真・恋姫†無双 呉史『神弓の章』   作:軍団長

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蒋欽

矢を番え、引き絞り、放つ。

 

放たれた矢は俺の『眼』に映る『軌跡』をなぞって(しし)の眉間へと突き刺さる。

 

響き渡るは断末魔、俺の『眼』に映っていた『幾つかの軌跡』が消えると共に、猪が倒れた。

 

 

―――――――――

 

「おっ兄貴が戻って来た!」

「しかもでっけぇ猪を担いできたぞ!?」

「流石兄貴!!そこに痺れる憧れるぅ!!」

「騒いでる暇があったら火を起こせ!あと包丁だ!疾く皮を剥ぎ飯にする!!」

「「「「「ウィーっす!!」」」」」

 

父と母は俺が二つの頃、流行病で亡くなったと聞く。その後は祖父母に育てられたが、その祖父母も七年前に亡くなった。財産や家は親戚を名乗る連中に持っていかれ、放り出されたのも直ぐだった。手元に残されたのは祖父母が形見の弓と直刀のみ。

 

俺は山へと篭った。山の獣たちを相手にひたすらに生と死を賭けた戦いを繰り返し続けた。

 

『テメェが蒋欽ってガキだな?』

 

そんなある日、どうやら何処からか俺の生存を知った親族たちが町のゴロツキたちに金を掴ませて差し向けてきた。余程俺の事が邪魔であるらしい。俺はその連中を叩きのめした、叩きのめして親族たちの居場所を探り当て、矢文を撃ち込んだ。

 

『今後いかなる干渉も許さぬ、次に干渉を認めたならば鏃には文では無くキサマらの首が提げられると思え』

 

それ以降、親族から追手、刺客の類が差し向けられる事は無くなった。無くなったが・・・・

 

『兄貴と呼ばせて下さい!!』

 

舎弟が出来てしまった。こちらが返答する前に、荷物を纏めて俺の住んでいたあばら屋の近くに陣取ってしまった。それに、悪意に対する処方は知っててもそれ以外の意思を持って接してくる者に対処する方法を俺は知らない。なし崩し的に、俺は彼らを率いる事になってしまった。

 

近隣のゴロツキ集団を叩きのめし勢力が膨れ上がり、気が付けば数は五百を越えるようになっていた。中央から来る臓腑の奥底まで腐ったような役人や、庶人を食物にする悪徳商人、そういった連中だけを狙って襲わせ、他所から入ってくる賊を討ち取り続けた。

 

気が付けば毎年、縄張りの村から志願者まで出て来て加わる有様。今では近隣の村々からは元々いた太守の軍勢よりも頼られてしまっている。どうしてこうなった、と思いはするが俺を慕い、頼って集っている連中を見捨てたり切り捨てたりするような真似は出来ない。

 

「そう言えば最近流れてる噂、棟梁はご存知ですか?」

「あぁー、あの噂な!」

 

いつものように獲ってきた獲物を調理し、商人から奪った酒で宴を催していれば一組の男女がそんな事を言いながら近寄ってくる。

 

黒い長髪を首後ろで纏め上げ、狐のような細い目をした少女。顧雍、字を元歎、真名を柚杏(ゆあん)。同じ揚州内だと陸家や朱家には負けるが相応に家格の高い家の出身。なのだが、しきたりだなんだと面倒な事が元々嫌いだった上に、望まぬ婚姻を迫られ、堪忍袋の緒が切れて出奔。したが捕まって身売りされかけていたのを俺たちが救出、実家に戻る事を拒否した上で俺たちに付いてくる事になった。武力はまるでないが、冷静であり聡明、今まで俺の感覚に任せていた戦いに『理』を与えてくれた補佐役だ。

 

ボサボサな頭に無精ひげ、睨まれただけで皆が逃げ出しそうな凶相の男性。凌操、真名を(こう)。呉郡で五十を率いて暴れていた賊の頭目。俺との一騎打ちに負けると俺の傘下に、それ以来官軍や他所の賊との戦いでも常に先頭をきり戦ってくれている頼りになる存在。見た目と言動とは裏腹に冷静で思慮深く、しっかりと組み合う泥臭い戦いでは幾度となく助けられている。

 

「天の御使いが孫堅に拾われた、と言う話か?」

「えぇ、その通りです」

「本当に面倒な事になりやがったもんだ」

 

易者として有名な管路なる人物の予言。細かい内容までは忘れたが、『天の御使いが流星と共に現れて来る乱を鎮める』、そう言った感じの内容だったと思う。建業太守孫堅は『江東の狂虎』と呼ばれる程勇猛であり、まさしく英傑を人の型に収めたような・・・・いやむしろ収まりきらない人物だと伝え聞いている。そんな英傑が天の御使いを掌中に収めたと言う。

 

「・・・・柚杏、他の動きはどうなってる?」

「甘寧殿と孫堅の娘、孫権が率いる軍が戦闘を開始したようです。現状、形勢は甘寧殿が有利なようですが」

 

甘寧は廬江を拠点とし、長江を縄張りにしている江賊、錦帆賊の長を務める少女だ。俺たちと同じく、襲うのは民に不評な官軍であったり、悪徳商人であったりだが余りにも派手に動きすぎたためか、今回孫堅が動き出し娘を派遣するに至ったようだ。水上で戦うならばそうそう負ける事はないだろう、だが・・・・

 

「徐盛殿、陳武殿は現在、孫堅軍の韓当と戦闘を開始しました。形勢は不利、正直言って陥落するのも時間の問題だと思われます」

 

徐盛と陳武は呉郡南部を縄張りにする山賊の頭目だ。二人共腕は確かであり、十把一絡げの官軍相手ならば問題は無かっただろう。だが相手は孫堅の右腕とも呼ばれる宿老韓当、一筋縄ではいかない相手、と言うよりも孫堅の次に戦いを避けたい相手ではある。

 

「どうします?甘寧、徐盛、陳武がやられりゃあ次は俺らの番ですぜ?」

「そうですね、早い段階でどちらか一方でも壊滅を食い止めるべきだと具申致しますが?」

 

二人の意見は援軍を出す、で一致しているようだ。・・・・・・・・が。

 

「俺たちは動かない」

 

俺の答えを聞き、いつの間にかバカ騒ぎを止めて話を聞いていた皆が息を飲む。

 

「ですが・・・・」

「アイツらの買った喧嘩だ、それに俺たちの都合で手を出すどころか首まで突っ込むのは筋が通らない。次が俺たちだと言うならば準備を整えるべきだ。奴らが降伏し、孫家の尖兵として攻めくる事まで想定して・・・・な」

 

俺の意見に反論しようとしていた柚杏が、俺の言葉に息を飲む。甘寧、徐盛、陳武が敗死するならまだマシなのだ。孫家の兵が減り、上手く行けば将の一人や二人、道連れにしてくれる可能性がある。だが、失った兵を補填する形で、三人が孫家の配下として降ってしまっていたならば。それは最悪の事態になる。消耗らしい消耗をしていない孫家の軍勢が此処を攻めてくる事になるのだから。

 

「空腹を満たしたならば直ぐに動け、糧食の収集、罠の張り直しと確認、必要があれば追加。装備品の点検、防護柵の修繕と補強、やるべき事は沢山あるぞ」

「「「「「へいっ!!!」」」」」

 

俺の言葉に皆が慌ただしく残った飯と酒をたいらげ、慌ただしく動き始める。

 

「昴さんは斥候を出し情報収集を、柚杏は防備の総指揮を・・・・それぞれ頼む」

「おうよ」

「はっ!」

 

甘寧、徐盛、陳武はそれぞれに揚州内で名の売れた面々だ。それを打倒するだけの軍事力、そして降伏させるだけの器が孫家に備わっているならば・・・・。だがそれは仮定でしかない、そうなる『可能性が高い』だけなのだ。確率の高い事象について俺は対処し対応する、ただそれだけだ。最後の最後まで抵抗するか、降るか、それを決めるのも戦ってからでも遅くはない。言葉だけでは語り尽くせない事も不思議な事に一度刃を交えれば相手の思いが、考えが、見えてきたりするものだ。

 

「さて、どうなる事やら」

 

 




第二話でした。

結局、成長した状態から始める事になりました。それなりの規模の山賊団の頭目、というのが現在の肩書きになるんでしょうか。

次話は『孫家VS蒋欽』の戦いになります。攻めてくるのは誰か?主人公はどんな戦いをするのか?次話をそれなりにお楽しみに。

それと、あっという間にお気に入り登録が四十を超えました。本当に、ありがとうございます。
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