~午前10時~
「もしもしお館さん。無事に手紙を渡し終えました」
ありがとう秋宗くん。わざわざ悪いね。こんなこと頼んでしまって』
「大丈夫ですよお館さん。手が空いてたの俺だけでしたし、それにここにはいつか行ってみたいと思ってたんで」
『それならいいんだけど・・・』
「にしても本当にここ鹿だらけですね」
電話越しに我琉駄と会話をしている秋宗が辺りを見渡すとたくさんの鹿がウロウロと歩いていた。
秋宗は今、広島県の宮島に来ているのだった。
何故秋宗が宮島にいるのかというと、宮島にいる西軍の幹部に手紙を渡して欲しいと我琉駄から頼まれたため行くことになったのである。
秋宗も宮島には興味があったため正に願ったり叶ったりで少し浮かれている。
「じゃあ少し観光してからそっちに戻りますんで」
『分かった、何かあったら連絡するように』
「了解です」
そう言って秋宗は電話を切りスマホをポケットへ戻した。
「さて、行くとしますか」
心を踊らせながら秋宗は観光を楽しもうとした。
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しばらく宮島を見て回るも、どこもかしこも鹿だらけで宮島の印象は鹿と強く印象付けてしまう。
そんな秋宗は今、お土産屋が並ぶ通りに来ており仲居さんたちへのお土産を選んでいた。
「仲居さんはしゃもじでいいとして、お嬢と姐さんには何買ってくりゃいいんだ?って・・・ん?」
誰にどのお土産がいいか秋宗が悩んでいると、通りの向こうで何やら人が集まっているのが見えた。
一体何事だろうと気になったため秋宗は人混みへと歩いて行った。
「すんません、これ一体の集まりですか?」
「知らねぇのか?これからここでトゥインクルスの新曲のPV撮影があるんだよ!」
「トゥインクルスが・・・?」
野次馬の1人に声を掛けると少し興奮気味で説明をした。
遠くの方を見るとスタッフたちが準備に取り掛かっており撮影機材も多く置いてあった。
まさかこんなところにトゥインクルスがいるなんてと秋宗は少し驚いてしまう。
トゥインクルスとは湯煙温泉郷フェスで仲良くなった時以来会っていないため秋宗は顔だけでも見ていこうとした。
「でもおかしいな。予定じゃもう撮影が始まる時間なのに、まだ来ないな」
野次馬はトゥインクルスはまだかまだかと落ち着きがない様子だった。
それを聞いた秋宗は何かあったのではないかと思い一旦人混みから離れていった。
路地裏を通り人混みとは反対方向へ周り込み撮影場所へと近づいた。
スタッフたちに見つかると面倒なことになりそうなため電柱の影に隠れて様子を見ると、
「まだ来ないのか!?」
「あと数時間掛かるみたいです!」
「どうすんだよ時間ねぇぞ!?」
何やらスタッフたちが慌ただしくしていた。
秋宗の読み通り、何かトラブルがあったようだった。
もしやトゥインクルスを乗せた車が遅れているのかと思ったが、
「撮影まだかな?」
「どうしよう?」
「ま、なんとかなるでしょ」
トゥインクルは既に現場に到着しており椅子に座っていた。
ロングヘアの子とツインテールの子はオドオドとしているがショートヘアの子は落ち着いていた。
「一体何があったんだ・・・?」
「ちょっと!そこで何をしてるんですか!?ここはスタッフ以外立ち入り禁止ですよ!」
「げっ!?」
隠れていたつもりが女性スタッフに見つかってしまった。
トゥインクルスもスタッフの声に気づいて顔を向けると、
『オオカミくん!?』
撮影現場に秋宗がいることに驚いてしまう。
秋宗を注意している女性スタッフにトゥインクルは慌てて駆け寄った。
「待って下さい!この人私たちの知り合いなんです!」
「えっ?そうなんですか・・・?」
「そーそー!」
「大丈夫ですので」
女性スタッフを説得して秋宗を追い出させないようにした。
女性スタッフは向こうのスタッフたちから呼ばれたしまったためトゥインクルスに秋宗を任せて走っていった。
「オオカミくん久しぶり!」
「フェス以来だなー!」
「何でここにいんの?」
秋宗と久しぶりに会えたトゥインクルスは急に笑顔になり落ち着きを取り戻していた。
「ま、まぁ観光がてら立ち寄ったって感じで・・・それより、何かあったんすか?」
「えっと、実はね・・・」
話によると今日のPV撮影のメインはトゥインクルス1人1人がデートをしているという設定だったのだが彼氏役の人たちを乗せた車が高速道路での事故のトラブルで大渋滞に巻き込まれてまだ到着できてないらしい。
それでスタッフの人たちも撮影が出来ずに慌ただしい状況が続いているらしい。
「そりゃ大変すね。じゃあ撮影は延期ってことっすか?」
「ううん、撮影は今日までにやらなきゃいけないの」
「来月までスケジュールがパンパンだし~」
「それに新曲は今月末にCDとDVDが発売されるから時間がないんだよ」
撮影を今日までにやらなければ新曲の発売日まで絶対間に合わずトゥインクルスは再び焦燥の顔になってしまう。
一番手っ取り早いのはかるらかスズツキに頼んで神速通で連れてくることだが流石に人前でそんな術を使う訳にはいかない。
どうしたものかと秋宗も一緒に考えていると、
「ちょっといい?」
向こうからトゥインクルスのプロデューサーとサングラスを掛けた男性が歩いて来ていた。
「プロデューサー!監督!」
どうやらプロデューサーの隣にいる男性は今回のPV撮影の監督らしい。
「プロデューサー、向こうどうだった?」
ツインテールの子は彼氏役の人たちはどうなっているかと聞くと、プロデューサーは険しい表情になった。
「どうやら大きい事故だったみたいであと3時間掛かるみたい」
「到着してもその頃にはもう夕方になりますからね。それは流石に・・・」
監督曰く、この時間帯からの撮影が好ましいらしい。
「誰か代役を呼べないんですか?」
「今から呼んだとしても結構時間掛かりますからそれは・・・」
完全に手詰まり。
かくなる上はDVDの発売日だけを延期するしかない。
誰もがそう考えた時だった。
「・・・というか何で西条くんここに居るの?」
「今気付いたんですか?」
頭をフル回転させることに必死だったプロデューサーはようやく秋宗がいることに気が付いた。
それほどまでに悩んでいたのだろう。
「えっと、彼は・・・?」
「この子たちの友人の西条くんです」
「ども」
秋宗は会釈をして監督に挨拶をした。
監督はサングラスを外し目を細くしてジーッと秋宗をよく見た。
「・・・いけるかも!」
「ん・・・?」
監督が悩みが詰まった暗い表情から急に希望に道溢れた明るい表情へと変わった。
秋宗は監督の言葉の意味を理解出来なかった。
「西条くん!彼氏役をやってくれませんか!?」
「・・・はい!?」
監督から代役を頼まれた秋宗は驚いて声を上げてしまう。
「無理ですよ今から彼氏役なんて!」
「私は人を見る目があります!西条くんならできます!」
「それに彼氏役って3人必要ですよね!?あと2人どうするんですか!?」
「大丈夫です!そこはヴィッグでカバーします!」
「1人3役やれってことですか!?」
抗議しても返されてしまい監督の圧に秋宗は少し呑まれかけてしまう。
今まで何かの撮影などやったことがない素人同然の秋宗は流石に無理だろうと思うが、
「では私はこれから撮影のスタンバイの方をしておきますのでよろしくお願いします!」
「人の話を聞けぇーーー!!」
一方的に話を進めて監督は撮影スタッフの元へと走って行った。
まだ撮影をするとは言ってもいないというのに切羽詰まり過ぎだろうと思った。
「オオカミくんお願い!撮影出て!」
更に追い討ちを掛けるようにロングヘアの子もゴマ擦りで撮影に出てくれないかと秋宗に頼んだ。
「いやだから!俺素人だって!」
「そこをなんとか!」
「それにオオカミくんが相手だとウチらもやりやすいから!」
そして残りの2人も畳み掛けるように秋宗に頭を下げて頼んだ。
「プロデューサーさん!」
こうなったら最後の望みのプロデューサーに賭けるしかなかった。
素人をプロの舞台に立たせることが嫌いなプロデューサーならきっと承諾しないだろうと思ったからだ。
「・・・西条くん、今すぐ衣装係さんの所行って着替えて来て」
「プロデューサーさんまで!?」
しかし結果は空振りに終わってしまった。
プロデューサーは親指で後ろを指して着替えて来るように指示した。
藁にすがるどころか蜘蛛の糸にすがるくらい危機的状況なのだろう。
もはやこの場に秋宗の味方はいなかった。
「オオカミくん急いで!」
「衣装係さんは車の中で待機してるから!」
「早く早くー!」
「ちょっ、ちょっとぉぉぉぉ!?」
秋宗はトゥインクルに背中を押されて無理やり連れて行かれてしまった。
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~数十分後~
落ち着きを取り戻した撮影現場ではスタッフたちが最終確認を行っていた。
「何でこうなったんだ・・・?」
秋宗はまだ乗り気ではなく渋々承諾してしまい断ることが出来なかった。
衣装へ着替えた秋宗の服装はスモーキーパープルのサマーニットで黒のボトムス、黒髪のカツラを被って一目見ただけで秋宗と分からない変わりようだった。
「おぉー!オオカミくん似合ってるー!」
一方ツインテールの子は肩まで見えているカットソーサイズのTシャツとスカートを組み合わせた女子高生らしいファッションだった。
「なんだろう?この嬉しさと悲しさの中間にいる気分は?」
撮影に無理やり連れ出されたが芸能人と近距離で話せるというとても複雑な気持ちになっている。
最初の撮影はツインテールの子からで設定は表参道を巡り歩いているカップルということらしい。
ちなみに台本はなくごく自然な感じで行っていいということである。
「はいじゃあ撮影の方を開始しまーす!」
監督の掛け声でカメラ数台が秋宗とツインテールの子に向けられた。
するとツインテールの子が秋宗の右隣に立ち左手を握った。
「あの~これは一体・・・?」
「ウチらはカップルってことなんだから手を繋いで当然でしょ?」
「そ、そうすね」(ヤベェよ!メチャクチャ可愛いじゃねぇか!///
「あと敬語とか使わなくていいから気軽にね!」
「うすっ///」
秋宗より身長が低いせいか、上目遣いで首を傾げる動作が心に大きく響いてしまい心臓が激しく動いた。
「はいじゃあいきまーす!よーい!スタート!」
そして監督の掛け声と共に撮影が開始された。
秋宗とツインテールの子は互いに手を繋ぎ通りを歩き始めた。
「いろんなお店がいっぱいあるね~」
「・・・ホントにいろいろあるな、どっか入るか?」
最初は抵抗があった秋宗も吹っ切れてしまい彼氏を演じツインテールの子と表参道を見渡し最初に探す店を選び始めた。
そして2人の名に止まったのは名物もみじ饅頭が売られている店だった。
ちょうど焼きたてが出来上がったのだろうか香ばしい香りが2人の鼻を刺激した。
「あの店にするか」
「うん!早く行こ!」
そう言ってツインテールの子は秋宗の手を引きながら店へと走っていった。
「もみじ饅頭2つ下さ~い!」
到着するや否やツインテールの子はもみじ饅頭を秋宗の分まで頼み代金を払うと店員が慣れた手つきで1つずつ包み紙に入れてそのまま手渡した。
「お待たせしました~!」
「ありがとうございます」
早速自分の分を口へ運ぼうとした時、ツインテールの子が持っていたもみじ饅頭を秋宗の口の前へ差し出した。
「はいオオカミくん!どーぞ!」
「・・・あーそういうことか」
これはアーンしてくれるということなのだろうと察した秋宗はツインテールの子のもみじ饅頭をパクっと食べた。
「おいしい?」
「あぁ、スゲェ旨い!」
「そっかー!じゃあウチも!アムッ」
そう言ってツインテールの子は秋宗が持っていたもみじ饅頭を美味しそうに頬張った。
「いい感じですね北条さん、やはり私の目に狂いは無かったみたいです」
「えぇ、これなら問題ないですね」
2人の様子を見て監督とプロデューサーは互いに頷き心配ないと思った。
「じゃあ次行こっか」
「ちょっと待て」
「ん?」
次の店に行こうとした時、秋宗がツインテールの子を呼び止めた。
一体どうしたのだろうと首を傾げていると、
「口にあんこついてるぞ」
秋宗はツインテールの子の口周りについていたもみじ饅頭のあんこを指で拭き取りポケットティッシュに包み込んだ。
「うし、んじゃあ次は・・・ってどうした?」
「ッ~~~!?///」
カップルを演じての行動か、それとも無意識なのか、秋宗の突然の行動にツインテールの子は顔が真っ赤になってしまっていた。
いくら撮影とはいえ、こういうことには抵抗が低い様子である。
「・・・大丈夫か?」
「う、うん!///全然大丈夫だよ!///それよりも早く行こ!///」
照れているのを誤魔化そうとツインテールの子は先に次の店を探すために先を歩き秋宗はその後を着いていくのであった。
「・・・これ事務所的に大丈夫か?」
「・・・セーフティゾーンです」
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ツインテールの子との撮影も終わり、場所は変わって芝生が広がる公園。
そこには見渡す限り鹿で溢れかえっていた。
次の撮影はショートヘアの子で、公園で鹿と戯れているカップルという設定である。
「やっぱ鹿多いな」
公園を見渡す秋宗の続いての服装はスタンドカラーのロングスリーブカーディガンで茶髪のカツラを被っていた。
「よろしくね、オオカミくん」
それに対しショートヘアの子は白シャツとデニムパンツを組み合わせた大人らしさが表現されているファッションであった。
「こちらこそ、お手柔らかに」
「言っとくけど、私にも敬語とかいいから」
「りょーかい」
互いにリラックスしていると数台のカメラが一斉に向けられ撮影開始が間もなくということを物語っていた。
「はいじゃあいきまーす!はいスタート!」
そして監督の掛け声と共に撮影が開始された。
2人は公園を歩きながら周囲にいる鹿を見渡していた。
「鹿だらけね」
「確かにそうだな、下手すりゃ奈良以上にいるんじゃねぇか?」
すると一匹の小鹿がこちらへ歩いて来た。
ショートヘアの子はしゃがんで小鹿の頭を撫でると、小鹿は手を舐めようと顔を上へ上げようとしていた。
「ふふっ、可愛い」
「こうして近くで見ると、案外可愛いもんだな」
そして秋宗も一緒にしゃがみ小鹿の首を撫でた。
端から見ると正にカップルそのものであった。
「いい感じですよ。その調子でお願いしますよ」
「まぁこれでいいとして・・・」
撮影の様子を見ていたプロデューサーがチラリと後ろの方を振り向くと、
「うぅ~!///恥ずかし~!///」
「しっかりして。オオカミくんも悪気があった訳じゃないんだから」
「・・・はぁ」
先程の撮影のことでまだ顔を赤くしているツインテールの子をロングヘアの子が宥めていた。
やはりさっきのはレッドゾーンだったのかもしれないとプロデューサーはため息をついた。
一方撮影の方はというと、いつの間にか秋宗とショートヘアの子の周りをたくさんの鹿が取り囲んでいた。
「ちょ、ちょっとこれは身動きが取りづらいな」
「そうね、一旦離れて」
その時だった。
一頭の鹿が後ろからショートヘアの子の腰に頭から体当たりを食らわした。
「きゃっ!?」
後ろから体当たりされたためショートヘアの子はバランスを崩してしまい前のめりで倒れそうになってしまった時、咄嗟に秋宗が肩を支え受け止めた。
「大丈夫か・・・!?」
どこか怪我をしていないか確認すると、
「だ、大丈夫・・・///」
ショートヘアの子は顔を赤くして目線を反らしていた。
今の2人の体制は、秋宗が正面からショートヘアの子を受け止めており身体が密着するかしないかギリギリの距離だった。
「えっと、そろそろ離れて・・・///」
「あっ!わ、わりぃ・・・!」
状況を理解した秋宗はショートヘアの子の肩から手を離し距離を取るのであった。
「・・・これってホントに大丈夫ですかね?」
「・・・グレーゾーンですね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ショートヘアの子との撮影も終え、残すはロングヘアの子との撮影。
場所は宮島包ヶ浦自然公園の浜辺。
空もすっかり茜色に染まっており海を赤く輝かせていた。
そして最後は浜辺で遊んでいるカップルの設定である。
「はぁ、いよいよ最後か」
撮影の疲れを見せながらも最後まで取り組む秋宗はフライトジャケットを着こなし藍色のカツラを被っていた。
「さっきの服装もそうだけど、オオカミくんって何着ても似合うね」
対してロングヘアの子は白Tシャツとロング丈チュールスカートを組み合わせたこれからの流行を抑えたファッションであった。
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ。初めて会った時もスゲェ似合ってたし、流石アイドルって感じだったしな」
「そんなことないよ。他の子たちだって着こなしてるし。まぁ私ほどじゃないけど?」
「取り敢えずその傲慢発言なんとかした方がいいぞ」
すっかりタメ口に慣れた秋宗は気軽に話をしており端から見たらまるで親しい友人関係のようであった。
「では最後の撮影始めまーす!」
そうこうしていると撮影の準備が終わり監督の掛け声と共にカメラが一斉に向けられた。
「いきまーす。よーい、スタート!」
そしてついに最後の撮影が開始された。
2人はまず互いに手を繋ぎ波打ち際を一緒に歩き出した。
「うわぁ、綺麗だね夕日」
「あぁ、俺こういった自然の風景とか結構好きなんだ」
「へぇ~そうなんだ」
夕日で輝く海を眺めながら会話を楽しんでいる2人は正にカップルそのものであった。
「あっ、貝殻みっけ」
するとロングヘアの子が貝殻を見つけたのか、その場にしゃがみ手に取った。
その貝殻はマリンブルーの珍しい色をしておりとても綺麗に見えた。
「珍しい色の貝殻だな」
「ホントだね。もしかして海から可愛い私へのおくりもだったりして」
「ははっ、なんだそりゃ」
偶然流れ着いたであろう貝殻を贈り物と表現したロングヘアの子に秋宗は思わず笑ってしまう。
「記念に貰っとこっと!」
そう言って立ち上がった時だった。
履いていた右足のヒールが根元からポキッと折れてしまいその場に倒れ込んでしまった。
「きゃっ!?」
「ッ!?どうした!?」
「カット!」
突然起きたアクシデントに監督は撮影を止めて側に駆け寄りプロデューサーも慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「怪我はしてない!?」
「は、はい。ヒールが折れちゃったみたいで」
取り敢えず怪我はしてないもののヒールが折れてしまっては撮影出来ないため一時中断とし靴を履き替えることとなった。
ロングヘアの子は片足でなんとかテントへ行こうとした時だった。
「それじゃまた転ぶぞ」
「わっ・・・!」
秋宗が肩を貸し腰に手を添えてロングヘアの子を支えた。
「オ、オオカミくん・・・///」
「んじゃ行くぞ」
「う、うん・・・///」
突然のことにロングヘアの子は他の2人同様顔が赤くなってしまうも秋宗に見えないように顔を下ヘ向けるのだった。
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「はいオッケーでーす!お疲れ様でしたー!」
日も沈み辺りが暗くなった頃、ついにPV撮影が終了した。
監督の掛け声と共に撮影スタッフたちは一斉に機材の撤収に取り掛かった。
「ふぅ~!やっと終わったぁ~!」
トゥインクルスの3人とは違い昼過ぎからぶっ通しで撮影を続けた秋宗の疲労はピークに達しており椅子でぐったりと項垂れていた。
「お疲れ様、どっち飲む?」
そんな秋宗にプロデューサーが側に寄り缶コーヒーの微糖とブラックを差し出した。
「・・・じゃあ微糖で」
「どうぞ。今日はごめんね、無理やり付き合わせちゃって」
「いいっすよ別に。それに少し楽しかったんで」
プロデューサーは隣の椅子に座り秋宗から今回の感想を聞いた。
突然撮影に参加させられながらもトゥインクルスたちとプライベートのように楽しめた秋宗はどこか満足そうであった。
「・・・ごめんね西条くん」
「だからもういいっすよ」
「撮影の方じゃなくて、ほら、初めて会った時のこと」
「ん?」
初めて会った時というと湯煙フェスの時かと思い出すも今さらどうしたのだろうと疑問に思ってしまう。
「あの時、ちゃんと西条くんに謝ってなかったからさ。本当にごめん」
「え?そうでしたっけ?」
あの時のことを思い出すも謝ってたような気がしないようなしたような曖昧であったためあまり気にはならなかった。
「そんなの気にしないで下さいよ。それに一々気にしてたらキリねぇっすよ」
「・・・ありがとう、君は優しいね」
そんな秋宗に肩の力が抜けたのか、プロデューサーは思わず笑ってしまう。
「んじゃ、俺はこれで失礼します」
そう言って秋宗は椅子から立ち上がり現場から立ち去ろうとした。
「えっ?もう帰るの?これから打ち上げの予定があるんだけど」
「俺はいいっすよ。それに、アイツらのとこに帰らないといけないんで」
スマホの着信履歴を見ると、かるらとマトラから何十件もの不在着信が表示されており早く帰らなければという気持ちが強くなっていた。
「んじゃ俺はこれで。トゥインクルスたちによろしく言っといてください」
『オオカミくーん!!』
プロデューサーに軽く挨拶をして帰ろうとした時、着替えを終えたトゥインクルスの3人がこちらへ走って来た。
どうやら秋宗が帰ろうとしていたことを察し慌てて引き留めたようである。
「どうした?」
「どうしたじゃないよ!私たちに挨拶もしないで!」
「黙ってに帰るなんてオオカミくんひどーい!」
「せめて何か一言言ってほしいんだけど」
何も言わずに帰ろうとしていた秋宗にトゥインクルスはやや怒っていた。
撮影を共にした仲なのだから黙って帰ることは許さないということらしい。
「悪かったよ。でも俺は帰んねぇといけねぇから」
「それは分かったけど・・・あ!じゃあさ!連絡先交換しよ!」
「・・・は?」
そう言ってロングヘアの子はスマホを取り出し秋宗の連絡先を聞き出そうとした。
突然の行動に秋宗は一瞬呆気に取られてしまう。
芸能人が一般人と連絡先を交換してもいいのかとプロデューサーをチラリと見やるも何も口出しする様子がなかった。
「撮影に協力してくれたのにお礼もしないなんて可笑しな話だし、せめて私の連絡先でもってことで」
「抜け駆けズルい!ウチもオオカミくんと連絡先交換する!」
「ついでに私もいいかな?」
トゥインクルスのファンたちが喉から手が出るほど欲しがる連絡先。
そう考えるとかなり高価な代物かもしれない。
「・・・分かった。じゃあ今回のギャラはアイドルの連絡先ってことで」
一通り考えた秋宗はトゥインクルスと連絡先を交換することにした。
1人ずつ電話番号をスマホに打ち込んでいき、新しく3人の名前が連絡先に追加された。
「じゃあ俺はこれで。今日は楽しかったぜ、またどっかで会おうな」
「うん!またねオオカミくん!」
そして秋宗はトゥインクルスと挨拶を済ませ今度こそ現場を後にするのであった。
『・・・・・』
秋宗の後ろ姿を見送るトゥインクルスにプロデューサーは声を掛けた。
「・・・言っておくけど、恋愛は程々に」
『なっ!!??///』
突然の発言にトゥインクルスの3人は揃って顔を赤くしてしまう。
「何言ってるんですかプロデューサー!?///」
「べ、別にオオカミくんとそんなこと思ってないもん!///」
「そうですよ!///」
「ふ~ん?」
撮影中、秋宗の行動に全然が顔を赤くしていたにも拘わらず慌てて否定する3人にプロデューサーは目を細くしてしまう。
「ま、あんたたちのプライベートに口出しするつもりはないけど、芸能人なんだから理解しておくように」
「だから違いますって!///聞いてますか!?///」
少し面白がりながら映像の確認へ行こうとするプロデューサーの後ろをトゥインクルスたちは慌てて追いかけて行くのであった。
おまけ
~下校中~
「西条、少し聞きたいことがあるんだが」
「どうした兵藤?」
「お前さ・・・最近トゥインクルスと会ったのか?」
「・・・なんだよ唐突に」
「いや、トゥインクルスの最新曲のPVの男性キャストがお前にスゲェ似てる気がすんだが」
「・・・んな訳ねぇだろ」
「何今の間?」
「あ、そういやお前確か先週緋扇に頼まれ事されて宮島行ったよな?」
「そういえば、そうでしたね・・・」
「お前、余計なことを・・・!」
「てことはお前・・・!?」
「・・・まぁ、あれだ、成り行きってやつ?」
「ふ、ふざけんなぁ!成り行きでトゥインクルスとお近づきになったのか!?それにPVのあれなんだよ!?やたらボディタッチが多かったような気がすんだが!?」
「うっせぇな、成り行きって言ってんだろ」
「秋宗兄さん・・・」
「紫音、このアイドル馬鹿に大袈裟って言ってやれよ、って何でそんなゴミを見るような目で俺の方見てんだ・・・!?」
「いくらなんでもアイドルの方々にボディタッチは引くッスよ」
「いや紫音、だから今回のは」
「欲求不満のケダモノッスね」
「グハァッ!?」
「あぁ!?秋宗くんの心に会心の一撃が!?」
「行きましょう芹姐さん」
「そうだな、流石に今回のはアタシもドン引きだわ」
「な、何でだ・・・?俺別に悪いことしてねぇのに・・・どうしてだ?」