真・恋姫†無双 呉史『神弓の章』   作:軍団長

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韓当

「・・・・ここまでするか、孫家・・・・否、孫堅」

 

俺たちが拠点を構える呉郡南部の小山、そこに詰める兵力はおよそ五百。それを俺、昴、柚杏と元は各勢力の頭を張っていた面々に率いさせて戦う。俺たちの強みは小部隊同士の連携、それぞれが固有の役割を必ず一つ持ち、各隊がその事を理解し、互いに邪魔をせぬよう、手を組み、動く。だがその強みも自由に動ける場があってこそのもの。

 

孫家の引き連れてきた兵力は五千。実にこちらの十倍。しかも山を包囲する形でこちらに遊軍を作らせないように立ち回ってくる。こうなってしまえば圧殺されるのを待つだけだ、『本来ならば』だ。

 

既に集合していた、仲間たちへと振り返り、俺は何時もどおりに声をかける。

 

「我らを怖れてか、確実に叩くためにか、江東の虎は五千もの兵力を投入して来た。負けるしかない、降るしかない、抗う術無し、背く術無しと思う者もいるだろう。だが・・・・俺は生まれてこの方変わる事無く臍曲がりだ。是と言う答えしか無い事象には否と答え、否と言う答えしか無い事象に是と答える」

 

そう言うと、皆が笑みを浮かべたり、笑い声を上げたりする。俺がそういう人だと、そうでなくっちゃなと。

 

「であるからこそ、この状況でも俺は戦い、抗い、背こうと思う。逃げたいと、無理だと思う者は直ぐに此処を降り孫家に降ると良い。止めはしない。だが・・・・・・・・」

 

途端、皆の顔が引き締まったモノになり、武器を持たぬ手で拳を握り掲げる。

 

「戦うと決めたならばトコトンまでやるぞ!!」

「「「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」

 

 

 

SIDE 韓当

 

「韓将軍」

 

四方より千づつ、予備兵として千。それを以て包囲し、降伏を促し無血で降す。それが公瑾の策だったはずだが・・・・

 

「賊が戦闘態勢を取っております」

「あぁ、分かっておる」

 

山中より、地を揺らし天をも落とすのでは無いかと思えるような大歓声。それと共に、山全体に殺気が充溢する。

 

「重装歩兵を前に立てよ!相手の出方を見極めつつ包囲を狭める!」

 

儂の号令と同時に兵が隊列を変え、動き始める。

 

「何故」

 

傍らに控える少女からの声に、儂は視線を向ける。

 

「何故抗うの?五百と五千では戦にすらならないはずなのに」

 

少女、孫権様は孫家の血筋にあって非常に、非常に、ひじょーーーーーに珍しい事に生真面目を体現されたようなお方だ。母と姉と妹に振り回されながらも己の成すべきを成し、孫家の娘である事を誇りに思い、立場に甘んじる事無く母や姉妹の分までもその重責を一身に背負おうと邁進なさっている。

 

「さぁ、儂は軍人です。なので賊の気心と言うのは皆目見当がつきませぬ、つきませぬが・・・・そんな儂の勝手な予想で良ければ、お聞きになりますかな?」

 

儂の言葉に孫権様はゆっくりと頷く。

 

「測っておるのでしょう、孫家と、それに仕える者を。興覇や子烈、文嚮らも言っていたでしょう?『蒋欽』と言う男は気高き『鷹』のような男だ。認めぬ存在には徹底的に抗うが、認めさせるだけの器を見せつける事が出来たならばその身命を賭してでも仕えてくれるだろう。と。」

「えぇ」

「彼のものは儂らを、孫家を、測ろうとしておるのですよ。百万の言葉を尽くすよりもたった一度、刃を交わす事の方が雄弁に物事を語る事とは往々にしてあるものです。大殿はそれをお分かりになっていたから、四方の将として伯符様、仲謀様、尚香様を配されたのでしょう。『見よ現在(いま)の孫家と次代の孫家を、どうだ?我らと共に来ぬか?』と問いかけておられるのです、戦を通じて」

 

大殿、孫堅様は粗にして野だが卑に非ず、理を通さずして真を知る。感覚で様々な事を理解し、感覚で事を成す。見ていないようで凡ゆる事を見、その器は儂のような非才の凡夫の眼から見ても『王』足り得ると思える程だ。その大殿が、『蒋欽』と言う男を測るべき存在だと認めたのだ。

 

「私には分からないわ」

「大殿を理解する事は儂らも出来ません、故に儂らに出来るのはただただ『信じる』事だけなのですよ」

 

考えても理解しきれない事に時間を費やすぐらいならば、それまでの結果を鑑み『信じる』方が圧倒的に早い。

 

「分からないわ」

「今はそれで良いでしょう、先ずは目の前の戦です」

 

しかし・・・・山中より放たれる気、これは一筋縄では行かなさそうな相手だ。

 

「徐々に包囲を狭めよ!!敵の出方を観る!!」

 

 

―――――――――

 

「田兄弟がやられました!!」

「李景が捕縛!北側二の構えまで押し込まれてます!!」

 

次々と届く敗走の報。昂さんも、柚杏も、かなり押し返されているとの事だ。俺が担当するここも、かなり押されている。

 

「宿老韓当と虎の次女、孫権か」

 

旗印から想定されるであろう相手の名前を、呟いた。韓当、の名はよく聞く。当主孫堅や程普、黄蓋ら他の二人の宿老程の派手な活躍も武勇伝も無い。だがとにもかくにも失敗が無い。攻めも守りも基本に忠実、定石を外さず、不安定を排し常に安定した状況を作る事に長けている。それは俺の経験上、最も怖い相手である。

 

「止むを得ん、俺が前に出る」

 

俺の宣言に、周囲がザワつく。

 

「もし俺が負けるか、捕まるか、いずれにしろ戻る事が出来ない状況に陥ったならば迷わず逃げろ。昂さんや柚杏に従って、な」

 

あの二人は、義理人情も弁えてはいるが、それでいてなお合理的な判断に身を委ねる事が出来る。俺が死んだとしても仇討ちなどせず、俺が捕まろうとも無理に奪還を考えたりはしないはずだ。

 

弓矢は使わない、腰から提げた直刀を抜刀し声を張り上げた。

 

「我が名は蒋欽!!官の将よ!我と刃を交える気概あらば前に出よ!!」

 

五分五分、と言う賭けである。韓当、とまではいかなくとも相手側でそれなりに勇名を馳せたような猛者が出て来て、それを討ち取る事がかなえばまだ形勢を傾ける事が出来る。まぁ、誘いに乗らずに弓矢で射たれればそれまで。避ける事はできるが、必ず全てを避け切れるわけでは無いのだから手傷の一つぐらいは覚悟せねばならんが・・・・

 

「貴殿の気概に感じ入った・・・・秣陵太守孫堅が家臣、韓義公!!その申し出を受け、お相手仕る!!」

 

戟を携え、現れた老齢の将。その名乗りには驚きを隠せなかった。

 

「孫家の宿老殿が直々にお出ましとは、光栄の至り、と言いたいところだ。ところではあるが・・・・」

「賊の首魁たる己の相手に何故、と?」

 

韓当の問に、俺は首を縦に揺らす。

 

「貴殿の放つ気、それは凡百の者が持ち合わせるモノに在らじ。賊の首魁と侮って半端者を宛てがえばこちらの恥、故に儂が出る事にした」

 

戟を一振り、「話は良いか?」と問いかけているよう。俺は再び肯首し、直刀を構え・・・・駆け出した。

 

「蒋公奕」

 

今までに感じたことのない熱が、奥底から湧き上がるのを感じた。

 

「全身全霊にて」

 

魂が叫んでいるようにも思えた。『行け』と。

 

「参る!!」

 

従おう、魂の叫びに。




第三話でした。

韓当さんはロリババア張昭と違ってガチなジジイキャラです。

次話は韓当VS主人公。剣の腕前って・・・・どんなもんなんでしょうね?


そしていつの間にやらお気に入り登録が三桁へ・・・・ありがとうございます。

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