緋扇邸のオオカミくん   作:アニアス

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第49話 謝謝

秋宗「・・・・・」

 

激闘の末、100年間凍結させる技『タイム・イズ・ワン』で勝利した秋宗は氷に覆われた炎焔をジッと見ていた。

炎焔の顔は先ほどまでの人を見下すような下衆の表情ではなく窮地に追い込まれ絶望に染まった表情のまま凍りついていた。

 

かるら「やったのか?」

秋宗「・・・あぁ、コイツはもう終わりだ」

 

かるらは力なく返事をした秋宗を見て、内心では使わないと決めていた禁術を使ってしまったことを少し後悔しているのだろうと察した。

 

かるら「・・・気にするでない、主は何も間違ったことなどしてはおらん。このような輩には似合いの最後というものじゃ」

秋宗「いや、別に禁術を使ったことを後悔してる訳じゃねぇんだ」

かるら「?どういうことじゃ?」

秋宗「もし炎焔が、狂気の快楽に呑まれずに俺出会っていたら、きっといいライバルになれたんじゃねぇかって」

 

戦いを通して炎焔の実力は下手をすればコガラシに匹敵するかもしれないと実感していた。

もし炎焔が正常のままだったら中国一の武闘家になっていたかもしれない。

もしそのまま出会っていたら良い関係を築けたかもしれない。

そう考えると次第に炎焔への憎しみもジワジワと薄れていった。

 

かるら「秋宗、気持ちは察するが決して同情するでないぞ。こやつはもう救いようのないところまで堕ちてしまったのじゃからのう」

秋宗「あぁ、分かってる・・・」

 

マトラ「なーに暗くなってんだよ!アタシら勝ったんだから喜ぼうぜ!」

 

勝利したにも関わらず暗い雰囲気になっている2人を明るくしようとマトラは背中を叩き笑顔で接した。

その笑顔を見て秋宗もかるらも思わず笑ってしまい肩の力が抜けた。

 

かるら「それもそうじゃのう。それと!秋宗は帰ったらたっぷり説教じゃからな!」

秋宗「はぁ?お嬢の説教ならさっき受けただろ」

かるら「いいや!あれだけでは全然足りん!この際じゃから言いたいことも全部言わせてもらうからのう!」

マトラ「じゃーアタシも秋宗にいっぱい説教する!スゲー心配かけさせたからな!」

秋宗「勘弁してくれよ~・・・!」

 

帰っても休む暇が無さそうだとため息を吐くもいつも通りの日常に戻れたような気がすると実感するのだった。

 

秋宗「まぁ、取り敢えずここから・・・」

 

フラッ・・・

 

その時、今までのダメージのツケが周り仰向けへ倒れ込んだ。

しかしその倒れた先は、

 

 

 

パフッ・・・

 

 

 

マトラ「・・・へ?」

 

 

 

マトラの豊満な胸だった。

顔中に広がる大きく柔らかくどこかいい匂いがする感触を楽しむことなく秋宗はそのまま気を失ってしまった。

 

マトラ「なっ、なな、何やってんだお前!?///」(ブォン!

 

ガシャァァァン!!

 

咄嗟のことに理解が追いつかなかったマトラは恥ずかしさのあまり秋宗をぶん投げてしまった。

その拍子に頭から壁へぶつかりピクリとも動く様子がなかった。

 

かるら「あ、秋宗ーーー!?」

紫音「秋宗兄さーーーん!?」

七海「オオカミさんが死んだーーー!」

浩介「いや死んでない死んでない!多分・・・」

 

みんなは慌てて秋宗へ駆け寄ると頭から血を流し身体が少し痙攣を起こしていた。

ただでさえ重症だというのに更に追い打ちをかけて傷を負ってしまい瀕死の状態へと陥ってしまった。

 

かるら「マトラ!秋宗になんということをしてくれたのじゃ!?」

マトラ「だっておっぱいに顔を埋めてきたんだぞ!?///んなのブン投げるに決まってんだろ!///」

幽奈「ですから秋宗さんは重症なんですって!」

雲雀「ていうかこれ生きてるの!?凄い血を流してるんだけど!」

夜々「違うの、こっちは返り血なの」

仲居さん「とにかく今は秋宗くんを運びましょう!」

 

取り敢えずは一度ここを離れて秋宗を手当てしようと思った時だった。

 

京太郎「あの~ちょっといいかな・・・」

 

どこか気まずそうに京太郎が手を上げた。

その表情は目が泳ぎ額に汗を掻き明らかに動揺している様子だった。

 

コガラシ「え?どうしたんすか?」

京太郎「え~っとね~、ちょっと言いにくいんだけど、まだ終わりって訳にはいかないみたいだよ・・・」

呑子「それってどういうことなの?」

 

そう言って京太郎はみんなの後ろの方へ指を指した。

釣られてその方向へ振り向くとそこには、

 

 

 

雷「・・・・・」

 

 

 

ボロボロの状態になりながらもいつの間にか意識を取り戻した雷が立っていた。

 

こゆず「うわぁ!?起きてる!」

七海「まだやる気なの!?」

 

咄嗟に七海はこゆずを後ろに下がらせ手を前に翳しポルターガイストを発動させようとし、みんなも各々身構えた。

しかし幽奈と千紗希、朧はこれ以上争っても無意味だと分かっているため雷を説得しようとした。

 

幽奈「もうやめて下さい!私たちはもう貴女方と戦いたくありません!」

千紗希「そうだよ!こんなことしてもなんの意味もないよ!」

朧「貴様らの姉は貴様らのことを捨て駒としか思っていなかったのだ。これ以上の争いは無駄だ」

 

炎焔が風と雷を妹だと思っていないことを伝えるも雷は表情をピクリとも変えずにいた。

いきなりそんなことを言われても信じられないのだろうと思った時、雷が口を開いた。

 

雷「・・・そんなの、最初から知ってた」

 

『・・・えっ?』

 

雷の突然の発言にみんなはポカンとなってしまう。

炎焔が妹と思っていないにも関わらず何故一緒に行動していたのだろうと疑問に思った。

それを余所に雷は秋宗へと視線を移した。

 

雷「私はそもそも、彼を逃がすつもりだった・・・」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

雷『・・・そう』

 

秋宗をスカウトとしようとして断られた時、雷は秋宗の耳元へ顔を近づけ、

 

雷『バカな人』

 

と囁いた時だった。

 

スッ・・・

 

秋宗『?』

 

炎焔と風から見えない角度で秋宗のズボンのポケットにあるものを入れた。

少し動揺している秋宗に雷は続けてこう言った。

 

雷『私が隙をつくるから、これを使ってここから逃げて』

秋宗『ッ!?お前・・・!?』

 

秋宗は思わず目を見開いてしまうも雷は平静を装い秋宗に背を向けて離れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

雷「でもその時はダメージが大きすぎてポケットに手を入れる力も残ってなかったみたいだけど」

 

その時の状況を説明した雷の言葉通りにマトラが秋宗のポケットに手を突っ込むとあるものが入っていた。

 

マトラ「何だこれ?」

 

入っていたのはガラスでできた小瓶だった。

中は飲み終えたペットボトルのように赤い水滴が残っていた。

その小瓶を見て京太郎が反応した。

 

京太郎「あっ、それ霊力を回復させる秘薬じゃん」

夜々「秘薬?」

京太郎「うん、確かそれ飲むと半分くらい霊力が回復する効果があるんだよ」

かるら「そうか・・・!秋宗の霊力が回復しておったのはそういうことじゃったのか!」

 

戦っている最中、秋宗の霊力が回復していたことにかるら理解した。

秋宗はこの秘薬の飲んだのだと。

そんな中、狭霧は雷にあることを聞いた。

 

狭霧「しかし何故だ?何故西条秋宗を逃がすようなことを?」

 

言ってしまえば雷の行動は炎焔と風を裏切ったようなもの。

もしバレたらただでは済まなかった筈。

にも拘わらず何故危険を犯してまで秋宗を助けようとしたのだろう。

 

質問された雷は観念したかのように答えた。

 

雷「・・・これ以上人が死ぬのを見たくなかった、それだけ」

 

雷は小さい頃から長女である炎焔の背中を見て育ってきていた。

誰よりも優れ武闘大会でも数々の成績を残してきた炎焔は雷にとって憧れの存在だった。

次女の風も炎焔に憧れ3人で中国の頂点に立とうと強い約束を交わした。

 

しかし、炎焔が狂気の快楽に落ちてから全てが変わった。

次々と霊能力者たちを殺害していきどんどん手を汚し取り返しのつかないところまで落ちてしまい、その影響を受けて風も変わってしまった。

しかし雷だけは呑まれずに殺害しているように装いこっそり逃がし炎焔から助けようとしたりした。

そして雷は察してしまった。

もう私たち姉妹はあの頃には戻れないと。

 

雷「本当は姉さんたちを止めたかった。けど私は、自分が殺されるのが怖いから一緒に行動するしかなかったの。だったらせめて姉さんたちの魔の手から遠ざけようと努力したけど殆どの人たちが犠牲になってしまった。結局私は、自分の身がかわいいだけの臆病者よ」

 

全て言い終え目線を下へ落とし悲しい表情を浮かべる雷を見て幽奈たちは黙り込んでしまう。

 

狂気の快楽に呑まれなかったとはいえ自分が姉2人を止められず多くの人たちが犠牲となってしまった。

もし勇気を持っていたら犠牲者なんて出なかったかもしれないのにと悔やんでいると、

 

コガラシ「お前、臆病者って言ってるけどよ、それは違うんじゃねぇか?」

雷「え?」

 

コガラシが即座に論破をし雷は思わず顔を上げてしまう。

幽奈たちも驚くもコガラシは続けてこう言った。

 

コガラシ「西条に秘薬渡した時、隙を作るって言ってたらしいけど、どうするつもりだったんだ?」

雷「そ、それは、不意討ちで姉さんたちを襲うつもりだったけど・・・」

コガラシ「ってことはだ。お前は覚悟を決めてあの2人と戦おうとしたってことになるんじゃねぇのか?」

雷「あっ・・・!」

 

死ぬのが怖くて自分を押し殺し炎焔と風と行動していたにも拘わらず秋宗を逃がすために戦おうとしていた。

自分が無意識に覚悟を決めていたと気付いた雷は恥ずかしくなり顔を赤くしてしまう。

 

コガラシ「まぁ兎に角、お前は姉の2人が間違ってるって思ってたんだろ?それを止めようと勇気を振り絞ったお前は正直スゲェと思うけどな」

雷「・・・どうしてそこまで言ってくれるの?」

 

演技とはいえ確実に仕留めようと襲いかかったにも拘わらず自分の言葉を信じてくれたコガラシに思わず首を傾げてしまう。

そんな雷に呆れながらもかるらが答えてくれた。

 

かるら「今更何を言うとるのじゃ。貴様は身の危険を犯してまで秋宗を助けようとした。それ以外に理由などないわ」

雲雀「そうだよ!貴女は何も悪くないよ!」

仲居さん「辛かったですよね。お姉さん2人が変わってしまって、誰にも頼れなくて1人で耐えて・・・!」

 

それに便乗して雲雀と仲居さんも雷を責めず寧ろ同情の言葉を掛けた。

それを聞いた雷は不思議と心が軽い気持ちになったと同時に不思議な人たちだと思った。

 

浩介「冬空くんの言う通りだよ。あんな2人と一緒に居ながら他の人たちを助けようとしたなんて。僕だったら絶対ボロが出ちゃうよ」

呑子「貴女ホントにスゴいわ~」

雷「・・・そう言ってもらえるだけでも嬉しいよ、オバサン、チェリーボーイ」

呑子「ちょっと一回引っ張叩かせて」

浩介「脳天に一発撃ち込んでもいいよね?」

幽奈「お、落ち着いて下さい呑子さん!」

雲雀「浩介くんも抑えて!」

紫音「何でさりげなく毒吐いたんスかあの人!?」

 

それぞれ雷から悪口を言われた呑子と浩介は痛い目に合わそうとズカズカと近づくも幽奈たちに阻まれてしまい近づくことができなかった。

そして雷は一息ついてこう言った。

 

雷「最後にこれだけ言っておく。私に同情なんてしなくていい。狂気の快楽に呑まれなかったとはいえ姉さんたちに協力してしまったのは事実。だから私は姉さんたちと一緒に祖国に戻って罪を償うわ。それが、今の私にできる唯一のことだから。それと、彼が起きたらこう伝えて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謝謝(シェイシェイ)って・・・!」

 

 

 

そう言い終えて雷は涙を流しながら笑顔を見せた。

その笑顔は炎焔や風とは全くの別のもで心の呪縛から解放された本物の笑顔だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その後、誅魔忍経由で炎焔、風、雷の3人は中国へと強制送還された。

殺人を犯した炎焔と風は当然罪は重くなり雷も姉2人とともに罰を受けることになった。

中国の霊能力者たちも殺人を犯していない雷の罪を軽くしようとしたが本人からの要望で姉たちと共に罪を償いたいということでこのような結果になったのだった。

 

そして秋宗は全治数週間の診断を受けしばらく絶対安静ということで学校も休学する羽目になってしまった。

緋扇邸で療養中、我琉駄とスズツキから叱られたり、三羽烏の黒服たちが重症の身体を見て号泣したり、かるらとマトラから説教の続きを受けたり、コガラシたちが見舞いに来たりと休む暇などなく寧ろ疲れが溜まるもいつも通りの日常が向かえることが出来ることに安心するのだった。




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