデートしたことがあるため、問題はないだろう。

 

 

 

七海「へぇ~、タヌキちゃんの葉札って便利ねぇ」

 

 

 

そうこうしていると、フェスの会場に着いた。

 

まだ会場設営のスタッフたちが準備を行っている最中だが、まず秋宗と七海の目には大きな舞台が写った。

舞台はとにかく大きく、まるでアイドルがライブを行ってもおかしくないくらい豪華なものだった。

そして、観客側のスペースも何千人も入れるくらい広いスペースが確保されていた。

 

 

 

七海「・・・オオカミさんたち、明日ここに立つの?」

 

 

秋宗「マジかよ・・・!?こんなに大きいなんて聞いてねぇぞ・・・!?」

 

 

 

秋宗と七海はあまりにも大がかりなフェス会場を見て驚愕していた。

てっきり地下ライブ程度のイベントと思っていたが、ここまで大きなイベントなのかと改めて秋宗は実感した。

 

 

 

七海「・・・ねぇ、あそこにいるの、やっさんたちじゃない?」

 

 

秋宗「えっ?」

 

 

 

 

七海が指を差した方を見ると、コガラシと幽奈、狭霧と雲雀と夜々と仲居さんとフェス実行委員会の会長の湯野田さんがいた。

おそらく秋宗と同じようにフェス会場の下見に来たのだろう。

そして、コガラシたちの他に誰か数人いた。

 

 

 

秋宗「・・・ひょっとして、あれトゥインクルスか?」

 

 

 

トゥインクルスとは、兵藤のお気に入りのアイドルグループで、現在人気急上昇の超売れっ子でもある。

トゥインクルスもこのフェスに出演する予定になっているため、彼女たちも会場の下見に来ているのだろう。

トゥインクルスの他にもう一人、別の女性がいた。

おそらく、トゥインクルスの関係者の方なのだろうと秋宗は思った。

しかし、その人とコガラシたちの間には、何やらよろしくない雰囲気が漂っていた。

 

 

 

秋宗「・・・絶対何かあったな」

 

 

七海「取り敢えず行ってみましょ」

 

 

 

流石に見て見ぬふりは出来ず、秋宗と七海はコガラシたちの元へ歩いて行った。

 

 

 

秋宗「おいお前ら、一体何してんだ?」

 

 

七海「まるで一触即発みたいな感じよ?」

 

 

夜々「・・・秋宗、七海も来てたんだ」

 

 

 

秋宗が声を掛けるとコガラシたちは秋宗と七海の方を見て、それに釣られてトゥインクルスと女性も秋宗たちの方を見た。

 

 

 

秋宗「・・・仲居さん、何があったんですか?」

 

 

仲居さん「えっと・・・」

 

 

 

仲居さんの話によると、下見に来ていたコガラシたちにトゥインクルスのプロデューサーが声を掛けて来たのだが、コガラシたちが素人と聞くとプロの舞台に素人を立たせるなんてこの町にはがっかりだと言われてしまったらしい。

 

 

 

秋宗「・・・成る程。確かにプロデューサーさんの言うことは理解できる。俺ら素人がこんな大きな舞台に立つなんて、トゥインクルスの皆さんを始め、他のプロの方々にも失礼になるかもしれない」

 

 

 

 

腕を組みながら話を聞いていた秋宗は、プロデューサーの言うことにも一理あると肯定してしまう。

それを聞いて、幽奈たちは暗くなってしまった。

そして秋宗はトゥインクルスの方を見て続けてこう言った。

 

 

 

秋宗「けど、俺から言わせてみりゃあ、アンタらも十分素人だけどな」

 

 

一同『えっ?』

 

 

 

秋宗の発言にコガラシたちを始め、トゥインクルスとプロデューサーは疑問を浮かべてしまう。

 

 

 

雲雀「何言ってるの秋宗くん!?トゥインクルスは大活躍しているアイドルグループだよ!?素人なわけないじゃん!」

 

 

秋宗「そこじゃない」

 

 

 

雲雀の言ったことを秋宗は即座に否定した。

 

 

 

秋宗「俺が言ってる素人ってのは、この町に関して素人ってことだ」

 

 

 

トゥインクルスとプロデューサーはこの町に関して何も知らない。

仲居さんから話を聞いて、表情には出していないが秋宗はハラワタが煮えくりかえっていた。

 

 

 

秋宗「ま、俺はこの町で生まれた訳じゃないんですけど、この町の人たちの温もりや優しさを俺は理解しているつもりです」

 

 

仲居さん・湯野田さん『!!』

 

 

 

秋宗の温泉郷を思う気持ちに仲居さんと湯野田さんは目を見開いた。

 

秋宗は知っている。

かつてコガラシたちの敵として窮地まで追い込んだが、コガラシたちは見事に大逆転した。

秋宗は知っている。

仲居さんを始め、この町の人たちはとてもいい人たちばかりで、こんな町はほかにはないと。

だから、この町のことを何も知らない連中に悪口を言われる筋合いはない。

 

秋宗はコガラシたちの前に出て、プロデューサーと向き合った。

 

 

 

秋宗「つまり分かりやすく言うとですね、この町を甘く見てると痛い目見るってことですよ、素人さん」

 

 

 

秋宗は皮肉まみれの言葉をプロデューサーとトゥインクルスにぶつけた。

 

ずっと黙っていたプロデューサーは表情を崩さず、冷たい目付きで秋宗を見ていた。

 

 

 

プロデューサー「・・・あなた、随分好き勝手言ってくれたけど、この子(トゥインクルス)たちよりも盛り上がるステージを見せてくれるというの?あなたたちのような素人がステージに立ったらどうなるか、結果を見る間でもないわ」

 

 

七海「そこまで言うなら、賭けをしてみない?」

 

 

 

ずっと黙っていた七海は秋宗の隣に立ち、プロデューサーにある提案をした。

 

 

 

七海「もしオオカミさんたちがトゥインクルスより盛り上がったら、やっさんたちに謝って頂戴」

 

 

狭霧「七海・・・!」

 

 

 

七海も自分たちのためにプロデューサーに反論してくれていることに狭霧は少し感動した。

 

 

 

プロデューサー「・・・それで?あなたたちの方が盛り上がらなかったら?」

 

 

七海「そうね・・・」

 

 

 

プロデューサーに言われて、七海は顎に手を当て少し考えてこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七海「その時は、私があなたの靴を舌で舐めてキレイにしてあげるわ」

 

 

 

一同『・・・・・ハァッ!?』

 

 

 

七海の出した負けた時の行為にその場の全員が驚いてしまう。

七海の見た目は幼稚園児、こんな子供が靴を舐める絵図なんて誰も見たくないだろう。

 

 

 

コガラシ「七海!?自分で何言ってんのか分かってるのか!?」

 

 

仲居さん「そうですよ七海さん!」

 

 

湯野田さん「君がそこまで無理をする必要はないよ!」

 

 

 

コガラシたちは今すぐ七海にそんな賭けを止めさせるように説得するが、七海は取り下げる気はないらしく、

 

 

 

七海「大丈夫よ、オオカミさんとやっさんたちならきっと盛り上がるステージを見せてくれるはずだから」

 

 

 

それどころか、秋宗たちがトゥインクルスよりも盛り上がると信じている様子だった。

 

七海の提案を聞いたプロデューサーは、

 

 

 

プロデューサー「・・・ホテルに戻って、リハーサルの続きやるよ」

 

 

 

早くその場から立ち去りたいのか、それとも七海の顔を見たくないのか、秋宗たちに背を向けて去って行った。

トゥインクルスもプロデューサーの後ろを慌てて追いかけて行ってしまった。

 

 

 

狭霧「とんでもないことになってしまったぞ!」

 

 

夜々「盛り上がらなかったら、七海があの人の靴を舐めることに!」

 

 

雲雀「絶対に負けられなくなっちゃったじゃん!」

 

 

 

狭霧たちは深刻な表情になり慌てふためいていた。

 

 

 

七海「ふふっ、人が慌てる光景って、こんなに面白いのねぇ」

 

 

秋宗「何でお前は余裕なんだよ?」

 

 

 

狭霧たちの様子を見て面白がっている七海に秋宗は思わず突っ込んだ。

 

 

 

七海「あら?もしかしてオオカミさん、勝てる自信がないの?あんなにプロデューサーさんに啖呵を切っておきながら」

 

 

秋宗「・・・馬鹿言え、あんだけ特訓したんだぞ?負ける要素なんてねぇよ」

 

 

 

七海は嘲笑っていたが、秋宗は自信満々に答えた。

 

 

 

幽奈「・・・私、悔しいです」

 

 

 

するとずっと黙っていた幽奈が口を開いた。

 

 

 

幽奈「私たちは確かに素人です。でも、私たちの住むこの湯煙温泉郷が私たちのせいで蔑まれるなんて・・・!」

 

 

 

幽奈の温泉郷に対する思いは、秋宗以上に満ち溢れていた。

 

 

 

幽奈「だから皆さん!お願いします!あの方が!絶対忘れられないライブにしてやりましょう!」

 

 

狭霧「・・・あぁ!」

 

 

 

幽奈の熱に当てられ、狭霧たちは明日のフェスを絶対にトゥインクルス以上に盛り上げると決心したのだった。

 

 

 




感想の程、お願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。